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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第八章 第二回イベントに参加しました(前)
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08-06 一回戦 第一試合・中堅戦

 先鋒戦の選手が控え室へと引き上げたのを確認したアンナが、次の試合に移行する事を宣言する。

『それでは続きまして中堅戦、参加する選手はステージへお越し下さい』


 そのアナウンスは、各控え室にも届いていた。

 申し訳なさそうな表情を浮かべるアリステラ・セバスチャン・クルスに、立ち上がったライデンが微笑みかける。

「お疲れ様。結果は残念だったけど、立ち回り自体は問題無い。この後の試合でも頑張って貰うから、今の内にHPや装備の耐久を回復しておいてね」

 そう言うと、控え室の扉から一歩出るライデン。今回の敗北は、相手の奇策によるものだ。三人の堅実な戦い振りは、決して悪いものでは無かった。


 対するライデンの相棒役であるギルバートは、余裕の笑みを浮かべて槍を手に歩き出した。

「心配は要らない、アリステラ君。私が中堅戦を制し、アークが大将戦を制すれば勝利は確定するのだからね」

 気障ったらしい身振り手振りだが、今この状況ではその自信満々な姿が頼もしくもある。

「お願い致しますわ、ギルバートさん」

 アリステラの言葉に、ギルバートは機嫌良さそうに頷いてみせた。その余裕の源は、トッププレイヤーとして積み重ねて来たアバター性能と己のプレイヤースキルに対する自信である。


「不甲斐ない結果、誠に申し訳御座いません。ギルバート様、ライデン様……何卒宜しくお願い致します」

「力及ばず、申し訳ない。どうか、宜しくお願いする」

 セバスチャンとクルスの態度も、実にしおらしい。幹部メンバーである彼等に頼られる事に加え、アリステラからの懇願。ギルバートのテンションは現在、最高の状態だ。


「さぁ、行こうかライデン。私達の力で、【聖光の騎士団】に勝利を」

 大仰な台詞ながら、その瞳に油断や慢心は無かった。それを認めたライデンは、笑みを浮かべて頷いた。

「あぁ、行こうギルバート。僕達のコンビネーションは、完璧だ」

 自信に満ち溢れた二人の様子に、アークは口元に薄っすらと笑みを浮かべる。戦闘において、彼等の存在ほど心強いものはない。


************************************************************


 ギルバートとライデンがステージに上がると、そこには既に対戦相手である二人が待ち構えていた。

「ゼクスさん……それに、イリスさんですね」

 カンフー映画に登場するような服を着た青年・ゼクス。そして白いチャイナドレスを身に纏った美女・イリス。

 βテスト時代に一度、共にレイドを組んだ事がある相手だ。とはいえ、その見た目は随分と様変わりしているのだが。


「おぉ、お久し振りですね、イリスさん。その白いチャイナドレスが、貴女の美貌を引き立てておられる。よくお似合いですよ」

 のっけから、ギルバートがそんな気障ったらしいセリフを口にする。テンション最高潮な上に、女好きな性格も絶好調に発揮されている。


「それはどーも……はぁ、うちのギルマスもそれくらいお世辞が言えないものかしらね」

「相変わらずだなぁ……苦労してそうだな、ライデンさんよ」

 相変わらずの様子を見せるギルバートに、イリスは鬱陶しそうに。ゼクスは苦笑い気味に言葉を返す。


「お元気そうで何よりです。貴方達をギルドに勧誘したかったのですが、間に合いませんでしたね。どうです? このイベントの後に、少しお話でも」

 ライデンの言葉に、ゼクスは苦笑を返す。ギルド【聖光の騎士団】の参謀役、ライデン……相変わらず、ギルドの利益追求に貪欲だ。

「その辺は、うちのギルマスの判断に任せるわ。一応、話しとくからよ……今は、雑談する場じゃないだろ?」

 そう言うと、ゼクスは腰に下げた刀を抜く。その刀を見て、ライデンは目を細めた。


――短剣……? しかし、刀にも見える……まさか、【七色の橋】の刀と同じ性能を持つのか……?


