09-18 決勝戦・次鋒戦
先鋒戦を終えた三人と入れ違いに、次鋒戦のメンバーが動きを見せた。その様子を見た観客達は、再び盛大な歓声を上げた。
「シルフィさーん!!」
「姐御ー!!」
「待ってました!! ベイルさんだ!!」
「姉弟コンビだぜ!!」
「ルーちゃーん!! こっち向いてくれー!!」
【聖光の騎士団】からは、シルフィとベイルの姉弟。そして魔法職のルーが、その姿を現した。観客席からは、三人へ向けて声援が贈られる。
そして、【七色の橋】。
「うおお! ヒメノちゃーん!!」
「ヒメノちゃんに似てる娘、PACだよな!?」
「双子みたい!!」
「緑髪のお姉さん、美人!!」
弓と矢筒を背負うヒメノに、杖を携えたPAC・ヒナ。そして、風に髪を靡かせて歩くミモリ。その表情に気負いは無く、前を向く眼には力が宿っている。
レン・シオン・カノンが、擦れ違う前に足を止める。その表情には、笑顔が浮かんでいた。
「ヒメちゃん、頑張ってね」
「うん、レンちゃん!」
「お疲れ様、カノン」
「ミモリ……ありがと、ね……ミモリも、頑張って……」
「シオンさん、お疲れ様です!」
「ありがとうございます、ヒナさん」
言葉を交わし、それぞれが動き出す。レン達三人はジン達が待つ場所へ……ヒメノ達三人は、ステージの上へ。
一方、【聖光の騎士団】側も先鋒戦メンバーと次鋒戦メンバーが、言葉を交わしていた。
「お疲れ様、三人共。任せといて」
シルフィの言葉に、アリステラは悔し気な表情を浮かべて頷いた。実際、悔しいのだろう。
セバスチャンとクルスも、軽く会釈をして下がるのみ。相当に今回の敗北が堪えたらしい。
無理もないのは、シルフィ達も理解している。
アリステラは後衛職のレンに、自分の得意な近距離で押されて敗北。セバスチャンはシオンに言い負かされて、支援どころではなく敗北。そしてクルスは、カノンの投擲ハンマー攻撃という予想外の攻撃によって盾を失い、力尽きたのだ。
意気消沈してしまう、その気持ちはよく理解できる。
次の相手はヒメノ・ヒナ・ミモリ。弓職の少女と魔法職のPAC……そして、何をして来るか読めない女性。
これまでの試合から考えると、ヒメノの攻撃力の高さを活かした布陣となるのだろう。シルフィとベイルはそう考えていた。
「ルー、背中を預けるよ」
シルフィの言葉に、ルーは可愛らしい顔をキリッとさせて頷いた。
「お任せ下さい! 頑張ります!」
それでも可愛らしさが前に立つので、微笑ましくもある。
「ベイル、アタシ達の戦い方って奴を見せ付けてやろうじゃないか」
ここの所は、女性らしい振る舞いが多かった姉。そんな彼女が、【聖光の騎士団】加入前のざっくばらんな喋り方になった事にベイルは気付いた。
「解ってるよ、姉さん。俺達のやり方は……甘くない」
……
ステージの上で向かい合う、両チームのメンバー。その表情は真剣そのもので、これから始まる激闘に向けての緊張感を滲ませていた。
『それでは、次鋒戦のメンバーをご紹介致します。【聖光の騎士団】よりシルフィ選手、ベイル選手、ルー選手の三名です!』
その紹介を受け、観客席から上がる声は主に女性陣に向けられていた。
「姉御ーっ!! 舎弟にしてー!!」
「ルーちゃーん!! こっち見てくれー!!」
主に野郎共の、野太い声が多い。そんな歓声を耳にして、ベイルは哀愁を漂わせる。
――いや、良いけどね……別に良いけどさ……。
男女比を考えると、致し方ないのだが……解っていても、切ないものは切ないのだ。
『対する【七色の橋】からはヒメノ選手、ミモリ選手、PACのヒナ選手の登場です!』
