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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第八章 第二回イベントに参加しました(前)
128/573

08-12 一回戦 第三試合

お待たせしました、主人公達の試合となります。

年末か年始にこの回を合わせたかった!

 第二試合が終わり、アンナは陰鬱な気持ちを押し殺しつつマイクを口元に近付ける。彼女がテンションを下げている原因は、ずっと投げ掛けられている観客席からのブーイングのせいだ。


「あんな壊れ武器作んなよ!!」

「バランスおかしいんじゃねぇの!?」

「無能運営かよ!!」

 そんな感情に任せた心無い罵声を、アンナは努めてスルーする。彼女は開発担当では無く、広報担当者なのだ。意見が言いたいなら、公式サイトからメールしてくれと言いたい。


 そんな声を無視して、アンナは職務を全うする。

『これより、一回戦第三試合に移行します。参加する選手は、ステージ上にお越し下さい』

 そのアナウンスを受けて、控え室の扉が開いた。先に姿を見せたのは五人の男性プレイヤーと、一人の男性PAC(パック)。ギルド【ベビーフェイス】の六人組だ。

 全員が整った顔立ちに小綺麗な装備を身に着けており、ビジュアル面では映えるチームだった。


 そして、反対側……扉の中から、六人の男女が姿を現す。

「さぁ、行こうか」

「うむ、いざ出陣でゴザル!!」

 鎧武者姿の金髪少年に、既にスイッチが入っている少年忍者。

「ついに出番だね♪」

「ええ、行きましょう」

「ちょっと緊張するけど、ね」

 その後ろを歩くのは、三人の巫女風装束を身に纏った美少女。

「皆様、楽しそうで何よりです」

 最後尾を歩くのは、金髪の和風メイド服な美女である。


 六人全員が和風の装備で身を固め、統一感のあるチーム。その存在感はこれまで姿を見せたギルドに、決して引けを取らない。

「……おい」

「あぁ、来たな!」

 姿を見せただけで、観客達からの不平不満の声が沈静化した。それだけの影響力を持つギルドは、そう多くないだろう。

「いよっ! 待ってました!」

「楽しみにしてたぜーっ!」

 そして、彼等に向けて贈られるのは声援。それは徐々に広まっていき、彼等がステージ上に立つ頃には観客席全体から歓声が起こっていた。


『一回戦第三試合、出場チームの紹介です。まずは、【ベビーフェイス】チーム!』

 その紹介を耳にして拍手や歓声が上がるが、これまでのチームに比べて控えめな規模だった。その事に自覚があるのか、ローウィンを始めとするプレイヤー達は表情を顰めている。

