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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第八章 第二回イベントに参加しました(前)
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08-07 一回戦 第一試合・大将戦

 一回戦第一試合を見守る、【七色の橋】の控え室。モニターの前でゼクスの言葉を聞いたジンは、その試合結果を見て口を閉ざしていた。

「……ジン、大丈夫か?」

 仲の良いプレイヤーであるゼクスとイリスの敗戦に、ジンも思う所があるのではないか。そう思い、声をかけるヒイロ。そんなヒイロに振り返り、ジンは苦笑した。

「大丈夫だよ。試合の結果は、結果だ」

 陸上競技も、他のスポーツも同じ。試合の結果、勝つ者が居れば負ける者も居る。それが勝負の世界の常だ。それはVRゲームであろうと、変わらない。


「それに……まだ、終わっていない」

 ジンの言葉に、ヒメノが頷く。

「はい! 大将戦で勝てば、二対一で【桃園の誓い】が勝ちます!」

 ヒメノとしても、仲の良いフレンドが勝つ事を希望しているようだ。その先で、自分達と戦う可能性がある……その事も、しっかり理解している。

「そうすりゃあ、ジン兄とゼクスさんが戦うことだって出来るッス!」

「う、うん……勝負は、まだこれから……だよね」


 そんな【桃園の誓い】チームを応援するメンバー達だが、事はそう簡単ではない。

「出て来るのは、当然アークさん……ですね」

 レンの言葉に、シオンが頷く。

「そして、【桃園の誓い】はケイン様でしょう。ギルドマスター同士の対決……ですね」

 その言葉を肯定するかのように、ステージに動きがあった。


『一回戦第一試合・大将戦に出場するプレイヤーはステージ上へお越し下さい』


 ……


 白銀の鎧を身に纏い、青いマントを靡かせながらステージ上へ向かって歩く金髪の青年。大規模ギルド【聖光の騎士団】を束ねる、最強のプレイヤー・アーク。その歩みは正に、威風堂々と称するに相応しいものだった。


「待ってましたァ!!」

「最強の実力を見せてくれェ!!」

「アーク様、頑張ってーっ!!」

 そんな声援が、観客席から投げ掛けられた。以前のアークならば、一顧だにしなかったそれだが……今は何故か、そのまま通り過ぎるべきではないのだろうと考える。


「……フッ、変わったのかもな」

 小さな声でそう呟きながら、アークは右腕を天に向けて掲げた。そんなアークの声なき返答に、観客席から歓声が沸き起こる。


 その対面、扉から姿を現した黒髪の青年。赤銅色の鎧が太陽の光を反射し、白い飾り布が風に揺れる。彼こそが【桃園の誓い】ギルドマスターにして、”林”のユニークスキル保有者ホルダー


「ケインー!! 頑張れよー!!」

「期待してるぜ、大物喰らい(ジャイアントキリング)!!」

「応援してます!! 頑張って下さい!!」

 ケインに向けられる声援も、アークのそれに負けていなかった。彼も第一回イベントで活躍し、その知名度が上がっている。そしてその整った容姿に、ファンも付いているのだった。


 ケインは観客席に振り返って、グッとガッツポーズを取ってみせる。その表情は、穏やかな笑みを湛えていた。そんなケインに、観客席のあちこちから黄色い声援が上がる。

 その様子をモニターで見たイリスは、思った……早く、決着を付けなければと。


 ……


 ステージ上で向かい合う、二人のギルドマスター。ケインはいつも通りの自然体、アークもまたいつも通りに真顔だ。

「βテスト以来……かな、アーク」

 口火を切ったのは、ケインの方だった。アークは表情を変えずに、それに頷いて返した。

「もう、半年前になる……か。あの頃よりも、お互いに取り巻く環境が変わったようだ」

「そうだな。君は大ギルドのトップ……俺は仲間達と、小さいながらもそれなりのギルドを作ったよ」

 アークはその言葉を聞いて、聞きたかった言葉を呑み込んだ。


――何故、俺達のギルドに入らなかった? 何故、最前線に加わらなかった?