 不確定要素が大きいと判断したライデンは、ギルバートにそっと耳打ちする。

「ギル……パターンCで。その後、AかBに移行する」

「……ふむ? まぁ良いだろう。この私の実力を引き出す事にかけて、君の右に出る者は居ないからね」

 自信過剰でプライドの高いギルバートだが、彼が素直に言う事を聞く数少ない同性の相手。それがライデンだ。


「あちらさんの連携は、年季が入ってるわ。行けるわよね、ゼクス」

「年季なら、こっちも負けちゃいねぇさ。何せイトコだぜ、俺等はよ!」

 ゼクスとイリスの作戦は単純。第一回イベントから今日に至るまでに磨き上げたスキルと、手に入れて来た装備。それらの力をフルに発揮して、圧倒する。

 というのも、二人は細かい事を考えるのが苦手なのだ。感覚的に動くタイプである。

 作戦立案……頭脳労働は、ずっとケインの役目だったのである。それが吉と出るか、凶と出るか。


『それでは一回戦第一試合・中堅戦……準備は宜しいですね?』

 両チームの間に立つアンナが、やっと始められそうだと判断。ここぞとばかりに、アナウンスを始める。

「おうよ!」

「ええ、大丈夫よ」

「お願いします」

「問題無いとも、麗しき司会者さん」

 ギルバートの台詞に顔を顰め、アンナが右手を掲げる。


『それでは、試合……開始!』


 ……


 試合開始の合図と共に、まずはゼクスが走り出す。向かう先はギルバートで、ゼクスは両手に中華刀を携えている。

「この私が見た覚えの無い武器か……」

 迫るゼクスを見据え、ギルバートは目を細める。大規模ギルドのサブマスターである彼は、多くの情報を目にし耳にしている。しかし、和風の刀同様に中華風の武器も見聞きした覚えは無い。


「さぁて、やりますかぁ!」

 右手に杖を構えたイリスは、同時に左手であるアイテムを宙に放つ。そのアイテムはイリスのすぐ側でフワフワと浮く。それは先の試合でフレイヤが用いていた物と同じ、≪失われし魔導書≫である。