アンナの紹介が途切れると、【聖光の騎士団】側に勝るとも劣らない歓声が沸き起こる。
「ミモリさーん、フレ登録してくれー!!」
「ヒメノちゃーん!! 俺だー!! 結婚してくれー!!」
「お前、それ忍者さんの前でも言えんの?」
「えっ、いや……それは……」
観客席を見て微笑む忍者から、観客Aは必死に目を逸らした。それなりに距離が離れているのだが、しっかり聞こえたらしい。忍者イヤーは地獄耳。
そんな野郎共の野太い声が沈静化すると、シルフィが一歩前に出る。
「さっきのを抜いたら、お久し振りだねヒメノさん」
「ご無沙汰しています、シルフィさん。それに、ベイルさんも。ルーさんは初めましてですね!」
ふわりと微笑みを浮かべながら一礼するヒメノに、シルフィは毒気が抜かれかける。庇護欲を掻き立てる美少女の姿は、姐御肌な彼女からしたら守ってやりたくなりそうだったのだ。
何とか理性を働かせ、シルフィは獰猛な笑みを浮かべる。
「アタシとしては、今回は燃えていてね……悪いけど、手加減抜きで行くよ?」
するとシルフィの言葉に、ベイルとルーが続く。
「君達の望み通り、全力を尽くす……文句は無いだろう?」
「私も、全力全開で戦いますから……!」
普段は物静かにシルフィの傍らに立つベイルや、仲間達から一歩引いた所で様子を窺うルー。そんな二人の今までに無い様子に、アーク達も仲間達の本気ぶりを感じた。
そんな三人に、【七色の橋】は不敵な笑みで返す。
「武士に二言は無いわ。まぁ、私は武士じゃないけれど……心意気的なやつとしてね」
「全力で競い合う……それは【七色の橋】全員の共通の想いです!」
「つまり望む所ですよー!」
PACのヒナまでもが、【聖光の騎士団】の挑発に返す。そんな相手チームの台詞に、シルフィは笑みを深めた。
『それでは、準備はよろしいでしょうか?』
舌戦が一段落したのならば、続くは武力による会話。アンナはそう判断し、両チームに伺いを立てる。
「あいよ!」
「はいっ!」
「いつでも良いです……」
「私もオッケーです」
「問題ありません」
「はいです!」
ほぼ同時に、全員が肯定の言葉を口にした。それらを受けたアンナは、頷いて片手を天に掲げる。
『それでは決勝戦・次鋒戦……試合、開始!!』
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まず、真っ先に動いたのはベイル。
「ほら、始めるよ」
彼が最初に行ったのは、薬品の入った瓶の投擲。それが地面に落ちて割れると、その箇所に毒々しい液体による水溜りが生まれた。
「さーて、行くかね……【ベルセルク】!!」
スキル発動宣言をすると同時に、シルフィの全身を赤黒いオーラが包む。
「さぁ、覚悟は良いかい!!」
威圧するような大声で、剣を振り被るシルフィ。彼女は毒々しい水溜りに足を止める事なく、ヒメノに向けて駆け出した。
弓職のヒメノは、接近戦には弱い。そう判断しての突撃。それに対する返答は、ヒメノ自身から。
「とっくに出来ています!!」
手にしたのは弓ではなく、腰に差した脇差。
「【蛇腹剣】!!」
刀身が分割され、鞭の様に変化した脇差≪大蛇丸≫。その間合いは、シルフィの剣より広い。
「【一閃】!!」
ヒメノの攻撃を、まともに受けてはならない。それはシルフィも理解している。手にした盾を使って、その攻撃を受け止め……貫通ダメージの多さに目を見開いた。
「い……ったいねぇ!!」
獰猛な視線でヒメノを睨むシルフィは、再び彼女に向けて接近していく。
