表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第九章 第二回イベントに参加しました(後)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/599

09-15 決勝戦・先鋒戦

 向かい合う両ギルドのメンバー。レンとシオンは涼し気な顔をしているが、その内心では様々な感情が渦巻いていた。

 そんな主従と並ぶのは、人見知り鍛冶職人のカノンであった。いつにも増して口数の少ない彼女に対して、レンとシオンは気を配る。


「カノン様、緊張していらっしゃいますか?」

 シオンに声を掛けられて、カノンは肩を震わせた。

「は、はい……で、でも頑張ります……一緒に行くって、決めたから……」

 最後の一言に、彼女の想いの丈が込められていた。そしてそれは、彼女にしては随分と前向きな台詞だった。


 カノンがジンに向ける想いは、ジン以外は勘付いている。彼女がギルドに加入した切っ掛けを思えば、想像に難くないだろう。ただ、敢えて触れないだけだ。

 ジンとヒメノ、そしてカノンならば大丈夫。そう信じて、見守る……それが彼等の選択だった。


 対するは、【聖光の騎士団】の三人。アリステラとセバスチャンの、主従コンビ。それに加え、盾職のクルスである。

 先鋒戦に彼等が現れる事を、【七色の橋】は知っていた。先鋒戦だけではなく、この先の試合に誰が出て来るのか知っている。控え室で待機している間、ヒイロに送られてきたアークからのメッセージによって。


 アークはジンの秘密を聞き、ギルバートの暴言に対する謝罪の一環として出場メンバーを事前に明かしたのである。

 それに対する【七色の橋】の返答は、【聖光の騎士団】に倣った物だった。自分達もまた、出場メンバーをメール機能で送り返したのだ。


 そんなヒイロの行動にアークは驚いたが、先のジンの言葉でようやく全てを理解した。それは【七色の橋】からの、”ハンデは要らない、全力で戦おう”という言外のメッセージだった。


 先鋒戦に出場するメンバー編成は、一見すれば共に前衛職・魔法職・盾職というバランスの良い組み合わせ。

 とはいえカノンは、鍛冶生産が本業である。戦闘経験は、ろくに積んでいない。前衛として優秀なアリステラと比較すると、無視出来ない差がある。

 また、セバスチャンは支援魔法に長けた魔法職である。レンと比べると、攻撃系魔法の威力や手数は劣る。


『それでは決勝戦・先鋒戦を開始致します。まずは【聖光の騎士団・Ⅰ】チームよりアリステラ選手、セバスチャン選手、クルス選手!』

 アンナの紹介に、観客達から拍手と声援が巻き起こる。

 右にセバスチャン、左にクルスといった具合に、男性二人に挟まれる立ち位置のアリステラ。その光景は、彼女のお嬢様感が増している。いかにも執事といった風体のセバスチャンと、無駄口を叩かない寡黙な男であるクルスだから、より一層といった感じだ。


