09-26 決勝戦・大将戦(的な決闘)
ヒイロに向けて投げ掛けられた、アークの申し出。それを耳にしたプレイヤー達は、静まり返っていた。
「俺と……決闘、ですか」
聞き返すヒイロに対し、アークは真剣な表情で頷く。
「不躾で済まない。前もって言うが、目的は優勝の栄光や優勝賞品ではない。ただ単に、君と戦ってみたい……君の本気の力を見てみたい。そんな、俺の我侭だ」
その言葉を受けて、ヒイロはアークの眼を見る。彼の眼は真剣そのものであり、純粋な戦士としての輝きを湛えている。
アークの申し出を聞いたヒイロは、仲間達に視線を向ける。アークは「大会とは関係のない決闘」と言ったが、この場で行うのであれば事実上の大将戦だ。
そんなヒイロの視線を受けて、ジンとヒメノが……ハヤテやアイネ、シオンが頷く。ミモリとカノンも、一拍遅れて頷いてみせた。ヒナはニコニコしているだけだが、どことなく期待しているようにも見える。
そして隣に立つレンが、ヒイロの顔を見上げて微笑んでいた。
「ヒイロさん……貴方の思うままに」
自分のやりたい様にやって良い……そんなレンの言葉に、ヒイロは一度目を閉じ……そして、開いてみせる。
「その申し出を受けるよ」
『イベント終了から一時間……もう、五十分か。その間は、このイベントエリアに留まることが出来る』
向かい合う二人に、シリウスが声を掛ける。
『しかし既に第二回イベントは終了している。運営はこの決闘に関与しない、構わないね?』
そう告げられた二人は、無言ながら力強く頷く。そんな二人に笑みを向け、シリウスは踵を返す。
『互いの健闘を祈るよ』
すると、一人の女性が徐に手を挙げた。
「それなら第三者がジャッジをするのが良いんじゃないかしら~?」
そう告げたのは、【森羅万象】のギルドマスターであるシンラ。彼女の突然の乱入に、大半のプレイヤー……【森羅万象】のメンバー含む、が目を剥いた。
「折角の試合でしょ? システムの開始と終了の表示だけでは味気ないわ~。ここに暇を持て余している私が居るのだけれど、任せてみる~?」
通常の決闘システムでは、カウントダウンと試合開始……そして勝者と敗者を示す専用のウィンドウが、空中に表示される。ちなみにシステム音声などは無いので、この第二回イベントとは大違いである。
しかしこれは【七色の橋】と【聖光の騎士団】の、ギルドマスター同士の決闘だ。第二回イベントの延長線、そう考える者が大半である。【森羅万象】のギルドマスターが、その審判を務めるという申し出。これは観客達にしてみれば、驚きの配役に他ならない。
しかしながら、当事者達は平然とした様子でシンラを見る。
「ありがたい、【森羅万象】のマスター。頼んで良いだろうか」
「シンラさん……で良いですか。よろしくお願いします」
二人の返答に、シンラはニッコリと微笑んで頷いた。
「はーい、おまかせあれ~♪」
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ステージ上に立つのは、三人のプレイヤーのみ。
一人は藍色の鎧を身に纏う鎧武者、【七色の橋】のギルドマスターであるヒイロ。一人は白銀の鎧で身を包んだ騎士、【聖光の騎士団】のギルドマスター・アーク。そんな二人の中間に立つのは、深緑色のローブに身を包んだ亜麻色の髪の美女……【森羅万象】のギルドマスターを務めるシンラ。
更に言えば、この三ギルドに加えて【桃園の誓い】や【魔弾の射手】……【遥かなる旅路】も観戦に回っている。
第二回イベントを締め括る決闘として、相応しいと言っていい豪華な顔触れだ。
「それでは、決闘の条件を確認するわね~? 仕様は【完全決着モード】で、制限時間は四十分。ドロップ無しの、純粋な力比べ~! おっけ~?」
これはイベント戦ではなく、プレイヤー同士の決闘。その為、事前に決闘の条件についての確認が必要となる。
無論のこと、決闘条件はイベント戦となんら変わりはない。
「あぁ、異論無い」
「問題ありません」
二人の返答を受けて、シンラは右手を掲げた。
