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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第八章 第二回イベントに参加しました(前)
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08-02 決勝トーナメントへ進出しました

 無事に予選ステージのモンスターを討伐したジン達【七色の橋】は、クリアを宣言するアナウンスの後に転送された。

 行き先は広い空間……そこは大きなコロシアムの観客席だ。

 既に多くのプレイヤーが、そこに転送されていた。プレイヤー達で埋め尽くされようとしているのは、一階席。二階席は既にプレイヤー達でびっしりだ。


「予選ステージをクリアしたプレイヤーが、転送されるのがここなのかな?」

 周囲を見渡すヒイロに、シオンが頷いてみせる。

「恐らく、そうではないかと。二階席は観戦組でしょう。おや、あちらに座られているのは……」

 シオンの視線の先へ、ジン達が目を向ける。ジン達が注視するのは一階席の、北側エリア。そこに、仲の良いフレンドである四人組の女子大生の姿があった。


「あそこに居るの、レーナさん達ッスね」

「一緒にいる人達が、リアルの知人でゴザルかな?」

 凄腕の生産職人であるユージンが作成した、黒で統一された装備に身を包むレーナ達四人。

 その四人組のフレンド達は、見知らぬ男女と同席している。その服装はレーナ達の物と似通っており、近代的なデザインの服装だ。その内一人は、フードを被っていて顔が見えない。

「あれも、ユージンさんの作……かな?」

「遠目だと解らないけど、その可能性は高いんじゃないかしら」


「どういう集まりなのかしら……男性も居るし、眼鏡を掛けた方は明らかに二十代後半から三十代前半くらいだわ」

 レンの言葉に、ジン達も同じ感想を抱いた。

 見知ったレーナ・ルナ・シャイン・ミリアは、同年代同士の友人だとすぐに解る。しかし彼女達と同じくらいの歳と思われるのは黒髪をツーサイドアップにした女性一人と、明らかにヤンキーな風貌の青年のみだ。


――あれ? あの金髪の人……。


 旅行から帰る途中、杖をついたジンを気遣ってくれた青年にそっくりな気がする。

 もしや、同一人物ではないか? と、ジンは予想するが……残念ながら、彼等はまだ【七色の橋】には気付いていない様だ。


 レンが年齢を予想した黒髪の男性は明らかに、同年代ではないだろう。

 その隣には彼よりも少し年下と思われる、赤茶の髪を持つ男性が居る。二十代後半なのは、恐らく間違いない。

 傍目からは、どういう集まりなのか予測が難しい面子である。


 そんなレーナ達から視線を動かしてみると、そこにも顔見知りの面々が座っていた。

「あ、ケインさん達がいるね!」

「本当……というか、一緒に居るのはリリィさん?」

 ジン達よりも早く予選ステージを開始したケイン達【桃園の誓い】も、無事にクリアして転送されていた。ジン達に気付いた彼等は、微笑みながら手を振っている。

 その輪に加わっているリリィ。彼女はゲストメンバーとして参戦しているのが、初期メンバーの五人にはすぐ解った。


 そして、注目すべきは十人の内の二人だ。一人は凛々しい男性であり、大きな盾を持っている。恐らくは、盾役タンク役だろう。もう一人は可憐な少女であり、背中に短い槍を二本背負っていた。軽装鎧な点からしても、軽装騎士の前衛タイプと推察できた。

 そんな二人は共に、頭上にはNPCである事を示す水色のカラーカーソルが浮かんでいる。


「誰かが、PAC(パック)契約をしたみたいでゴザルな」

 NPCを同行させている……それはつまり、PAC(パック)契約が成立した事を意味する。

「私達は一チームで出場するので、PAC(パック)の契約は後回しにしていましたね……」

「【桃園の誓い】も忙しそうでしたし、顔を合わせるのは久方振りですからね」

 少し見ない内に【桃園の誓い】もPAC(パック)を迎え入れ、新たな体制に変化した様だ。


 ……


 更に、多くのプレイヤーが注目している二大ギルド……【聖光の騎士団】と【森羅万象】。彼等もまた、一階席の一角に集まっていた。相当数のプレイヤーが集まっており、全員が白銀装備のためよく目立つ。