『対する【七色の橋】チームはレン選手、シオン選手、カノン選手の三人です!』

 続けて紹介された【七色の橋】のメンバー名、それを聞いた観客達がカノンに注目した。

「カノンって、あの眼鏡っ娘だよな?」

「あの娘も美人だなぁ」

「どこかで聞いた事のあるプレイヤーネームだけど……」

 取引掲示板で、今も装備を出品しているカノン。彼女の名前を目にした事があるプレイヤーは、決して少なくはない。


 注目されているこの状況に、カノンの弱気な面が顔を覗かせる。しかし、彼女は一人ではない。

「カノンさん、一緒に頑張りましょう」

「私がお守り致しますので、ご安心を」

 カノンを励ます様に、微笑み声を掛けるレンとシオン。その二人の心遣いに、カノンは表情を強張らせつつも前向きな言葉を口にした。

「が、頑張ります……よ?」


 そんなやり取りに、セバスチャンが苦笑する。

「おやおや……随分と緊張なさっておいでのご様子。そんな体たらくで、大丈夫ですかな。ここは決勝の舞台ですが?」

 セバスチャンのその言葉に、カノンの肩がビクッと反応する。気弱な彼女の事、些細な言葉でも傷付きやすいのだ。


 セバスチャンからのカノンへの言葉に対し、レンとシオンは不快感を覚える。そこでレンは、シオンに目配せをした。彼女の無言の指示に、シオンは頷いてみせる。


――セバスチャンをお願いします。

――かしこまりました、お嬢様。


 視線で語り合う主従は、メインターゲットを見定めた。期せずしてメイド(もどき)VS執事(もどき)の対決が実現する運びとなったのだ。


『それでは両チーム、準備は宜しいでしょうか?』

 アンナの最終確認に対し、先に返答したのは【聖光の騎士団】側だ。

「構いませんわ」

「いつでもどうぞ」

 アリステラとセバスチャンは声にして……クルスは頷きのみで、返事をする。

「こちらも問題ありません」

「は、はい……っ!!」

 黙って一礼するシオンに続き、レンは落ち着いた声で返答。カノンはいよいよ……と緊張感に支配されつつも、ハッキリと返事をする事に成功した。

 また、カノンは何故かシステム・ウィンドウを開いた。その理由は、彼女が自らの強みを発揮する為に必要だからなのだが……。


『それでは参ります。決勝戦・先鋒戦……試合開始!』


************************************************************


 試合開始宣言と同時、アリステラが走り出す。クルスはセバスチャンの前に立ち、盾を構えて【七色の橋】の出方を窺う。そんなクルスに守られるセバスチャンは、即座に詠唱を開始した。当然、【マルチタスク】を活用して二つの魔法詠唱を進めている。


――相手前衛は盾職と、戦槌を持った娘……AGIは後回しで良い。STRとVITを上げて、相手の先制攻撃を凌げば流れはこちらに傾くだろう。


 思考を巡らせて、行動方針を決定したセバスチャン。即座にアリステラに向けて、支援魔法を放つ。

「【ストレングスアップ】! 【バイタリティアップ】!」

 支援魔法を背に受けたアリステラの頭上に、バフのアイコンが浮かび上がる。更にセバスチャンは【マインドアップ】と、【アジリティアップ】の魔法詠唱を開始する。


 そんなセバスチャンに対し、シオンが大太刀を振るう。

「【鬼火おにび】」

 発動宣言をした事で、ユニークスキル【酒呑童子】の魔技が発動。大太刀≪鬼斬り≫の切っ先からバスケットボール程の大きさの火球が、セバスチャンに向けて放たれる。


 予測していなかった、シオンからの先制魔法攻撃。しかし、クルスは慌てずにそれに対応してみせる。

「【エレメンタルガード】!!」

 魔法耐性向上の武技を発動させ、クルスは【鬼火】を受け止める。その後ろで、セバスチャンが露骨にホッとした表情を浮かべていた。


 シオンの先制攻撃を確認したアリステラは、後方に控えるレンを狙って疾走する。攻撃役はカノンとレンであり、前衛が狙うのは後衛職という定石に従った判断だ。

 シオンはアリステラを遮る事なく、クルスとセバスチャンに向けて走る。更にはカノンも、そんなシオンに追従した。


――後衛職を放置!? 何かしらの裏がある……まさか!?


 そこでアリステラは、先の試合を思い出した。前衛が狙うのは、弓職や機弓職ならば矢の装填中。そして魔法職の場合は、詠唱中である。しかしレンは先程の試合で、無詠唱で魔法を発動してみせた。


「出し惜しみは無しです、存分に味わって下さい」

 案の定、そう告げるレンの手には三枚の符。無論、ユニークスキル【神獣・麒麟】によって生み出した符だ。更に、レンは切り札を早々に切る。

「【動くこと雷霆らいていの如く】」

 それは、最終武技発動のキーワード。準決勝でヒメノがそれを発動した時の様に、レンの身体を青く輝く眩い光が包む。その周囲を赤・青・白・黒の光沢を持った玉が、衛星の様に飛び回っている。


 呆気にとられる観客を余所に、レンは手にした三枚の符を頭上にばら撒く。それが目前に舞い落ちるタイミングにあわせて、レンが魔扇を構えた。

「はっ!!」

 魔扇に煽られた符が光を放ち、封じられた魔法が効力を発揮する。


 放たれたのは、地属性魔法【ロックピラー】。目前に生成された岩の柱に、アリステラは足を止めてしまう。そこへ襲い掛かる、【ロックジャベリン】と【ロックアロー】。

 元々の高いHPに加え、セバスチャンの支援魔法を受けたアリステラ。普通に考えれば、この攻撃でHPを削り切られるという事は無いと考えた。


――いえ、それは安直が過ぎますわ!!


