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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十章 あなたへのプレゼントでした
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10-02 行動を開始しました

 運営からのメッセージを確認した【七色の橋】は、大広間に集まった。

「これ……この、何というか……何だろうね?」

 困惑気味のヒイロだが、無理もない。運営からのメッセージに記載されていたのは、何とも感想に困ってしまう短い文面のみだったのだ。


『十月一日の二十時に、魔王様からのお達しがある。異邦人共よ、楽しみに待て。魔王軍四天王より』


「魔王様だってさ」

「居たんだね、魔王。しかも四天王まで」

 そんな感想も当然であり、無理も無い事である。なにせこれまで、魔王の存在など言及された事が無かった。プレイヤーからすれば初耳もいい所であり、存在すら知らなかったのだ。


 ゲームによっては、壮大な展開のストーリーを進めていく、所謂”ストーリークエスト”が存在する。そういったクエストにおいて、最後に待ち受ける最大の敵……それが魔王と呼ばれる存在だ。

 しかしAWOには、ストーリークエストというものは存在しないと思われてきた。大小様々な、NPCを軸としたストーリーは存在するが……本編というものが無いのだ。


「魔王絡みって事は、やっぱり戦闘かな?」

「魔王か、その配下と戦う……とかが鉄板でしょうね」

「うーん、そろそろ第二回のチケットを使わないといけないかなぁ……」

「何に使うか、情報を集めていたものねぇ……」


 にわかに騒がしくなるギルドホーム……だがしかし、シオンがある事に気付く。

「皆様、宜しいでしょうか? メッセージが指定した日時ですが、運営ミーティングと同じタイミングで御座います」

 その言葉に、全員が顔を見合わせた。運営ミーティングとは、AWO運営のメンバーが生放送でAWOについて話すというものだ。新要素についての解説や、イベントの告知などが行われる生放送である。


「運営ミーティングと、魔王のお達しとやらが……同じタイミング?」

「何か、ありそう……だよね?」

 当然この日時設定は、意図的なもの……それ以外に考えられない。

「運営ミーティングを、魔王がジャックするとかじゃないかな?」

 ジンの予想を聞いた【七色の橋】のメンバーは、あり得るかもしれないと考え込む。


 そんな中、ヒイロがある考えに思い至る。

「もしかしたら、だけど……次のイベント告知で、それがPAC(パック)絡みのイベントになるんじゃないかな?」

 ヒイロからの言葉に、【七色の橋】のメンバーの視線が集まる。

「確かにそうかもしれません」

 その意見に反応したのは、レンだ。当然、彼女にも相応の考えがあった。

「第一回・第二回と、上位報酬がPAC(パック)関連の物でした。それを考えると、運営がPAC(パック)に関連するイベントを予定していても不思議ではありません」


 第一回イベントの一位から三位までは、PAC(パック)を自由に生み出すことが出来るというものだった。

 そして第二回イベントの優勝賞品が≪プラチナチケット≫の効果に加え、PAC(パック)と即座に契約を結べるという効果が追加された≪オリハルコンチケット≫だ。

 それらを考慮すると、運営がPAC(パック)という要素に力を入れているのは間違いない。そう考えるならば、PAC(パック)をメインにしたイベントがあってもおかしくはないだろう。


PAC(パック)関連……かぁ」

「確かに、あり得るかも……うちはまだ、三人しかいないよね」

 現在、ギルドに所属しているPAC(パック)はリン・ヒナ・ロータスの三人だけだ。

「そこで、折角≪オリハルコンチケット≫もあるだろう? ここは、PAC(パック)契約について行動を開始しても良いんじゃないかな」

PAC(パック)関連の情報は、ハヤテが纏めてくれているよね。戦力拡充にもなるし、生産に関しても人員が必要になるし。僕も賛成かな」

 ジンの言葉に、まだPAC(パック)と契約していない面々が頷く。


 尚、今回のイベントで手に入った≪オリハルコンチケット≫は十枚……その内、一枚はヒナの分だ。PAC(パック)であるヒナが手に入れたチケットは、契約者であるヒメノの手に渡っている。

 既にPAC(パック)契約をしているジン・ヒメノ・レンの≪オリハルコンチケット≫は、各々が必要に応じて使用する事となった。三人共、スキルや装備も上限ギリギリまで保有している為だ。

 そこで当分の間、≪オリハルコンチケット≫を自室の倉庫に保管する事にしている。こうしておけば万が一デスペナルティを受けたとしても、≪オリハルコンチケット≫をドロップする事は無い。


