08-16 幕間・準決勝に向けて(前編)
ギルド【聖光の騎士団】の控え室。
「準決勝は、銃を扱う【魔弾の射手】との戦いになる」
アークの言葉に、各メンバーが神妙に頷く。
「第二試合を見て、銃に有効なのは盾だという事が判明している。その点を踏まえ、出場者を選択するのが良いだろう」
弓や機弓同様に、銃は盾で防ぐ事が可能。そして固定ダメージは、高いHPがあれば凌ぐ事が可能だ。アークの言う事は、理に適っている。
「ライデン、君はどう考える?」
「アークさんの言う通り、かな。ただ……もう一つ、考慮しても良い要素がある」
ライデンはそう言うと、不敵な笑みを浮かべて見せる。
「ギルバートとヴェイン……このチームでAGIが最も高い、速攻が可能な二人なら通用すると思います」
ギルバートは言わずもがな、【聖光の騎士団】において最速の男。そして斥候のヴェインは、それに次ぐAGIの高さを備えている。
「成程……受けに回るのではなく、攻めてこそか」
「えぇ。銃弾を受ける役は、盾役に任せます。そしてギルバートやヴェインが、相手に接近してダメージを与える」
盾役は防御に集中すれば良いし、攻撃役は盾役が注意を引き付けてくれれば攻撃チャンスを得やすい。言っている事はPvPの基本に過ぎないが、その基本こそが最善手。それがライデンの考えだった。
「成程……ならば、盾役に誰を出す?」
そこへ、シルフィが一歩前に出る。その表情は、ライデンに負けず劣らず不敵な笑みだ。
「クルス以外に盾専門は居ないし、アタシが出ようか?」
その言葉に、アークがシルフィと視線を絡める。近頃、幹部となった彼女と行動を共にする事が多いアーク。最も距離の近い女性ともいえる彼女に、不思議な安心感を抱くようになっていた。
「ふむ……君なら適任か。頼めるか、シルフィ」
アークがそう告げると、シルフィはニッコリ笑う。
「もっちろんさ。任せときな、アーク」
シルフィ……本名【岸野 弘音】。大学三回生の彼女は、マリウス事件以降のアークを気に掛けていた。
最初は、最強のプレイヤーである彼を越えようと思っていたのだが……近頃は仲間を大切にしようと努力している彼を、好ましく感じていた。人間関係についてはまだ不器用な彼を、フォローするのも楽しんでいる。そして、彼に頼られる事を嬉しいとも感じていた。これは、弘音にとって初めての事であった。
見つめ合い、何だか良い雰囲気のアークとシルフィ。その様子を見守る者達は、それぞれの感想を抱いていた。
――シルフィさんは、アークの方が好みだったのか。まぁ、相手はアークだし……最強な上、最近は話もしやすいしな。仕方ねーか。
ギルバートは意外にも、アークとシルフィが……という事を、好意的に捉えている。アークの変化、シルフィとの相性、諸々を考えてのことだ。
そして、彼は女好きだが……相手がいると解っている女性には、ナンパはしない。略奪という選択肢は、彼の中には存在しないのである。
何故ならば、略奪よりも相手を振り向かせる方が健全だから。不健全一歩手前の彼は、ギリギリで健全の範疇に踏み止まっているのであった。
もう一人、二人の様子を好意的に眺める人物がいる。それはシルフィの弟である、ベイルだ。彼はチラッと二人の様子を見ると、小さな溜息を吐いた。
――無鉄砲で、向こう見ずな姉さんがここまで変わるとはね……アーク様々だよ。
溜息はどうやら、安堵の溜息だった模様。
変わったのは、アークだけではなかったらしい。常に彼女のフォローに奔走していたベイル……【岸野 大也】としては、アークの影響で落ち着きを持ち始めた事を喜んでいた。
「……先鋒戦は、シルフィ・アリステラ・ヴェインでどうかな? シルフィとアリステラには、今回は攻撃を我慢して貰う事になるけど……」
「シルフィさんは解りますが、私ですの? 恥ずかしながら私、盾役の立ち回りには不勉強でして……」
ライデンの指名は、アリステラ的には渡りに船だった。アークと良い雰囲気のシルフィよりも活躍し、自分の方が頼れるとアピールしたかった
