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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第八章 第二回イベントに参加しました(前)
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08-04 幕間・【桃園の誓い】と【聖光の騎士団】

 ついに決勝トーナメントの組み合わせが決定し、会場ではプレイヤー達が口々に予想を語る。

「【聖光の騎士団】と【森羅万象】がぶつかるのは、決勝戦だな」

「いやいや、第一回で活躍したのは【七色の橋】の方だろ」

「大規模ギルドには敵うはずがねぇよ!」

「【桃園の誓い】は実力派プレイヤーが揃っているわ、他のチームにも引けは取らないはず」

「それを言うなら【遥かなる旅路】もだろ? 大規模ギルドの影に埋もれちゃいるが、堅実なプレイヤーが揃ってるんだぜ?」


 やはり、話題に上るのは有名なプレイヤーを擁するチーム。特に今回は、大規模ギルド【聖光の騎士団】と【森羅万象】が一枠ずつしか進出出来ていない。その事実が、プレイヤー達の期待を加速させる。


「折角だ、俺は大物喰い(ジャイアントキリング)が見たいね」

「大規模ギルドのチームを、少数精鋭のギルドチームが撃破するってか? そう上手く行くもんか」

「解らないわよ? 何せ【七色の橋】と【桃園の誓い】は、揃いも揃ってイベントランカー集団だもの」

 加熱していくプレイヤー達の予想合戦。観客席の喧騒は、モニターを通して出場プレイヤー達の控室にも届いていた。


************************************************************


「満員御礼だな。この空気の前で、俺達が【聖光の騎士団】を破ればどうなるかね」

 腕を組みながらモニターを眺めていたゼクスが、不敵な笑みを浮かべて仲間達に振り返る。そんな彼の言葉に、愛用の槍をメンテナンスしていたダイスが笑い掛けた。その笑みは、一言でいえば獰猛な猛獣を思わせるものだ。

「決まってんだろ? 最高に盛り上がる」

 そんな二人のやり取りに、イリスも挑戦的な視線をステージに向ける。

「だよねぇ……? やるからには、全力で勝ちに行かないと。いつまでも【聖光の騎士団】の時代じゃないって教えてあげようよ」

 そう言って形の良い唇の端を吊り上げる彼女は、獲物を狙う狩人の如き表情をしていた。


 好戦的な三人組に対し、他の面々は苦笑気味だ。第二回イベントの決勝トーナメント……そんな大舞台を前に、テンションが上がっているのだろうと察していた。


 そんな三人に比べ、普段と変わらない様子のギルドマスター・ケイン。

 彼は元より雑魚モンスターとの戦闘も、ボス攻略の最中も……そしてイベントの舞台でも、決して心を乱さない。心を乱す事で、本来の力を出せないという事がないように自制している。

 それは正に、しずかなること林の如く、だ。ある意味、【鞍馬天狗】はケインに最も最適なユニークスキルだったのだろう。


「前向きなのは大いに結構だ。しかし余計な力が入ったり、勝ちを急いだりしないようにな?」

 普段通りの力を出せば、自分達は【聖光の騎士団】と渡り合える……ケインはそう確信している。

 攻略最前線で通用するだけの実力を持つ、自分とゼクス・イリスにゲイル。同様に最前線に参加して来たダイス・フレイヤ……ゲストとして参加してくれたリリィ。

 ゲームを始めて日が浅いチナリも、既にレベルを上げて立派な戦力だ。更に頼れるPAC(パック)も加入して、チームの戦力は増強されている。


「なぁケイン。お前さんの実力はよく知ってるが……アークを本当に倒せるか?」

 いかめしい面構えの割に、そんな弱気な言葉を口にしたゲイル。彼はその外見に反し慎重派であり、些か心配性な性格をしていた。ゲイルさんは、ギャップの塊なのだ。趣味はお菓子作りだ。