 その中に、レンとシオンすら見覚えの無い顔があった。

 長い金色の髪を縦ロールにした、気の強そうな美少女。その側に控える様に立つのは、金髪の青年。どこからどう見ても、お嬢様と執事な二人組である。

「【聖光の騎士団】に、また新たなメンバーが加わっていますね」

「えぇ……攻略最前線では、見掛けなかった顔ですが……」


 更に【聖光の騎士団】は、三人のプレイヤーをアークのチームに配置した。その内の一人は、【七色の橋】設立メンバーも知る男だ。

「あれ? ヴェイン殿が居るでゴザル」

「……あ、本当だ!」

「そういえば、あの方も顔を合わせた事がありましたね……」

 あまりヴェインに良い印象が無い、ジンを除く設立メンバー。しかし、油断は禁物だろう。アークのパーティメンバーとして選ばれるからには、それ相応の実力者と認められている事に他ならない。


 そんな【聖光の騎士団】と程近い位置に、彼等は居た。ギルド【森羅万象】……先日、エリアボス待機列に並んでいる【七色の橋】に接触して来た、大規模ギルドの一角だ。

 赤い髪の少年……アーサーが、鋭い視線をジンに向けている。そんなアーサーは相変わらず、三人の少女に囲まれている。右側に黒髪の少女、左側に茶髪の少女、膝の上に銀髪の少女……といった具合だ。


「何か、いつ見ても思うんですが……」

「うん……何か、ハーレム状態って感じだよね」

「あの人、好きじゃないです」

 レン、アイネ、ヒメノの率直な感想に、男性陣は苦笑してしまう。


 アーサーを羨ましいと思う気持ちは、全くと言って良い程に涌いて来ない。

 それはやはり自分の隣に、最高の恋人がいるからだろうか。それとも女性に前後左右を囲まれて、やたらと苦労していそうだな……なんて思ったからだろうか。


 その一方で、アーサーにとって本命のハルは彼の前に座っていた。彼女は【七色の橋】の姿を見付けて、目を輝かせている様子だ。彼女だけは純粋に、【七色の橋】を応援してくれているのだろう。

 実にゲームを楽しんでいる模様で、そんなハルをシンラとクロードが微笑ましそうに見ている。先日の顔合わせではあまり好印象を抱けなかったが、ハルを見るその視線からは良い人なのかも……と思わせる何かがあった。


「【森羅万象】……何だか、変なギルドですね」

 アイネの言葉に、ミモリが苦笑する。

「そうねぇ……何ていうか、人間関係が複雑そう」


 それを言ってしまうと、【七色の橋】もそれなりに複雑な人間関係だ。

 ただし【森羅万象】とは、異なる点がある。それはこの場に居ないメンバーも含めた【七色の橋】全員が、良好な関係を築き上げている事だろう。


************************************************************


 ジン達が見知ったプレイヤー達の姿を確認しつつ、のんびりと雑談している。無論、周囲のプレイヤーはそんなジン達の様子を窺っていた。注目度の高いギルドである【七色の橋】は、話題に事欠かないのだから無理もない。


「なぁ、第一回イベントの時よりも装備が変化してないか?」

「あぁ……何か、ジンの和装にクナイとか手裏剣が付いてるな……」

「ヒイロの鎧も、変わってるぞ?」

「女性陣の装備も、何だか模様が増えている様な……」

「逆にハヤテって新メンバーは、和服だけで地味だな……装備も短刀だけか?」


 まず話題になるのは、やはりその見た目だろう。

 第一回イベントで活躍したジン達は、動画でもその姿を見る事ができた。今のジン達は、その頃の装備からアップグレードしているのだ。


 まず、ジン・ヒメノ・レン・シオンの四人。共通するのはステータス強化系ユニークスキルの保有者である事。

 第二エリアのエクストラクエストをクリアし、武器もワンランク強化された。更に手に入った素材で、各々の装備を強化。その際、見た目も更に豪華になったのだ。


 次にヒイロとアイネの二人だが、この二人もエクストラクエスト【魔剣の呪い】と【剣聖の試練】をクリアしている。その報酬であるユニークアイテムを元に製作されたのが、今現在身に纏っている装備だ。