「それでは折角なので~! ひが~し~、【七色の橋】の~、ヒイロ選手~!」
相撲の力士紹介みたいな選手紹介に、会場内からは笑いやツッコミが発生。しかしながら、本人達にはそんな周囲の声は届いていない。
「に~し~! 【聖光の騎士団】~、アーク選手~!」
二人の紹介が終わると、会場内からは盛大な拍手が贈られた。
「それでは、みあってみあって~……はい、決闘開始ボタンを押してね~?」
気の抜けるアナウンスに、観客達から笑い声が漏れて出る。しかしながら、対峙する二人の表情は変わらず真剣そのものだ。
二人が決闘開始ボタンを押すと、空中にカウントダウンが表示される。決闘開始まで十秒。減っていく数字を見て、シンラが会場中に向けて呼び掛けた。
「それじゃあ、皆でカウントダウンをしましょう~? 5~!」
物怖じせず、この決闘を盛り上げようとするシンラ。そんな彼女の呼び掛けに、会場中のプレイヤーが便乗する。
「「「4!」」」
それは【七色の橋】や【聖光の騎士団】……そして決勝トーナメントに進出した他のギルドも参加する。
『3!』
アークが≪聖印の剣≫と≪聖咎の剣≫を構え、腰を落とす。
『2!!』
ヒイロも右手の≪妖刀・羅刹≫を打刀、左手の≪妖刀・羅刹≫を小太刀に変化させて構えた。
『1!!!』
そして、カウントがゼロになる。
「決勝戦・大将戦……的な決闘! 試合開始~!!」
間延びしたシンラの開始宣言を受けて、アークとヒイロが同時に駆け出した。
「ふっ!!」
「疾ッ!!」
互いに右手の得物を振るい、切り結ぶ。刀と剣がぶつかり合い、鍔迫り合いに入った。
――やはり、STRはあちらが上……!!
ヒイロは即座にアークとの差を察し、力比べは分が悪いと判断。左手側の小太刀を、アークの喉元に向けて突き出した。
アークはそれを半身になって避けると、≪聖咎の剣≫を振り上げる。それと同時、互いに右手の得物を引いて次の行動に備えた。
「はっ!!」
アークが≪聖咎の剣≫で斬り掛かるが、ヒイロはそれを盾で受け止めた。アークが≪聖咎の剣≫を振り上げたのを見たヒイロは、右手の≪妖刀・羅刹≫を盾に変化させていたのだ。
――武装を切り替える……いや、違う。武装を作り替えるスキルか。
システム・ウィンドウ等を操作して装備を切り替える場合、それまで装備していた武器や防具は光の粒子となって消滅する。そして、同時に光を纏った新しい装備が実体化するのである。これがAWOの共通仕様である。
例えば【クイックチェンジ】という、装備切り替えスキルが存在する。これは前もって設定・登録された装備を、MPを消費して瞬時に切り替える事が可能なスキルである。そのスキルを使用した場合でも、やはり実体化・消滅エフェクトは発生するのだ。
一瞬の装備変更で、そこまで見抜くアーク。しかもそこまで思考を巡らせていながら、彼は戦闘に支障を来さない。左手側の≪聖咎の剣≫を受けられた瞬間、右手側の≪聖印の剣≫を振るって盾を強引に退けようとする。
アークの渾身の力で盾の縁を叩き付けられ、ヒイロの盾が弾かれた。盾を弾かれてその身を晒すヒイロに、アークが一歩踏み込んで≪聖咎の剣≫を突き出す。
――貰った!!
アークはヒイロの身体を貫き、そこから両手の剣で武器を構え直させず、最後に武技でヒイロを仕留めようと考えた。その動きに淀みは無く、一部の隙も無い連続攻撃。
しかし、ヒイロはそれに対抗してみせる。
――させるかっ!!
ヒイロは両手の≪妖刀・羅刹≫を大太刀に変え、十字に組む。その交差する箇所をアークの≪聖咎の剣≫にぶつけ、そのまま強引に軌道を逸らしてみせた。
ヒイロは戦闘に集中しつつ、仲間達に深い感謝の念を抱く。というのもヒイロはイベント準備期間中、ユニークスキル【千変万化】を使いこなす為に、仲間達に協力を仰いでいたのだ。
その内容は、限りなく実戦に近い状態でのスキル習熟。仲間達と決闘を行い、攻撃への対応策を身に着けるために試行錯誤を繰り返した。その成果が、ここで発揮されたのだ。
――やはり、手強い……ならば!!