「でやあぁっ!!」
シルフィの攻撃に対し、ヒメノは嫌な予感を感じた。慌ててその場を離れると、シルフィの攻撃が地面に叩き付けられ……その激しい激突音を聞いて、その一撃に相当な力が込められていたのを察した。
「【ベルセルク】……自己強化スキルですか?」
「気付いたかい、流石だねぇ」
その頭上に浮かぶデバフアイコンは、シルフィが毒状態に侵されている事を示していた。そしてもう一つ……デバフアイコンの隣に、彼女の纏うオーラの同じ色のアイコンが表示されている。
その状態表示……それは【狂戦士化】というものだ。
【狂戦士化】の状態になると、ダメージを受ける度にSTR・VIT・AGIが上がっていくというものである。ベイルの毒を受けたのは、わざと……という訳だ。
「しかしダメージを受け続けては、あっさり死んじまう。だから……ルー!!」
「はいっ!! 【メガヒール】!!」
ルーが詠唱を完成させた回復魔法で、シルフィのHPを回復する。危険域まで間も無く……といった二割程度から、一気に完全回復だ。
「ルー様々だよ……第一回イベントは俺一人で、姉さんのバフと回復をしてたんだからさ……さぁて、もっと増やそうかぁ」
更にベイルは、デバフアイテムを次々と投げる。ステージの上は、さながら毒の海で満たされようとしていた。
これはシルフィの強化のためもあるが、【七色の橋】の行動を制限する意味合いも込められている。既にヒメノ達は毒に囲まれて、シルフィの動きを回避するのが困難になりつつある。
しかしながら、デバフアイテムについては彼女だって負けてはいない。
「あら、毒だけなんてつまらないわ」
そんな事を口にしたのは、ミモリである。彼女の指には、二本の細長い瓶が挟み込まれている。
「こういうのは、どうっ!!」
そう叫びながら、ミモリは腕を振るう。その手から、瓶が放り投げられた。
ミモリの投げた瓶を見て、シルフィは横っ飛びの状態で回避する。今の彼女の素早さならば、その程度は造作も無い。
しかしながら、彼女が避けたのは一本のみ。その頭上に迫るもう一本の瓶に、シルフィは気付けていなかった。
「姉さん! 上!」
ベイルの警告も虚しく、シルフィの頭に瓶が命中して割れる。瓶の命中にダメージ判定は無いが、代わりにデバフの効果が彼女を襲う。
「ぐ……っ!? 麻痺、か!!」
麻痺効果を受けたシルフィが忌々しそうに身を捩ると、更にミモリが瓶を手にする。
「まだまだよー、これとそれとあれとこれはどうかしらっ!!」
ポポイのポーイッ!! といった雰囲気で、無造作に放り投げられるデバフアイテム入りの瓶。どことなくコミカルな様子なのだが、実際は相当にえげつない攻撃である。
シルフィに殺到するのは、延焼効果・凍結効果・裂傷効果・睡眠効果を及ぼすデバフアイテムの数々。最後の≪スリープポーション≫が入った瓶が命中し、シルフィがその動きを止めた。
「ヒメノちゃん、今よっ!! ヒナちゃん、デバフ解除っ!!」
「はいっ!! 【ゴッドブレス】!!」
それは、”God bless you”という言葉の略。効果は味方のデバフ効果を解除、または相手の強化を解除……そして、フィールド上のトラップ等を無効化する。MP消費量が多いものの、その効果は凄まじいものである。
「行きますっ!!」
ヒナの【ゴッドブレス】によって、シルフィまでの道が出来た。更に言うと彼女の【ベルセルク】も解除されており、ヒメノにとって千載一遇のチャンスである。
「させないっ!! 【ラピッドスロー】!!」