 そんなゲイルの言葉は、チームの士気低下を招きかねないものだ。しかし、ゲイルの不安は最もである。

 それに、皆の前でゲイルを窘めるのも良くない。それはそれで、不和の元となる。ゲイルに悪気はなく、彼の性格ゆえに口をついて出た言葉というだけだ。


 ならば、自分がするべき事はただ一つ。

「心配は要らないさ……俺達は最前線プレイヤーに見劣りしない、そんなチームだ。持てる力を出し切れば、必ず勝てる」

 自信を持ち、仲間を鼓舞すること。仲間の不安や迷いを断ち切り、その心を奮い立たせることだ。

「それに、良い機会だろう? ジン君達に見せてあげよう。俺達も、【七色の橋】に負けていないぞ……ってね」


 ギルド【七色の橋】。

 恐らく、現在のAWOで最も注目を集めているギルド。その見た目もさる事ながら、高い実力と強い団結力を誇るプレイヤー達。その実、純粋にゲームを楽しむ学生が大半を占めており、自分達にとっては弟分や妹分の様な存在。

 自分達は彼等と同盟を結んでおり、姉妹ギルドと呼んで差し支えのない間柄だ。そんな彼等の前で、無様な戦いは見せられないだろう。


「そうね……彼等に幻滅されない様に、頑張らないと」

「えぇ、格好悪い所は見せられないわね」

 クスクスと笑いながら、椅子から立ち上がるのはフレイヤとチナリ。どことなく楽しそうに見えるのは、やはり彼女達もケイン達と同じだから。

 親しい存在だからこそ、【七色の橋】にも負けたくはない。人生だけでなく、ゲームでも先を行く先輩なのだと格好を付けたい。


 そして……。

「その通り。それに決勝の舞台で【七色の橋】と戦う為には、絶対に負けられないだろう?」

 ケインの言葉に、リリィを除くプレイヤーメンバー全員がニヤリと笑う。それは自分達が勝つのだという意志と同時に、【七色の橋】が決勝戦に駒を進める事を前提とした言葉だったからだ。


 今回、ゲストメンバーとして【桃園の誓い】チームに参加したリリィ。彼女は自分以外のメンバーの様子に、つい口を挟んでしまった。

「……彼等が決勝戦に進出すると、確信しているんですね」

 言ってから、余計な事だったか? と思うが、すでに皆まで言い終えてしまっている。覆水は盆に返らない。


 そんなリリィの問い掛けに、ケインは苦笑する。

「彼等が【聖光の騎士団】や【森羅万象】に負ける姿が、俺には全く想像出来ないんだ」

「まぁ……ケインさん程のプレイヤーにそこまで言わせるなんて、本当に【七色の橋】は凄いギルドなんですね」

 第一回イベントの【七色の橋】……PV動画こそ見たものの、彼女はジン達の全てを目にしていない。だからこその疑問だった。


「彼等の戦いを傍から見ているだけだと、多分解らないかもしれないな。俺達は肩を並べて戦った事があるから、彼等の本当の強さが解るつもりだ」

 ケインがそう告げると、リリィはこれまでの事を思い返してみる。


 第一回イベントでの、ヒイロやレンの様子。

 イベントが終わった後の、彼等との遭遇。

 ユージン工房での、賑やかなやり取り。

 確かにこれまで出会ってきたプレイヤー達とは、何かが違う気はしている。その何かが、未だに解らないのだが。

 それを知る事ができれば……もしかしたら、自分も何かを変える事が出来るのだろうか。


「少し、私も楽しみになってきました」

 年相応の好奇心、ゲーマーとしての冒険心が、リリィの胸に湧き立つ。そんなリリィの様子に、ケインは満足気に頷いてみせた。

「俺達の依頼に応じてくれたリリィさんの為にも、しっかり勝ち上がらないといけないしね」

 そう嘯いたケインが、モニターに映るステージに視線を向けた。


 今はまだ、第一回戦の舞台……しかしこの戦いにも、次の準決勝にも勝利して、決勝の舞台まで駆け上がる。

「決勝で【七色の橋】と戦うのは、俺達だ」


************************************************************


 その頃、【聖光の騎士団】の控室。トップギルドを自認する彼等もまた、第一回戦ではなくその先の戦いに意識を割いている。

「我々が一枠しか取れないとはね……」

 そう言ってかぶりを振るのは、サブマスターであるギルバートだ。

 彼から見ても、他に参加していた三チームはそれなりの実力派揃いだった。故にギルバートは、【聖光の騎士団】が枠の半分を独占すると確信していたのだが……彼の予想は、まんまと覆される形となった。


