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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第九章 第二回イベントに参加しました(後)

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09-06 準決勝第二試合・中堅戦

 波乱の先鋒戦が終わり、観客達は困惑しつつ中堅戦の開始を待つ。その間、口々に先の試合について話をするのだが……その話題は当然、勝負を決めたヒメノのアレになる。


「最後の……あの、アレ? 何だったんだろうな……」

「赤いオーラだろ? あの形って……アレだよな」

「ヤマタノオロチ……しかないよな?」

 やはりその八つ首のオーラから連想されるのは、日本古来から伝わる有名な妖怪・八岐大蛇ヤマタノオロチ。そして、それは正解だ。しかしそれが解ったとしても何が起きたかまでは、理解し切る事は難しい。


 そんな中、試合を観戦していたアレクは必死に考えを巡らせていた。今の試合は、色々とレアアイテムやレアスキルが多かった。情報収集に専念している彼からしたら、見過ごせない展開ばかりだったのだ。


――【森羅万象】は良い……報告通りの内容だった。問題は【七色の橋】だ……何だありゃあ!


 ハルとアイテル、シア……【森羅万象】側のスキルや装備については、潜入させた仲間の報告通りだった。

 ハルの≪反逆者の大盾≫や、アイテルの【ホーミング】。そしてシアの【癒やしの聖女】は、予め想定していた通りの性能。厄介な相手ではあるが、対策を立てる分には問題無いだろう。


 しかしながら、【七色の橋】の見せた力は脅威というしか無い。

 シオンの広範囲防御は、まだマシな方だ。【森羅万象】の猛攻によって、打ち破る事は可能だと証明された。

 無論、彼女の防御力は恐るべき硬さだ。しかし高レベルのアタッカーを多数揃えれば、押し切る事が出来るはずだ。


 驚異的なのは、まずレンの使った魔法攻撃。詠唱を不要とする高速発動など、チートを疑っても仕方が無い。なにせ魔法職は、技後硬直が無い代わりに詠唱時間が設定されているのだから。

 彼女の使用していた、御札に秘密がある……という事までは予想出来る。しかし入手法は? 製作に必要な素材は? それは何一つ解っていない。


――レアな素材で作れる消費アイテム……? それとも、特殊エクストラクエストの戦利品か? クソッ、判断材料が足りねぇ!!


 レンの【術式・符】の正体に辿り着く為には、ユニークスキル【神獣・麒麟】の情報が必須となる。現時点で、アレクを始めとする一般的なプレイヤーでは正答を見つけ出すのは困難を極める。


 そしてもう一人……驚異的な破壊力を持つ、ヒメノだ。彼女の破壊力は常軌を逸していた。

 後になって思えば、二門大砲≪桜吹雪≫の攻撃はまだ可愛いものだった。ノックバックは厄介だが、銃系統の武器同様に盾で受ければダメージは回避可能だ。


 一つ目の問題は、炎の蛇と風の蛇。弓矢ではなく脇差を使用して放つ事が可能な、魔法攻撃……そこまでは見ただけでも解る。しかしながらこちらも、レンの御札同様に詠唱無しで発動していた。


――【桃園】のケインも、似たような技を使っていたな。やはり、ユニークスキル……か?


 そこまでは予想が出来るが、最大の問題は最後の攻撃。VIT極振りのハルですら耐え切れなかった、ヒメノの武技【八岐大蛇】と【シューティングスター】だ。

 弓矢の武技【シューティングスター】自体は、珍しくも何とも無い。しかしヒメノが身に纏った赤黒いオーラは、情報の断片すら無い。


――八つ首の大蛇となれば、八岐大蛇だ。それに由来するスキルか? 発動の時に”侵掠すること火の如く”って言っていた……風林火山に由来するスキルか?