発動したのは【投擲の心得】で会得出来る、先鋒戦でセバスチャンも使用した武技だ。威力が下がる代わりに、投擲速度と飛距離が向上する。
ベイルが投げたのは黒い球体であり、導火線に火が点いている。爆弾だという事は、見た目にも解る。
ヒメノの進路上に投げられたそれが爆発すれば、彼女のAGIでは回避するのは困難を極める。
「ヒメノちゃん!」
「大丈夫ですっ!! 【縮地】!!」
イベントボス【白虎】か、その眷属であるイベントモンスターを討伐する事で手に入れられる瞬間移動の四神スキル。AGIの低いヒメノにとって、非常に重宝するスキルである。
爆弾がその威力を発揮する直前に、ヒメノは【縮地】によってシルフィの目前へと瞬間移動。爆発を背に≪大蛇丸≫を構える姿は、可憐な少女といったヒメノの印象を塗り替えるものだった。
「【一閃】!!」
振り下ろされた脇差≪大蛇丸≫の一撃が、シルフィに命中する。そのHPがグングンと減っていき、ゼロに到達した。
今回、ヒメノ・ヒナ・ミモリの三人を組ませた理由はこれだ。
動きを止めて【縮地】で接近すれば、ヒメノのSTR極振りという特徴を活かせる。ヒナの【癒やしの聖女】があれば、敵のバフやデバフ・トラップも怖くはない。
ヒメノは次にベイルを狙うべく、視線を倒れたシルフィから逸らす。相手は投擲を得意とするプレイヤーの為、反撃を喰らう可能性が高い。ならば、再度ミモリに動きを止めて貰おうと考えた。
「ミモリさん!」
「はいはーい、お姉さんに任せてー!」
デバフアイテムを手に、投擲準備をするミモリ。ヒメノが誰を狙うつもりかは、彼女の視線を追えば一目瞭然だ。
「そぉれっ!!」
ミモリが瓶を三つ纏めて投げると、ベイルはそれを見て口の端を吊り上げた。
「頼んだよ、ルーさん」
「お任せを!」
既に詠唱を進めていたルーが、杖を掲げて魔法を発動させる。
「【リヴァイブ】!!」
同時にベイルが一本の瓶を、自分の頭上に放り投げた。瓶の中身は、透き通った琥珀色の液体だ。
ルーの発動した魔法の光が、シルフィに降り注ぐ。すると彼女のHPが回復し、戦闘不能状態から復帰した。
次いでベイルに向けて飛んできたデバフアイテムが彼に命中し、頭上に凍結・麻痺・毒状態を示すアイコンが表示される。しかしその直後、彼が先程放り投げた瓶が落ちて来る。頭に当たって割れた瓶……その中の液体が、ベイルの状態異常を癒やす。
「えっ……!?」
既に二度目の【縮地】を発動したヒメノは、状態異常から解放されたベイルを目の当たりにして動揺する。
「戦いにテンプレは無いって事だね……【パワースロー】」
「【縮地】!!」
慌てたヒメノは、回避の為に【縮地】を発動。ミモリとヒナが居る地点まで、一瞬で撤退した。すると、先程までヒメノが居た場所で爆発が起こる。
「≪万能薬≫か……やられたわね……っ!!」
「でも、ベイルさんとルーさんを落とせば……っ!!」
ミモリとヒメノの台詞に、シルフィがニヤリと笑う。
「そう上手く行くかな? 【ベルセルク】!!」
再び狂戦士と化したシルフィが、剣を手に駆け出した。その速度は速く、ヒメノが【縮地】を発動しても一緒に転移して守れるのは一人だけである。
「【セイクリッドスフィア】!!」
ヒナが自分で判断して詠唱を始めていた防御魔法が、シルフィの剣を阻む。だがしかし、シルフィはそれも予測済みだった。
「さぁ、もう一度だ……!!」
今度は【七色の橋】の三人を纏めて状態異常にするべく、デバフアイテムを投げるベイル。そしてルーは、回復魔法でシルフィを癒やすべく詠唱を開始した。
