08-14 幕間・【森羅万象】
会場に設えられた、控え室の中の一室。そこで、歳若い男女がモニターを注視していた。
静寂に満たされた室内……沈黙を破ったのは、銀髪の女性だった。
「……成程、中々だな」
彼女の名はクロード……【森羅万象】のサブマスターを務める女傑だ。今は丁度、中堅戦が終わった所である。
「確かに【七色の橋】は強いけど……あれくらいは俺達でも出来るだろう? まぁ、ヒメノさんのアレは無理だが」
「相手の……名前何だっけ。【ネ○ティブフェイス】だっけ? あいつら弱々だったしな」
何故に、諏○子のテーマをギルド名にしなければならないのやら。ともあれそんなラグナと、オリガの言葉……これに、他の面々も頷いてみせた。
「あの人達、どうやって決勝トーナメントに進出できたのかな? 正直、私もあまり強いとは思えなかったな」
純真無垢という言葉の擬人化じゃない? と巷で評判のハルにまで、辛辣な評価を下される【ベビーフェイス】。哀れすぎる。
「そうねぇ……盾職の人が、デバフアイテムを投げていたじゃない? あれを使ってモンスターを拘束して、PACにも協力させて総攻撃。それなら確かに、討伐速度は上がるわ~」
そう解説したのは、ギルドマスターであるシンラ。優秀な調合職人である彼女は、デバフアイテムについても知識が明るい。
「それに被ダメージも抑えられるから、成績は上がるわよ~。だけどコスパは最悪でしょうね~」
そう、デバフアイテムは高価だ。十分な数を揃えようとするならば、相当なゴールドコインが消費される。
「……もしかしたら彼等が契約したPACの中に、腕の良い調合師が居たんじゃないかな」
アーサーの私見に、他のメンバーが成程……と納得する。
彼の推測は当たっており、ファルスが契約したPACがデバフアイテムを製作できる調合師だった。
完成品は高額だが、素材ならば採取する事も可能。コストを抑える事も可能なのだ。
「で、問題は次に当たる【七色の橋】か。あの娘……ヒメノちゃん? あの一撃はエグいな。絶対に当たっちゃダメだわ」
「前のイベントでも、モンスターをサクサク倒していたらしいしねぇ……恐ろしや~!」
オリガとシアのやり取りに、堅苦しかった雰囲気が霧散する。
「ヒメノさんは恐らく、STRに大半のステータスを降っている。付け入る隙は、そこだな」
「攻撃力には防御力で対抗……頼むぞ、ハル」
姉同然のクロードの言葉に、ハルはニッコリと笑ってみせる。
「はい、任せて下さい!」
「問題は忍者君だね~。あの速さに付いていけないと、一方的にやられるかな~。となれば……」
「あぁ、任せてくれ」
アーサーは自信に満ちた表情で、シンラの視線に応える。そんなアーサーの様子に、三人娘は口元を緩める……緩め過ぎている。
――あぁ、やはりアーサーさんはそういう表情もお似合いだわ……凛々しくて、素敵……!
――やっぱり、頼りになるねぇ。あんな顔で迫られたいもんだわ~。
――お兄ちゃん、カッコいい……。
そんな三人娘の視線に気付かず、アーサーはジンの事を思い出して苛立ちを感じていた。
――クソッ、あの忍者……!! ハルは絶対に渡さない……!!
そもそも試合の後の様子を見ていれば、ジンとヒメノの関係がよく解っただろう。しかし彼等は試合終了の後、すぐに打ち合わせに入ってしまった。そのせいで、ある意味重要な場面を見逃してしまったのだった。
「さぁ、そろそろ出番だ。まずは【暗黒の使徒】とやらを、完膚なきまでに叩き潰すぞ」
そう、【七色の橋】と戦う前に、まずは【暗黒の使徒】との試合があるのだ。とはいえ彼等は、本気を出すつもりは更々無かった。
「先鋒戦はハルとアイテル……それにシアで良いだろう」
クロードの指示に、三人は問題無いとばかりに頷く。
「大丈夫だよ、クロードさん!」
「解りました」
「はいはーい! 了解でっす!」
「中堅戦だが……ふむ、オリガとラグナ。行けるか?」
「ウス、行けますよ!」
「えぇ、任されました」
オリガ・ラグナも、サブマスターからの御指名に二つ返事で応じる。
「大将戦は姉さんが?」
「いや、お前がやれ。お前なら万が一があっても、巻き返せる」
その言葉に、アーサーは意外そうな表情をする。このゲーム・リアル共に優秀過ぎる実姉は、普段から厳しいのだ。それ故に、アーサーを褒めるという事はあまり無い。
「これは、ギルドの威信を賭けた戦いになるからな。決勝で【聖光の騎士団】を打ち破る為にも、万全を期す」
彼女はそう言って、腰に佩いた剣を撫でる。それは彼女がとあるダンジョンで手に入れた、レアアイテムだ。
「そういう事ね……まぁ了解だ、必ず勝って来る」
アーサーがそう返事をした所で、アンナのアナウンスが控え室にも響き渡る。
『一回戦第四試合に出場される選手の皆様は、ステージにお越し下さい』
そのアナウンスを受けて、アーサー達が扉の方へ歩き出す。その背中に、残る四人が声を掛ける。
「よし。ではお前達、頼んだぞ」
「頑張ってね~、皆~!」
「応援してます……!!」
「いってらっしゃい、ご武運を」
クロード・シンラ・ナイル・エレナの言葉に、六人が振り返ってサムズアップ。意気揚々と、ステージへ歩を進めていった。
次回投稿予定日:2021/1/1
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