 ケイン達の実力ならば、最前線で頭角を現す事が出来ただろう。しかし、彼等はそうしなかった。レイドに参加していたダイスやフレイヤも、彼のギルドに身を寄せる事になった。

 今ならば、その理由が少し解るかもしれない。


――あの頃の俺は、人を顧みていなかった……それが、彼らには合わなかったのだろう。


 しかし、覆水盆に返らず。何を言おうと、何を思おうと、時間は巻き戻らない。

 だからこそ、今は……。


「先鋒戦は我々が敗れ、中堅戦もギルバートとライデンをあそこまで追い詰めた。ケイン……君の作った【桃園の誓い】は、強い」

 それはアークなりの、最大級の賛辞。ケインとその仲間達を讃える言葉だった。

「故に、約束しよう……」

 そう言って、アークはシステム・ウィンドウを立ち上げる。装備欄を手早く操作し、そして決定。すると、アークの装備している盾が消失する。代わりに現れたのは、背中に背負った二振り目の長剣。

「俺の全力を以って、君の相手をしよう」


 ケインを見据える瞳は、驚くほどに真っすぐだ。そんな視線と言葉を受けて、ケインはフッと口元を緩める。

「それは有難い……君を越えるのが、俺の目標の一つなんだ」

 アークとケインの視線が交錯し、緊張感が高まる。二人のやり取りを見ていた観客席も、余計な言葉は無用とばかりに押し黙る。

 静寂が舞い降りた会場内で、唯一その空気を断ち切る事が出来たのは運営メンバーのアンナだ。


『双方、準備はよろしいですか』

 アンナの問い掛けに、ケインは刀を抜いて……アークは背に負った二振りの長剣を抜いて頷いた。そのまま二人は得物を構え、腰を落とす。

 そんな両者にアンナは一つ頷き、右手を掲げる。

『それでは一回戦第一試合・大将戦、試合開始!!』


************************************************************


「【一閃】!!」

 開幕から、ケインが鋭い踏み込み。そして【刀剣の心得】唯一の武技を、アーク相手に放つ。

「【パリィ】!!」

 迫る剣閃に対し、アークは右手に握った長剣≪聖印の剣≫で弾く。

「剣で……防御する武技ッ!!」

 アークの返礼は、左手の≪聖咎の剣≫による振り下ろし。盾を構えたケインは、盾を傾けて直撃を避け攻撃をいなす。


「ハッ!!」

 左手の長剣を真っすぐに突き出すアークに対し、ケインはまたも盾で受け流す。

「……やるっ!!」

 アークの双剣による連続攻撃に対し、ケインは盾を巧みに使い直撃を避ける。これは元々、彼が長期戦に耐え得る前衛として目指したスタイルだったからだ。


 盾で攻撃を受け止める、または武器で攻撃を受け止めると、基本的には余波ダメージが入る。直撃を受けるよりも軽微だが、これが積み重なると馬鹿にならないダメージとなるのだ。

 更に、盾自体の耐久値も減少する。相手が強ければ強い程、与える耐久値へのダメージは上がるのである。

 しかしながら、装備を使って攻撃を受け流す……これは余波ダメージも、装備への耐久ダメージも無くなるのだ。ただし受け流しは高いプレイヤースキルを要求する、高等テクニックである。


 ゼクスとイリス……二人と共に三人パーティでプレイしていた頃は、ケインが壁となって攻撃を引き付ける事が殆どだった。その間にイリスが魔法の段取りを整えて、主砲として活躍。ゼクスはイリスに群がる雑魚敵を処理する、護衛役。

 思えば、初めて【鞍馬天狗】を倒した時もそうだった。


 対峙するアークは、更に慎重にならざるを得ない。高威力の武技程、隙が大きいのだ。受け流されれば、致命的な隙を晒す事になる。

 そして、アークはケインを警戒していた。彼もまた、何か特殊な装備やスキルを隠している。そんな予感がしていたのだ。


 そんなアークの内心を知ってか知らずか、ケインは刀と盾を構えて言葉を紡いだ。

「アーク。君は決闘という場に置いて、搦め手を使う事を嫌うか?」

 唐突なケインの問いに、アークは動きを止め……そして、一瞬思考を巡らせる。

 この問答に、何の意味があるのか? ケインが何を考えているのか? 彼の狙いは何か?

