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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十章 あなたへのプレゼントでした
169/573

10-04 仲間が増えました

【本編をご覧頂く前に】


皆様、いつも拙作【忍者ムーブ始めました】をご閲覧下さいまして、誠にありがとうございます。


本日の投稿で、本作は丁度一年を迎える事となりました。

ここまで投稿し続ける事が出来たのも、偏に皆様のお陰と思っております。


これからもジンと仲間達のVRMMOライフを、楽しみながら描いて参ります。

今後共この作品への応援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。


それでは、本編をご覧下さいませ。

 山の上の廃屋敷でエクストラクエストに挑むハヤテは、魔女の攻撃を百発凌ぐというクエストに挑む。洞察力と判断力、そしてミモリの作ったポーション≪水精霊の涙≫を駆使してあと一歩というところまで来たが……残り二発という所で、手詰まりとなってしまっていた。


 全く同時に飛んで来たり、一瞬遅れて飛んで来る二発の【ウィンドボール】。それを躱してやり過ごす事、既に三十分が経過している。

 空中で静止する【ウィンドボール】は、再び動き出すとハヤテに向けて飛来。その狙いは正確で、ハヤテはそれを必死になって避ける。


――【スキル相殺】をするには、武技か魔法……!! 俺の【一閃】じゃあ中心を捉えられないだろうし、魔法はそもそも使えない……!!


 ハヤテは銃で中心を撃ち抜くのは得意だが、刀で中心を斬るのは苦手……という程でも無いが、精度は高くない。ジンから≪オートマチックピストル≫を託されて以降、射撃と立ち回りの練習に比重を置いていた為である。

 それまでは長剣を使用していたが、それも今は未使用。装備するのは、変装の時くらいであった。


――武技の銃撃なら、【スキル相殺】は可能だ……でも、撃ち抜けるのは一発だけ。俺の装備だと、両手で武技は発動できない。一発を撃ち抜いても、その後に来る一発で戦闘不能だ。


 そこでハヤテは、発想を変えてみる。

 武技で【スキル相殺】が攻略法なのかと言われると、それも疑問が残る。九十五発目まではそれでも良かったが、最後の五発同時攻撃は【スキル相殺】で対応し切れない。


――案外、ジン兄なら出来るかもだけど。


 敬愛する従兄弟の事を思い浮かべ、ハヤテは心の中で苦笑いする。自分はジンではないし、ジンにはなれない。


 彼に置いて行かれたくない……かつては、そんな風に思っていた。そんな心の奥底にあった感情が、ほんの一瞬とはいえ自分勝手な考えを抱かせた。

 それは以前、アイネにのみ明かした……『事故で走れなくなったから、ジンに置いて行かれずに済む』という思いだった。


 アイネにそんな自分の心の闇を打ち明け、その上でアイネに肯定され……ハヤテは前を向ける様になった。ジンに≪オートマチックピストル≫を贈られ、何があってもジン達を守ると心に誓った。

 その為に、必要なモノ……それは力だ。ジンの道を阻む者を、アイネが斬れない者を撃ち抜く為の力。もう少しで、それに手が掛かる。


――絶対にクリアしてやる!!


 二発の【ウィンドボール】を避けながら、ハヤテは必死に考える。このクエストをクリアする為の条件は何か……どうすれば、クリア出来るのか。

 その時ハヤテの足が、床に転がっていた燭台に当たった。蹴飛ばす形になった燭台は、床面を滑って壁にぶつかる。


――よくよく考えたら、やたら床に物が転がっているな。


 カゲツの【ウィンドボール】の余波で割れたのかと思ったが、それにしては原型を留めている物が多い。燭台はまだしも、ワイングラスや皿が割れずに床に転がっているのは不自然だ。

 そこでハヤテは、このクエストの攻略法……正規の攻略法に気が付いた。


――そういう事か!!