 唯一、彼等が連れているPACパックだけが自然体で立っている。


『続きまして、【七色の橋】チーム!』

 アンナの紹介を受けた観客席は、一瞬で盛り上がりを見せた。盛大な歓声と、割れんばかりの拍手である。

「待っていたぜ、忍者ーっ!!」

「ヒメノちゃーん!! 頑張ってー!!」

「レン様ー!! 俺だー!! 執事にしてくれー!!」

「シオンさーん!! こっち向いてー!!」

「きゃー!! ヒイロくん格好良いーっ!!」

「アイネちゃーん!! ファイトーッ!!」

 それぞれに向けられた声援は、喧騒に紛れてジン達には届かない。しかしながら、その熱意は確かに届いている。


 自分達とは対照的な【七色の橋】への反応に、【ベビーフェイス】の五人は苛立ちを表情に表す。

「良い御身分だな、忍者野郎」

 ローウィンの言葉に、声を掛けられたジンが顔を向ける。しかし、挑発に対して何も言い返さない。そんなジンに、ローウィンは苛立ちを募らせていく。

「ここでお前をブッ倒して、どっちが上かハッキリさせてやる……覚悟しろ」


 そんなローウィンの挑発も、ジンは全く表情を変えない。過去に陸上の大会で、様々な舞台を経験して来たジンである。この程度の挑発など、可愛いものだ。

「こちらも、負けるつもりは無いでゴザル」

 挑発に挑発で返す事も、無視をする事も無い。単に、負けないぞという意思表示だけを返して見せるジン。

 そんな態度すら癪に障ったのか、ローウィンはジンを睨む。しかしながら、もう時間である。


『それでは先鋒戦に出場する選手以外は、一度お下がり下さい』


 アンナのアナウンスを受け、両チームの中堅戦・大将戦出場者が下がり……そして、観客席から驚愕の声が上がる。

「はぁっ!? マジかよ!?」

「いきなり……!?」

「これは予想外過ぎる!!」


 まず【ベビーフェイス】側の出場者は、長髪の青年【パルス】。彼は杖を背にした、魔法職である。

 普段は気障な仕草で一々流し目をする男なのだが、今現在は対峙する相手を見て口をあんぐりと開けている。アホ面全開だった。


 次いで、小柄な青年【リッド】。短剣を腰に装備している、回避重視の前衛職だ。

 いつもならば明るく快活に笑い、ヤンチャっぽさを武器に女性を口説く彼。しかし今は、苦々しい表情で対戦相手を睨んでいる。今にも怒鳴り散らして噛み付きそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。


 そして、唯一平然としてるのはローウィンが契約したPACパックである【ルイス】だ。

 彼は右手に短槍、左腕に小盾を持つ前衛タイプ。スラリとしていながら、鎧と衣服の隙間から覗く身体は筋肉質。STRとAGIを重視したスタイルのPACパックである。


 問題は、対峙する【七色の橋】。風に靡くのは、三色のマフラーだ。

「この三人だけで戦うのは、久し振りですねー」

 銀色の髪を揺らし、赤い瞳を細めて微笑む少女。赤と白の巫女風衣装の上に、赤い鎧を着込んでいる。

「あぁ、確かにな。最近は皆で行動していたし」

 金色の髪の隙間から覗く、青い瞳の少年。その身に纏うのは、彼のイメージカラーである藍色の鎧。

「初心に返る様でゴザルな」

 そして茶髪をうなじあたりで結った少年。トレードマークとなっている紫色のマフラーは、既に口元を覆う様に装備している。


 圧倒的な攻撃力を誇る、巫女姫・ヒメノ。呪われた篭手を右腕に装備する、鎧武者・ヒイロ。そして最高最速と名高い、忍者・ジン。

 ギルド【七色の橋】が誇る、三人のプレイヤーである。


「いきなりこの三人!?」

「マジかよ!! ヒメノちゃんは前衛が必要なのは解るけど……!!」

「しかしアレだな……最初はこの三人で行動してたらしいし……!!」

 弓使いのヒメノはまだしも、ジンとヒイロは単独でも戦闘が出来るプレイヤー。故に、大将戦はこの二人のどちらか……誰もが、そう考えていた。

 しかし蓋を開ければ、先鋒戦から大本命プレイヤーの参戦である。これには観客席も、大いに賑わっていた。


「……テメェら、何で最初ハナっから出て来てんだ!!」

 ついに我慢の限界に達し、リッドがジン達に噛み付く。しかしながら相手が悪い。

「え? 普通に、久し振りに三人でやりたいねーって話になりました」

「最初は、この三人でスタートしたからね」

 そんなヒメノとヒイロ……兄妹の台詞に、リッドは顔を真っ赤にする。


「ありえねーだろうが! いきなりトップが出て来るとか!」

「そちらの考えを押し付けられても、困るでゴザル」

 言い掛かりを付けるリッドに対し、呆れた様子のジンが反論する。

「拙者達は勝つ為に……そして皆でイベントを楽しむ為にチームで話し合い、この編成に落ち着いたでゴザルよ。それがそちらの意に沿わぬからといって、否定される筋合いは無いでゴザル」