 徐々に、正解へと近付きつつあるアレク。だが残念な事に、それを裏付けるだけの材料がまだ足りない。


――やはり、目と耳が必要か……しかしまぁ、今は良い。


 判断材料が足りていない、それは自分でも解っている。思考の堂々巡りを切り上げ、彼は【森羅万象】が一つルール違反をしている事についてほくそ笑む。


――それにしても……運営に事前申告しないのを良い事に、直前でメンバーを変えるとはね。そうやってこす狡い手を使うから、いつまで経ってもトップに立てないんだよ……。


 運営さえ把握していない、【森羅万象】のメンバー編成……彼が、どうやってそれを知ったのか。

 アレクの思惑はさて置き、ステージ上では中堅戦が始まろうとしていた。


************************************************************


 ステージ上で向かい合うのは、男子二人組と女子二人組。【七色の橋】はヒイロとハヤテ、【森羅万象】はクロードとナイル。ヒイロの装備は、デフォルト装備にしている打刀と和風盾。ハヤテはFAL型≪アサルトライフル≫と、Five-seveN型≪オートマチックピストル≫を装備している。


 そんな二人の装備を見て、クロードが笑う。

「意外に和服と銃は調和するものだな……意匠の妙か」

 そう言ったクロードは、両刃の剣を既に抜いている。その剣は柄も刃も、全てが漆黒。呪われた剣と言われても、信じられそうな外観だ。


「そちらは……一流冒険者ギルド、って感じですね?」

 柔らかく微笑みながら、ヒイロがそう返す。

 彼の言葉通り、【森羅万象】は冒険者風の装いを好む者達が集まっていた。

 というのも、設立メンバーであるクロード達がそういった装備を好んでいたのだ。そんな彼女達に憧れて加入したメンバー達も、同じ様な装備を集め出した。結果、冒険者風のプレイヤーが多く集まるギルドとなったのだ。


 すると、クロードは優し気な笑みを浮かべてみせた。

「そうかい? そう言ってくれるのは嬉しいね。君達の装備も、実に素晴らしいと思うよ。なぁ、ナイル?」

「うん……浴衣とかあったら、欲しいかも……」

 クロードの隣で、そんなマイペースな感想を口にするナイル。彼女は白い魔法職の服装に見合った、白銀の杖を携えている。腰からは太いチェーンを下げているのが、ミスマッチなのが気になる点か。


「浴衣か……確かにそういうのもアリかも。シオンさんなら、作れるかな?」

「出来るかもしれないッスね。縫製レベル、結構上がってると思うッスよ」

 シオンは現在、【縫製の心得】のレベル上げついでにアレンジにも手を出している。目指せユージン、らしい。先は長いだろうが、シオンはそれでも諦める事はないだろう。


 そんな【七色の橋】の二人の言葉に、ナイルの目がキラリと輝く。

「あの……売りに、出したりは……」

 期待に満ちた表情と声色に、ヒイロが苦笑する。

「ギルド内でも、それについて話していて……和装も需要がありそうなら、取引掲示板で売買を考えています」

 その言葉に、ナイルは頷いた。表情の変化は乏しいが、喜んでいるらしい。


――お兄ちゃんや皆と、浴衣でお散歩……イイかも……。


「ふむ……もし良かったら、後々その辺りの詳しい話が聞けたら有り難いな。ナイルも興味津々みたいだ」

 会話に参加するクロードに、ヒイロは笑顔で頷いた。

「えぇ、構いませんよ」

 ヒイロの返答に満足そうに頷くと、クロードは黒剣を掲げる。

「うむ、感謝するよ。では、雑談はここらで切り上げて……今度はこちらで語り合おうか?」

 剣と剣、技と技での対話。彼女はそちらの方が、得意らしい。


「そうですね、それじゃあ……」

「運営のお姉さん、お願いしても良いッスか?」

 ヒイロとハヤテも、得物を構えて臨戦態勢。ナイルも杖を両手で握り締めて、準備万端である。

 アンナは両者の様子に頷き、試合開始の宣言をする。

『それでは準決勝第二試合・中堅戦……試合、開始!!』


……


 試合開始と同時、ヒイロとクロードが駆け出した。

「はっ!!」

 クロードはヒイロに向けて黒剣を振り下ろすが、ヒイロは左手に持つ盾でその剣を受け止める。

ッ!!」

 お返しとばかりに右手の打刀を振るい、クロードへ反撃。


 それをクロードは仰け反って躱してみせると、その勢いのままに脚を振り上げる。

「【サマーソルト】ッ!!」

 それは【体術の心得】の武技であり、有名な某格闘ゲームのあの技にそっくりであった。ヒイロはその蹴撃をモロに喰らい、蹈鞴を踏む。


「【アサルトバレット】」

 戦闘開始と同時に距離を取ったハヤテが、武技を発動し終えて着地体勢を取ったクロードを狙い撃つ。

「むっ!!」

 クロードはそれを避けようとするも、肩に弾が命中する。固定ダメージにより、そのHPが減少してしまった。

 心得系のスキルにおいて威力が低めな【体術の心得】だが、その代わりに技後硬直が非常に短いという特徴がある。それでも被弾してしまったのは、ハヤテのエイミング技術とタイミングを測る能力が高かったからだ。