「【ライトニングエッジ】!!」
アークは≪聖印の剣≫を振るい、雷撃の刃を放つ。 剣技だけではなく、武装スキルを織り交ぜてヒイロを圧倒する算段だ。逆に言うと、そうでもしなければヒイロに攻撃が届かないと判断したとも言える。
最も、それが届くかどうかは別の話である。ヒイロはアークの武装スキルをケイン戦で確認しており、アークと戦う場合にどう対応するか考えてあった。
「【一閃】!!」
右手の≪妖刀・羅刹≫を小太刀に変化させ、【一閃】の攻撃速度を上げる。そしてアークの【ライトニングエッジ】の中心点に、武技の光を纏った刃で斬り付ける。それによって【スキル相殺】が成立し、アークの【ライトニングエッジ】がその効果を失い霧散した。
鮮やかな【スキル相殺】を披露したヒイロに、観戦しているプレイヤー達が沸く。
「あの速さで飛んでくる攻撃を、バッチリ捉えやがったぞ!」
「イケてるのは顔だけじゃないのか……!!」
そんな観戦者達の会話に、何故かレンが誇らしげに笑みを浮かべる。ドヤ顔レン様である。
「しかし、やはりアークも強いな……」
「あぁ、互いに有効打を与えられていない……」
そんな会話が示す通り、二人はまだ互いの攻撃を直接は食らっていない。あえて言うなら、ヒイロが盾で攻撃を受けた時に若干のダメージを受けたくらいである。
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そうして互いの攻撃を捌きながら、打ち合う事十分。ヒイロもアークも、相手の動きや手札に慣れつつあった。
ヒイロの武装変化は、打刀・大太刀・小太刀・大盾……アークはそう確信し、戦術を組み立てる。
――恐らく、武装の変化はスキルによるもの。ならばスキルスロットが一つ埋まる。
更に、ヒイロがこれまで見せた武技。【長剣の心得】と【体捌きの心得】は、確実。そして【七色の橋】と【桃園の誓い】が使用する【一閃】……これが≪刀≫に由来するだろう事は想像に難くない。
そしてヒイロのレベルが、40に満たないだろうとアークは察していた。だとすれば、スキルスロットは四つまで。
「【サイクロンエッジ】!!」
アークは発動の早い武装スキルで、ヒイロが【スキル相殺】を使用するように誘う。そんなアークの予測通り、ヒイロは【一閃】を放つ。
「【一閃】!!」
完璧なタイミングで、ヒイロは見事に【スキル相殺】を決めてみせる……その瞬間。
「【アサルトパニッシャー】!!」
アークが武技を発動しながら、ヒイロに向けて駆け抜ける。
武技効果による発動時AGI強化が加わった、アークの接近。それを受けて、ヒイロは逆の手で【一閃】を放ち【スキル相殺】を狙う。ジンとの決闘訓練で、その攻撃への対策もしてあるのだ。二振りの≪妖刀・羅刹≫も対となる装備であり、武技発動は両方の刀で可能。
しかし、アークはそれを既に予測していた。
「ハァッ!!」
ヒイロが【スキル相殺】を成立させるには、アークの剣の中心に自分の刀の中心を当てる必要がある。故にアークは、剣の軌道をわずかにずらした。
「なっ……!?」
アークの読み通り、【スキル相殺】は不発。そしてヒイロは【一閃】の技後硬直を受ける。逆にアークは対となる≪聖印の剣≫を振るい、【アサルトパニッシャー】をヒイロの身体に叩き込んだ。
「ヒイロさん……!!」
ヒイロのHPが、大きく削られる。その光景に、アイネが思わず声を上げてしまった。
だが、アークの攻撃は終わってはいない。最高峰のプレイヤーが、この好機を見逃すはずが無い。
「【デュアルスラッシュ】!!」
双剣を駆使した【デュアルスラッシュ】を、【チェインアーツ】で発動させるアーク。更にヒイロのHPが減り、残りHPは半分を切った。
「やはり、アーク様も【チェインアーツ】を……!!」
「ヒットストップが掛かってる! ヒイロさん、ヤバいッスよ!!」
苦しげな表情のシオン、焦りを滲ませたハヤテの言葉。そんな仲間達に、ジンが声を掛けた。