 そんな訳で、PAC(パック)契約を推進する事に決めた【七色の橋】は行動を開始した。

 第二回イベントに参戦した、未契約のメンバーはヒイロ・シオン・ハヤテ・アイネ・カノン・ミモリ。

 ヒイロとハヤテ、アイネは戦闘可能なPAC(パック)と契約する方針だ。

 残る三人は、生産系のPAC(パック)を増やそうと考えていた。


 カノンは当然、鍛冶職人。そこでちょくちょくクエストを進めていた鍛冶職人NPCに会う為に、北側の鉱山町[ホルン]へと向かった。

 こちらには、ヒメノとヒナが同行している。二人でジンの≪風の忍鎧≫を製作してから、ヒメノとカノンの間には強い絆が生まれた為だろう。


 シオンとミモリは、南側の港町[マリエラ]を目指して出立。こちらには、レンとロータスが同行している。

 縫製と料理のどちらを選ぼうか迷っていたシオンだが、結局料理人との契約を目指す事にした。ミモリは、作物を栽培出来るNPCに目を付けたらしい。


 アイネは、駄目もとである事を試すべく西側第二エリア・砂漠の町[レーヴェ]へ転移していった。

 こちらに同行するのは、センヤ・ネオン・ヒビキの三人だ。このチームは、道中でのレベリングも兼ねている。


 そしてハヤテは行ってみたいクエストがあるらしく、一人で東側にある商人の町[ミラルカ]へと向かった。


……


 そして、ヒイロ。彼はアイネの話を聞いて、もしかしたら……という望みを抱いてギルドホームから直接移動を開始した。同行するのは、ジンとリンの忍者コンビである。

「ふむ……確かにNPCであれば、誰でもPAC(パック)契約は可能。そして……相手がエクストラボスであっても、NPCはNPC……でゴザルな」

 そう、ヒイロの目的……それは、【千変万化】を手に入れた際に死闘を繰り広げたNPC……セツナとのPAC(パック)契約を結ぶ事である。


「正直、可能性は低いんじゃないかと思っているんだ。相手はエクストラクエストのボスだしね」

「しかし、もし成功すれば戦力増強にはなるでゴザルよ」

 会話をしながら、二人は森の中へ。久方ぶりの北の森……相変わらず、日の光を遮る木々に囲まれた森の中は薄暗い。

「雰囲気はバッチリでゴザルなぁ……」

「そうだな。さて、それじゃあ……行ってみるか」


 森の中を歩くこと十数分。最初に訪れた時と変わらず、洞窟の入口には大きな岩の扉がそこにはあった。呪われた装備を手にしているヒイロならば、この中に入る事ができるのだ。