しかし、彼女は馬鹿ではない。自分が攻撃に向いており、セバスチャンの援護があってそれが出来ていると理解していた。
そんな彼女に、ライデンは苦笑してみせる。
「まずアリステラは、HPが高い。銃使いにとっては、厄介な相手だね。そして最前衛として、君は動きがとても良い。ダイスを相手に拮抗出来るその反射神経と動体視力……君が適任と判断したのは、それが理由だ」
ライデンによる評価に、その場のメンバー全員が唸る。彼のアリステラ評を聞けば、彼女が適任とされる理由に納得がいった。
「ふむ、アリステラ……ライデンもこう言っている、頼めるか?」
「……かしこまりましたわ、アーク様。今度こそこの手で、【聖光の騎士団】に勝利を」
背筋を伸ばし、胸を張ってアリステラはそう宣言した。そんな彼女の隣にシルフィが歩み寄り、同じ体勢を取る。
「頼りになるね、アリステラ。アタシも仲間の為に、全力を尽くすよ」
そう言って微笑むシルフィ。アリステラも、シルフィに微笑みを返した。
恋敵と思ってはいても、シルフィ本人の人柄は認めている。敵ではなくライバルとして認識しているのだった。
「ほれ、ヴェインも」
シルフィにそう促されたヴェインは、苦笑気味に歩み寄る。
「いや、マジで俺でいいんですかね? まぁ、頑張りますけど」
うだつの上がらないサラリーマンの様な態度で、シルフィの横に並ぶヴェイン。その見た目からは、【聖光の騎士団】の主力メンバーに加わるプレイヤーには見えまい。
「はぁ……ヴェイン。このメンバーの前でくらい、演技をしなくても良いだろう?」
そう告げたのは、意外にもギルバートだった。
「省エネに務めてるんですよ、一応。ずっとピリピリしてても仕方ないですしね」
肩の力を抜いて、マイペースに寛いでいるヴェイン。しかし、それを咎める者はいない。彼が本気で戦闘に臨んだ姿を見た時に、彼の真価が発揮されるのである。
「まぁ、ヴェインらしいかな。で、中堅戦なんだけど……ここはギルバートとクルスが良いんじゃないかな? ルーとベイルには、また待機にさせて申し訳ないけど……」
万全を期す為の編成に、異を唱える者はいない。ルーとベイルは苦笑して、申し訳なさそうなライデンに声を掛ける。
「大丈夫ですよ、ライデンさん。私の事は気にしないで下さいね」
「これは、ギルドの威信を賭けた勝負になる。確実性の高い編成にするのは、当然かと」
二人の言葉を受けて、ライデンは安堵の表情を浮かべる。日頃苦労させられている分、こうして気遣って貰えるのは嬉しいものである。
「ギル、クルス……行ける?」
ライデンが声を掛けると、両者共に凛々しい表情で頷いた。ギルバートですら、だ。
「任されたよ、ライデン」
「えぇ、お任せ下さい」
これで出場メンバーは決まった。後は、それぞれの装備やアイテムを整えておくだけである。
************************************************************
一方、【魔弾の射手】の控え室。顔を突き合わせているレーナ達が、次の試合について話す。
「これで当初の目標である、準決勝進出は達成した。≪プラチナチケット≫……これを入手出来れば、各々の装備を手に入れられる」
そう意見を述べたのは、クラウド。眼鏡の奥で、その眼が鋭く細められている。
「そうですね。これで各自、必要なモノを手に入れられる様になりました」
彼等【魔弾の射手】のメンバーが必要なモノ……それは当然、≪壊れた発射機構≫だ。
レーナ・ルナ・シャイン・ミリア……そしてジェミーとディーゴ。第一回イベントで五十位以内に入賞したメンバーで、ディーゴ以外は≪壊れた発射機構≫を入手していた。これはジンから齎された情報を受けての事だ。
「この後の試合、どうする? ここで引いておくのも、一つの手ではある」
ビィトの言葉に、ディーゴとクラウドが無言で考え込む。彼の言葉も最もだと思えるのだ。