「正直言うと、【森羅万象】も同じ感想じゃないかな。【七色の橋】と【桃園の誓い】は予測できていたけど、まさか他のギルドがここまで勝ち上がるとはね」

 肩を竦めながら、率直な感想を口にするライデン。彼の予想では、【聖光の騎士団】と【森羅万象】が二枠ずつ。残りが【七色の橋】と【桃園の誓い】で、他の二枠は中規模ギルド【遥かなる旅路】とPKギルド【漆黒の旅団】と予想していたのだ。

 彼等は知らない……【漆黒の旅団】が、【七色の橋】を襲って壊滅状態にある事を。


 そんな側近二人の感想に、腕を組んで佇んでいたアークが反応する。閉じていた瞳を開け、その視線を仲間達に向ける。

「AWOというゲームは、DKCや他のゲームには無い()()()()()があるのかもしれない。この決勝トーナメントは、それを見極める良い機会かもしれないな」

 アークは当然、【七色の橋】や【桃園の誓い】に注目していた。しかしながら【魔弾の射手】や【ベビーフェイス】、【暗黒の使徒】が勝ち上がって来るとは予想出来なかった。


「誰か【七色】と【桃園】、【旅路】以外の情報を知らないかい?」

 ざっくばらんな口調のシルフィに、アリステラが嫌そうな顔をした。それは別にシルフィの話し方が嫌とか、はたまたシルフィ自身が嫌いとか、そういった理由ではない。

「発言してもよろしいでしょうか、お嬢様」

 執事服の青年が、そう言ってアリステラに伺いを立てる。


 彼は、騎士風の鎧を好んで身に纏うアリステラと行動を共にするプレイヤー……二十代後半から三十代前半と思われる青年・セバスチャン。姿勢も言葉遣いも違和感なく、立ち居振る舞いも完璧。その姿は、どこからどう見ても執事だ。

 アリステラが嫌そうな顔をしたのは、彼が話に加わるのが解っていたからである。


「何か知っているのか、セバスチャン」

 アークが彼に視線を向けると、セバスチャンはハッキリと頷いた。溜息を吐いたアリステラが、仕方がないと言わんばかりに許可を出す。

「話して差し上げて」

「かしこまりました、お嬢様」

 恭しく一礼するセバスチャンだが、アリステラは尚の事嫌そうな顔をした。


「まず【ベビーフェイス】ですが、良くて中の上程度のギルドチームです。メンバーは五人で、残りはPAC(パック)で補っております」

「ふむ、一人一体のPACパックを揃えたか……」

 難しい顔をするベイルだが、セバスチャンは首を横に振る。

「ですが脅威とはなりません。彼等はヴィジュアル面を重視した為、契約PACパックのランクも然程高くありません」

「何で決勝トーナメントに出て来れたんだ、それで……」

 理解出来ないといった表情のベイルに、セバスチャンが頷く。


「彼等の標的は【七色の橋】でしょう。決勝トーナメントで彼等を叩き潰す、というつもりかと」

「そいつはまた……難儀だねぇ」

 セバスチャンの言葉にそう嘯いたのは、斥候スカウト役のヴェインだ。今回は斥候スカウトは不要な決闘イベント。にも関わらず【聖光の騎士団】の第一部隊に参入したのは、アークの意思だ。


「次に【暗黒の使徒】ですが、彼等は全員がプレイヤーで構成されているはずです。このギルドは、十数人によるPKの集まりですので」

「あ、PKギルドなんですね?」

 それに反応するのは、可愛らしい雰囲気をまとう少女だ。彼女のプレイヤーネームは【ルー】。第一回イベントでも48位にランクインしている。


 彼女はDKC時代から【聖光の騎士団】に参加していたプレイヤーで、ライデンに次ぐ実力を持つ魔法職だ。そんな彼女はライデンを非常に尊敬しており、ライバルという訳では無いらしい。

