08-11 幕間・【魔弾の射手】
一回戦第二試合を終えた【魔弾の射手】の控え室。準決勝に勝ち進んだ彼等だが、別段喜んだり騒いだりという事は無かった。
そんな中、物音が継続的に聞えてくる。音の発生源は、控え室内の鍛治スペースだ。
「……はー、やっぱ荒れてるな」
そう言ってシステム・ウィンドウを眺めるのは、赤髪の青年だ。彼の名前は【ビィト】。【魔弾の射手】で、現状は三人しかいない男性メンバーの内の一人である。
そんなビィトに反応を見せたのは、シャインである。
「掲示板ですー?」
「そ。まぁ全員が銃を装備して出れば、こうなるよなぁ」
そんなビィトの言葉に、他の面々は苦笑した。
「最初から解っていた事ですし」
「はい、それも覚悟の上で参加してますからね」
レーナとルナがそう言うと、ミリアが陰鬱そうに溜息を吐く。
「銃を開始前に明かしても、結果がアレでは仕方が無い……か」
ミリアが試合開始前に対戦相手に装備を明かしたのは、他のプレイヤーが反感を抱くのを軽減させる為でもあった。しかしながら、大した効果は無かったようである。
「しかし先鋒戦では圧倒したが、中堅戦では銃の弱点を見せている。君が装備を先に明かしたのも、ジェミー君とレーナ君がメンバー変更を受け入れたのも、無意味ではないはずだ」
ミリアに声を掛けたのは、黒髪の青年だった。
「……お気遣いありがとうございます、【クラウド】さん」
苦笑しつつも礼の言葉を告げるミリアに、眼鏡の青年……クラウドも薄く微笑む。
「それじゃあ、気持ちを切り替えましょうか。次は……レーナちゃんのお友達の試合でしょう?」
手をパンパンと叩きながら、ジェミーが「この話はここまで!」と話題を変える。
本来ならば彼女の立ち位置はとある青年か、そのお相手である女性の役割。しかしながら、その二人は今は居ない……彼女がギルマスを務めるのも、それが理由の一つだ。
クラウドは仕事が多忙な為、あまりログイン出来ない。ビィトも同様だ。その二人を除けば、彼女が最年長となる。
故に、彼女はギルドマスター役となったのだ。面倒見が良く、年上からも年下からも信頼を集める、彼女だからこそであった。
ジェミーの言葉を受けて、レーナ達四人組が視線をモニターに向ける。
「あの、和服のプレイヤーだよね?」
金髪の青年……【ディーゴ】がレーナに問い掛けると、彼女は満面の笑みで頷き返す。
「そうそう! とても良い子達なんだよー! 私達が、初めてログインした直後に助けてくれたのが、ジン君達なの!」
その表情を見れば、レーナがジン達を信頼しているのが良く解る。そんなレーナの様子に、ディーゴは笑みを浮かべた。
「間に合った……?」
鍛治スペースからトレイを持って姿を見せる、一人の少女。ロングストレートの銀髪を靡かせた、高校生くらいのその少女。彼女の名前は【メイリア】……【魔弾の射手】最年少のプレイヤーだ。彼女は戦闘と同時に、生産職も務める事が出来るメンバーだった。
「お、メイちゃん!」
「弾丸の補充、ありがとう」
トレイに乗っているのは、先の戦闘で消費した分の補充用弾丸だ。それぞれの銃に合わせて作る必要がある為、手間が掛かっている。
そして、メイリアの後ろから一人の男性が姿を表した。
「良かった良かった……彼等の試合は、是が非でも観戦したいからね」
その男性はアロハシャツを着込んだ、黒髪をオールバックにした男性。ギルド【魔弾の射手】に請われ、ゲストメンバーとして参加した凄腕の生産職人。
レーナが、男性に向けて笑みを向ける。
「お疲れ様です、ユージンさん」
レーナの言葉に、男性……ユージンも微笑みを向けた。
「あぁ、レーナ君達も」
次回投稿予定日:2021/12/31(0:00に本編、12:00に掲示板、17:00に幕間)
大晦日なので三話にしました。
ユージンさんこっちに居ました。