「その前に、もう一度倒します……!!」
使用できる【縮地】は、あと一度きり。ヒメノは装備を弓に変え、更に≪桜吹雪≫を装備。【セイクリッドスフィア】が切れる直前に、武技を発動しようとする。
「おっと、その手には乗らないよ!!」
ヒメノの射撃と砲撃は直線的で、射線を切ってしまえば恐れるものではない。シルフィはデバフ状態によって向上したステータスを駆使し、ヒメノの狙いを付けにくくする。
「くっ……やるわね!! ヒメノちゃん、【セイクリッドスフィア】が保つ間に、ルーを!!」
「は、はいっ!!」
回復役のルーを倒せば、シルフィを倒せる。ミモリの判断に従い、ヒメノはルーに狙いを定めた。その瞬間、ルーの魔法は完成する。
「【メガヒール】!!」
これでシルフィのHPは、再び全快だ。
「【エイムショット】!!」
ヒメノの放った矢が飛び、ルーの腹に突き刺さる。
「く……っ!! 本当に、一撃で……!?」
自分のHPが一撃で消し飛ばされ、ルーは驚きの表情で倒れる。解ってはいたのだが、自分の身で体験すると驚愕してしまうのだった。
「そう来るよね……ほいっと」
武技を使わずに、ベイルが放り投げた瓶。それがルーの背中に当たり、そのHPを回復させた。
「はぁ……本当に、凄い力ですね……」
即座に復帰したルーが、ヒメノを見て引き攣った笑いを浮かべる。
「厄介な組み合わせ……これ、どうすれば良いのかしら?」
進退窮まる戦況に、ミモリは必死に打開策を模索する。しかしながら、その猶予はもう僅かだ。
「それなら、後衛の二人まとめて倒します……」
ヒメノは弓に矢をつがえ、更に砲塔をベイルとルーに向ける。
「【シューティングスター】!!」
矢と砲弾の斉射。【森羅万象】の三人を纏めて撃ち抜いた、矢の流星群。それが放たれ、ベイルとルーは勝利を確信した。
「さぁ、仕上げだ……【ソウルサクリファイス】!!」
「【ライフエンチャント】!!」
ベイルが発動したのは、【支援魔法の心得Lv10】で会得出来る【ソウルサクリファイス】。使用者の全HPとMPを消費して、対象のステータスを倍化させる魔法だ。
そしてルーが発動した魔法が、【回復魔法の心得Lv10】で会得出来る【ライフエンチャント】。自分のHPを全て、対象に譲渡する魔法である。
二人のHPは、ヒメノの【シューティングスター】が当たる前にゼロになった。彼女の一斉射撃が放たれるならば、こうすると最初から決めていたのだ。
ただでさえ【ベルセルク】で強化されたシルフィのステータスが、【ソウルサクリファイス】で二倍に……そしてそのHPも、【ライフエンチャント】で最大HPを越える数値となる。
これにはヒナの【セイクリッドスフィア】も耐え切れず、音を立てて割れてしまう。
「そんなっ……!!」
ミモリの悲鳴じみた叫びと同時、シルフィの剣がヒナを捉えた。その光景に、ヒメノが目を見開く。
「あ……っ!!」
「ごめんなさい……お姉ちゃん……」
そう言い残して、ヒナがうつ伏せに倒れ伏す。
「それなら……っ!!」
ミモリが腰のポーチから取り出した、≪ライフポーション≫の入った瓶を投げようとする。しかし残念ながら、今のシルフィの速さはその投擲速度を上回った。
「させないよっ!!」
胸元に突き刺さる、シルフィの剣。それを呆然と見つめるミモリの身体から、徐々に力が抜けていく。
「ミモリさん!!」
ヒメノの叫びに、ミモリは申し訳なさそうな表情で崩れ落ちた。
「トドメだっ!!」
一人残ったヒメノに迫るシルフィは、剣を振り上げる。ヒメノのAGIでは、それを避ける事は出来ない。