「戦闘にならないと良いのでゴザルが……リン、ヒイロを頼むでゴザルよ」

「かしこまりました、主様。ヒイロ様、どうぞ宜しくお願い致します」

「リン、頼りにしているよ。ありがとう、ジン」

 万が一に備え、リンがヒイロに同行する手筈だ。


 ヒイロが、洞窟に入ろうと岩扉に手を伸ばす。しかし、彼の手は擦り抜けなかった。

「あれ?」

 普通に、岩扉のゴツゴツとした感触が伝わってくる。呪いの篭手を装備した右手で試しても、同じだ。

「もしかして、一度しか入れないとか?」

「アテが外れたでゴザルな……」


 そこで、リンが口を開く。

「主様、よろしいでしょうか?」

「うん? どうしたでゴザル?」

「ヒイロ様がここで手に入れた物に、このカラクリが反応するのでは無いでしょうか」

 リンの意見を聞いて、二人は顔を見合わせる。確かに、そういった仕掛けがあってもおかしくはないだろう。


「ありがとう、リン。試してみようか」

 そう言って、ヒイロは≪妖刀・羅刹≫を岩扉に近付けた。すると、岩扉が光り出す。

「おお……っ!!」

「アタリみたいだ!! ありがとう、リン!!」

「お役に立てたようで、何よりです」

 そうして、岩扉は光の粒子となって消滅した。


 三人で洞窟の中に踏み込むと、ひんやりとした空気に包まれる。一本道をしばらく歩き……見えて来た和風の建物の前に、一人の男が佇んでいた。

「む……? また会ったな、異国の剣士よ」

 白髪を結った長身の男……エクストラボスである魔剣使いのセツナが、ヒイロを見て口元を歪めた。


「……やはり、ここにまだ居たんだな」

「この地に囚われている限り、それがしは不滅の身よ。最も……得物は失ったがな」

 セツナの持っていた魔剣は、≪魔剣の欠片≫となってヒイロの装備として生まれ変わった。故に、今のセツナには得物が無いのだ。


 淡々と語るセツナに、ヒイロは不敵な笑みを浮かべて声を掛けた。

「そうか……それなら、俺と一緒に来ないか? 多分、ここから出してやる事ができると思うんだ……俺と、契約してくれたなら」


************************************************************


 一方、アイネは砂漠の町[レーヴェ]に転移した後、第一エリアへと引き返す。彼女の目的地は、西の草原にある小屋だった。

「広い草原だねー」

「現実では、こんな場所は中々無いよね!」

 ネオンとセンヤは、そう言いながら武器を構えた。というのも、この見晴らしの良い草原には……。

「モンスターが居なければ、ピクニックとか出来そうだよね」

 ヒビキの言葉通り、モンスターが生息しているのである。


 苦笑いしながら、ヒビキがセンヤと並んで構える。

「それじゃあ、僕達はこの辺りでレベリングして待っているね」

「えぇ、行ってくるわね」

 ヒビキ・センヤ・ネオンは、三人でこのままレベリング。元・騎士の老人が住む小屋には、アイネが一人で向かう事にした。ユニークスキル【百花繚乱】を手に入れたクエスト、その結末を考えれば危険は少ないと判断したのだ。


 アイネは小屋に辿り着くと、その扉をノックする。しばらく待っても、反応は無い。

「ジョシュアさん、いらっしゃいますか? 私、アイネです」

 扉越しに声を掛けると、小屋の中で物音がした。


 暫く待っていると、ゆっくりとその扉が開かれる。

「久しいな、何の用……」

 用件は何か問おうとして、NPC・ジョシュアは言葉を失う。目の前に立つ、アイネの姿を目の当たりにしたからだ。

「……ジョシュアさんの、奥様の形見……大事に使わせて頂いています」

 その言葉に、ジョシュアは目を閉じ……そして、口元を緩めながら頷いた。


……


「成程な……この世界に住まう我々と、異邦人の間で交わされる契約。それを、ワシと結びたいと……」

 現地人(NPC)達には、PAC(パック)契約とは神の祝福によるものだと伝わっている。

 異邦人プレイヤーが持つシステム・ウィンドウは、神が与えた加護。PAC(パック)契約を結ぶ事で、NPC達もその恩恵を受けられるという認識だ。現地人(NPC)がシステム・ウィンドウを持たないのは、そういう設定から来ているのだろう。


「ふん、こんな老兵が役に立つとでも思っとるのか?」

 そう言ってそっぽを向くジョシュアだが、言葉の割には満更でも無さそうな表情である。アイネもそれに気付いており、用意していた≪オリハルコンチケット≫を取り出す。

「ジョシュアさんの力は、よく知っています……あなただからこそ、PAC(パック)契約を結びたいんです」

 差し出された≪オリハルコンチケット≫に、ジョシュアは目を丸くする。


「お前さん、これはオリハルコンじゃないのか? 力を示した者のみが手に出来る、稀少な品だぞ……よくもまぁ、こんなモノを……」

 珍しく、素直に驚いたジョシュア。手応えを感じたアイネは、更に言葉を重ねた。

「お願い出来ますか?」

 アイネの言葉に、ジョシュアは口を閉ざし……諦めたかの様に、一つ頷いた。


【NPC・ジョシュアと、PAC(パック)契約が成立しました】


************************************************************


 単身で東の町にやって来たハヤテ。変装した状態の彼は鋭い視線で走り出すと、高く聳え立つ山へと向かって行く。


――山の中に棲む、魔女……か。


 それは、掲示板で仕入れた情報だった。真偽の程は五分五分で、もしかしたら実在しない可能性もある。しかし、もし実在していたならば……ハヤテの予想が正しいならば、それは自分が探し求めていた力を手に入れるチャンスかもしれない。

 だからこそ、ハヤテは単独でその場所を目指していた。掲示板では、ソロでしかそのクエストを受注できなかったというのだ。


 そうして駆け抜ける事、十分程。ハヤテは山の麓に辿り着く。予想以上に、プレイヤーの姿がそこにはあった。恐らく彼等も、掲示板を見て件のクエストに挑戦しようと考えたのだろう。