 いざライデンを牽制しようと思い、視線をライデンに向け……イリスはそこで、形の整ったその眉を顰めた。


「魔職なら、やはりこのレアアイテムは鉄板ですよね。解りますよ」

 そう言うライデンのすぐ側に、同じく≪失われし魔導書≫が浮かんでいる。更にはライデンが右手に持つ物……それはタクト型の杖だ。

 既に彼は魔法詠唱を始めており、その描かれる速度は速い。


 杖にも複数の種類があり、その形状によって性能が変わる。謂わば剣のカテゴリー内に長剣や短剣があるのと同様だ。

 イリスが持つ杖は、一般的な長い魔法杖。魔法攻撃に長けた装備である反面、詠唱速度はデフォルトのままだ。

 対するライデンの持つタクト型杖は、詠唱速度が速い代わりに威力が減衰する。


 一対一で正面からの魔法の撃ち合いとなれば、詠唱速度が速い方が有利だ。攻撃が当たりさえすれば、詠唱はヒットストップによって止められてしまう。

 しかしながら、今は一対一ではない。二対二のタッグ戦だ。


「っしゃあ!!」

 ギルバートと切り結ぶその寸前、バックステップで距離を取るゼクス。謎の掛け声を放ちながら、ライデンに向けて≪投げナイフ≫を放った。

 消費アイテムである≪投げナイフ≫のダメージは低いが、いくら低くてもダメージはダメージ。魔法詠唱を止めるのには、事足りる。


「させぬよ!」

 しかし、その≪投げナイフ≫はギルバートの槍によって打ち落とされてしまう。

 飛んでいるナイフを的確に、しかも無造作に叩き落としてみせたのだ。ギルバートのAGIの高さと、プレイヤースキルの高さがそれを可能にしていた。


「流石だ、ギル。【シャイニングアロー】」

 ギルバートの腕前を賞賛しつつ、ライデンが魔法を発動する。選択したのは光属性魔法において、最も射速が速いアロー系魔法。

 しかしイリスも、指を咥えてライデンの魔法が完成するのを待っていた訳ではない。

「【ストーンウォール】!!」

 地属性魔法は、他の魔法と違い実体を伴う魔法である。地面から競り上がった石壁が、ライデンの【シャイニングアロー】を防いでみせた。


「危ね……うぉっと!?」

「余所見をしている暇は……与えんよ!!」

 イリスの無事を確認してホッと一息……と思いきや、ギルバートがゼクスに向けて槍の攻撃を放つ。

「美しい花に! 見惚れるのも! 解るがねっ!」

 武技を使用しない槍捌きによる攻撃は鋭く、そして速い。しかしながら、ゼクスもAGI重視のプレイヤー。ギルバートの槍攻撃を捌き、躱していく。


「くっそ、相変わらず速い……っ!!」

「君こそ、私の槍を躱すとは……中々っ……出来るじゃないか……っ!!」

 手数で勝るゼクスだが、それでもギルバートの槍を防ぐので精一杯だ。


 これはステータスのAGIの高さと装備の性能に加え、ギルバートの技量の高さも大きく影響している。

 武闘派ギルドのトッププレイヤーの座は、伊達では無い。無駄を排した動き、相手の動きを先読みする洞察力。VRMMOに日常の多くの時間を割き、ひたすら強さを追い求めて来たギルバート。


 しかしながら学校の課題を後回しにし、睡眠時間は授業中にという生活を送ってまで、VRMMOに情熱の大半を注ぎ込んでいる。これは褒められたものではない。

 彼がそこまでVRMMOにのめり込む理由は、ただ一つ。


――最高最速のプレイヤーとして、チヤホヤされるのは……俺だっ!!


 これである。つまりはギルバート、モテたいが為にVRMMOでトッププレイヤーとして君臨し続けようとしているのだ。

 割とどうしようもない理由だが、彼は至って大真面目。学校では女子に話し掛けられない陰キャな鳴洲人志だが、VRMMOでは誰もが一目置くギルバート。VR世界で彼女を作り、リアルでもお付き合いしてリア充になる。それが彼の最終目標だ。


 とても、おバカである。


 ……


 一方、発動の早い初級魔法で撃ち合いを繰り広げるイリスとライデン。互いに全神経を集中させており、一歩も引かない攻防を繰り広げている。

 しかし、これはライデンの罠だった。


――彼女のレベルは恐らく、僕のレベルよりも下。MPが先に尽きるのは、あちらだ。


 幸いな事に、【聖光の騎士団】はMP回復薬の備蓄も充実している。というのも、【聖光の騎士団】には三十人の生産プレイヤーで構成されたサブギルド【聖印の巨匠】によるバックアップを受けているのだ。