「それ以上は……だめ」

 ハヤテの攻撃を警戒してか、魔法詠唱を始めていなかったナイル。しかしクロードが被弾した為か、杖を掲げてみせた。

 それを確認したハヤテは、銃口をナイルに向ける。照準を合わせるのも、FPSゲームで鍛えて来たお陰でほんの一瞬。流れる様な動きで射撃体勢に入り、引き金を引いた。


――よし、当たる!!


 自分でも、想像以上の動きが出来た。そう思ったハヤテだが、彼の銃撃は予想外の方法で防がれる。

 ハヤテの銃弾を遮ったのは、ナイルが装備しているチェーン。チェーンその物が、意志を持ったかの様に動いてみせたのだ。

「ありがと……チェーンさん」

 チェーンは、ナイルの意志で動いたのではない。それ故にナイルは、攻撃を防いでくれたチェーンに対して感謝の言葉を口にする。


――チェーンで防御!? ってか、勝手に動くの!?


 ハヤテは心の中で不自然な点にツッコミを入れるのだが、それを言い出したらキリがない。ゲーム内のアイテムなど、不自然のオンパレードなのだから。

 ともあれ、チェーンによる防御でナイルへのダメージは無い。ヒットストップによる魔法詠唱の妨害に失敗し、ナイルの魔法は成立した。


「【ダイダルウェーブ】」

 それは水属性魔法における、最強の魔法。ナイルの足下に展開された魔法陣から大量の水が噴き出し、津波のごとくヒイロとハヤテ……そしてクロードに迫る。

「よし……【超加速】!!」

 ナイルの魔法が発動した事を確認したクロードは、【超加速】を使用して駆け出す。相対していたヒイロから離れ、【ダイダルウェーブ】の攻撃範囲外へと避難する。


 クロードが【超加速】を使用するのを確認したヒイロは、彼女を逃がすまいと足に力を込める。また、ハヤテも同じく回避するべく、ヒイロ同様に武技を発動させた。

「「【クイックステップ】!!」」

 【超加速】には及ばないながらも、AGIを上げる使い勝手の良い武技。ヒイロはクロードに向かって駆け抜け、ハヤテは【ダイダルウェーブ】の攻撃範囲から逃れるべく猛ダッシュした。


「む、追ってきたか」

 自分に迫るヒイロを見て、クロードは口の端を吊り上げる。その表情が雄弁に彼女の内心を物語っていた……計画通り、と。

「【一閃】!!」

 右手の打刀で放つ、刀専用の剣技。ヒイロの放つそれを見ながら、クロードは黒剣を握る手に力を込める。


「む……っ!! これは、中々……!!」

 黒剣で【一閃】を受け止めたクロードの表情は、少々苦し気だ。ヒイロの総合ステータスは、当然ながらそれなりに高い数値。彼の持つ装備やスキルは、クロードとのレベル差を埋められるだけの性能は備えている。


――この人がハヤテに接近したら、押し切られる……!! 俺が阻止しないと!!


 遠距離からの狙撃を主とするハヤテは、近接戦闘には長けていない。故に、ヒイロはクロードの足止めを優先した。


 しかし、ヒイロは気付いていない。クロードの本当の狙い……それはハヤテではなく、ヒイロこそが自分の狙う相手。そしてナイルが相手をしたいのは、ハヤテの方だという事だ。


……


「……行くね」

 ハヤテを見据えたナイルは、そう言うと杖を前に突き出す。それと同時に、彼女が装備したチェーンが意志を持ったかの様に動き出した。

「不思議な装備ッスね……っと!!」

 ハヤテはチェーンの攻撃を避けると、動きを止めた一瞬を狙って引き金を引いた。乾いた発砲音の直後、甲高い金属音が鳴り響く。


「……無駄だよ?」

 ナイルの言葉通り、彼女のチェーンは傷一つ付いていない。

「思いの外、硬いみたいッスね」

 そんなハヤテに、チェーンが再び襲い掛かる。


――この分だと、攻撃力もそれなりにある……か? 当たったら、大ダメージだろうなぁ……!!