 直後、右手の≪アサルトライフル≫を手離したハヤテ。その場で姿勢を屈めて【ウィンドボール】をやり過ごし、すぐに別の方向へと駆け出す。その走る姿に、迷いは感じられない。

 ハヤテが避けた【ウィンドボール】は空中で一瞬静止し、すぐにハヤテを追う様に動き始める。


 ハヤテのHPを消し飛ばそうと、迫る【ウィンドボール】。その内の一発に向けて、ハヤテはある物を放り投げた。

 それは、地面に転がっていた一枚の大皿だ。


 大皿に当たった【ウィンドボール】が、その場で効力を発揮。半径一メートルくらいの範囲に吹き荒れる暴風となって、大皿を粉砕してみせた。

 砕かれた大皿の破片が床に撒き散らされる中、【ウィンドボール】最後の一発がハヤテ目掛けて飛ぶ。

 しかし、一発だけならば……技後硬直を気にせずに済む。


「【アサルトバレット】!!」

 ハヤテが左手の≪オートマチックピストル≫の引き金を引くと、銃口から光を帯びた弾丸が射出する。その一発が最後の【ウィンドボール】……その中心を捉えると、光を放ちながら弾けて消えた。


 技後硬直を受けながら、ハヤテは伸ばした左手で握り締めた≪オートマチックピストル≫に視線を向ける。

 床に転がる物を拾い上げる為には、片手を空けなければならない。そしてハヤテは右利きで、精密狙撃をするならば≪アサルトライフル≫で構わなかった。

 それでもハヤテは、≪オートマチックピストル≫を手放す事は出来なかった……ジンから贈られた、この銃だけは。


『エクストラクエスト【魔女の試練】をクリアしました』


……


 最後の一発を相殺されたカゲツは、無言でハヤテを眺めていた。技後硬直から解き放たれたハヤテは、彼女の方に向き直る。

「これで百発。どうッスか?」

 ハヤテが声をかけると、カゲツは溜息を吐いて首を横に振った。

「妾の負けじゃ……やれやれ、異邦人の力を侮ったか」

 あっさりと敗北を認め、カゲツはハヤテに人差し指を向ける。まさか【ウィンドボール】ではあるまい、ハヤテは落ち着いた様子である。


「妾に勝った褒美をくれてやらねばな。心して使うが良い」

 カゲツがそう言うと、彼女の人差し指の先端に光の玉が生まれる。眩く輝く光の玉は、ハヤテに向けて飛ぶとその目前でオーブに変化した。

 それを手に取るハヤテの目前に、ポップアップしたシステム・ウィンドウ。そこに記されていたのは、ハヤテの予想通りの内容だ。ついでに言うと、素材も自動的にポーチ内に収納された模様だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

ユニークスキル【一撃入魂Lv1】

 説明:遥か東の地より流れて来た魔女が編み出した、魔力操作の秘術。

 効果:MPを消費する事で、攻撃に効果を付与する。


魔技【填魔(てんま)Lv1】

 効果:MPを10消費する度に、攻撃のダメージ値を10%強化する。

―――――――――――――――――――――――――――――――

素材≪石化した魔女の眼球≫

 効果:無し

 スキル:【空欄】


素材≪石化した魔女の心臓≫

 効果:無し

 スキル:【空欄】


素材≪石化した魔女の指≫

 効果:無し

 スキル:【空欄】

―――――――――――――――――――――――――――――――


――ユニークスキルは嬉しいけど、素材アイテムの名前がエグい……。


 システム・ウィンドウを確認したハヤテは、引き攣った笑いを浮かべる。

 ともあれ、これでハヤテは目的を一つ達成する事が出来た。もう一つの目的に手を付けようとし……そこで、クエストの様子を眺めていた男に気付く。


――あぁ、そうだった……コイツに、情報を明かさないといけないんだったな。


 ジェイクに視線を向けたハヤテは、システム・ウィンドウを指差した。

「はい、お待たせッス。報酬の内容、確認したいんッスよね?」

 ハヤテが声を掛けると、ジェイクは笑みを深めた。

「覚えていて下さいましたか。約束を守って頂けるとは、流石ですねぇ。あ、スクリーンショットを撮っても構いませんか?」

 そう言いながら歩み寄るジェイクは、実に楽しそうな表情だ。

「ま、取引だし仕方ないッスね。良いッスよ」

 そう返事したハヤテがシステム・ウィンドウの設定を、誰でも見られる様に変更する。


 ハヤテのシステム・ウィンドウを覗き込むと、自分のシステム・ウィンドウを開いてスクリーンショットを撮影するジェイク。すぐに距離を取って、スクリーンショットの画像を眺め始める。