 物資的支援を受け、万全の体制で臨んだイベント……という訳である。


 同時にライデンは、ゼクスとイリスをよく観察している。見るべきは動きではなく、表情だ。ジリ貧に見えて、二人の眼には戦意の炎が衰える事無く燻っている。

 ゼクスはギルバートに防戦一方……しかし、まだ何かを隠しているのだろう。イリスもまた、何かしらの切り札を持っているはず。

 それを使わせた後で、戦い方を変える。速さ重視のゼクスは典型的な斥候スカウト型で、火力重視のイリスは砲台型の魔法職。そういった相手との戦いは、何度も経験済みだ。


 想定以上のギルバートとライデンの実力に、ゼクスとイリスは作戦を早める必要があると判断した。ライデンの読み通り、二人は奥の手を隠しているのだ。

「ゼクス! 仕掛ける!」

 そのタイミングを指示するのは、イリスと取り決めがされていた。


 イリスの宣言を聞き、ゼクスはニッと口元を歪ませる。

「あいよぉっ!! ギアを上げるぜ!!」

 途端に、ゼクスのスピードが上がる。走る速さだけではなく、攻撃速度も跳ね上がった。

「こ、これは……っ!!」

 目で追い切れない程の速さで、ゼクスが両手の中華刀を振るい始める。唐突なテンポアップに、流石のギルバートも目を見開いた。

「この速さ、紛れもなく私に近いもの……!! 地味極まりない斥候職かとッ……思ったらっ!! やるじゃないかっ!!」

「地味は余計だ、色男!!」


 そんな前衛の戦闘を見遣り、イリスはニッと不敵に笑ってみせる。

「さぁて、派手にブッ込むよー!」

 そう言いながら、イリスは魔法陣を展開。その魔法陣の輝きの色から、雷系の魔法……そして、大きさからは最高等級の魔法である事が窺い知れる。

 そんなイリスの行動に、ライデンは訝しみながらも魔法陣を展開する。どんな大魔法も、詠唱段階で阻止してしまえば怖くはない。


 しかし、そんなライデンの行動を予測していたゼクスが行動を起こす。

「【超加速】!!」

 テンポアップしたゼクスが、更にレアスキル【超加速】を発動。一定時間限定ながら、その行動速度が倍加する。


―――――――――――――――――――――――――――――――

スキル【超加速】

 効果:三十秒間、使用者のAGIを100%増加。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 ゼクスはギルバートの死角に回って、右手の中華刀を鞘に収める。中華刀の代わりに手を伸ばしたのは、腰に巻いた飾り布の中に隠したホルスター。

「数撃ちゃあ当たるっ!!」

 連続する乾いた破裂音が、ステージ上に響き渡る。


 彼が手にしているのは、ハンドガンと大差ない小型の銃。しかしながら、ハンドガンではない。チェコスロバキアで開発されたサブマシンガン≪Samopal vzor 61”スコーピオン”≫。

 サブマシンガンでありながらハンドガンと同様のホルスターに入れて携帯することが可能であり、携行性の高さ故に諜報機関や秘密警察が暗殺用に活用していると言われる銃だ。某アニメの主人公のそれと違って、色合いは地味だが。ピンクじゃないが。

 斥候スカウト役が持つならば、これが最適……そう判断し、凄腕生産職人が拵えた逸品である。


「銃だとっ!?」

 そんな≪サブマシンガン≫から吐き出された、多量の銃弾。慌ててライデンを守るべくギルバートがその射線上に入るが、全てを防ぎきる事適わず。数発の弾丸がライデンに向けて飛んでいく。

「くっ……!? いや、ダメージは大したことは無い……いや、まずい……っ!!」

 連射性能を重視し、一発あたりのダメージが低い≪サブマシンガン≫。しかし、その本懐は遂げられた。


「ナイスよ、ゼクス!! さぁ、行くわよ!! 【ヴォルテックス】!!」

 イリスの放った【雷魔法の心得Lv10】で使用出来る、最高レベルの魔法攻撃。上空から降り注ぐ落雷が、ギルバートとライデンに襲い掛かる。

 そんな霹靂を【超加速】で回避し、ゼクスはイリスの隣に立つ。そこで丁度、【超加速】の効果が終了した。


「……油断してくれている間に、大技をぶっ放す。作戦通りだな」

 ギルバートとライデンは、二人を格下と見做していた。そうして彼等が油断している隙に、彼等が順応出来ていない致命的な攻撃で勝負を決める。それが二人の作戦だ。

「言ってるこっちが油断しないでよね、ゼクス。思ったよりも、相手のHPを削れていない。詰めまでしっかりと……えっ!?」


 降り注ぐ落雷によって発生した白煙が晴れたそこに立っていたのは、鋭い視線を向けて来る【聖光の騎士団】の誇るサブマスターと参謀。多少のダメージは与えられた様だが、そのHPバーは半分程残っている。その程度で済んだのは、彼等のステータスに加えて装備にある。