なにせ銃で圧倒という【魔弾の射手】のプレイスタイルは、多くのプレイヤーの不況を買っている。次の試合では【聖光の騎士団】も対策を整えて来るだろうし、それに敗れて溜飲を下げさせるのも悪くない手である。
しかし、それに待ったをかける者がいた。その女性の名は、レーナ。このギルドにおいて、誰もが頼りにしているプレイヤーである。
「私はちゃんと本気で戦いたい……です」
そんなレーナの言葉に、全員の視線が向けられる。ミリア・ルナ・シャインからは、「だよねー」という視線。ジェミーは苦笑気味に、「まぁそうなるよね」という視線だ。
「ふむ……レーナ君。我々への風当たりは今、非常に強い状況だ。それに後々来るだろうギルド同士の対抗戦で、優位を確保する為にも……」
「あの、クラウドさん。これは、ゲームですよね?」
クラウドの言葉を遮り、レーナは苦笑気味に己の考えを口にする。
「ゲームなんだから、堂々としていれば良いと思うんです。私達はゲームのルール通りにプレイして、別に悪事を働いた訳じゃないですから。それにわざと手を抜くのは、相手に対しても悪いと思いますし……」
そんなレーナの言葉を受け、クラウドは口を噤んだ。
そうして見つめ合う二人。気まずい空気が流れるが……先に沈黙を破るのは、クラウドの方だった。
「……確かにそれもそうだ。済まない、さっきの事は忘れてくれ」
「忘れませんよー。クラウドさんが、私達の……このギルドの事を考えてくれているのは、解っていますし!」
ふわりと微笑むレーナに、クラウドは視線を逸らす。その頬が少し赤いのは、照れている証拠だ。
「まぁ、実際の生き死にが関わっている訳じゃないしな」
「そうですね、俺もそれで異論無しです」
ビィトとディーゴも、気まずさを紛らわす様に口を開く。それは照れているクラウドへの、援護射撃の意味も含められていた。
「レーナ、いい?」
「うん。何かな、メイちゃん」
レーナに声を掛けたメイリアは、彼女に聞いてみたい事があった。
「戦いたい? 【七色の橋】と」
そのギルド名をメイリアが口にすると、再び全員がレーナに視線を向ける。その返答が、気になったのだ。
「勿論。仲の良いフレンドさん達……だけど、今回はライバル。全力を尽して、【七色の橋】と戦いたいかな」
************************************************************
所変わって、【森羅万象】の控え室。完封勝利を収めた彼等は、勝利ムードに身を任せていた。
「どーよ、アーサー! 俺とラグナの連携!」
肩を組み、上機嫌でアーサーに声を掛けるオリガ。そんな友人に、アーサーは苦笑気味だ。
「あぁ、イイ感じだった。流石だよ」
「だろ? まぁお前とコンビでも、あれくらい出来ると思うけどよ!」
アーサー……【恩田 朝則】と、オリガこと【折賀 友也】は小学校時代からの親友同士だ。つまるところ、幼馴染である。それは【神野 悠真】……ラグナも同様。
彼等は長い年月を共に過ごしてきた事もあり、気を使わないで済む間柄である。
「ふふっ、三人は本当に仲が良いよね」
そう言って微笑むハルだが、彼女も小学生時代から三人との付き合いだ。しかしアーサーに比べて、オリガやラグナとの親交は然程深くない……現実では、だが。
それには事情があり、彼女……本名【増森 遥美】は、現実では病弱な少女なのだ。心臓の病を患っており、小学校時代は入退院を繰り返していた。
家が隣の朝則は彼女を気遣ってお見舞いに通ったり、プリントを届けたりと世話を焼いて来た。
思春期を迎えたアーサーが、彼女を特別な異性として認識したのが中学三年の頃。その頃から、彼等はVRMMOの世界で活動を開始したのである。
アイテルこと【照野 藍子】と、シアこと【柴下 亜衣】は高校入学以降の付き合いだ。それも、今年でもう三年になる。
二人は同じクラスという事もあり、アーサー達三人とは気心知れた関係を築いている。