 レンは高INTの持ち主であり、更には得体の知れないスキルを保有している。それを考慮すれば、回避が妥当。

「【クイックステップ】!!」

 レンの攻撃に対する回避行動……それに加えて、彼女はレンとの距離を詰める事を選択した。攻撃に傾倒気味ながら、AGIもそれなりに高いアリステラである。高スピードで迫れば、レンは対応出来ない……そう判断した。


 魔扇を振るった状態で立つレンを見据え、アリステラは手数で押し切る事を決めた。そんなアリステラを見据え、レンは両手の魔扇を閉じる。

「【クインタプルスラッシュ】!!」

 武技を発動するアリステラを見遣ると、レンは口の端を吊り上げた。くるりと身を翻して初撃を躱すと同時、その唇が紡いだ言葉……それは武器を発動する為の、宣言。


「【一閃】」


 折り畳まれた≪鳳雛扇≫から繰り出された、【刀剣の心得】の武技。その一撃がアリステラの右手首に命中し、ヒットストップによって彼女の武技を中断させる。

 彼女の主武装である魔扇は鉄扇で、折り畳んでいる時には≪杖≫としての機能を失う。代わりに閉じた鉄扇の骨に描かれた小刀の図柄が出来上がり、≪刀剣≫として属性が変化するのだ。


 普段は魔法職として戦うレンは、≪刀剣≫属性を得た魔扇と【武技 神獣・麒麟】によるステータス倍増を駆使して、アリステラの攻撃を迎撃してみせた。これにはアリステラも、そして【七色の橋】を除く会場中のプレイヤーが驚愕した。

「……っ!?」

 予想外の反撃を受けたアリステラは一瞬、思考停止してしまう。しかしすぐに気を取り直し、盾を構える。

 その判断は正解で、レンは右手の≪伏龍扇≫で追撃の【一閃】を繰り出していたのだ。それを盾で受け止めたアリステラは、レンの動きに意識を集中させる。


――動きが滑らかで、舞いの様だわ……魔法職にしては足捌きが上手いし、攻撃する時の狙いも良い。


 アリステラの感じた印象は的確で、その動きにはレンのプレイヤースキル……即ち現実で身に着けた技能が発揮されていた。

 彼女は正真正銘のお嬢様であり、習い事を日々こなしている身だ。その中には例えば日本舞踊だったり、護身術だったりと多岐に渡る。

 それらの経験を駆使して、レンは前衛魔法職という稀有なプレイングを披露していた。


……


 一方、セバスチャンとクルスに向かって接近したシオンとカノン。シオンはクルスに向けて大太刀を振り上げ、防御態勢を取らせる。しかしながら、これはフェイク。振り上げて天を衝く様に構えられた大太刀≪鬼斬り≫……その用途は、物理攻撃だけではない。