 【聖光の騎士団】のトッププレイヤーが身に纏う装備は、ギルドメンバー達が集めた素材を使って最大レベルまで強化されているのだ。


 そしてギルドメンバーがそのルールに従うのは、そうするだけの実力がトッププレイヤー達にあるという考えからだ。実力こそ全てという、【聖光の騎士団】のルールがあるからである。

「一つ、良い事を教えて差し上げよう……真の強者は、搦め手など使わない」

 ゼクスのみならず、イリスにも厳しい視線を向けるギルバート。軽薄な優男の顔を捨て、MMOプレイヤーの最先端を走る者としての戦意を露わにする。

「パターンCはここまでだ、ギル……パターンBに移行、一気にケリを付ける」

 ライデンの言うパターンCとは、手札を温存して防御に徹するというもの。そして相手が切り札を切り尽くした今、二人は本気で攻撃に移る事にした。


「真の最速というものを、教えて差し上げよう」

 ギルバートがそう告げると、地面を蹴ってゼクスへ駆け出す。

「チッ……なら、もう一回……!!」

 右手に≪サブマシンガン≫を、左手に≪ユージンの中華刀≫を携えて駆け出したゼクス。ギルバートと正面から斬り結ぶ……と見せかけて、武技を発動させる。

「【クイックステップ】!!」

 切り札となる【超加速】を使った今、ゼクスはギルバートと正面からやり合うのは不利と考えた。


 その理由は、彼が現在スキルスロットにセットしているスキル……【スピードスター】のデメリットがあるからだ。彼もまた、【九尾の狐】の劣化版スキルを取得済みだった。そうでなくては、ジンに対抗する事が出来ないと考えたからだ。

 AGI強化の代償に、他のステータスが半減している現状で、ギルバートと正面からやり合うのは無謀。故に、先にライデンを狙う。


 イリスもまた、【神獣・麒麟】の劣化版である【マジックスター】を取得している。その強化されたINTを駆使して、ギルバートに狙いを定める。

「【サンダーボール】!!」

 放たれた四発の雷球は、ギルバートの進路上に向かって飛ぶ。タイミングもピッタリで、イリスは当たると確信した。


 しかしそれは、ギルバートが本気で全速力を出していたのならば……の話だ。

「これが神速だ」

 ギルバートは更に加速し、イリスの【サンダーボール】よりも速く駆け抜ける。そして立つのは、イリスの目前。

「【スラスト】」

 槍の一振りでイリスは横に吹っ飛び、倒れ伏す。そのHPバーが減少し、危険域に突入した。


 ギルバートはイリスに目もくれず、ライデンに迫るゼクスを睨む。

「返礼だ……【超加速】」

 ゼクスと同じ、AGI倍加を実現するレアスキル。このAGI倍加はステータス向上系のアイテムやスキルと違い、ステータス基本値を対象とするのではない。ステータス合計値を対象としている。