 しかし、思考の迷路に迷い込む事を嫌ったアーク。すぐに、直感的に返事を返す。

「搦め手もまた、一つの戦術。持ち得る力を以って戦う事を、俺は決して否定しない」

 その言葉に、ケインが表情を緩めた。その口元に浮かぶのは、優しげな笑みだ。


「答えてくれてありがとう、アーク。俺は少々、意地の悪いスキルを持っていてね……状態異常を引き起こす技なんだ」

 そんなケインの言葉に、アークは訝しげな表情をする。

「……何故それを明かした、ケイン」

 言わなければ、不意を突ける。状態異常となれば、対人戦で最も警戒すべき攻撃と言っても良い。それはアークに対する、大きなアドバンテージになっただろう。

 わざわざそれを明かすメリットが、考えられない。


 しかし、ケインは笑みを崩さずに言葉を返した。

「君が正々堂々としているからね」

 力を得る事、最先端を往く事に対して貪欲だったアーク。ひたすらにストイックで、余裕や遊び心の無い最強のプレイヤー。

「確かに勝って、決勝に進んで……戦いたい相手が居る。だが、それなら……俺は正面から君と戦い、その上で勝ちたい」

 考え方は合わなかったが、それでもケインは彼を高く評価していた。何よりも正々堂々とした、その在り方について。

「君が自分の力に誇りを抱いている様に、俺も自分の中にある誇りを貫きたい。そうじゃないと、胸を張って君に勝ったと誇れないからね」


 そんなケインの言葉を受けて、アークは不思議な感覚を覚える。ケインが自分をそう評した事に対して、何か胸の内に温かい物を感じたのだ。

「……貴方の気高さに、俺は敬意を表する。そして……貴方とこうして戦える事を、心の底から嬉しく思う。【桃園の誓い】のケイン。前言通り……俺の持つ力全てを出し切り、貴方に勝ってみせる」

「そうか……ありがとう」

 睨み合う両者だが、決闘の最中という緊張感の中に清廉な爽やかさが漂う。


 先手は、ケインだった。

「行くぞ、アーク!! 【風天】!!」

 アークに向けて突き出した≪天狗丸≫の刀身に風が渦巻き、そして解き放たれる。突き進む竜巻を目の当たりにし、アークは目を細めた。


――風……突風……真空の刃!! カマイタチか!! ならば彼の言う状態異常は、裂傷状態!!


 分析は一瞬、アークは左手の≪聖咎の剣≫を構えてそのスキルを解き放つ。

「【サイクロンエッジ】!!」

 アークが≪聖咎の剣≫を振るうと、緑色の斬撃が飛ぶ。放たれた斬撃によって、ケインの放った【風天】は掻き消されてしまった。


――やはり、これくらいは対処できるよな……!!


 ケインはアークの出方を見るべく、【風天】を放った。防がれる事を想定して、だ。

 盾から二本目の長剣へ持ち替えたアークだが、彼の立ち位置はあくまで前衛。盾を手放して尚、防御する手段がある事は織り込み済みだった。


――ならば、これだ!!


「【雷天】!!」

 アークに向けて掲げた刀の刀身に、紫電が奔る。アークはそれを目にして、再びその効果を分析してみせた。


――雷系の魔法と同じ性能。状態異常は麻痺、攻撃速度は速いだろうが……攻撃発動までに、タイムラグが発生するか。


 即座に撃てるならば、恐ろしい性能を持つ攻撃となるだろう。しかしながら、これはゲーム。バランスを考えれば、攻撃を避けるか受けられるだけの突破口が用意されているのは想像に難くない。