「【鬼雷おにいかづち】」

 大太刀の切っ先から天に向けて迸った雷撃が、クルスを越えてその背後のセバスチャンに向かい降り掛かる。

「ぬぁっ!?」

 頭上からの攻撃に対応し切れず、セバスチャンは【鬼雷】をまともに喰らってしまう。更には運の悪い事に、確率で発生する麻痺状態に陥った。


「おのれ……【シールド……」

 シオンに向けて【シールドバッシュ】を放ち、その体勢を崩す。そう考えたクルスだが、彼は失念していた。彼女の背後に控える、眼鏡を掛けた女性の存在を。

「【クラッシュインパクト】!!」

 両手に握り締めた戦槌を、勢い良く振るったカノン。本来ならば、カノンとクルスの距離では当たるはずのない攻撃だ。


 カノンが戦槌を投げる……という、暴挙に出なければの話だが。


「何だとっ!?」

 勢い良く迫る、大きな戦槌。それは視覚的恐怖を覚えさせ、クルスの動きを鈍らせた。

 クルスが盾を構えている状態であった事が幸いし、その攻撃は直撃せずに済む。しかし盾の耐久と、余剰ダメージは無視出来ないものだ。


「では、カノン様」

「はい……な、何とか、やってみます……!」

 そう言いながら、カノンはシステム・ウィンドウを操作。装備する武器の項目をタップし、新しい戦槌を取り出して手に取った。

「……な、何だと!?」

 戦槌を投げるという荒業、しかも替えの戦槌を用意しておくという展開。これにはクルスも驚愕の表情を浮かべてしまう。


 クルスの相手をカノンに、アリステラの相手をレンに托したシオン。彼女はセバスチャンを前に、大太刀を構える。

「……思いもよらぬとは、この事ですな。しかしながら、あまり良い戦法とは思えません。彼女が投げている武器を製作したプレイヤー……もしくはNPCでしょうか? あの姿を見たら、悲しむでしょうな」

 ペラペラと喋るセバスチャンに、シオンは無言を貫く。表情を変えず、彼の一挙一投足に注意を払っていた。


――やり辛いな、この女……こちらの会話に応じる気が無いらしい。俺を警戒しての事だろうが……流石は()最前線のプレイヤーだ。


 セバスチャンの予想は間違いでは無いのだが、正解でもない。

「シオンさん、今は自由に振る舞って良いですよ」

 そんな声が、シオンの背中に掛けられた。当然、レンからの呼び掛けである。


 主の言葉を受けたシオンは、一つ頷くと口を開いた。

「では、失礼して……カノン様の武器は、全てご本人が製作した物です。それをどう扱うか等、彼女の自由でしょう」

 その言葉に、セバスチャンはムッと表情を顰めた。しかし、自分で作った物をどう扱おうと自由……そう言われると、中々パンチの効いた返しが思い浮かばない。


 セバスチャンは、反論を探して黙り込む。とはいえ、シオンがそれに付き合う必要など全く無い。彼が口篭っている内に、シオンの瑞々しい唇から放たれたのは……彼にとっては予想外の、辛辣な言葉であった。

「それよりもセバスチャン選手、主の許しもなく好き勝手に振る舞うのは、執事失格では御座いませんか?」


 つまりは、そういう事。シオンはメイドとして、主であるレンの傍らに控える事が多い。主を差し置いてでしゃばる事はしないし、主の許しなく勝手に口を開くという事は無い。

 無論、【七色の橋】のメンバー相手ならば例外だ。仲間内の会話は、コミュニケーションを円滑に進める為にレンから推奨されていた。


「……なっ!?」

 反論しようと口を開きかけるセバスチャンだが、シオンは更に言葉を続ける。

「貴方の振る舞いは、主であるアリステラ選手の品格を落とす事に繋がります」

 執事やメイド……使用人とは、主を立てて支える存在。主よりも自己主張する使用人など、本来あってはならないのだ。

 容赦の無い口撃に、セバスチャンは口をパクパクとさせる……金魚の様に。


――まぁ、この人は執事でも何でも無いのでしょうけれど。


 彼女がそう考えたのには、理由がある。開幕前のセバスチャンの立ち振る舞いは、明らかに使用人……仕える側のものではない。逆に、仕えられる側のそれに思えたのだ。

 相手の痛い所を突いて平常心を揺らがせ、マウントを取る……社交界では往々にして駆使される、常套手段。彼の口振りから、そういったいやらしさが透けて見えたのである。


 シオンの予想は正解で、セバスチャン……本名【宇治うじ 室千雅むろちか】はアリステラの五つ年上の兄であり、執事やメイドを雇う側の人間である。

 そんな彼が執事ロールプレイに走ったのは、単に面白そうだからという理由からだ。


 実兄が執事として自分にかしずくという、珍妙な行動を取っているのである。アリステラこと【宇治うじ 万咲代まさよ】が、彼に対して冷たく接するのも無理は無いだろう。

 とはいえ、それでも一緒にVRMMOをプレイしている所から考えると、兄妹仲は悪くはないのだろうが。


 シオンはそこまで判断していながら、あえてセバスチャンの不備を指摘してみせた。理由は簡単、不愉快だったからである。完成度の低い執事ムーブについてでは……多少は、それはあるのだが。