ナイルこと【入戸 成代】との出会いは、二年前。当時はまだ中学生だった彼女も、この春から高校一年生になった。
DKCで初心者だった彼女を、一人でログインしていたアーサーが世話を焼いたのがきっかけで、彼女はアーサー達のグループと知り合った。
彼女との出会い以降、仲良しグループ以外の人達と関係の輪を広げるようになり、結果【森羅万象】というギルドが生まれたのだった。
そうして様々なプレイヤーと交流する内に、アーサー達の容姿と性格、実力が知れ渡り……【森羅万象】は大ギルドの一角に成長したのだった。
そんな大ギルドのサブマス・クロードは、テンション高めに戯れるアーサー達に呆れ顔を浮かべた。
「浮かれ過ぎるなよ? 次は【七色の橋】と……そしてその後は、恐らく【聖光の騎士団】と戦う事になるんだからな」
自分達の力を過信している……そんな雰囲気を放っている弟達に、クロードは釘を刺す。
しかしながら、ギルドマスターであるシンラ……【増森 真代】が、親友であるクロード……【恩田 実奈波】に声を掛ける。
「良いじゃない~、試合で大活躍してくれたんだし……それに、次の試合はあっちなんだし~」
あっち……とは当然、【聖光の騎士団】と【魔弾の射手】の試合の事。観察はするものの、気を張っても仕方が無いというのが、シンラの考えだ。
「……はぁ、まぁお前がそう言うなら。で、準決勝はどうする?」
「そうねぇ~……第四試合は最低限の消費で終わったし、全員が出れるけれど~……あ、私は無理よ?」
準決勝……対【七色の橋】について、シンラは目を閉じて考えを巡らせる。傍からはそう見えないが、彼女の脳細胞がトップギアに入っていた。
――【七色の橋】は侮れない。配置を間違えれば負ける。相手の次の出方は……まだ公で戦っていない、他のプレイヤーの情報が無い。ポニテの薙刀ちゃんと短刀だけの赤毛君、戦槌を背負った眼鏡っ子さんは戦闘能力あり。それと弓っ子ちゃんとそっくりなPACもか。手ぶらの女性は……読めないけれど、腰のベルトに薬品の入った瓶を差していた。
「む……考え事か。こうなるとしばらくは戻って来ないだろう……こらアイテル、アーサーの背中から降りないか」
「何故ですか!? お義姉様!?」
「試合に備えて体力を温存しておけ! あと義姉はやめろ!」
「ア、アイテル……当たってる!! 当たってるんだけど!?」
「わざとです!!」
「そこは「あててんのよ」だよ、アイテル」
「全員座ってろ!!」
――大将戦に配置されていた薙刀ちゃんは、ソロでも戦える実力があると考えるべき。ウチの試合を見て、アーサーとハルの特性は把握したはず……そうなるとずば抜けた速さの持ち主である忍者君と、一撃必殺の威力を持つ弓っ子ちゃんをぶつけてくる。ギルマス君が大将戦を務めるのもアリ。お嬢様とメイドさんは、やはりコンビ? いや、そこに一人加えてトリオも出来そうね。だとしたら、弓っ子ちゃんあたりが妥当かしら。物理と魔法の主砲に、絶対堅固の要塞メイド。これは有り得そうね。
「お兄ちゃん、大丈夫……?」
「あ、あぁ……大丈夫だよナイル。ありがと」
「ねぇねぇ、アーサー? アイテルだけじゃなくて、私のも当てておく? 当てて欲しい?」
「何を言ってんのかな、シアは!? もっと自分を大事にしろと、いつも……」
「アーサーにしか言わないよー?」
「なぁ、アーサー……一発殴っていいか? VRなら痛みが軽減されるし、いいよな?」
「く、首締めるなよ! 苦しいって、ラグナ!」
「お前ら全員、正座ァッ!!」
――あちらの出方を予測するには、情報が足りない。ウチは王道で攻めるべき? 噛み合うか噛み合わないかは、かなり際どいトコだけど……それなら、確実性の高い編成にすべき。幸い、ウチのメンバーは実力者揃い。不利相手でも凌げるだけの力がある。アーサーとハルは必須。アイテルちゃんとシアちゃんをハルに付けるのが安定する。大将戦はクロードが良いかしら。忍者君が出るなら中堅戦の可能性が高い。そこにナイルちゃんとアーサー。ナイルちゃんにも今回は活躍して貰いましょう。