 先日に引き続き、再びジンに正論で返される。その様子を見ている観客達は、失笑を禁じ得ない。


 そんなやり取りに呆れた様子で、アンナが進行を再開する。

『それでは両チーム、準備はよろしいですか?』

 アンナの念押しに、リッドはあからさまに舌打ちをした。パルスは流石に仕方が無いかと、溜息を吐く。返答も無い二人の様子に、アンナの眉間に皺が寄る。

「拙者達は、いつでも大丈夫でゴザル」

「はい! 運営のお姉さん、よろしくお願いします!」

「だそうです。いつでもどうぞ」

 アンナを気遣って、ジン達は明るく返事を返す。そんな三人の言葉に、アンナは目を細めた。表面上はクールな表情を浮かべつつ、ささくれだっていた心が癒やされた。


『では、一回戦第三試合・先鋒戦……』

 ジンとヒイロは並んで立ち、それぞれ刀を抜き構える。その少し後方で、ヒメノが弓を手にして矢筒に収めた矢を一本抜いた。

 リッドとパルス、そしてルイスも武器を構える。

『試合、開始!!』


 開幕と同時に、ジンがその本領を発揮。真っ先に駆け出した先は、前衛役のルイスだ。

「【スライサー】!!」

「むぅっ!!」

 速攻からの【スライサー】を、ルイスは小盾でガードした。しかしジンに注意を向けて、その足が止まってしまう。


 その隙にヒイロがルイスの脇を素早く通り抜け、後衛のパルスを狙う。

「【スラッシュ】!!」

「ぬおぉっ!?」

 横薙ぎに繰り出されたスラッシュを、パルスは慌てて避ける。しかし開幕と同時に行っていた魔法詠唱は、どうにか継続する事が出来ていた。


「させるかぁっ!! 【ラピッドスライサー】!!」

 パルスを援護すべく、リッドが駆け出す。しかしながら、それは想定済みであった。

「【クイックステップ】」

 ジンが両手の小太刀を構え、ヒイロとリッドの間に割って入った。

「どけぇっ!!」

「【アサシンカウンター】」

 難なくリッドの【ラピッドスライサー】を躱したジンは、お返しとばかりに同じ武技を発動する。


「【ラピッドスライサー】」

 ジンの得意技の一つ、【アサシンカウンター】からの【ラピッドスライサー】。クリティカルが約束された連続斬りによって、リッドのHPが一気に枯渇した。

「なぁ……っ!?」

 あっさりとやられてしまった事が信じられないとばかりに、目を見開いたままうつ伏せに倒れたリッド。


「それでは……【スパイラルショット】!!」

 倒れたリッドに気を取られたルイスに向けて、ヒメノが必殺の武技を放つ。

「なんのこれしき……っ!!」

 小盾を掲げて受け止めようとするルイスだったが、それは悪手だ。小盾が破壊され、更に貫通した矢にその身を貫かれてしまう。

「なんとぉっ!?」

 たった一撃で盾を破壊し、更に仕留めてしまう強力な一射。一撃必殺の通り名に、偽りなしといったところか。


 最後に残されたパルスは、魔法をヒイロに向けて発動する事に成功していた。

「【フレイムアロー】!!」

 放たれた魔法攻撃を見て、ヒイロは冷静に刀を構える。

「【エイムスラッシュ】!!」

 狙いはパルスではなく、【フレイムアロー】。魔法の当たり判定を示すエフェクト、その中心だ。

 ヒイロの狙いは成功し、【エイムスラッシュ】がパルスの【フレイムアロー】を掻き消してしまう。しかし、それで終わりではない。


「【シールドバッシュ】!!」

 更に一歩踏み込んだヒイロの【シールドバッシュ】を受けて、パルスはよろめく。体勢を崩した際に攻撃を受けると、クリティカルヒットになる確率が上昇する。ヒイロの狙いはよろめき効果のある【シールドバッシュ】で、パルスの体勢を崩す事だった。

「【クインタプルスラッシュ】!!」

 洗練された動きで繰り出される、四連撃。全ての攻撃がクリティカルとなり、パルスのHPが全て失われた。


 それは、開幕から数分の出来事。第二試合もそうだった様に、その試合はほぼ一方的。【七色の橋】は、ダメージを受ける事なく終わった試合だった。

『一回戦第三試合・先鋒戦! 勝者、【七色の橋】チーム!!』

 アンナの勝利宣言を受けて、会場中から盛大な拍手が巻き起こる。


************************************************************


「瞬殺だな」

 先鋒戦の様子をそう称したのは、【聖光の騎士団】ギルドマスターであるアーク。

 相手が大した事がないプレイヤーだったというのもある。しかし、それだけではない。ジン達三人の動きは洗練されており、声を出す事はおろかアイコンタクトすら無かった。

 完成された連携、そして鍛え上げられた実力。この勝利は、彼等の地力の高さが如実に現れた結果と言えよう。


 そんな中、ライデンは全く別の事を気にしていた。というのも、モニターに映るプレイヤーの顔に見覚えがあったのだ。

 整った顔立ちに、スラリと長い手足。現実と異なるのは、その頭髪と目の色……そして、纏っているのが制服か鎧かの違いのみ。


――星波、英雄……!? 彼が……彼が【七色の橋】のギルマスであるヒイロ!?