 シオンにとって不愉快だったのは、今回のジンの件と前回のヒメノの件。ただでさえ苛立っているところに、加えて試合前のカノンへの発言である。

 シオンは保護者兼監督者としての立ち位置だが、【七色の橋】に対する想いは少年少女達と変わらない。

 だから、シオンがセバスチャンの相手を買って出た。ちなみにこれはレンの意向でもあり、彼女もセバスチャンが似非執事だと見抜いていた。


「では続けましょう。【七色の橋】サブマスター、レンお嬢様にお仕えする使用人のシオン……私がお相手致します」

 盾と大太刀を構えたシオンは、セバスチャンの反論など聞く気も無い。その為、無理やり話を終わらせた。


「……チッ!!」

 盛大に舌打ちをして、セバスチャンは短剣を抜く。彼が持つ自衛用のそれには、毒が仕込まれている。そして逆の手で、シオンに見えない様に麻痺毒を塗った投げナイフを取り出した。更に彼の靴には、【桃園の誓い】戦でも見せた麻痺毒を塗った針が仕込まれている。


――こいつは盾職、先程の接近も大した速さじゃなかった……AGIは俺が上、そして麻痺と毒状態にすれば倒すのは楽。


 これまでの戦いで見せたシオンの攻撃は、大太刀による大振りな攻撃。魔技を保有してはいるものの、この距離では自分自身にまでダメージが及ぶはず。

 セバスチャンはそう判断し、シオンに向けて駆け出した。

 そして彼もレン同様に、護身術を学んでいる。身のこなしは自分の方が上……と考えても、仕方の無い事だ。


 最も、シオンには切り札がある。レン……そしてヒメノと同様に、ステータスを倍加させる切り札が。

「【動かざること山の如く】」

 ユニークスキル【酒呑童子】の最後の武技……その名称も【武技 酒呑童子】。オーラを纏ったシオンのステータスは、全て二倍に引き上げられた。


 その身体を覆う緑色のオーラを見た観客達は、レンやヒメノの能力と同種のものだとすぐに察した。特に印象的なのは、彼女の額あたりから伸びる二本の角の様なオーラ。

 それを目の当たりにしたプレイヤーの一人が、呆然としながら呟く。

「……まるで、鬼の角だ……」


 全ステータスが倍になったシオンは、セバスチャンが放った投げナイフを難なく避ける。更には大太刀を片手で振るい、セバスチャンを斬り付ける。

「ぬぅ……っ!?」

 HPの減りを見て、セバスチャンは戦慄を覚える。ただの一撃で、HPが半分程も削られたのである。


 その時、大きな破壊音がステージ上に響き渡った。カノンが投げた十八本目の戦槌が、クルスの盾を破壊したのだ。

「……くっ、盾が……!!」

 盾無しでカノンの戦槌を喰らえば、VITに特化した盾職と言えど耐える事は出来ない。クルスはハンドアックスを構え、カノンの出方を伺う。


 そんなカノンVSクルスの様子を、横目で窺っていたレンが微かに笑う。右手の≪伏龍扇≫を広げ、アリステラに向けてみせた。御札を持っていない、更に詠唱もしていない。魔法攻撃ではないと、アリステラは高を括る……その瞬間。


「【青の咆哮】!」

 ここでレンは秘匿し続けた、武装スキルを発動した。

 それは第一回イベントの限定モンスターからドロップした、≪青龍の宝玉≫で手に入れられる四神スキル。青龍の放ったドラゴンブレスにそっくりな、魔法攻撃だった。


 レンの放った【青の咆哮】により、アリステラのHPが一気に削られる。

「くぅ……っ!?」

 更にレンは、アリステラの後方でカノンと対峙していたクルスにも狙いを定めていた。【青の咆哮】がクルスにも襲い掛かるが、彼はカノンによって盾を破壊されている。先程の様に、【エレメンタルガード】で凌ぐ事は出来ない。