「【縮地】!!」
最後の【縮地】を発動させ、ヒメノはシルフィの攻撃を回避した。
「しゃらくさいっ!!」
そう叫びつつ、シルフィは視線をステージ上に巡らせる。脇差で来るか、それとも弓を構えているか。ヒメノの姿を探すシルフィだが、ステージ上には倒れたベイルとルー、そしてヒナとミモリの姿しか無い。
「何処へ……!!」
そう呟いた直後、シルフィの背筋に悪寒が走る。
「まさか……っ!!」
勘に従い、頭上を見上げるシルフィ。その予感は的中し、ヒメノが上空から自分に向けて刀の切っ先を向けているのが見えた。
「【炎蛇】!!」
迫り来る炎の蛇に、シルフィは噛み付かれてしまう。ヒメノのINTが然程高くない為、ダメージは無視出来る。
「【蛇口】!!」
しかしながら、ヒメノのユニークスキル【八岐大蛇】には相手を捕縛し引き寄せる力がある。身動きを封じたまま、ヒメノは自分の方へとシルフィを引き寄せた。
空中に引き寄せられていくシルフィを見て、ヒメノは脇差≪大蛇丸≫を構え直す。
「【一閃】!!」
渾身の力を込めて振るわれた、ヒメノの【一閃】。その一撃はクリティカルとなり、激しいライトエフェクトが発生した。シルフィのHPがみるみる内に減っていき、ルーの譲渡したHPをあっという間に失ってしまう。
そして……残り三割の所で、HPの減少が止まった。
「……!! もう一度……!!」
ヒメノがもう一度、シルフィを引き寄せようと≪大蛇丸≫を構える。しかし、それを許すシルフィではなかった。
「させないよっ!! 【シールドキャノン】!!」
ヒメノに向けて、勢い良く左手に装備した盾を投げ付けるシルフィ。ヒメノはその攻撃を、身を捩って躱そうとし……失敗してしまう。
左肩に当たった【シールドキャノン】により、ヒメノはステージ上空から弾き飛ばされ……そしてジン達が観戦する場所から、少し離れた地点へと落下した。
高度からの落下にも、ダメージが存在する。ヒメノのステータスではそれに耐え切る事は出来ず、そのHPが全て失われてしまった。
攻撃態勢のまま落下したシルフィも、また同様。しかし、ヒメノの方が先に戦闘不能になったのは一目瞭然だ。
立つ者の居ないステージ上にアンナが転移し、静かに片手を挙げる。それは、この試合に決着が付いた事を意味していた。
『【七色の橋】のヒメノ選手が先に戦闘不能となった為……次鋒戦の勝者は、【聖光の騎士団】チーム!!』
その宣言に、会場内に盛大な拍手と歓声が鳴り響く。
アンナの勝利宣言と共に、両チームのHPが1だけ回復。ミモリとヒナは、【聖光の騎士団】側に一礼すると慌ててヒメノに駆け寄った。
「ヒメノちゃん、大丈夫!?」
「お姉ちゃん、何処か痛い所は無いですか!?」
同時に、ジン達もヒメノの倒れている場所へと走っていた。無論、真っ先に辿り着いたのはジンである。全力疾走すれば、本当に一瞬なのだから当然か。
「ヒメ、お疲れ様……惜しかったね」
ジンに抱き起こされ、ヒメノは申し訳なさそうに笑う。
「ごめんなさい、負けちゃいました……」
そんなヒメノに、仲間達は励ましの声を掛ける。そんな中、一組のカップルがヒメノの正面に屈んでガッツポーズをしてみせた。
「大丈夫よ、ヒメちゃん……後の事は、私達に任せて!」
「そうッス! やられた分は、キッチリとやり返すッスよ!」
次回投稿予定日:2021/2/23
個人的には気に入っています、バーサーク姐さんシルフィ。
ヒメノを勝たせてあげたかったんですが、進行の都合で止むを得ず……。
さて、掲示板回の後は例のカップル出陣です。