「【ライトニングエッジ】!!」

 アークは迷い無く剣を振るい、ケインに向けて斬撃を飛ばす。


 アークの放つ雷撃の剣閃は速く、ケインは内心で舌打ちしながら狙いを定め直す。刀の切っ先から放たれた雷撃と、アークの雷撃の刃が衝突する。

 二つの雷撃は拮抗し、次の瞬間に弾けて消えた。


「次はこちらの番だ」

 なにも馬鹿正直に、ケインに先手を譲る必要は無い。先手を取り自分の有利な形に持っていく戦運びもまた、重要なプレイヤースキルなのだ。

「【スラッシュ】!!」

 放たれた【スラッシュ】を確認し、ケインは盾で受け流す体勢を取る。通常攻撃よりもより鋭いアークの剣筋だが、流石はケインと言うべきか。彼は構えた盾を巧みに操り、アークの攻撃を逸してみせた。


「【炎……」

 それは反撃の【炎天】を放つべく、刀を振るおうとした瞬間。ケインは自分の目と鼻の先に、アークが左手に持った≪聖咎の剣≫が迫っている事に気付いた。

「くっ……!?」

 慌てて顔の前に≪天狗丸≫を引き戻したケインだが、アークの一撃の威力に圧倒されてしまう。体勢は大きく崩れなかったが、ノックバックを受けてしまった。


――これが二刀流……!? 速い上に、重い……!!


 ケインが体勢を立て直す間に、アークも技後硬直時間を終える。今の攻防によって、ケインが初のダメージを負う。アークは未だ、無傷のままだ。

「行くぞ……っ!!」

 双剣を構えて駆け出すアークに、ケインは危機感を募らせる。

 今の一瞬の攻防で、ケインは薄っすらと悟った……アークは自分よりも、数段上のプレイヤーだと。


「【アサルトパニッシャー】!!」

 ユニークスキル【デュアルソード】の武技を発動し、加速してケインに迫るアーク。その速さはギルバートには劣るものの、十分に速い。

 左右の剣を振るったアークの姿を見て、ケインは盾を構えた。

「【ストロングガード】」

 これまでと違い、正面からアークの剣を受けるケイン。アークは一瞬、彼の戦術変更を訝しく思うが……しかし、まだ流れは自分の方にあると判断。そのまま横薙ぎの一撃で盾を弾き、ガラ空きになったケインの身体に剣を……そんな戦術を選択した一瞬。


「【シールドバッシュ】!!」

 武技を発動すると同時に、盾の向きを変えてみせたケインの【シールドバッシュ】。それはさながら、盾を鈍器として扱う様なカウンターアタック。【ストロングガード】を使ったのは、武技発動状態においてVITが上がる為。この攻撃において、自分の被るダメージを可能な限り軽減する為である。


 無論、アークに対してダメージを与える事が目的ではない。剣を弾き飛ばすまではいかずとも、体制を崩す為の一手だ。加えて、アークの一撃目は右手の≪聖印の剣≫。それを左腕の方へと押し戻す事で、アークの二撃目を阻害する事に成功した。


「【一閃】!!」

 アークの肩に命中したケインの【一閃】により、そのHPが削られる。更にケインは追撃の手を緩めない。

「【氷天】!!」

 放たれた冷気がアークの身体を包み、更にHPを削る。ケインはMND値を中心に上げる方向にシフトした為、魔技の威力はともかく状態異常の成功率は上がっている。

 その結果アークの身体の一部が氷によって固められ、継続ダメージと行動速度低下という効果を負うことになった。


 ここが勝負所、今ならばアークを追い詰められる。そう判断したケインは、更に仕掛ける。

「【雷天】!!」

 魔技はMPを消費する代わりに、硬直無しで放つ事が可能。更にユニークスキル【鞍馬天狗】の魔技は、ジン達の魔技と同様に詠唱破棄という特徴を持つ。普通の魔法よりも、発動が速いのだ。