「うん、決めた……あら? 何で皆、正座してるの~? エレナさん、何かあった~?」
シンラが気が付けば、クロードが腕を組んで仁王立ちしていた。その眼前には、中高生組が正座して横一列に並んでいる。それを不思議そうに見ているシンラに、エレナは苦笑しながら溜息を吐いた。
「……相変わらず、凄い集中力ですね」
************************************************************
そして、【七色の橋】の控え室。
「次はどんな編成にしましょうか?」
ニッコニコ顔で、ヒメノが対【森羅万象】戦の編成について尋ねる。ヒメノの問い掛けに、ヒイロはふむ……と唸った。
第三試合は、原点回帰で良いんじゃね? という結論に落ち着いた。しかし変わった編成を試すならば、準決勝ではなく第三試合にしておけば良かったと思ってしまう。それだけ、第三試合は余力があった。
しかし、次の対戦相手は【森羅万象】……彼等は、【聖光の騎士団】に並ぶ大ギルドだ。ネタ編成で勝てるかと問われたら、否と答える他ない。
「……そうだな、ここで一つ編成を変えてみるか。さっきの編成は安定しているけど、一度見られている以上は対策されやすい」
先鋒戦、中堅戦共に安定した布陣だったが、流石に対策を練っているだろう。ならば、別の切り口で挑むべきだ。
そこでヒイロは、思い切った策を打ち出す。
「相手も、レアスキルを揃えていると思われる強敵だ。なら、こちらも出し惜しみはしていられないだろうね」
そう前置きをして、ヒイロは自分が考えた編成を発表する。その内容を聞いたメンバー達は、驚きつつも面白い編成だと感じた。
「……うん、僕は賛成」
「えぇ、私もそれで問題ありませんよ」
「私も頑張ります!」
「ヒイロ様のご随意に……」
ジン・レン・ヒメノ・シオンは、そのまま続投。
そして……。
「俺の出番ッスね、了解ッス!!」
指名されたハヤテが、不敵な表情でニヤリと笑った。
彼は元々、FPSでプレイヤーを相手取っての戦いに慣れ親しんでいる。今回のPvPイベントに、ゲーマー魂がウズウズしていたのだ。
「で、俺を出すのは……【魔弾の射手】の事もあるからッスよね?」
ハヤテの指摘に、ヒイロは視線を逸らす。そもそも、ハヤテは決勝戦まで温存しておく方針だったのだ。
「さぁ、何の事かな?」
すっとぼけるヒイロに、ハヤテは追求の手を緩めない。
「……既に、【桃園の誓い】も銃を公開したッス。そこで俺が銃を使ってみせれば、持っている所は持っている。そうアピール出来るッスよね」
それはつまり、【魔弾の射手】への批判を和らげる為。当初の予定を曲げてハヤテを投入するのは、それが理由であった。
「ハヤテ君? そういうのは、気付かないふりをしてニヤニヤと見るのが作法よ?」
「ちょ……ミモリ、そんな作法……無いから……」
そんな生産職コンビに苦笑を向け、ハヤテはあっけらかんと自分の本心を告げる。
「そういうのは、チームにくらいは話して欲しいッスよ……俺、ヒイロさんのそういう優しいところ、尊敬してるんスから」
ヒイロの、自分の身内以外にも心を砕く姿勢……それをハヤテは、貴いものだと感じている。だからこそ、自分達にも話して……一緒により良い方向性を模索させて欲しかったのだ。
「……うん、解った。勝手に決めて、ごめんな」
バツが悪そうなヒイロだが、咎める者など一人たりとも居ない。
「いや、方針を決めるのはギルマスの役割ッスから。謝る事じゃ無いッスよ? ただ、俺も一枚噛ませて欲しいってだけッス」
と言う事で、と言葉を続けたハヤテ。【魔弾の射手】批判回避案として、ある事を提案する。
「俺一人が銃を使っても、インパクトが薄いと思うんッスよ。だーかーらー……」
作戦を口にするハヤテは、実に悪巧みをしている悪役の様な顔であった。
次回投稿予定日:2021/1/3