 幸い、チェーンはそこまで複雑な動きはしていない。VRに慣れているハヤテとしては、動きを読みやすい方だった。

 そして攻撃動作の後、チェーンは一瞬動きを止める。チェーンを破壊できないなら、やる事は一つだ。


「ここっ!!」

 チェーンを回避すると同時に射撃体勢を整え、経験と勘に従って引き金を引く。当然、狙いは本体ナイルだ。チェーンが壊せないなら、術者を狙えば良い。

「……びっくりした」

「えぇぇ……そりゃあ無いッスよ……」

 ハヤテの撃ち出した銃弾は、ナイルを捉えただろう。

「良かった……もう一本あって……」

 もしもチェーンが、もう一本無かったならば。


「流石、≪メデリオルスの鎖≫……これなら、負けない……」

 ナイルの口にしたのは、装備の名前。その情報を頭のメモ帳にしっかり書き込みつつ、ハヤテは警戒を緩めない。か弱そうな少女という出で立ちだが、彼女の攻めは攻撃的でありしたたかだ。

 何より、彼女の瞳には強い意志を感じさせる。それは、負けたくない……自分達が勝つ、という意思だろう。


「【サンダージャベリン】」

 放たれる雷槍がハヤテに迫ると同時、彼の背後からチェーンが襲い掛かる。

「えげつない攻めッスね!! 【クイックステップ】!!」

 ハヤテは高威力と思われるチェーンは避け、【サンダージャベリン】の方へと踏み込む。更に身体を捩りながら、強く地面を蹴って飛び上がる。それはまるで、走り高跳びの選手がバーを飛び越えるかの様に。

「……おー」

 着地には失敗したし、【サンダージャベリン】は掠ってダメージを受けた。しかしハヤテは見事、直撃を避けてみせた。その光景に、ナイルは思わず感嘆の声を漏らす。


「……解っていたけど、手強い……」

「お互い様ッス……強いッスね、そっちも」

 次の手を模索しつつ、睨み合う両者。互いの強さを認めつつも、負けてなるものかと頭をフル回転させた。


************************************************************


 一方、ヒイロとクロードの戦いも激しさを増していく。黒い剣を振るうクロードに対し、ヒイロは打刀と盾で応戦していく。

 しかしながら、技量はクロードの方が上。ヒイロは徐々に押されていき、戦況はクロードに傾きつつあった。


 クロードの横薙ぎを盾で受け、ヒイロは打刀を突き出した。しかしクロードは勢いを殺さず、一回転しながら身を屈めてみせた。姿勢を低くして打刀の刺突を避け、カウンター気味に黒剣を振るってみせる。


「くっ……!!」

「中々やるね……しかし、まだまだだ」

 ヒイロの右足に、ダメージエフェクトが発生していた。浅くではあるが、クロードの黒剣で切り付けられたのだ。

 するとヒイロのHPが減少すると同時に、クロードのHPが回復していた。

「……HP回復? 違う、俺のHPを吸収したのか……!?」


――ほう……一目で気付いたか。情報が漏れたという事は無いだろうし、彼自身の観察眼によるものだろう。


 クロードは、これまで愛用の黒剣≪エッジ・オブ・プレデター≫が持つ付与スキル【ライフドレイン】の情報を秘匿してきた。それは、ナイルの≪メデリオルスの鎖≫も同様である。

 全てはこのイベント……必ず来ると予想していた、PvPイベントの為である。万全を期してイベントに臨み、優勝する。そして得られた報酬でレアスキルやレアアイテムを手にし、更なる力を付ける。その為に、情報の流出には気を使って来たのである。