――競争ってワケね。


 山の中へと駆け込んでいくプレイヤー達に紛れ、ハヤテは走り出した。


……


 山の中には、モンスターが出現する。それも、硬いモンスターが多かった。

「くぅ……っ!! 中々死なねぇっ!!」

 メイスでモンスターを殴打するプレイヤーが、反撃を喰らってダウンする。そこへ、周囲に潜んでいたモンスターが殺到。反撃も虚しく、プレイヤーは戦闘不能状態に陥った。


 その様子を目の当たりにしたハヤテは、決してダウンしてはならないと判断。システム・ウィンドウを操作して変装を解くと、臨戦態勢に移行した。

「さぁ、ガンガン行くッスよ!!」

 両手に銃を携えて、オレンジ色のマフラーを靡かせる赤毛のプレイヤー。一月前に彼が見せた戦い振りは、余程の新人プレイヤーでない限り記憶に焼き付いている事だろう。


「あいつ、【七色の橋】の……!!」

「確か、ハヤテ……!?」

「どもッス~!」

 驚きの表情を浮かべるプレイヤーに軽い調子で挨拶をすると、ハヤテは無造作に銃の引き金を引いた。連続で放たれた銃弾が、生きた石像のモンスター【ガーゴイル】の頭部に命中。三発でその頭が砕け散り、その場に倒れ伏した。


 銃というアイテムを使うと、やはりヘイト値が上昇する。ハヤテに向けて歩み寄って来るのは、岩石の巨人【ロックゴーレム】や岩で出来た甲羅を背負う亀【ストーンタートル】。硬さに定評のあるモンスターであり、重量級モンスターだけあってその攻撃も重い。

 しかし、残念なことに……。

「悪いけど、今は相手してやる暇は無いっスよ。どうしてもっていうなら、今度ウチのお姫様に同行して貰って来るッス!」

 こういった重量級モンスターは、動きが鈍いのだ。軽装のハヤテならば、ちょっとスピードを上げれば引き離す事は容易い。


 邪魔な相手を固定ダメージ攻撃の銃弾で砕き、軽快な走りで岩場を駆け抜けるハヤテ。

「な……待てっ!!」

「この、先を越されて溜まるかっ!!」

 ハヤテの姿を目の当たりにした、同じ目的で山に入ったプレイヤー達。負けじと懸命に走るものの、硬い相手対策として金属鎧で身を固めて来たプレイヤー達の動きは鈍重だ。

「悪いけど、こういうのは早い者勝ちッスからね~!」

 そんな彼等を、ハヤテは次々と抜き去って駆け抜けていく。


 こうして駆け抜ける事、三十分程。目的の場所まで、もう少しといったところである。視線を山の上の方へ向けると、一軒の屋敷が目に入る。その外観は荒れ果てており、一見すると人が住んでいる様には見えない。

 しかし彼が会おうとしているNPCは、そこに居る。掲示板のとあるスレッドに、スクリーンショット付きで情報が寄せられていたのだ。


 目的地までもう少し……という所で、ハヤテは足を止めた。

「……この先にあるクエストは、ソロでしか受けられない。だから、待ち伏せして囲んでしまおうという魂胆ッスか?」

 周囲に誰も居ない……並のプレイヤーならば、そう思って更に進むだろう。しかし、ハヤテは経験豊富なコアゲーマー。過去にも隠れ潜んでいた【漆黒の旅団】のPKerプレイヤーキラー達を、察知した実績がある。


「大物が掛かったな。殺るぞ!!」

 大きな岩の陰に隠れていたプレイヤーがそう叫ぶと、物陰に潜んでいた三人のプレイヤーが飛び出して来た。

「格好の獲物だ!! 銃を奪うぞ!!」

「他にもレア物を持っているかもしれないぞ!! 徹底的に毟り取れ!!」

 嬉々として襲い掛かる、四人組のプレイヤー集団。彼等のカラーカーソルは、犯罪者プレイヤーを示す赤色だ。


 そんな四人組を見て、ハヤテは平然と構えていた。

「良かった、潰しても影響が無いや」

 そう告げると同時、流れる様な動作で銃口を標的に向けて引き金を引く。FAL型≪アサルトライフル≫で一人の頭部を撃ち抜き、接近して来た一人の攻撃を躱すとFive-seveN型≪オートマチックピストル≫で背中を撃った。


 更に身を翻すと、≪オートマチックピストル≫で二回射撃。狙いは残る二人の眼だ。

「ぬおぁっ!?」

「く、くそぉっ!! あれ? お、思ったより痛くは無いな……!!」

 激痛に苛まれるのではと思っていたプレイヤー達は、意外と耐えられそうだと解りニヤリと笑う……が、そんな隙をハヤテの前で晒したのが運の尽きだ。


「はい、バイバイ」

 何度も引き金を引き、連続して放たれる銃弾。その全てが男達の顔に、腹に、胸元に撃ち込まれる。ハヤテの前で動きを止める事は、銃弾を撃ち込んでどうぞと言っている様なものなのだ。