「ぬおぉぉ……っ!!」

 二人のHPが減少していき、そして枯渇する。HPを全て失ったアリステラとクルスは、同時に膝から倒れ伏した。


 カノンはその光景に、勝利を確信した。残るは支援魔法職のセバスチャンのみであり、三対一では勝ち目はあるまい。

 それは彼女が、これまで鍛冶一筋のVRライフを送ってきたが故の油断だった。


「ふんっ!!」

 セバスチャンはレンの攻撃が終わるタイミングを見計らい、山なりに≪ライフポーション≫を放り投げた。宙を舞う≪ライフポーション≫の瓶はアリステラの背中に命中し、割れた瓶からHPを回復させる薬品が飛び散った。

 逆再生の様に回復する、アリステラのHP。三割程度のHP回復だったが、体勢を立て直すには十分な量。


「……全く、流石ですわね!!」

 回復される事を予測していたのか、アリステラは即座に行動を開始する。両手足を駆使して飛び起き、その勢いのままに走り出したのだ。

 その視線の先に居るのは、カノンだった。


「ごめんあそばせ……【ソニックスラッシュ】!!」

 攻撃時、短時間ながらAGIを強化する武技【ソニックスラッシュ】。そのスピードに対抗する実力を、カノンは持ち合わせていなかった。

「うぅっ!!」

 カノンは鍛冶の為にSTRとDEXにステータスを振り分けており、VITやAGIは装備頼り。故に、アリステラの奇襲をまともに喰らい、そのHPを削られてしまう。


「カノン様……!!」

「させるか! 【ラピッドスロー】!!」

 取り出した投げナイフを、まとめて四本投げ付けるセバスチャン。そのナイフの軌道は絶妙で、シオンの進路を的確に妨害する位置。

 ナイフが当たれば、塗りたくられた麻痺毒によってシオンの動きが止まる。盾で受ければ、カノンへの援護が間に合わない。向上したAGIを駆使しても、ナイフを避け切る事は出来ない。


 決断を迫られるシオンだったが、彼女にはもう一つ選択肢があった。問題は、仕える主がどう出るか……そこで、レンの声が響く。

「シオンさん!」

 視線を交わすこともなく、明確な指示も無い。それでも尚、レンの一言はシオンは迷いを振り払った。


 シオンは盾を構えて迫るナイフを防ぐと、セバスチャンに向けて駆け出す。

「な……っ!?」

「【バーサーク】!」

 武技【酒呑童子】に加え、更に【バーサーク】を発動するシオン。彼女のVIT値がゼロになる代償として、その数値がSTRに上乗せされる。


 更に、シオンは【酒呑童子】のスキルを発動させる。

「【展鬼てんき】!」

 既にゼロになったVITが半減しようが、ゼロはゼロ。シオンは大盾≪鬼殺し≫を分割展開させて、両手で大太刀≪鬼斬り≫を握り締めた。

 分割された大盾≪鬼殺し≫は、シオンを中心に広がる。それも、セバスチャンに向けて飛ぶように。


 分割された≪鬼殺し≫に攻撃判定は無いが、視覚効果は抜群である。なにせ鋼鉄の板が、自分を目掛けて飛んで来るのだ。

 イメージとしては、赤いカブトムシのバイク乗り。パッと見た感じでは、キャストをオフした様に見えるのである。

 セバスチャンやアリステラが、その光景に身構えて姿勢を低くしたのも無理はないだろう。ちなみに余談だがアリステラお嬢様は、カリスマガードっぽく見える体勢である。


 そんな隙を晒せば、あとは簡単。

「【一閃】!!」

 シオンが両手で振るう≪鬼斬り≫が、セバスチャンを捉えた。

「うおぉぉ……っ!?」

 絶大な威力が籠められた【一閃】は、その名通りの性能を発揮。セバスチャンの両腕と胴体に、赤いダメージ痕が刻まれた。部位欠損が存在するゲームであれば、上と下が泣き別れしていただろう。