 だからこそ、クロードはヒイロの呟きに感心した。

 ダメージを受けた側のHPが減るのは当然見るだろうが、同時に相手の様子を覗うプレイヤーはそういない。

「鋭いね、ヒイロ君」

 そう言いつつ、ヒイロに斬り掛かるクロード。その剣筋は、更に鋭さを増していく。

「……くっ!!」

 ヒイロ側からすると、クロードは実に相性の悪い相手だった。なにせいくらHPを減らしても、自分が攻撃を受ければ受けただけ回復する。その上、技量は自分より上なのだ。


 苛烈さを増していくクロードの攻撃により、ヒイロの被弾が増えていく。直撃は避けているが、軽微なダメージも馬鹿には出来ない。塵も積もれば山となる、だ。

「ふふ……っ!! あのスキルは使わないつもりかい!?」

 攻撃しながら、クロードは挑発する様にヒイロに声を掛ける。彼女が指すスキルとは、第一回イベントで披露したヒイロの右腕に宿る【幽鬼】の事だ。


――決勝まで温存……とは行かないか!! しかし、使えるのは一度だけだ。勝ち筋の見えない今、無闇に使うのは……。


 一度【幽鬼】を発動してしまうと、長いクールタイムに突入してしまう。クロードを追い詰めてから、【幽鬼】を発動して一気に勝負を決めなくては……そう考えるヒイロは、挑発を受け流して集中する。


――隠し通すのは、無理か。


 相手側に傾いていく戦況を引っ繰り返すには、それ相応の力が必要だ。ヒイロは封印していたスキルを、ここで発動する事を決意。

「【クイックステップ】!!」

 振り下ろされたクロードの剣を避け、ヒイロは距離を取る。クロードに追撃される前に、ハヤテにその事を伝えようとし……その瞬間、ハヤテのHPがガクッと減って半分まで削られた。


 とはいえ、それも当然の帰結だった。ナイルの≪メデリオルスの鎖≫は物理攻撃に対して、自動防御オートガードという驚異的な性能を持つ。

 ハヤテの銃撃を二本の鎖が防ぎ、ナイルは悠々と詠唱を完了させる事が出来る。魔法攻撃に対し、ハヤテは回避するしか術が無いのだ。

 そんな中、ハヤテに向かって一本のチェーンが伸びていく。真っ直ぐ伸びるそれを喰らえば、ハヤテは更なる大ダメージを受けるだろう。


――こうなったら、とことんやってやる。


 覚悟を決めたヒイロは、相方の名を呼ぶ。

「ハヤテッ!!」

 呼ばれたハヤテは、一瞬思考を巡らせ……そして、即座に判断を下す。ヒイロの方へと駆け出したハヤテは、走りながらクロードに銃口を向けて引き金を引いた。

「む……っ!!」

 ヒイロの数メートル手前で減速したクロードは、銃弾をサイドステップで躱してみせる。


 そんなハヤテの背後に、チェーンが迫る。そのチェーンを形成する鎖の輪部分に、ヒイロが手にした刀を突き下ろした。

「え……っ!?」

 動いている鎖の輪……そこに刀を突っ込み、地面に刀ごと固定したヒイロ。鎖は尚も動こうとするが、深く突き刺さった打刀から逃れる事が出来ない。


 【スキル相殺】で攻撃や魔法の”芯”を、正確に斬り抜く……そんな技量を持つヒイロだからこそ、実現出来た。これにはヒイロも、特訓に付き合ってくれた仲間達……そしてこの技能を得るきっかけとなった、エクストラボス・セツナに感謝の念を抱く。


「おぉ……さっすがヒイロさん!!」

「まだここからだ、ハヤテ。気を抜かずに行こう」

 背中を向け合うヒイロとハヤテに、クロードが迫る。更にナイルも、もう一本の鎖を自分の守護に回し、詠唱を進めていく。

「やるじゃないか……!!」

 そう言いながら、クロードは笑みを浮かべる。手にした剣を振り被り、そのままハヤテに向けて振り下ろす。


「【一閃】!!」

 それは予想の外からの攻撃。ナイルの鎖を止める為に、打刀を手放したヒイロに残されているのは盾のみ。そう思っていたが故に、クロードはハヤテを倒してヒイロに降参する様に呼び掛けるつもりだった。

 しかしながら、彼女の剣を武技で弾き返したのはヒイロ。彼の手には、確かに刀があった。

 視線を少し逸らすと、未だに鎖を地面に固定している打刀が突き刺さっていた。


――盾はどこへ消えた!? いつの間に刀を手にしていた!?


