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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十章 あなたへのプレゼントでした
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10-05 魔王が登場しました

 【七色の橋】が新たな仲間を迎えてから数日後、十月一日の夜。いよいよ、運営ミーティングの時間が迫って来た。運営メッセージによると、その時に魔王からお達しがあるというのだ。多くのプレイヤーがログインし、その瞬間を待つ。

 【七色の橋】もギルドホームで運営ミーティング動画を開き、何が起きるのかと待機していた。


 ちなみにゲーム内で、運営ミーティングを視聴する方法はイベント動画と同様だ。システム・ウィンドウに存在するタブから、AWO公式ホームページを開いて運営ミーティング動画を選択するだけである。

 動画ウィンドウは拡大が可能であり、ギルドマスターであるヒイロが代表してシステム・ウィンドウを展開している。


「そういえば運営ミーティングって、見るのは初めてだなぁ」

「あ、私も初めてです!」

 ジンの右隣に、行儀よく座るヒメノが手を挙げる。すっかりそこは、彼女の定位置となっていた。そんな恋人の様子が可愛らしくて、ジンはフッと目を細める。ジンの視線に気付いたヒメノも、にっこりと微笑み返す。

「あぁ……ジン様達は、初めてご覧になられるのでしたね」

「多分……驚きますよ」

 シオンとレンの言葉に、二人は顔を見合わせて首を傾げる。


 そうして、いよいよ二十時。運営ミーティングが始まるのだが……。

『ヘーイ、アナザーワールド・オンラインをプレイしている皆ァッ!! 今回も運営ミーティングを見てくれて、センキュゥッ!! 広報の、DJレイモンドだZE☆』

 のっけから、濃ゆいオッサンが登場した。これには動画初視聴勢も、困惑気味だ。


「この人が、広報の人?」

「はい。この方が運営チームの、広報責任者を担当なさっている方です」

 シオンがそう断言したので、間違いではないらしい。実に、キャラが濃過ぎる。ちなみにこの人、第二回イベントで司会進行を務めたアンナの直属の上司でもある訳だ……彼女の苦労が覗える。


『今日は俺達のBOSSボスにも来てもらったぜ! HEY、BOSS! 今日もゴキゲンかい!』

 カメラの視点が横にスライドし、レンの義兄でもあるシリウスが画面に映った。

『運営責任者のシリウスだ……相変わらず、ハイテンションだな。あと、ボスはやめろ』

『そのセリフ、もう完全に持ちネタだね! さて、今日の運営ミーティングだが、更にゲストを招いているんだ! 皆も気になって仕方がないだろ!』

 シリウスの苦言をスルーし、レイモンドは本題にさっさと移るらしい。シリウスがジト目を向けているが……DJレイモンド、華麗にスルーである。


『アナザーワールド・オンラインの中には、魔王が支配する大陸があるんだが、皆は知ってたかい? おっと訳知り顔で頷いた君、知ったかぶりは良くないZE☆』

「この人のテンション、何か疲れますね」

 バッサリと一刀両断するレンに、他の面々も苦笑してしまう。否定意見がない。

『今日はその魔王様と、魔王軍四天王が遊びに来てくれたんだ!! それじゃあ早速、C’mon!!』

 レイモンドが指をパチンと鳴らすと、モニター内に赤黒い魔法陣が展開された。


 魔法陣の中から、四人の人影が颯爽と登場する。

 一人は筋骨隆々とした、強面の男。もう一人の男は、切れ長の目を持つ細身の青年。そしてロングウェーブの髪を靡かせる、眼鏡の女性。最後は気怠げな顔にタトゥーの入った、小柄な少年だ。

 姿を見せた四人組は、無言で魔法陣の両脇に並ぶ。そして、その場で魔法陣の方を向いて跪いた。


 四天王に遅れて魔法陣からゆっくりと姿を見せたのは、漆黒のドレスに身を包んだ少女だった。歳の頃は、見た目だけならば高校生くらい。身体付きは華奢で、顔立ちは幼さを残している。