「【風天】!!」

 畳み掛ける様にアークを攻撃するケインは、流れを引き寄せられたと判断する。アークは動かず、剣で魔技を受け止めて耐えるようにしていた。

「【ソニックスラッシュ】!!」

 魔技の合間に、武技を混ぜて攻め立てるケイン。アークのHPが、着実に減っていく。


 そして、アークのHPが残り二割程になった。HPを示すゲージが、赤く塗り潰される。

 あと少し……と、ケインは≪天狗丸≫を手にアークに接近する。

「【クインタプルスラッシュ】!!」

 その瞬間、アークがようやく動いた。

「【ヒーリングファクター】!!」

 アークがスキル名を宣言すると、彼の装備した鎧が眩い光を放つ。

「【カウンター】!!」

 そしてアークは右手の剣でケインの攻撃を弾き、左手の剣を突き出した。ケインの右肩にアークの剣が突き刺さり、HPを減少させる。


「く……っ!?」

 ケインが顔を顰めて距離を取ると、アークのHPが徐々に回復を始めている。回復速度は早くはないが、着実に。更に、アークの負った状態異常効果デバフが全て解除されていた。

「戦闘でこの鎧の力を使うのは、貴方が初めてだ……!!」

 アークは反撃とばかりに、ケインとの距離を詰めていく。ケインも体勢を立て直し、剣と盾を構えた。


 双剣を同時に振り下ろすアークに対し、刀で受け止めるのは困難。そこでケインは、盾で受け止めて【シールドバッシュ】でアークの体勢を崩す事にした。

「【シールド……】」

「それは既に見ている……【クイックステップ】」

 ケインが【シールドバッシュ】を発動した瞬間を見計らい、アークは【クイックステップ】を発動。

「くっ……!!」

 アークはバックステップで距離を取り、ケインの武技は空振りに終わる。


 そして【クイックステップ】の効果が続いている内に、アークは再び距離を詰めた。

「【ハードスラッシュ】!!」

 溜め無しの単発系武技では、最も威力の高い【ハードスラッシュ】。ダウンしたボスに使用する等、長剣使いならば常日頃から重宝する武技だ。アークもこの武技をよく使用しており、それ故に熟練度も高い。


 強烈な一撃が、ケインにヒットする。しかしアークは、逆側の左手に持った剣でも【ハードスラッシュ】を放った。

「……っ!!」

 喰らってはならないと、ケインは必死に身を捩る。なんとか直撃は避けたが、攻撃が掠った事でHPは危険域に突入した。


 双剣≪聖印の剣≫と≪聖咎の剣≫。この二つは対となっている武器であり、二振りで一組。いわばジンの≪大狐丸≫と≪小狐丸≫、レンの≪伏龍扇≫と≪鳳雛扇≫同様の武器だ。

 対となっている武器は、一つの武技をそれぞれが放つ事が可能。ここまでそれを見せなかったのは、アークが手を抜いていたからではない。ここぞというタイミングで初めて使い、ケインを着実に倒す為の戦略だった。


 更に距離を詰めるアークは、ケインの頭上に浮かぶHPバーを一瞬見た。残りのHPから見るに、ケインはあと二、三発の攻撃を受ければ倒れる。

 出し惜しみはせずに、宣言通りに全力の攻撃を繰り出そうと決心。両手の剣を握る手に、力を込める。


 だが、ケインもまたタイミングを計っていた。天狗の技を、繰り出すタイミングを。

 アークの眼にこれまで以上の戦意が込められているのを見たケインは、右手に持った≪天狗丸≫を……アークに向けて投擲した。


――何っ!? 自分の武器を、投げた!? 自棄やけになった……いや、彼はそんな男ではない!!

――これが最後の賭けだ!! 行くぞ、アーク!!