 想定外の反撃を喰らいつつ、クロードの身体は自然に動いてみせた。彼女の靭やかな脚から繰り出される蹴りを、ヒイロは刀の柄で受ける。

 動揺したものの、そこは二大ギルドの片方を牽引するトッププレイヤー。混乱を振り切り、即座に対戦相手に意識を集中させる。


 しかし、相手はヒイロ一人ではない。ヒイロに意識を向けつつ、彼女は悪寒を感じて視線を巡らせた。そして、その直感は的中する。

「【一閃】!!」

 黒い鉄の塊が、視界の端から迫っているのを察知したクロード。彼女は即座に武技を発動した。


「【クイックステップ】!!」

 それでも躱し切れず、クロードの鎖骨辺りに赤いダメージエフェクトが走る。舌打ちしつつも、クロードは襲撃者から視線を逸らさない。

 そこには、FAL型≪アサルトライフル≫を手にしたハヤテの姿がある。問題は彼の手にした、その≪アサルトライフル≫の先端だ。


「刀を銃の先端に固定する……か。まさか、そんな事も出来るとはね……」

 そうハヤテの≪アサルトライフル≫の先端には、彼が腰に装備していた≪ユージンの短刀≫が固定されていた。固定部は差込型のソケットとなっており、最初からこうした使用を想定した作りである事が見て取れる。

「タイマンはキツいんで、2on2にさせて貰うッスよ!!」


 駆け出すハヤテに向けて、ナイルは魔法を放つ。

「【ライトニングアロー】……」

 呟く様な魔法名称の宣言、それは奇襲攻撃における常套手段。麻痺効果を及ぼす雷系魔法において、使い勝手の良い雷の矢が飛ぶ。その射速も速く、来ると解っていなければ避ける事は困難だろう。


 しかし、ハヤテにその魔法は届かない。

「【エレメンタルガード】!!」

 再び盾を手にしたヒイロが、ナイルの【ライトニングアロー】を受け止めてみせた。


――また、盾に……!?


 奇襲攻撃を受け止められたナイルは、目を見開いて呆然としてしまう。その隙を突いて、ヒイロは右腕に宿る力を解き放つ。

「【幽鬼】!!」

 ヒイロが刀を振るうと同時に、青白い霊体の鬼神が召喚される。鬼神は一直線にナイルに向けて迫り、その手にした大太刀を振り上げた。


 大太刀による攻撃ならば、物理攻撃……そう判断しかけて、ナイルは慌てて回避行動を取った。

 唸りを上げて振るわれた大太刀は、彼女の≪メデリオルスの鎖≫をすり抜けたのだ。

「あ、ぶな……っ!!」

 必死に回避するナイルだが、彼女に向けてヒイロが迫る。【幽鬼】とヒイロの双方に襲われては、ナイルとて無事では済まないだろう。


 クロードも同じ事を考え、ナイルの援護に向けて猛ダッシュを開始する。そうはさせじと、ハヤテはクロードに向けて銃口を向けた。

「【アサルトバレット】!!」

 右手の≪アサルトライフル≫から放たれる、固定ダメージを上げる武技。更にハヤテは、左手の≪オートマチックピストル≫の引き金を引く。

「【エイムバレット】!!」

 それはクリティカル率上昇効果のある、狙い澄ました一撃。本来はライフル型で発動するのだが、AIMエイム力に自信のあったハヤテは≪オートマチックピストル≫の方でそれを発動してみせた。


「【クイックステップ】!!」

 クロードは武技を発動し、迫る銃撃を振り切ろうと駆け抜ける。しかしそれはハヤテの予測通りで、彼女は右肩に【アサルトバレット】の一撃を喰らってしまう。

「な……っ!?」

 更に背中に、【エイムバレット】が命中。クリティカルが発生し、クロードは仰け反ってしまった。


 ヒイロの猛攻により、ナイルのHPは削られていく。更にクロードも、ハヤテの銃撃を受けて追い詰められつつあった。

 しかしナイルは【幽鬼】の攻撃を避け、ヒイロの攻撃に合わせてチェーンの防御を発動させて被弾を抑える。ヒイロの【幽鬼】には制限時間がある……それは、第一回イベントの動画を見て予測していた事だ。