 長い金髪を靡かせ、放送スタジオの照明に照らされた肌は病的なまでに白い。その真紅の瞳で、真っ直ぐにカメラ……つまり、プレイヤー達を射抜くかの様に向けている。


『そこで見ているのね、異邦人達……』

 彼女の形の良い唇から紡ぎ出されたのは、異邦人プレイヤーに対するものだった。

 そしてスゥ……と息を吸い込んだ魔王は、そのソプラノボイスでプレイヤー達に向けて呼び掛けた。


『はじめまして、私が魔王だよ……いきなり来たから、ビックリしたよね……ごめんね?』

 何故か、いきなり謝り出した。これには、プレイヤー達も目が点になる。


『謝られる事などございませんぞ! 魔王様の麗しきお姿を拝見し、異邦人共は歓喜に咽び泣いているはずです!』

『え、そうなの? 泣かせちゃった? ごめんね……』

『魔王様……王たるもの簡単に謝罪などなさらないで下さいまし……』

『え……だって、悪い事したと思ったら謝らないとダメだよね?』

『魔王陛下の寛大な御心に、私は感動致しました。ささ、魔王陛下。こちらの椅子にどうぞ』

『ふぁぁ……さっさと済ませて帰ろうぜー。俺、眠いんだよー』

 コントの様なやり取りを繰り広げる魔王軍(?)に、プレイヤーは開いた口が塞がらない。なんて平和な魔王軍なのだろうか。


『YO! 随分とゴキゲンなメンバーだね! それじゃあ、折角だから自己紹介をお願いしたいYO!』

『……やはり、もう少しシナリオ担当と……いや、もう手遅れ……』

 レイモンドとシリウスの温度差が激しい。もう、プレイヤーは完全に置いてけぼりだ。


『それでは僭越ながら、私めから。異邦人共、心して聞くが良い! この私こそ、魔王軍随一の魔法使い! 魔導の四天王、スティーブ様だ!』

 青みがかった長い銀髪に、切れ長の蒼い目。抜けるような白い肌をした、長身細身で美形の青年だ。汚れ一つない軍服の様な真っ白い服の上に、黒いローブを羽織っている。


『ふわぁぁ……俺は瞬速の四天王、スペイドだ。ま、適当にヨロシク〜』

 小学校高学年程度の、小柄な少年。深緑の髪の毛はボサボサで、左目の周りに入ったタトゥーが印象的だ。タトゥーは、トライバルタトゥーと呼ばれるものに似ている。彼もまた美少年であり、固定ファンが付きそうな感じだった。


『フハハハ! 異邦人共よ! 見るが良い、このディスク様の鍛え上げられた筋肉! これぞ、武力の四天王の肉体美よ!』

 肩と腹のみを守る漆黒の鎧と、逆立てた燃える様な赤い髪が印象的な大男。太い眉と彫りの深い顔立ちで、筋肉質な体躯と相俟っていかついという印象を与える。


『……暑苦しい。コホン……私は魔王様の秘書を務める、謀略の四天王・チャリス。魔王様のご尊顔を拝謁する栄誉、しかと噛み締めるように……よろしくて?』

 眼鏡をクイッと上げるのは、整った顔立ちの美人だった。ウェーブ掛かった桃色の髪を靡かせ、ボリューミーなバストと引き締まったウェストを強調するピッタリとした衣装。種族がサキュバスと言われても、すんなり信じられそうな印象を受ける。