 驚きを隠せず、ライデンはギルバートに視線を向ける。彼もまた、ヒイロの正体がクラスメイトである事に気付き、驚愕していた。


 これまで彼等がその事に気付けなかったのには、理由がある。


 まず第一回イベントの動画ではあまり、ヒイロ個人はクローズアップされてはいなかった。

 映っていた動画も主に、【幽鬼】を発動していたり他のプレイヤーと共に攻撃している姿が多かった。その為、引いたアングルの動画ばかり。よくよく見なければ、彼が星波英雄と気付くのは困難な状況だった。


 そして【七色の橋】と【聖光の騎士団】が直接接触したのは、二度。一度目の南門での一幕を除けば、残るのはマリウス事件である。

 ジンとヒメノを除くメンバーがログインしたのは、アークとシルフィ以外がマリウスを連行した少し後。つまり至近距離で、ヒイロを見るタイミングが無かったのだ。


 しかしながら、彼等は気付いていない……もう一人、クラスメイトがモニターに映っている事に。

 その理由は彼が髪型や色を現実とは変えており、その口元をマフラーで隠しているからであった。


************************************************************


『一回戦第三試合・中堅戦に出場する選手は、ステージへお越し下さい』

 ジン達と入れ替わりに出て来たのは、一人の少女。そして、そんな少女に付き従う女性であった。

「レン様きたーっ!! これで勝つる!!」

「シオンさんとのコンビ!? 元・攻略最前線コンビじゃねぇか!!」

「情け容赦なしだな、【七色の橋】!! いいぞ、もっとやれ!!」

 かつては攻略最前線において、頻繁にレイドパーティに参戦していた主従コンビである。


 対する【ベビーフェイス】側は、盾職タンク役のプレイヤーである【ヴォイド】に、弓使いの【ファルス】だ。

 どちらも、盾役と後衛のコンビである。しかしながら、相性が悪い。

 魔職の詠唱時間は、弓使いが矢を射るよりも長い時間を要する。しかし弓使いの攻撃は、盾職には滅法弱いのである。


「俺が、レンのハートを射抜くよ。お前はシオンを頼むぜ……お前の好みだろ?」

「よく解ってるじゃないか。燃えて来るぜ、ああいう美女のお相手はさ」

 そんな会話を交わす二人は、ニヤついている。爽やかなスポーツマン風のヴォイド、眼鏡を掛けた知的な雰囲気を漂わせるファルスだが……その緩み切った表情で、全てが台無しだ。


 そんな視線を受けても、シオンは涼しい顔で受け流す。メンタルコントロールは、メイドとして当然のスキルである。

 しかしながら、レンは真顔だった。これはレンが不機嫌な……ヒイロ相手に見せる不機嫌ですアピールの時とは異なる、ガチで不機嫌な時の表情である。


 その理由は、ヴォイドにあった。彼の髪型、ガッシリとした体格、身に纏う装備……それが、ある人物を思い起こさせるのだ。

 その人物は彼女達の大切なギルドホームに現れ、彼女にとって掛け替えのない親友を泣かせた男。今は既に、アカウントを削除された男……そう、性犯罪者マリウスだ。

 別人と解っている。しかし、こうして下心満載の視線を向けられているのだ。少しくらい、痛い目を見させても構わないだろう。


 物騒な決心を固めるレンに、シオンは内心で苦笑した。常に彼女を見守るシオンには、何を考えているのかなどお見通しだ。

 そして彼女は、レンの好きにさせる事にした。相手は件の汚物マリウスと同等……レンにとっても、他の仲間達にとっても有害な輩。処分するのは、有益な判断と言えよう。


 運営メンバー・アンナが確認を取り、両チーム共に準備万端と返答。観客席の期待の視線を浴びつつ、武器を構える。

『一回戦第三試合・中堅戦……試合開始!!』

 開始宣言直後、レンの前に立つシオン。大盾を構えて駆け寄るヴォイドと弓に矢をつがえるファルスに視線を巡らせる。


 ファルスが弓を構え、そして放つ。しかしその矢は、シオンの大盾≪鬼殺し≫が遮ってしまう。だが、これは牽制に過ぎない。その間にヴォイドがシオン目掛けて、手にしたアイテムを投げる。