「【白狼天狗】!!」

 ケインが武技名を宣言する……そう、これは武技だ。投げられた≪天狗丸≫が白いオーラを放ち、そのオーラは狼の形を取る。そして、迫り来るアークに向けて接近して行った。

「これは……っ!?」

 アークの剣に、喰らい付いた狼。その場で踏ん張って、アークをそれ以上進ませまいとする。


 その間にオーラを形成していた≪天狗丸≫は、ケインの下へと回転しながら飛来。オーラはそのままに、だ。

 これは相手を拘束する武技であり、ケインの奥の手であった。

「はあぁっ!!」

 この好機を、逃す訳には行かない。ケインは駆け出してアークに斬り掛かる。

「【ブレイドダンス】!!」

 アークの目前で≪天狗丸≫を振り上げ、ケインは【長剣の心得】最後の武技を発動した。


 アークに初撃が命中し、そのまま追撃。流れる様な連続攻撃は、まるで舞の様である。正に剣の舞(ブレイドダンス)、武技名そのままの必殺奥義。

 その攻撃回数は、十回……渾身の十連撃。並のプレイヤーならば、これで勝敗は決していたに違いない。


 それでもまだ、アークのHPは僅かに残る。あと一手があれば、確実にそのHPは全て失われていただろう。

 そしてケインは、武技発動後の技後硬直に捕われる……その寸前。

「【一閃】!!」

 これが、最後の一手。アークの肩口から脇腹まで、袈裟斬りにする様に放たれた【一閃】はクリティカルヒット。激しいライトエフェクトが発生し、アークのHPが全損した。


――勝った……!!


 ケインがそう確信し、肩から力を抜きかけたその瞬間。彼の眼に映ったのは、アークの眼。


――まだ終わっていない。


 その眼は、ケインにそう訴えているかの様に見えた。不吉な予感を覚えたケインが、アークのHPゲージに視線を向ける。すると、そのゲージがほんの少しだけ回復する瞬間を目にした。


――これは……まさか、【不屈の闘志】か!?


―――――――――――――――――――――――――――――――

スキル【不屈の闘志】

 効果:戦闘不能状態になった際、一日一度だけHPを1ポイント回復する。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 一日一度限定の、復活スキル。それはアークが第一回イベントの報酬である≪プラチナチケット≫で取得した、保険だった。

 反撃を受ける……そう悟ったケインは、バックステップで距離を取る。そして≪天狗丸≫を鞘に納め、懐に忍ばせた≪オートマチックピストル≫に手を伸ばし……。


「今度は……」

 低く唸るような声で、アークが言葉を紡ぎ出す。

「俺の舞を、披露する」

 そう言った瞬間、アークの両手の剣が白い輝きを放つ。

「【ブレイドダンス・エクストリーム】!!」

 武技名の宣言の直後、アークは≪聖印の剣≫を突き出しながらケインに肉薄する。そして、その切っ先がケインの腹を貫く。


 無論、それで終わりではない。上下左右から繰り出される、鋭い剣閃。その一撃一撃が、ケインの身体を捉える。既にそのHPは失われているが、一度発動した武技は止まらない。

 ケインは都合二十回、アークにその身体を斬られる事になった。


 そして、アークの攻撃が終わりを迎える。双剣を手に残心の構えを取り続けるアークに、ケインがフッと笑みを浮かべ……その身体から、力が抜けた。

 そのままケインは仰向けに倒れ、空を見上げる形になる。

「……アーク、全力を出してくれた事……感謝するよ」

 そう言って、ケインは眼を閉じる。その姿を見てようやく、アークは残心を解いた。

「……その言葉、そのまま貴方にも贈りたいと思う」

 双剣を鞘に納め、アークはケインを見つめる。


「……俺の勝ちだ」

「あぁ……負けたよ」


 二人がそう言葉を交わす内に、ステージにアンナが現れる。それは、決着が付いた事を知らしめる宣言の為。

『大将戦……勝者【聖光の騎士団・Ⅰ】! 従って一回戦第一試合、二対一で【聖光の騎士団・Ⅰ】チームの勝利です!!』

次回投稿予定日:2021/12/27


【桃園の誓い】は、惜しくも初戦敗退となりました。

しかしアークをギリギリまで追い詰めたケインの、熟練プレイヤーとしての実力を感じ取って貰えたなら幸いです。

ところでマリウス事件の事もあって、アークの株が上がるのって何か事件が起こる予兆な気がする。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふむ、流れ的には順当かな?
[良い点] >アークの株が上がるのって何か事件が起こる予兆な気がする。 アーク「大勢のメンバーがマリウスがBANされる瞬間を見てるんだから、問題行動す起こす奴とかおらんやろ(慢心)」
[良い点] ケインさんvsアーク大将戦に相応しい激戦でした。アークはやはり強いですね。これで少しは聖光の名誉挽回となったでしょうか?
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