 魔王に比べ、四天王の方は何か半分くらいアレだけどそれらしい。自己紹介の仕方にも、それぞれの性格が出てて凄くアレだ。


『そして、私が魔王です。皆が騒がしくて、ごめんね。悪気はないから、許してあげてね?』

 落差が激しいにも程があった。


……


「濃ゆいメンバーだね、魔王軍」

「魔王さん、良い人そうですね〜!」

「何か部下の方が偉そうで、主の方が腰が低いですね……」

 モニターを見ながら、苦笑している面々。濃ゆい魔王軍の自己紹介に、緊張感が一切無くなった。


 その中で、ハヤテがある事に気付く。

「へぇ……モチーフがトランプか」

 その言葉に、アイネが首を傾げる。

「え、トランプ?」

「そ。解りやすいのはスペイドだけど……」


 風を司る剣のスペード。

 火を司る杖のクラブ……その別称がステイブ。

 硬貨または護符、皿を意味するダイヤは、大地を司る。その別の名称がディスク。

 そして杯……聖杯を象徴し、水を司るのがハート。こちらはチャリスとも呼ばれる。


「えー、スペードは雷じゃないの?」

「そしてダイヤが火で、ハートが風、クラブが氷だと思ってた……」

「いや、王子達の事は置いておこうよ」

 オンドゥルⅧ世と言えば、ご理解頂けるであろうか。


「キャラに合った名前として、よく考えられているんじゃない? こういうセンス、俺は好きッスね」

「というか、ハヤテは本当に幅広い知識を持っているね。驚いたよ」

「うんうん、さっすがハヤテ君!」

 手放しで褒められ、ハヤテは照れ臭そうにお茶を啜る。照れ隠しなのは、誰の目にも明らかだ。余談であるが、ハヤテがこれらの属性分けや別称を知ったのはウィ●ペディア。


「あれまぁ、魔王さんってば別嬪さんだねぇ」

「チャリスさんは、やり手の秘書って感じですねー!」

「今代の魔王は、随分と幼いのう……」

「某が流れて来た当時は、愛想の無い強面の男だったものだ」

 PAC(パック)達も、この数日で随分と馴染んでいる。モニターに映る魔王軍を見て、口々に感想を言い合っていた。


……


『さて、それでは本題に映るぜ! 今日、魔王軍が来てくれたのは何でなんだい?』

 DJレイモンドの話題振りに、チャリスが眼鏡をクイッとしながら口を開く。

『よろしい、それでは私から説明致しましょう……心して聞きなさい、異邦人達。来る日が、近付いているのです!』

 ババーン!! とでも、効果音が付きそうな手振りで説明するチャリス。しかし、そこから先が続かない。


『Hey、マドモアゼル? 来る日ってのは、一体いつなんだい? そして、何が起こるって言うんだい!』

 流石に、フリーダムなレイモンドも口を挟む。説明不足は、クレーマーの格好の餌食になるのだ。

『はぁ!? まさか、こんな事も解らないって言うの!? 全く、これだから……』

 レイモンドの言葉に、オーバーリアクションで私、呆れていますわ! といった身振り手振り。


 しかし、そんな彼女の耳にある少女の声が届く。

『ごめんね、チャリス。私も解かんない、ほんとごめんね』

『いえいえいえいえ! 魔王様は何も悪くございませんわ! 申し訳ありません、私の説明不足でしたわね! コホン! いいこと、異邦人共! しっかり説明してあげるからよくお聞きなさい!』