 シオンはそれを盾で受けるが、その身体に電撃が走った。

「これは、デバフアイテム……?」


 短時間ながら、麻痺したシオン。そんなシオンに迫ったヴォイドは戦斧を振り上げ、締まりのない表情で勝利を確信する。

「悪く想うなよ!! 【ブレイクスマッシュ】!!」

 放たれた武技が、シオンを襲う。ヴォイドが武技を発動した瞬間に、シオンの麻痺が解けた。ミモリの物よりも、効果時間が少ないらしい。


 シオンは迫る戦斧をその青い眼で見ながら……掌でそれを止めてみせた。

「……ファッ!?」

 思わず、ヴォイドの口から間の抜けた叫びが漏れて出た。

「エェェェェッ!?」

 シオンがその攻撃で体勢を崩すと確信していたファルスも、第二射のタイミングを見計らいつつ素っ頓狂な叫び声を上げる。


「ば、馬鹿なぁッ!? う、うおおおぉぉっ!! 【ハードスマッシュ】!!」

 慌てて再度武技を発動するヴォイドだが、【ブレイクスマッシュ】の方が威力は高い。だからこそ、先に発動した訳だし。それに劣る【ハードスマッシュ】で、シオンをどうこう出来る筈が無いのだ。

 またも掌で攻撃を止め、そしてファルスの矢を盾で受ける。


 そうこうしている内に、レンの準備も整った。

「【サイクロン】」

 ギリギリでシオンに当たらない……そんな位置で発動された、風属性魔法【サイクロン】。ステージの上で渦巻く暴風により、ヴォイドとファルスのHPがガリガリと削られていく。


 レンの【サイクロン】が収まった時には、既に相手チームの二人は地面に突っ伏していた。勿論、彼等のステータスでレンの魔法に耐えるなど到底不可能。HPは全損している。

『一回戦第三試合・中堅戦、勝者【七色の橋】チーム! よって二本先取となり、一回戦第三試合は【七色の橋】チームの勝利です!』

 二試合共に、決着まで要した時間は数分。正に、鎧袖一触である。


「やべぇ……完全勝利じゃん!!」

「戦斧の武技って、攻撃力高いよな? 全然HP削れてないぞ、シオンさん……」

「レン様もだよ! いくら最上級魔法とはいえ、前衛はMND上げてるはずじゃんか!」

「最強の盾と、最強の砲台かよ」

「流石過ぎるわ……」


 そんな観客席の声をよそに、レンとシオンは一礼して控え室へと戻る。控え室の扉の前では、仲間達がそれを出迎えた。

「お疲れ様、レン。お疲れ様です、シオンさん」

「ただいま戻りました、ヒイロさん」

 代表してヒイロが声を掛けると、レンは満面の笑みで彼の腕を取る。そんなレンの行為に、観客席からどよめきが発生。


 突然の大胆な行動に、ヒイロは顔を赤くしてしまう。

「レ、レン? どうしたの?」

 そんなヒイロの態度にご満悦なのか、レンはとてもいい笑顔を浮かべる。

「ジンさんとヒメちゃんに比べて、私達の関係は然程知れ渡っていませんから。ここで一つ、印象づけておいて悪い虫を寄せ付けないようにしようかと」

 どうやらヒイロ達が戦っていた時に、観客席の女性プレイヤーから黄色い声が上がっていたのがお気に召さなかった模様。

「はぁ、敵わないな……」


 そんな二人の様子を見たヒメノも、ジンの腕に自分の腕を絡めた。

「ふぉっ!?」

 観客席から、更に悲喜こもごもの声が上がる。それをよそに、ヒメノは照れ臭そうにしながらジンを見る。上目遣いは女の子の強力な武器です。

「て、手を繋ぐよりも……こっちの方が恋人っぽいかなって……」

 可愛い恋人の言葉に加え、腕に接触する柔らかな感触。それにジンは顔を真っ赤にしてしまう。


「ハヤテ君、私達も……」

「控え室の中に入るッスよ……こんな大勢の前でとか、恥ずか死ぬッス!!」

「うふふ、仲良しねぇ」

「……いいなぁ」

「ラブラブですねー!」

 大立ち回りをやらかした後とは思えない、【七色の橋】の面々。平常運転の彼等は無事に、準決勝へと駒を進めるのだった。

次回投稿予定日:2020/12/31(12:00)


やっぱりあいつらおしゃぶりだわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局出番がなかったおしゃぶりリーダー
[良い点] おしゃぶり達は、やっぱりかませだった…(笑) [一言] ヒイロ&ヒメノ&ジンの先鋒戦、レン&シオンの中堅戦共におしゃぶり達を瞬殺。さすがですね。 そして試合の後の、レンとヒイロ&ヒメノとジ…
[良い点] かませ役以前に戦闘の機会すら与えられないとか草
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