「ユニークスキルだったとは……いやはや、私が受けておけばよかった……」

「残念だったッスねぇ。あ、ユニークスキルは他人に譲渡出来ないんッスね。へぇ~……」

 ハヤテの言葉は、ジン達から聞いて知っていた情報だ。あえてそう言ったのは、ジェイクがその情報を広める様に仕向ける為である。


「このアイテムは何でしょうねぇ? 何か、心当たりはありますか?」

 ジェイクはドロップ素材の用途に気付いているのかいないのか、ハヤテに笑いながら問い掛ける。

「さぁ……? 素材かもしれないし、別のクエストのキーアイテムかもしれないッスね」

 そんなハヤテの言葉に、ジェイクは目を細める。

「それが解ったら、教えて頂く事は……出来ないでしょうねぇ」

「ま、そうッスね。この場での取引は、俺が報酬の情報を提供した時点で終わりッス」

 ハヤテの返答を聞いたジェイクは、システム・ウィンドウを閉じながら笑顔で頷く。

「やはりそうですね。私が今、あなたに提供できるものは無いですし……また取引材料が見付かったら、お声を掛けましょう」


 そう言うと、ジェイクは踵を返して扉へと向かった。

「それではハヤテさん、失礼致します。また……どこかでお会いしましょう」

 ジェイクが扉から見えなくなった所で、ハヤテはシステム・ウィンドウを操作する。ウィンドウの右下に表示されていたのは、音声録音中という表示だ。


――保険のつもりで録音してたけど、もしかしたら功を奏するかもね。



************************************************************


 屋敷から出たジェイクは、その表情から笑みを消す。貼り付けた様な笑顔は、やはり演技であった。


――やはり、侮れないな……まさか、録音しているとはね。


 今回、彼が手に入れたのはユニークスキルの情報を映したスクリーンショットと、ハヤテがクエストに挑戦している動画だけだ。

 しかしながら、ノーリスク・ハイリターンだったのは間違い無い。


――それにしても、あのクエストをクリアするとは。中々どうして、楽しませてくれる……アレク達に良い手土産が出来たかね。


************************************************************


「ってなワケで……ユニークスキルのゲットと、PAC(パック)契約を同時にこなして来ましたッス!」

 ギルドホームに戻ったハヤテの、成果報告。そして、ハヤテの一歩後ろに立つのは廃墟の魔女・カゲツだ。


「ま、まさか……エクストラクエストに挑戦していたとは……」

「驚きでゴザルな……」

 ヒイロとジンの反応に、ハヤテはニンマリと笑ってみせた。悪戯が成功した子供のようだ。


「やったね、ハヤテ君!」

「二兎を追って二兎共ゲットですね!」

「流石ハヤテさん!」

 ヒメノとアイネ、そしてセンヤ・ネオン・ヒビキの三人に囲まれるハヤテ。


 それを見ながら、レンがユニークスキルについて考察する。

「このスキルで、ハヤテさんはMPを消費する代わりに攻撃の威力を上げられる……固定ダメージという銃の性能を、引き上げられるわけですね」

 その言葉を聞いたシオンは、苦笑いしか出来ない。


 銃という装備の長所は、遠距離攻撃を素早く行えるという点だ。そして、連射が可能というのもメリットである。

 その分、デメリットもある……弾丸が一般的に流通していない点と、盾で受けたらノーダメージになる点。そして何よりも、ダメージ値が固定である点である。

 ハヤテのユニークスキル【一撃入魂】は、そのダメージ値を引き上げる。これは実に強力なスキルである。


「それにしても……一気に賑やかになった気がするッスね!」

 そう言ったハヤテの視線の先には、PAC(パック)達の姿。その内、二人はエクストラクエストのボスNPCだったセツナとジョシュアである。


「剣鬼と魔女がご同輩とは……やれやれ、大変なギルドに来てしまったようだな」

 セツナとカゲツを見たジョシュアは、盛大な溜息を吐いた。

「某を知っているようだな……ただの老人ではないという事か」

「会った事は無いはずよのう? 汝の様な強い気配を持つ者ならば、妾が忘れる事は無いはずじゃ」

 エクストラボス達は、顔を突き合わせて何やら話し始めた。何かしら、隠されたストーリーがあるのかもしれない。


 そして、ミモリが契約して来たのは……人の良さそうな、小柄な老婆だった。背中が若干曲がっているが、杖も無く立っているので足腰が強いのであろう。白髪が多めの茶色い髪を、後頭部でまとめている。