 綺麗な掌返しからの、マシンガントーク。どれだけ魔王に心酔しているのやら。


『えぇと、そうね。貴方達、異邦人の暦から言うと……十月の二十五日よ! その日、いよいよ……』

 そこまで言って、溜めの姿勢に入るチャリス。下手くそなエンターテイナーみたいで、顔が緩んでいる。引き締めようよ、大事な所は。

『まだかー、チャリスー』

『早くしてくれ、俺の上腕二頭筋が筋トレを欲して疼いているのだが』

『暑苦しいからやめなされ、ディスク』

『うっさい! ここが、良い所なのよ!!』

 仲が良さそうで、実に何よりな四天王である。尚、魔王はチャリスが何を言うのかと期待でワクワクした様子だ。可愛いかよ。


『コホン! そう、十月二十五日は……魔王様の十八歳の誕生日なのよ!!』

 ドドーン、と効果音が付きそうな宣言。言い切ったチャリスは、得意満面な顔をしている。

『おぉ、確かに!!』

『やっべ、魔王様への贈り物を用意しねぇと!』

『これは確かに大事な事だな!』

 四天王は、チャリスの言葉に目を輝かせた。どれだけ魔王様ラブなのか。


 そして、当の魔王はというと。

『……あ、そういえばそうだね。でも、それが異邦人達にどう関係が……?』

 至極、最もな疑問を抱いておられた。シリウス以外で、唯一普通の感性の持ち主なのかもしれない。レイモンド? アウト。


『異邦人達にも関係大アリアリアリアリーヴェデルチですわ!! この容姿端麗品行方正純真無垢な魔王様の聖誕祭ですのよ!!』

『Oh、魔なのに聖誕祭とはこれ如何に』

『お黙り、アーモンド!!』

『ノウッ!! アイ・アム、レイモンド!!』

 激しいボケとツッコミの応酬に、シリウスは視線を逸して「早く終わらないかな……」と呟いた。魔王軍の濃さとレイモンドの濃さに、胃もたれ気味らしい。

 魔王は「おぉ、これが漫才……!!」と、楽しそうにしている。魔王様が楽しそうで何よりです。


『ふむ、チャリスよ! 貴様の言いたい事が解ったぞ!』

 そう言って立ち上がったのは、筋肉大男のディスク。自信満々に、カメラに向けて手を広げる。

『異邦人達に、魔王様の誕生日を祝う余興として武闘大会を……!!』

『違うわよ』

 急に真顔で、素のトーンになったチャリス。バッサリと台詞をぶった切られて、ディスクはショボンとした様子で椅子に座り直す。


『ふむ、貴女の言いたい事はこうですね? 折角の魔王様の聖誕祭、祝の品は多ければ多いほど良い。そして魔王様にお喜びになって頂くには、珍しい品があればある程良いと……』

『ふふふ、そうよスティーブ。さぁ、異邦人共! 魔王様へのプレゼントの用意を始めるのよ!』

 どうやら、そういう事らしい。

 このテンションマックス、メッチャハチャメチャな進行具合に、シリウスはぐったりしている。


……


「……ノリと勢いだなぁ」

「お義兄様、お疲れ様です……」

 モニターの中で展開されるやり取りに、プレイヤー達は呆れ顔だ。ちなみに、何故かPAC(パック)達にはウケていた。モニターを眺めて笑う様子は、テレビのコント番組を眺める一家団欒の様に見えてしまう。


「ごめん、PACパック関連のイベントと推測したが……間違っていたみたいだ」

 運営の告知とこれまでのイベント報酬から、今回のイベントがPACパック関連のイベントではないかと推測したヒイロ。しかし、その実は生産系のイベントの可能性が高い。

 しかし、ヒイロに文句を言う者など一人としていない。

「良いじゃあないですか、間違っても。それもまた、良し……ですよ?」

 普段はからかおうとするくせに、こういう時はヒイロに甘い……それが、レンという少女だ。愛する恋人に対し、気にする事は無いと声を掛ける。これだから、ヒイロはレンに弱いのである。


 そんなレンに追従するのは、やはりジンとヒメノだった。

「そうだよ、ヒイロ。それに無意味じゃ無かったよ?」

「そうですよ! こうして仲間が増えて、更に楽しくなってきました!」

 【七色の橋】は、ゲームを楽しむ事を第一としているメンバーが集まったギルドだ。だから、こうして仲間が増えた現状も大歓迎。その上で、イベントを楽しめればそれで良い。


 仲間達の温かい言葉に、ヒイロも自己嫌悪から持ち直す。過去の失敗は後で猛省するとして、今は目の前のイベントに意識を向ける事にした。

「あぁ、ありがとう皆……しかし、プレゼントか。何でも良いってわけじゃ無いよな」

「んー、そうだね。魔王さんの趣味嗜好が解らないと、難しいかな?」

 ヒイロとジンの言葉に、他の面々も確かに……と頷く。


 するとその言葉が届いたかの様に、モニターの中でチャリスがまぁまぁ……というジェスチャーをする。


……


『勿論、寛大な魔王様の事。貴方達がどの様な物を贈ったとしても、一応は喜んで下さる事でしょう……しかぁし!! 心の底から、魔王様に喜んで頂く為に!! 妥協は無しよ!! 私達が検品し、問題無しと認めたもののみ魔王様に献上するわ!!』