 彼のAGIは55であり、装備による強化値が50。更に【スピードスターLv8】によって、基本値の40%が上乗せされる。

 ステータス合計値127ポイント。それが倍加となれば、AGIは254という高数値となる。


 その速さを駆使して、ギルバートがステージ上の端から端まで駆け抜ける。あっという間にライデンとゼクスの間に入り、槍を振り翳した。

「な……っ!?」

「【ラウンドスラスト】」

 振るわれた槍の一撃で、ゼクスは大きく吹き飛ぶ。一撃で大ダメージ。HPは3しか残っていない。


 本気を出したギルバートの戦いぶりに、会場から歓声が巻き起こる。

「ギルバートさんが本気になったぞ!!」

「流石に速いな……!!」

 そんな歓声を耳にしつつ、ゼクスとイリスに声を掛けるギルバート。

「我々が油断している間に、勝負を決めようという発想は良かったが……残念ながら、それでも届かない。ライデン!!」

「あぁ、解っているよギル」

 彼が右手に持つ≪古代樹のタクト≫が光を帯び、その足元に魔法陣が描かれていく。


「させっかよ!!」

 横たわりながらも、≪マシンガン≫の銃口をライデンに向けるゼクス。しかし、それを許すギルバートではない。

「【グングニル】!!」

 手にした槍で、突きを放つモーションを繰り出すギルバート。すると槍の穂先からオーラの槍が飛び、ゼクスの≪マシンガン≫を弾き飛ばす。


 そうしている間に、ライデンの魔法が完成した。

「お返しです……【ヴォルテックス】」

 降り注ぐ落雷は、イリスの放ったモノと同様。最も、威力はイリスの【ヴォルテックス】よりも低い。これは【マジックスター】を持つか持たないかの違いだろう。

 しかしながら、既にイリスもゼクスもHPは危険域。この攻撃で、確実に葬る事が出来る……そうライデンは判断した。


「まだまだぁっ!! 【クイックステップ】!!」

 落雷に撃ち据えられる直前、ゼクスは立ち上がって武技を発動。降り注ぐ落雷を避けつつ、ギルバートとライデンに向けて駆け抜ける。

「往生際の悪い男だ……【グングニル】!!」

 今度は突きでは無く、槍を横薙ぎに振るうギルバート。三日月状のオーラが発生し、ゼクスに向けて飛んでいく。


 迫る斬撃、降り注ぐ落雷。それを見ながら、ゼクスは歯を食いしばる。

 負けてたまるかという思いが彼の全神経を研ぎ澄まし、勝ってみせるという執念が思考を加速させる。


――ジンならッ!! この程度、避けられるッ!!


 同じ戦闘スタイルの、フレンドプレイヤー。忍者ムーブをする、年下の少年。気の良い彼と打ち解けてからは、何かと世話を焼く事もあった。彼がお姫様に対して一歩踏み出せずに居るのを見れば、背中を押した事もあった。


 彼ならば、この程度のピンチはあっさり乗り越えられてしまうだろう。ならば自分にだって出来るはずだ。

 兄貴面し続ける為に、そして決勝で彼と戦う為に。この戦いを、自分達が制する。


「ジンと戦うのは、俺だぁッ!!」


 落雷をかわしながら、スライディングしてギルバートの斬撃を避ける。そのまま立ち上がって、更に走った。

「む……っ!!」

 ギルバートの目前に辿り着いた所で、【クイックステップ】の効力が切れた。ゼクスはそのまま、両手に中華刀を構える。

「よろしい、直々に引導を渡して貰いたいと……そういう訳だな!!」

 そう言って槍を振り被るギルバートに、ゼクスが一歩踏み込んだ。


「【一閃】!!」

「ぬぅっ……!!」

 ギルバートの胸元を斬り付けようと【一閃】を放つゼクスだが、ギルバートはそれを紙一重で回避する。そして、反撃の為に槍を引いた。


 そんなギルバートに向けて、ゼクスは更に武技を発動する。今日この日の為に、必死になって会得したプレイヤースキル。【七色の橋】の弟分・妹分達が得意とする、システム外スキルだ。

「【スライサー】!!」

「ぐぅっ!?」

 流石のギルバートも、顔色を変えた。槍で彼を斬るか刺すかしたいが、距離が近過ぎる。やむをえず、蹴り飛ばそうと足を上げるが……。

「【デュアルスライサー】!!」

 二連撃で槍を持つ右腕と、蹴りを出そうとした右足を斬り付ける。


「おイタはそこまでだ。【ウィンドボール】」

 ギルバートにも当たってしまうが、多少のダメージくらいは目を瞑って貰おう。そう考えたライデンのタクトから放たれた、【ウィンドボール】。それを視界の端で捉えたゼクスの眼が、更に鋭い物になる。