「あれまぁ。男の子も女の子も、別嬪さん揃いで良いねぇ。私ったら、若返った気分だよ」

 この老婆は南の第二エリアで様々な作物を育て、薬草を栽培し、緑豊かな村を作って来た生き字引の様なNPCである。名前は【メーテル】というらしい。

「これから、沢山の野菜や薬草を育てたいの。色々教えてね、お婆ちゃん」

「任せなさいな。この婆やが居れば、何だって育てられるよぉ」

 ミモリとメーテルの会話を聞いていると、本当の祖母と孫の様にも見える。何とも、微笑ましい光景だ。


「新鮮な野菜が手に入るなら、オジさんも気合いが入るってものだね」

 そう言うのは、明るめの茶髪を真ん中分けにした中年男性である。

「厨房はどうでしたか、【カーム】」

「あぁ、マスター! 最高ですね、このホーム! 料理のし甲斐があるというものです!」

 彼……カームは、メーテル婆と同様に南の第二エリアにある町に居たNPCだ。様々な土地を旅する流れの料理人……という設定のキャラクターらしい。ハヤテの情報を元に探し当て、シオンが≪オリハルコンチケット≫を使用して契約した料理人PACパックというわけだ。


 そして、カノンが契約して来たPACパックなのだが……なんとびっくり、スキンヘッドの大男であった。鍛冶職人のNPCを探していたのだから、不思議では無いのかもしれないが……いかついにも、程がある。

「……初めまして」

 そう言って、ペコリと頭を下げる大男。なんとも言えない緊張感を漂わせているが、礼儀正しそうである。

「カ、カノンさん……これはまた、凄い人を連れて来ましたね?」

 レンがそう告げると、大男の眼がクワッ!! と見開かれる。カノンが身体をビクッと反応させ、そして小刻みに震え出す。その圧倒的な目力を向けられたレン、微笑みを浮かべて平然としている……のだが、内心では結構ビビった。それを表に出さないのは、流石レン様である。


 そして、そんなレンに大男は向き直り……そして、へこへこと頭を下げる。

「……凄いなんて、全然で……でも、頑張ります」

 その口調と声と見た目と言葉の内容、色々噛み合っていない。あとレンが凄いと言ったのは、見た目の事である。決して鍛冶の腕を知っていた訳では無い。


 カノンの横に立つヒメノが、苦笑いして声を掛ける。

「カノンさん、私が代わりに話しますか?」

「……お、お願い、して……良い?」

 ビクビク震えているカノンの返事に、ヒメノはふにゃりと微笑みながら頷く。仲間達に向けて、カノンの代わりに大男を紹介する。

「こちらのお兄さんは、カノンさんが契約したPACパックさんです! [ホルン]の鍛冶職人【ボイド】さん!」

 その言葉に、クワッ!! と目を見開いたボイド。目力全開で【七色の橋】の面々に視線を巡らせ……また、へこへこと頭を下げ始める。

「どうも……ボイドです。鍛冶と、あと彫金などもやってます……よろしくお願いします」


 一気に、PACパックが六人増えた【七色の橋】。これで、メンバーは二十一人となった訳だ。とはいえ、九人はPACパックなのだが。

「あらかた紹介も済んだかな? それじゃあ、まずは……装備の更新かな」

 セツナとカゲツは、見た目にもボロボロな布切れを身に纏っている状態。更に言うと、得物も無いのだ。ジョシュアは得物こそあるものの、それ以外は簡素なチュニックとパンツのみで戦闘には耐えられまい。

 メーテル・カーム・ボイドは、作業着はあるものの古くて草臥れている。ここはエクストラトリオと併せて、更新するのが良いだろう。


「皆で協力すれば、すぐ出来ますね!」

「うむ! 腕を振るうでゴザルよ!」

 ヒメノとジンが立ち上がると、他の面々も同様に動き出す。ゾロゾロと工房へ向かい、必要な物を用意し始める。


……


 そうして、完成したPAC(パック)達の新装備。やはり、用意したのは和風の衣装である。

「ふむ、中々に着心地が良い。それにこの太刀も、実に手に馴染むようだ」

「お前、カノンさんに感謝しろよ……何回もリテイクさせて……」

 セツナは、灰色の着流し姿に落ち着いた。手にした太刀は、シオンの≪鬼斬り≫を参考にして拵えた一品だ。


「くふふ、どうじゃ小僧? 新たな装束の妾に、見惚れたかえ?」

「はいはい、綺麗ッスよ……アイネ、睨まんといて」

 カゲツは本人の希望で、黒地の布で製作した和装である。形状は大人の女性らしい着物姿で、太腿を大胆に見せている。魔法職らしい彼女だが、装備無しで魔法行使が可能。故に、無手である。