『うむ! それは賛成だな!』

『魔王様のお目汚しになるものを、御前に並べるなど言語道断!』

 チャリスの宣言に、ディスクとスティーブが同意。


 しかしスペイドは、面倒臭そうだと嫌そうな顔をする。

『えー、それ俺もやるのー? 魔王様の命令なら、やるけどさぁ……』

 そんなスペイドに、魔王が視線を向ける。

『命令はしないけど……三人はやる気みたいだし、手伝ってあげてくれるかな? お願い』

 小首を傾げる魔王に、スペイドは頬を赤く染めて即答した。

『やります』

 やはり、スペイドもチョロかった。チョロチョロだ。


『ふむ……のう、チャリスよ。贈り物の質は、高ければ高い程良いのではないか? 我に名案があるのだが!』

『名案ですって? 筋肉ネタは却下よ?』

『違うわ! お主は我を何だと思っておる!』

 そんな会話の横で、シリウスは『しばらく茶番にお付き合い下さい』と記されたパネルを立てた。無論、手書きである。


『無論、魔王様の趣味嗜好についてヒントをくれてやるのは重要ではある。しかしだ! 折角の魔王様への献上品であれば、異邦人共のやる気スイッチを押してやる必要があるであろう!』

 魔王軍にも、やる気スイッチの概念が浸透しているらしい。どんな魔王軍なのだろうか。


『異邦人共の意欲を上げる為、献上品には順位を付けるのはどうだ? それに見合った報酬も用意してやれば、異邦人共もやる気を出すはずだ!』

『えぇ……誕生を祝う献上品にお返しって、アンタ……』

 ディスクの提案に、難色を示すチャリス。その顔には「お歳暮じゃないのよ?」と書かれている。


 しかし、そんなコントに横やりを入れる者が居た。

『ディスク、名案だね。それ採用』

『魔王様ァッ!?』

 どうやら、このコントにも一応意味があったらしい。

 要するに贈り物ランキング上位には、豪華報酬が与えられるよ! という事である。


『まず、献上する品は四つに分けるべきだな。この我が、武器を検品する事にしてやろう! 魔王様はありとあらゆる武器を使いこなすお方だ、悩む事はあるまいて! 無論、魔王様にお贈りする物だ! 王らしき品……という点には、拘りたい所よな!』

 筋肉バカ……もとい、武闘派っぽいディスクは武器担当となるらしい。


『では私は、装飾品を見て差し上げましょう。見目麗しい魔王様に見合う、美しい装飾品を用意なさい。気品のある物にするのですよ? 魔王様の美しさを際立たせる様な物を用意するのです』

 インテリっぽいスティーブは、装飾品担当。自身もローブにジャラジャラと装飾品を付けているので、適任であろう。


『あー、それじゃあ俺は食いモノで。魔王様は好き嫌いはしないけど、肉料理と甘いスイーツが好きだぜ。ちなみに俺は辛いものが好き』

 面倒臭そうに言うスペイドだが、中々に具体的なアドバイスを出して来た。彼が一番、真面目にアドバイスしているかもしれない。


『ふむ、武器・装飾・料理となれば……よろしい、では私は魔王様のお召し物を見定めてあげるわ!! 見せてご覧なさい、貴方達のセンスを!! 魔王様の、この美しくきめ細かい白磁の様なお肌が映える物が良いでしょう!』

 女性という事もあり、チャリスは衣装担当らしい。配置的には、納得の配置である。


『えっと……それじゃあ私は……』

 片手を上げて「私も選ぶよ」と言いたげな魔王様。しかし、それでは本末転倒だ。

『いえいえ、とんでもない! この様な仕事は、我々にお任せを! 魔王様は働かなくても良いのですよ!』

『えぇ……ニートは嫌……』

『ちゃんと国を治めてますから!! ニートじゃございませんわ!!』

 ニート化を気にする魔王……かなり、俗っぽい。


『陛下。無論、陛下にお願いしたい事がございます。我々の選び抜いた贈り物を見て、それを用意した異邦人共に一声かけて差し上げて下さいませ。そうすれば、異邦人達の努力も報われるというものでございます』