 あっという間にHPが底を尽き、揃ってうつ伏せに倒れ込んだ四人組は怨嗟の声を上げている。

「おのれ……次はこうはいかんぞ……!!」

「我等が敗れても第二、第三の刺客がお前達を……」


 しかし、残念ながら彼等の声はハヤテに届いてはいなかった。倒れた犯罪者レッドプレイヤー達に構わず、ハヤテはもう走り去っていたのだ。勿論、彼等が倒れた瞬間にドロップした、貴重そうなアイテムだけを回収した上で。

 ゴツゴツした岩場にうつ伏せで倒れているせいで、既にハヤテがその場を去った事に気付いていないプレイヤー達。何かおかしいと気付くまで、彼等は悔し紛れの負け惜しみを口にし続けるのだった。


************************************************************


 ようやく、古びた屋敷に辿り着いたハヤテ。屋敷の中は真っ暗で、幽霊屋敷の様だった。

「お邪魔しま~す」

 そんな事は一切気に留めず、軽い調子で扉を開くハヤテ。屋敷の中はひんやりとしており、不気味な静けさに包まれている。

 屋敷の中に踏み込むと、背後でバタンという大きな音。それは勿論、入口の扉が一人でに閉まった音だった。ここで扉を開けようとしてみると、押しても引いても開かないだろう事は容易に想像できる。


「ふーん、雰囲気あるね」

 使い古された演出と言って良いが、それ故に王道展開。ハヤテはそういった王道が好みの為、ここまでの展開は満足だ。犯罪者レッドプレイヤーの登場は流石に予想外だったが、それもまた良し。少々テンションが上がり気味である。


 微かな外からの光を頼りに、ハヤテは屋敷の奥へ向けて歩き出す。すると、進行方向から男性の悲鳴が聞こえて来た。

「……おや、先客が居たのかな?」

 悲鳴が聞こえた方向に向かうと、大きな両開きの扉が開け放たれた状態だった。中の様子を窺えば、三人の男と一人の女性の姿があった。


 部屋の中は、他の部屋と違って明かりがあった。壁の燭台に挿された蝋燭に、火が灯っている。蝋燭の火で照らされる部屋の中は、様々な物が散乱していた。

 それは椅子の残骸だったり、割れたワイングラスや皿だったり……まるで、ここにだけ台風が来たのかと思わせる光景だ。


 そんな部屋の中にいる一人の男はプレイヤーで、そのHPが尽き果てて倒れていた。残る二人は、信じられない物を見た……という表情で、女性の方を見ている。

 そして、その女性……ボロ布に身を纏い、ボサボサの髪を掻き上げた所だった。その眼は血の様に赤く、顔色は病的なまでに青白い。


 女性が切れ長の眼でハヤテを見ると、忌々し気に口を開いた。

「……またか、千客万来とはこの事よな……迷惑な話だがのう」

 時代掛かった口調で、吐き捨てる様に言葉を紡ぎ出す女性。不機嫌なのは確実だろう。


「む、他のプレイヤーか……何ぃっ!?」

「おっ……お前は……【七色】の銃使い!!」

 ハヤテの顔を見て、あからさまに動揺するプレイヤー二人。その様子を見たハヤテは、内心で苦笑する。


――こんなに有名になる予定は無かったんだけどね……ま、ジン兄達と一緒に居る以上は、仕方ないか。


 愛銃である≪アサルトライフル≫を肩に担いで、部屋の中へと歩を進めるハヤテ。

「もしかして、順番があったりするのかな? 無いなら早速……エクストラクエストに挑戦したいんッスけどね」

 そう、ハヤテの目的はPACパック契約だけではない。エクストラクエストの情報を聞き付けて、この古びた屋敷を目指して来たのだ。

次回投稿予定日:2021/3/30


ハヤテ、エクストラクエストに挑戦の巻!


ちなみにエクストラボスであるセツナが生きている点については、第四章の登場人物紹介でちょろっと「NPCなので消滅してはいない」と触れていました。

全てはこの為です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ハヤテはエクストラクエストの攻略と、そのエクストラボスとのPAC契約。ソロでなければ受注出来ないクエスト。 山の中に有る古びた屋敷の中で、プレーヤーと戦って居たエクストラボスらしい女性…
[一言] エクストラボスとのPAC契約どれくらいのは範囲で可能なのか気になってます。風林火山のボス達はモンスターなので無理でしょうが人型で意思疎通出来るなら可能?だとするなら残してるオリハルコンチケッ…
[一言] PACにエクストラボスですと!? まぁ、これもよりゲームを楽しんだ結果得た機会なわけなので、ある意味で七色の橋の最大の強みでもあるのですが・・・ ちょっと気になったのが、レンの素性が何か…
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