「【ラピッドスライサー】!!」

 ギルバートを斬り付け、更に追撃を放つ。その際、同時に【ウィンドボール】を斬り付けて掻き消して見せるという、神技を見せ付けた。

「な……っ!?」

「おの、れぇ……っ!!」


 レアスキル【スピードスター】の弊害で、ギルバートのVITは半減している。既にイリスの【ヴォルテックス】で半減していたHPが、徐々に減っていく。

「この……っ!!」

 必死に槍を引き戻し、攻撃を防ごうとするギルバート。そんなギルバートの必死さが実ったのか、ようやく彼は槍を構える事に成功した。

 しかし、ゼクスの猛攻撃はまだ続いている。


「【一閃】!!」

 槍で防ぐも、クリティカルが発動した【一閃】。その威力で、ギルバートは多少ながらノックバックを受ける。

「【サイクロンスライサー】!!」

 そして、ギルバートのHPが残り僅かとなった。後一撃……そう確信し、ゼクスは中華刀を構える。

「【スライサー】!!」


 瞬間、甲高い金属音が鳴り響く。それは、ゼクスの右手に持つ中華刀が砕け散った音だ。

「……はっ!?」

 これはギルバートの槍≪スピア・オブ・グングニル≫の持つ、耐久ダメージ+5%によるものだ。通常の斬り合いよりも、耐久値へのダメージ蓄積が増加するのである。


 途切れてしまった【チェインアーツ】。そのデメリットである技後硬直が、ゼクスの身体を縛る。

「……やってくれたじゃないか。だが、これで終わりだっ!!」

 ギルバートが槍を振り上げるが、その顔面に向けて≪サンダーボール≫が飛来した。

「ぬおぉっ!?」

 顔面に【サンダーボール】を喰らい、ギルバートは背中から倒れ込んだ。

「はぁ、はぁ……やりぃっ!!」

 何とか、ギリギリの体力を残していたイリス。彼女はゼクスの猛攻の影で、倒れたフリをしながら魔法を詠唱していた。自分の身体で、魔法陣を隠しながら。


 しかし、そこが限界だった。

「終わりです」

 詠唱速度の速い、風系統の魔法。それを詠唱速度特化のライデンが使えば、あっという間に魔法が完成する。

「【ウィンドボール】」

 ゼクスとイリスに向けて放たれた、二発ずつの【ウィンドボール】。技後硬直中のゼクスも、倒れたフリをしていたイリスも回避は出来なかった。


「ちぃ……っ!!」

「……あぁ……ダメだったかぁ……」

 HPがゼロになり、ゼクスは膝から崩れ落ちた。同様に、【ウィンドボール】が直撃して今度こそ倒れたイリス。


 ステージ上に立っているのは、ライデンのみとなった。

「最後に噛み付かれたね、ギル」

「いやなに、やはり美しい花には棘があるという事さ」

 ライデンの軽口に、普段の気障ったらしい台詞を吐きながら立ち上がるギルバート。そんなステージに、何処からともなくアンナが現れる。

『試合終了……中堅戦、勝者【聖光の騎士団】!!』

次回投稿予定日:2021/12/26


サンタさんがきました。

もとい、サンタさんかきました。


【絵心の無い作者がアプリでヒロインのサンタコスを描いてみた~差分を添えて~】


星波姫乃Ver

挿絵(By みてみん)


ヒメノVer

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ギル君、性格(と欲望)が残念じゃあ無ければ……。 尚、それでも忍者の方が速い模様。
[気になる点] 連射性能を犠牲にし、一発あたりのダメージが低い≪サブマシンガン≫。 とありますがゲーム開始序盤の武器ではない限りこんな性能のSMGは普通、見かけないと思います。ゲーム的には大抵SMGは…
[良い点] トッププレイヤーのPSの差というより大規模ギルドのマンパワーによる差が大きくでた感じですね。ギルバートは偉そうに「真の強者は~」とか言ってましたがそりゃ装備に大きく差あるなら小細工は必要な…
感想一覧
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