 セバスチャンの断末魔を思わせる叫びに顔を上げ、その末路を目の当たりにしたアリステラ。予想を遥かに上回る光景に、目を丸くしてしまう。

「あちらは終わった様ね、アリステラさん?」

 そんな彼女に掛けられた声は、青銀色の髪を揺らす少女のものだ。

 メイドと執事の対決が終わった。ならば、次はお嬢様とお嬢様の再対決。


 レンの武技【神獣・麒麟】は彼女が魔法攻撃を失敗するか、ダメージを受けるまで途切れない。ちなみに【術式・符】の魔法は、その括りに入らない。

 故にそのステータスは、相変わらず二倍のままである。

「……私は、最後まで諦めませんわ。【聖光の騎士団】に……アーク様に、勝利を!!」

 ショートソードを構え、レンに向かって駆け出すアリステラ。


 そんな彼女に対し、レンはフッと笑みを浮かべる。

「その情熱、嫌いでは無いのですけどね」

 そう口にして、レンはクルリと一回転する。両手には、開いた魔扇。

「【炎陣】、【雷陣】」

 左手の≪鳳雛扇≫で【炎陣】を発動し、右手の≪伏龍扇≫で【雷陣】を発動するレン。彼女を中心に真紅と紫電の陣が描かれた。


 同時にレンは魔法詠唱を開始しており、赤と紫が入り乱れた魔法陣が描かれていく。その描かれていく速度……即ち詠唱速度は速い。

 それを阻止すべく、駆け出したアリステラ……しかし、焦り故か彼女は致命的なミスをした。彼女は、レンの陣に踏み込んでしまったのである。それを踏んだ瞬間、アリステラの身体は延焼と麻痺の状態異常に陥った。


「……なっ!?」

 属性魔法攻撃の威力を強化する【術式・陣】。それには、この様な効果もあったのである。それは魔法詠唱をする術者を守護する為のものであり、魔法職にとっては非常に重宝する効果だ。


 そして本来の用途、主な効果。【七色の橋】の魔法職、レンの本領。

「私達が勝たせて貰います……【ボルティック・イラプション】!!」

 アリステラの足元から、炎と雷が天に向けて吹き上がる。これは【バーニングピラー】と【ライトニングピラー】を、【魔法合成】で生み出した魔法だ。

 レンの、現状では最大強化を施した状態で放たれた合成魔法。その威力はアリステラのHPを全て消し飛ばしてみせた。


 三人全員が戦闘不能となった今、勝敗は決した。ステージの上に転移したアンナが、マイク片手に高らかに宣言する。

『クルス選手、セバスチャン選手、アリステラ選手の戦闘不能を確認! 決勝戦・先鋒戦、勝者【七色の橋】チーム!!』

 勝利宣言が会場内に響き渡った次の瞬間、巻き起こる拍手と歓声。盛大な声援に包まれながら、レンとシオン……そしてカノンは、顔を見合わせて笑みを溢してみせた。


************************************************************


「流石ね、レンちゃんとシオンさん。それにカノンも頑張ったわねー!」

「はい、あのハンマー投擲は流石に予想外だったみたいです。皆、面食らっていました」

「次は私達の番ですね、お姉ちゃん!」

次回投稿予定日:2021/2/18


決勝戦・先鋒戦は、題して【快進撃! 七色の橋!】って所でしょうか。

レンの魔扇による近接戦、シオンVSセバス、カノンさんのハンマーアタック。

作者の書きたい部分、大放出でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シオンに似非執事と断言されたセバスチャン…(笑) 使用人としてのシオンのプライドは、中途半端なロールプレイ似非執事を、許せ無かったみたいですね。(* ̄∇ ̄*) [一言] カノンの次々と戦槌…
[良い点] レン様の接近戦そして炎陣、雷陣からの魔法格好いいですね。シオンさんのセバスチャンとの舌戦もシオンさんの本領発揮でした。あとはカノンさんのハンマー投げw [一言] セバスチャンの中の人は仕え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