 シルフィが姐御、アリステラがお嬢様ならば、彼女はさしずめお姫様……といった所だろうか。当然、ギルド内でも人気は高い。


「彼等のプレイヤースキルは、意外と侮れないかもしれませんね。獲物を追い詰める戦い方や、機を見る判断力……そして執念深さは、厄介です」

「ふむ……個人個人の情報は?」

 ギルバートの指摘に、セバスチャンは頷く。

「後程、彼等の試合の際にでもまとめてお話しましょう。一回戦まで、時間がそう残されてはおりません」

 セバスチャンの言葉に、ギルバートはそれもそうかと頷く。試合開始までの残り時間は、五分ほどしか残されていないのだ。


「最後に【魔弾の射手】ですが、恥ずかしながら情報が一切ありません」

「そうか。ギルドマスターは【ジェミー】というらしいが、第一回にランクインしていたな?」

 アークの言葉に、セバスチャンは一つ頷いて答える。

「そのプレイヤーネームは、確かにランキングに入っておりました。確か、26位だったかと」

 そんなセバスチャンの言葉を受け、更にアークは言葉を続けた。


「彼女の口から、聞き覚えのある名が出ていた。()()()……というプレイヤーの名だ」

「それはそれは……銃使いと噂のプレイヤーですね。彼女は同年代と思われる女性と、四人パーティを組んでいたそうですが……」

 レーナという名前は、彼女の戦闘スタイルが衆目に晒されて一気に話題に上った。まだ誰も手に入れていない銃を使い、ボスモンスター・玄武のHPを着々と削った……と、身内以外には見えていた。


「彼女達が同等の装備を揃えているなら、厄介ですね。これは警戒レベルを上げておく方が宜しいかと」

「確かにな……ご苦労だった、セバスチャン」

 セバスチャンを労いの言葉を向けると、アークは立ち上がる。そんなアークに一礼したセバスチャンは、サッとアリステラの脇に控えた。アリステラの眉間に皺が寄るが、セバスチャンはどこ吹く風だ。


 ……


 試合開始までの時間は、あっという間に過ぎていく。残り数分といった所で、アークはモニターに映るステージに視線を向けた。

「まずは【桃園の誓い】……最前線級のプレイヤーが、初戦の相手だ」

 ダイス・フレイヤ・リリィは、アークの名で募集するレイドパーティに何度も参加した三人。ケイン・ゼクス・イリスは一度だけレイドパーティに参加し、安定した実力を見せたプレイヤーだ。ゲイルは南門の戦いで実力を示した、優秀な盾職。


「……我々の力を見せ付けるには、絶好の相手になるだろう。それで、ライデン?」

 アークの言葉に、ライデンが頷いて一歩前に出る。

「第一回戦は大将にアークさんを据え、中堅戦はギルバートと僕が担当します。先鋒戦の三人をどうするかですが……」

 そこで、アリステラが手を挙げる。

「それならば、是非私を先鋒戦に。アーク様に私の実力をお見せする、良い機会ですわ」

 そう告げるアリステラの視線には、熱が篭っている。どうやら彼女、アークに対して好意を抱いているようだ。


 そんな立候補に頷いて、ライデンはセバスチャンに視線を向ける。ライデンの視線を受けたセバスチャンも、恭しく一礼した。

「お嬢様が出陣なさるのであれば、僭越ながら私もお供させて頂きたく存じます」

 他の面々も、アリステラとセバスチャンはセットとして考えている。なので、その申し出に異論は出なかった。


「これで前衛職と支援職の二人だね。そうすると、後一人は……」

「ライデンさん、それなら俺が出ます。支援サポート職のセバスチャンさんを守る、盾職タンクが必要でしょう?」

 そう言いながら手を挙げる、大盾を背負った青年。銀色の髪に翡翠色の瞳を持つ、精悍な顔付きをしている。

 彼のプレイヤーネームは【クルス】……ルー同様に、DKC時代からのメンバーだ。


 そんなクルスの申し出に、アークも頷いてみせる。

「確かにな。どうだ、ライデン」

「良い組み合わせかと。では、一回戦はこのメンバーで異論は無いかな?」

 ライデンが視線を巡らせると、全員が頷いてみせた。

「さて……それでは時間だ」

 アークが扉の前に立ち、ライデンとギルバートがその後ろに。そしてアリステラ、セバスチャン、クルスもそれに続いた。


「行くぞ」

 アークが短くそう告げると同時、控室の扉が開く。

 いよいよ、決勝トーナメント第一試合が始まる。

次回投稿予定日:2020/12/24

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― 新着の感想 ―
[一言] 執事型PACは[セバスチャン]が99.0%を占める。
[良い点] >「何か知っているのか、セバスチャン」 ライデンだったら民○書房になるところでしたねw
[良い点] 桃園の誓いはケインさんを中心に格好いい大人達のギルドって感じがとても良く出てて凄く良いですね。 [一言] いよいよ1回戦開始ですね。オラワクワクしてきたぞ。
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