「まだまだいける! ヒイロ、頑張れ!!」
そんなジンの言葉に触発されたのは、ヒイロの妹・ヒメノ。そして、彼の最愛の存在であるレンだった。
「お兄ちゃん、ファイトです!!」
「ヒイロさん!! 頑張って!!」
親友の、妹の、恋人の声援。その言葉が耳に届いたヒイロは、右腕に力を込めた。
第一回イベントの報酬であるチケットを用いて強化された、≪鬼神の右腕+1≫。強化された事で、そのスキル【幽鬼】のクールタイムは一時間。準決勝で発動したが、クールタイムは既に終了している。
「【幽鬼】!!」
ダメージを受けていても、発動可能な武装スキル。ヒイロの右腕に宿った鬼神の力が解き放たれ、アークに向けて大太刀を振るう。
「これか……っ!!」
ヒイロの代名詞と呼べる【幽鬼】の攻撃に、アークは表情を歪める。【チェインアーツ】が中断されては、長い技後硬直による隙を晒すのだ。
アークは【幽鬼】の大太刀を双剣で受け、その衝撃に身を任せる。ノックバックを受けた時の様に、数メートル下がった彼は技後硬直に囚われた。
ヒイロにしてみれば、これは絶好のチャンスだ。
「【クイックステップ】!!」
アークに向けて駆け出すと、【クイックステップ】を発動して一気に距離を詰める。背後に顕現した鬼神を引き連れ、ヒイロがアークを攻め立てる。
「【スラッシュ】!! 【一閃】!!」
お返しとばかりに、ヒイロは【チェインアーツ】を発動。鬼神の霊体もそれに従い、大太刀を振るう。
アークのHPが削れていき、観客達から歓声と悲鳴が沸き起こる。
技後硬直が終わる瞬間、アークは鎧に付与された武装スキルを発動させた。
「【ヒーリングファクター】!!」
継続回復のスキルで継戦能力を高め、アークは反撃の為に剣を振るった。
「【バーニングエッジ】!!」
袈裟斬りの軌道を描いて飛ぶ、炎の斬撃。
それを見たヒイロは、刀を構える。狙いは【スキル相殺】……と見せ掛けて、左手の≪妖刀・羅刹≫を大盾に変化させる。アークの狙いは【スキル相殺】の瞬間、発生する隙を狙う事だと予想したのだ。
「【エレメンタルガード】!!」
ヒイロは大盾に姿を変えた≪妖刀・羅刹≫を突き出し、魔法攻撃耐性の高い武技を発動させた。
しかしアークは、ヒイロ……いや、全プレイヤーが予想出来なかった攻撃を繰り出してきた。
「【ライトニングエッジ】!!」
放った炎の斬撃に合わせ、雷の斬撃を放つアーク。左右対称に放たれたそれは、ヒイロが構えた≪妖刀・羅刹≫の大盾に全く同時に叩き込まれる。
「く……ぅっ!!」
その威力と衝撃に、ヒイロの顔が苦しげなものに変化する。
アークの狙いは、ヒイロにダメージを与える事ではない。ヒイロの動きを、一時的に止める事だった。アークが狙いたいのは、ヒイロに付き従う【幽鬼】の方なのだ。
「【セイントセイバー】!!」
放たれたのはユニークスキル【デュアルソード】において、ある一点に特化したバフタイプの武技。その効果は、魔属性や呪属性に対して与ダメージが1.5倍になるというものだ。
「行くぞ……【ブレイドダンス】!!」
純白の光を纏ったアークの連続攻撃が、【幽鬼】の身体を斬り裂く。その剣の舞を喰らった鬼神は、制限時間終了を待たずして消滅した。
アークの【ブレイドダンス】、その最後の一撃はヒイロ自身に向けられた。それを受けたヒイロのHPが、いよいよ危険域に突入する。対するアークのHPは、残り半分程。
ヒイロの方が劣勢なのは、誰の目から見ても明らかだ。
「はぁっ!!」
「く……っ!!」
威風堂々とした様子のアークに対し、ヒイロは苦しげな様子で迎え撃つ。そんな中、ヒイロの右手に握られた≪妖刀・羅刹≫が不快な音を発した。ヒイロとアークが一瞬それを見ると、刀に罅が入っている。
ヒイロの持つ≪妖刀・羅刹≫は魔剣属性を有しており、アークの【セイントセイバー】によって受けるダメージが増加している。
――まずい……!!