 スティーブの言葉に、んー……と頬に人差し指を当てて考え込む魔王。

『……うん、解った。頑張って、コメントするね?』

 どうやら、納得なされた模様である。


『それじゃあ、ここからは俺が説明するZE! 第三回イベントは題して【魔王様聖誕祭! 可愛いあの娘にプレゼント大作戦】だ!』

 鼻息荒く、カメラに向けて指を突き付けるレイモンド。しかし、そのタイトルにシリウスが待ったを掛ける。

『おいこら、勝手にイベントタイトル変えるな! 【魔王への贈り物】ってタイトルだろうが!』

『No、No! BOSS、ノーセンスだ! もっとパンチが効いたタイトルにしないとな!』

 そんなレイモンドの暴言に、いよいよシリウスの堪忍袋の緒も限界を迎えつつあった。

『ほう、パンチね……お前の顔面に拳を叩き込めば良いわけだな?』

『ノー!! 断じてノゥッ!! 済みません、ボス!! 平にご容赦を……!!』

 そう言ってシャドウボクシングを始めたシリウスに、レイモンドが平伏して謝罪をし始める。


 そんな部下に溜息を吐いて、シリウスが進行を促す。

『話は後で聞いてやる、さっさと進めろ。あと、ボスはやめろ』

『イエス、ボス!! プレゼントを送れるのは、一人一つまで! ハートの籠もったプレゼントを送って、ソー・キュートな魔王様を喜ばせようZE! プレゼント製作は連名も可だ! 受付期間は、十月五日から二十日までだ! チェケラァッ!!』

 ハイテンションなレイモンドに「ボスって言うな……」と低い声で告げながら睨みつけた後、シリウスは己の職務を全うすべくシステム・ウィンドウを開いた。

『イベント期間中、システム・ウィンドウのメニュー欄に【イベント】タブが追加される。このタブを開いて、アナウンス通りに操作する事でプレゼントを送る事が可能だ』

 シリウスの指差した部分に、確かに【イベント】タブが存在する。色も、目立つように金色だ。


『ちなみに報酬はどんな物があるんだい?』

 レイモンドがわざとらしく魔王達に話を振ると、チャリスが不敵な笑みを浮かべる。

『全くもう……仕方のない欲しがりさんね、エドモンド!』

『張り手でゴワス……NO!! ミーはホンダじゃないよ!!』

 レイモンドのノリツッコミに、シリウスが顔を背ける。彼の笑いのツボは、予想外の所にあった様だ。


『そうねぇ……あぁ、こちらの大陸に無くて魔王様が治める大陸にあるモノにしましょう! そう……上位十位には、()()を進呈しましょう!!』

 そう言ってチャリスが掲げたのは、紫色のチケットだ。

『よろしくて? これは≪魔札≫という品。これは"物に力を付与する宝玉"を手に入れる事が出来る、貴重品よ!』


……

 

 一部のプレイヤー達はその報酬を耳にして目を輝かせる。それは【七色の橋】のギルドホームでも、だ。

「つまり、あの≪魔札≫があれば……装備に武装スキルが付けられる、っていう事だよね!!」

「親方! アレは良いモノです!」

 カノンとボイドが立ち上がり、グッと拳を握る。一見すると正反対に見える二人だが、今この瞬間は違う。共に目を輝かせ、チャリスの持つ≪魔札≫に目が釘付けだ。

 武装スキル付きの装備を製作する……鍛冶職人としては、無視できない要素である。


「さて、ギルドマスター? ウチのギルドはエンジョイ勢ではありますが……今回のイベント、どうしましょう?」

 そんなレンの言葉に、ヒイロはニッと笑みを浮かべてみせる。

「何を仰る、サブマスター。エンジョイ勢だからこそ、雑食プレイが出来るんだ」

 雑食……つまり、何でも美味しく食べるという事。つまり、戦闘だけではなく生産系のイベントにも手を出していこうという意味に他ならない。

「仲間がやる気を見せているんだ、今回のイベントも全力で挑もうか!」

 そんなギルドマスターの方針に、異を唱える者は一人として居ないのであった。

次回投稿予定日:2021/4/8


魔王を登場させる事、イベントを開催させる事は最初から決めていました。

そして私は思った……可愛らしい、愛され系魔王を描きたいと。

つまりウチの魔王ちゃんは、性癖に従った成果です。

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― 新着の感想 ―
思ったより気のいい筋肉だなぁ
[一言] だから、魔王チワワが誕生したのかー
[一言] ここの魔王は平和のために理性のある魔物を統べている感じの平和なやつですね、平和はいいぞ
感想一覧
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