「ふん、中々に良い腕をしている。あの眼鏡の嬢ちゃん、やるではないか」

「お気に召したみたいですね、ジョシュアさん」

 ジョシュアはジン達と同じ和装の上に、かつてヒイロが使用していた物と胴型の鎧を装備している。折角なので、刀と盾も新品を用意した。鎧の色は灰銀色で、重厚感を感じさせる物に仕上がっている。


 そして、非戦闘員のメーテルとカーム、ボイド。

「あらあら、こんな良い服を貰っちまって……これは婆や、頑張らにゃあいかんねぇ」

「お婆ちゃん、畑に出る時は着替えてね?」

 メーテルは小袖と呼ばれる和装で、旅館の女将さんのような風体となった。勿論、泥で汚れる事を考慮し、畑仕事の時は専用の作業着に着替える形になる。


「これは中々、趣きがありますねぇ。おっと、これがエプロンですかな?」

「……ありがとうございます」

 カームは白、ボイドは濃紺の甚平となった。作業着と言えば……と、カノンが推した結果である。厨房で作業をするカームは、清潔感のある白。工房で鍛冶をするボイドは、汚れても良い色に落ち着いた。


「更に、和風テイストが強くなったでゴザルな……」

「今更じゃあありませんか。というか、発端はジンさんです」

 レンの指摘に、ジンは何も言えない。最も、和装にしたのはユージンの提案である。


 そこで、ジンはユージンの事を思い出した。

「あぁ、そうだ。PACパックが増えた事を、ユージンさんにも報告するでゴザルよ」

 ユージンと言えば、日頃からお世話になっている相手である。早速報告しようと、システム・ウィンドウを開く。


 新たにPAC(パック)が六人増えた事を報告するメールを送信すると、ほんの数分で返答が返ってきた。

『新メンバー加入おめでとう。何か入用な物があれば、気軽に声を掛けてくれるかい? 二、三日は忙しくなるだろうから、落ち着いた頃にでも挨拶しに行くよ』

 相変わらずのユージンに、ジンは笑みを零す。


「ジンさん、ユージンさんはなんて?」

 近寄って来たヒメノに、ジンはウィンドウを可視状態に設定。ユージンからの返信を、寄り添う様に確認する。

「ふふっ、ユージンさんは相変わらずですね」

 ジンの大好きな、ふにゃッとした笑顔を浮かべるヒメノ。その笑顔を見ると、ジンも同じ様に口元が緩んでしまうのだ。


 そんな二人を見て、メーテルが微笑ましそうに笑って問い掛けた。

「あれまぁ、仲の良い事。二人は夫婦めおとなのかい?」

「「夫婦!?」」

 二人は思わず声を大にして、ハモってしまう。驚きのあまり、システム・ウィンドウからメーテル婆に視線を移し……そして、同時に互いを見る。


 そんな二人を見て、仲間達はニヤニヤが止まらない。ジンに秘めた想いを寄せているカノンも、ヒメノの表情に口元が笑みの形に緩んでいる。心の底から、二人の幸せを応援しているのであろう。


「……えーと」

 何と言って良いか解らないジンに対し、ヒメノは頬を染めながら視線を泳がせ……そして、いつも以上にふにゃっとした笑みを浮かべる。

「その……えへへ」

 最後に浮かべた照れ笑いは、ジンと夫婦に見られた事が嬉しかったのだろう。そんなヒメノの表情が、ジンにとってはどストライクだった。


――け、結婚システムについて、ちょっと調べてみた方が……良いのかな?

次回投稿予定日:2021/4/5


エンダアアアアアアアアアアアアアアアアア!! イヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!

(前書きとの温度差)


(4/1 12:30追記)

※読者様より「これ、お別れの歌よ?」と指摘を頂きましたが、フラグはありません。あっても折ります。

 純粋にジンとヒメノのハッピーエンドを楽しみにして頂いて大丈夫です。



これまでちょこちょこと小出しにして来た要素、結婚システム。

ついに本編でこれを描く頃合いとなりました。

メーテル婆、GJ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら一周年オメ そして、アレクの仲間、いろんなところに潜り込んでるな、ホント。こいつら、勝つためにメタはろうと、とにかく情報収集してるっぽいし 追加PAC組も和装になって、また…
[一言] この中でやっぱメーテル婆ちゃんが良心だろうね 着物に割烹着が1番合いそうな気がするね 婆ちゃん子だったからね 畳の上で座ってほうじ茶ズズズってやってる姿が1番合いそうだ
[一言] もう1年ですか早いものですね。 初期から御拝読させて頂いてます。 1周年おめでとうございます、これからも応援させて頂いてます。
感想一覧
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