不利を察したヒイロが距離を開けようとするが、それを許すアークではない。
「逃さん!!」
苛烈さを増すアークの攻めに、ヒイロは防戦一方。そしてついに、ヒイロの右手の≪妖刀・羅刹≫の刀身が砕け散った。
アークの勝利を願うプレイヤー達の歓声。ヒイロの勝利を願うプレイヤー達の悲鳴。その声を耳にしつつ、アークは勝利を確信する。
アークの双剣を、残る一本の刀で受け切るのは困難を極める。捌き切れず、HPを失って終わる……そう思い、一歩踏み出して剣を振るう。
しかし、ヒイロはまだ折れていない。何故なら彼の武器は、手にした刀だけではない。彼の鎧もまた、エクストラボスであるセツナの≪魔剣の破片≫から生み出された装備。【武装一式】によって、刀に姿を変えるのだから。
――【再生】は間に合わない……!! ならば……っ!!
ヒイロの意思を受け、身に纏う≪妖鎧・修羅≫が刀に変化する。
「な……っ!?」
「【一閃】!!」
動揺するアークに構わず、ヒイロは武技を発動。二度目は無いだろうアークの隙、攻めに転じるならば今だ。
両手の≪妖刀・羅刹≫を振るい、アークにダメージを与えたヒイロ。そしてここからが、ヒイロの本領。
「【スラッシュ】!!」
ヒイロが刀を振るう度に、アークのHPが削られていく。これまでは【幽鬼】と併せて発動していた、武技の連続発動……ヒイロはついに、単独でそれを発動させる実力を身に着けていた。
「【デュアルスラッシュ】!!」
残り四割、まだアークを倒すには届かない。ならばと、ヒイロは意識を集中させる。
「【クインタプルスラッシュ】!!」
残り三割。流石は最高峰プレイヤーだけあり、アークの硬さは並のプレイヤーとは比べものにならない。
「【ハードスラッシュ】!!」
残り二割。それでもヒイロは、追撃の手を緩めない。この機を逃せば、アークを倒すチャンスは二度と来ないという確信があった。
しかし、それを黙って受けるアークではない。【ハードスラッシュ】は威力が高い代わりに、攻撃動作が素早くない。その間にヒットストップが終わり、アークは身体の自由を取り戻す。
ヒイロが次の武技を発動するまでの間に、剣を構え直す事に成功した。そして二人は、最後の勝負に出た。
「「【ブレイドダンス】!!」」
ヒイロの次の一手を【ブレイドダンス】と予測したアークは、同じ武技で対抗する。【ブレイドダンス・エクストリーム】では発動が若干遅れ、他の武技では凌がれた場合手数で劣る。
同じ武技をぶつける事を決断したのは、ほんの一瞬。その判断力と、決断力……それこそが、アークというプレイヤーの最大の強み。彼の強さの根源であった。
そしてその判断が、勝敗を分ける事となる。
二人は互いに、我武者羅に得物を振るって相手を斬り付ける。刀と剣がぶつかり合い、火花が激しく散っていた。
「はあぁぁっ!!」
「うおおぉっ!!」
全く同じタイミングで放たれた、同じ武技。その最後の一撃が、互いの身体を捉える。互いの身体に、赤いダメージ痕が刻まれる。
武器を振り抜いた状態で、二人は静止していた。
会場中が静まり返る中、一人の女性が歩み寄った。
「このままだとリスポーンしちゃうから〜蘇生蘇生〜!」
倒れる彼に≪ライフポーション≫を振り掛け、そのHPを回復するシンラ。
それと同時、空中に決着を示すエフェクトが表示された。その表示に記されていたのは、勝者と敗者が決した事を示している。
それを確認したシンラが頷くと、勝者側の手を高く掲げて決着がついた事を宣言する。
「勝者、【聖光の騎士団】ギルドマスター……アーク選手〜!!」
ほんの僅か、0.1秒の差でHPが尽きたのは……ヒイロだった。
次回投稿予定日:2021/3/15
最後の最後で、アークの勝利となりました。
ヒイロに勝たせろよ、という方がいらっしゃったらご期待に添えず済みません。
これで第二回イベントは終了となります。
次回は、少しだけその後のお話。