 ヒイロの和風甲冑≪妖装・修羅≫。アイネの新たな和服≪聖装・花鳥風月≫と、軽装鎧≪聖鎧・清風明月≫。公の場でこの装備を使うのは、これが初めてとなる。


 次いでレア素材を元に製作された装備を身に纏うのは、ハヤテとミモリ・カノン……そしてPAC(パック)であるヒナだ。

 ヒナの和装はヒメノのお下がりで、今回のイベントに備えてバージョンアップされている。ユニークアイテム程の性能は望めないが、PAC(パック)の装備としては破格の性能を誇る。


 ミモリとカノンの和装は、新メンバー三人の物と合わせてシオンが製作した物だ。

 投擲がメインのミモリは、そのままの装備として着用。見た目ではくノ一風の美女、という感じに仕上がっている。

 カノンは戦槌を使用する近接職の為、VITとSTRを向上させる和風の軽装鎧を自作した。肩当てと胴当て、篭手と足甲で構成されている。


 逆に目立たないのがハヤテであり、その理由は彼の装備を秘匿しているからだ。

 ≪オートマチックピストル≫と≪アサルトライフル≫、その予備マガジンを備えたベルト……それらを見られれば、彼が銃使いだとすぐにバレてしまう。それを避ける為に、彼は装備を短刀のみにしているのである。


 そんな【七色の橋】に注目が集まらない訳が無い。他の大規模ギルドや注目ギルドに並び、彼等が決勝トーナメントに駒を進めると確信するプレイヤーは少なくなかった。


************************************************************


 プレイヤー達が思い思いに過ごしている内に、予選に挑戦できる時間が終わりを迎える。

『プレイヤーの皆様にお知らせします。予選ステージ開催時間が終了致しました。これより第二回イベントの決勝トーナメントへ移行します』

 そのアナウンスを聞いたプレイヤー達が、中央のステージに視線を向ける。そこには、一人の女性が立っていた。


『本日も、アナザーワールド・オンラインにログイン下さいましてありがとうございます。本イベントの司会進行を務めさせて頂きます【アンナ】と申します。どうぞ、宜しくお願い致します』

 アンナの頭上に輝くカラーカーソルは、銀色。そのカラーカーソルを、プレイヤー達は初めて目の当たりにした。


 カラーカーソルの色は、通常プレイヤーは緑色、軽犯罪者が黄色、重犯罪者が赤色。モンスターはオレンジで、NPCノンプレイヤーキャラクターは水色だ。

 そのどれとも違う銀色のカラーカーソルは、運営アバターである事を示す色なのだろう。


『これより、決勝トーナメントに進出するチームを発表致します。繰り返します、これより決勝トーナメントに進出するチームを発表致します。尚、通過成績は公表致しませんのでご了承下さい』

 アンナの言葉に、プレイヤー達が静まり返った。いよいよ自分達が決勝に進出できるのか、その答えが出るのだ。


『五十音順で発表致します。まずは【暗黒の使徒】チーム、【暗黒の使徒】チームでございます』

 アンナにチーム名を読み上げられ、十人のプレイヤーが立ち上がった。黒い装束と覆面で身を固めた、邪教徒か? と思わせる様な、不審者集団である。


『続きまして【森羅万象・A】チーム、【森羅万象・A】チームでございます』

 そのチーム名を聞いたプレイヤー達が、ある一角に視線を集中させる。そんな視線を受けて尚、【森羅万象】の中核メンバー十人は当然といった表情を浮かべていた。


 しかし、その表情が次の瞬間に歪む。

『続きまして【聖光の騎士団・Ⅰ】チーム、【聖光の騎士団・Ⅰ】チームでございます』

 五十音順でチーム名を読み上げるならば、【森羅万象】はあと二チームの名前が読み上げられると思っていた。しかし、読み上げられたのは中核メンバーのチームのみ。それ以外は、落選したという事である。