――このスキルを、凌げば……。


 物理攻撃に対してならば、≪メデリオルスの鎖≫は無敵の防御を誇る。相手チームの二人には、【幽鬼】以外の非物理攻撃は無い。

 そう判断した彼女は、クロードに目配せをする。同じ考えだったのか、クロードもナイルに向けてアイコンタクトを送るところだった。


 ヒイロの【幽鬼】が制限時間を迎える前に、クロードは援護に駆け付ける事に成功した。ハヤテから受けたダメージにより、そのHPは残り四割くらいといった所である。ナイルもまた、三分の一程度までHPを減らされてしまった。

「それ以上はさせない!」

 ヒイロに斬り掛かるクロードは、ハヤテの狙撃を警戒しつつナイルを庇える位置へと移動する。


「削り切れなかった……か」

 とうとう【幽鬼】の効果が切れ、クロードとナイルを相手にするヒイロ。

 本来はナイルを落として、クロードを二人で相手にするつもりだった。だがナイルの回避が思っていた以上に上手く、攻め切る事が出来なかったのだ。チェーンの守護や仲間の存在に慢心せず、回避技術を磨いてきたのだろう。


 しかし、削り切れない事も想定していた。それならば、次の策を実行するまでである。

 ヒイロはポーチから球体を一つ取り出し、頭上へと放り投げる。

「消費アイテム……?」

「下がるぞナイル、攻撃かもしれん!」

 放り投げた球体が落ちて来るまでの間に、距離を取る。クロードとナイルは、すぐにそれを実行しようとした。だがそれでも、この二人の前では遅かった。


「狙い撃つ……ッ!!」

 ハヤテの放った弾丸が、球体を的確に撃ち抜いた。同時に中から青い液体が降り注ぎ、クロードとナイル……そしてヒイロに降り注ぐ。

「デバフアイテムか!!」

「……これ、まずい……」

 当然、ヒイロは即座に後退していた……が、アイテムの効果範囲が広すぎた。その結果クロードとナイルだけではなく、ヒイロも避け切れずに凍結の状態異常を受けてしまうのだった。


「あちゃー、ヒイロさんまで……流石ミモ姉って言いたいとこッスけど、性能が良過ぎるのも考えものッスね」

 ぼやきながらも、凍結状態になったクロードとナイルに向けてハヤテが駆け寄る。銃撃ではなく、【一閃】を放つ方がHPが大きく削れるからだ。二人が凍結状態にある、十五秒の間に決着を付けなければならない。


「くっ……!!」

 このままでは、敗北する。クロードの表情が、それを雄弁に物語っている。それを察したナイルは、最終手段を実行する事を決意した。


――お兄ちゃんなら……きっと。


 手にした杖に、力を込める。詠唱不要、消費するのは全HPと全MP。その代わりに、半径五メートル内に高威力の無属性魔法攻撃を放つ大技。

「【マナエクスプロージョン】」

 一言で言うならば、自爆。

「ナイル!?」

「やばっ……!?」

「しまった……!!」

 ナイルを中心に発生した閃光に、残る三人まで飲み込まれる。その光景に、観客席が驚愕の叫びに包まれた。


「ええぇっ!?」

「自爆したぁっ!?」

「ぜ、全員飲み込まれたぞ……!!」

「これ、まさか……!!」


 閃光が収まると、そこには四人のプレイヤーの姿があった。立ち上がる者は一人もおらず、そのHPバーは黒く塗り潰されている。

『ログを確認致しましたが……クロード選手、ヒイロ選手、ハヤテ選手のHPは、全く同時にHPがゼロになった為……』

 アンナのアナウンスを耳にした観客達は、息を呑み次の言葉を待つ。

『準決勝第二試合、中堅戦は……引き分けです!』

次回投稿予定日:2021/1/28


死なばもろともネタ、どこかでやって引き分けにしたかったんです……。

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― 新着の感想 ―
[一言] パソコンの前でカタカタやってる裏切り上等のスパイゴッコはまぁ楽しみの一部だからわかるけど ソレをVRでやるって多分ソコソコにバレてると思うんよね みんながみんなそんな演技力やスパイ活動上手い…
[良い点] おしゃぶりマスターと違ってアーサー君は戦う機会を得られたようで何よりですw
[良い点] ナイルのメデリオルスの鎖ってアレですよねアレ!ネビュ○チェーンw [一言] >引き分けにしたかったんです…… わかります。トーナメントイベントアルアルですよね。お約束ってやつです。お約束は…
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