 そして同時に、【聖光の騎士団】の一角。ギルドマスターにして【聖光の騎士団・Ⅰ】チームのリーダーたるアークが、【森羅万象】の方へと視線を向けていた。


――【森羅万象】が一枠しか捥ぎ取れなかった……? だとするならばやはり、上がって来るのは彼等だろうな……。それに、【森羅万象】だけではなく俺達も……。


 それは不思議と、確信に満ちた推測。同時に、自分達のギルドも同じく……という予想。そんなアークの予想を裏付ける発表が、アンナの口から読み上げられた。

『続きまして【桃園の誓い】チーム、【桃園の誓い】チームでございます』

 自分達のチーム名が読み上げられ、ケイン達が小さくガッツポーズをする。熟練プレイヤー揃いのチームとはいえ、大規模ギルドにどこまで食らい付けるのか不安だったのだろう。


 同時に、会場内では少なくない困惑の声が上がる。

「おい……大規模ギルド二つが、一チームしか進出出来てないぞ……?」

「マジかよ……残り四チームだろ? やっぱりその内の一つは……」


『続きまして【七色の橋】チーム、【七色の橋】チームでございます』

 そのチーム名が読み上げられ、集ったプレイヤー達が静まり返る。そして……。

「おおぉっ! やっぱり!」

「キタキタキタァッ!!」

「待ってましたぁ!!」

 会場中に、歓声が巻き起こるのだった。


 そんなプレイヤー達を見て、ジンは首を傾げた。

「出場できたのは拙者達なのでゴザルが……何故、これ程盛り上がっているのでゴザル?」

 この歓声を上げるプレイヤー達の大半は、当然決勝トーナメント進出を逃しているだろう。だというのに、何故そんなに嬉しそうなのだろうか。


 そんなジンの疑問に、ハヤテが応えた。

「まぁ、自分達の事をこう言っちゃあ何ッスけど……俺等の戦いぶりが見たいってプレイヤーは、多分少なくないと思うッスよ。特にジン兄達、第一回で活躍した五人」

 そんなハヤテの言葉に、アイネも苦笑しつつ同意を示した。

「えぇ、私もそう思います。ジンさん達の活躍を動画で見たならば、今回のイベントでもう一度……と思うのも、無理はないでしょうね」

 そんなものか……と納得出来るような、出来ないような微妙な心境になるジン。ともあれ、【七色の橋】は無事に決勝トーナメント進出が決定した。


 ともあれ、残る枠は三つ。【遥かなる旅路・第一部隊】と【ベビーフェイス】のチーム名がアンナに読み上げられ、最後の一枠。

『最後は【魔弾の射手】チーム、【魔弾の射手】チームでございます』

 聞き覚えの無いチーム名に、プレイヤー達が困惑している。

 そんな中、ジンはふとレーナ達に視線を向けてみた。するとレーナ達が、顔を見合わせて喜んでいるのが覗える。


――銃を持つプレイヤー……それで【魔弾の射手】か。


 ジンはメッセージ・ウィンドウを立ち上げて、レーナ達四人へ向けたメッセージを入力していく。その内容は簡潔に、決勝トーナメント進出は出来ましたか?……といった内容だ。

 メッセージに気付いたらしいレーナ達が、ウィンドウから顔を上げて視線を向けて来た。ヒラヒラと手を振るその表情は、満面の笑みだ。やはり、彼女達が【魔弾の射手】チームらしい。


 ……


 こうして上位八チームが決定した、第二回イベント。決勝トーナメントに向けて各々が気を引き締めていると、アンナがプレイヤー達に向けて呼び掛ける。

『決勝トーナメントに進出を果たした八組のチームは、これより選手控室へ転送されます。繰り返します、決勝トーナメントに進出を果たした八組のチームは、これより選手控室へ転送されます。しばらくそのままでお待ち下さい』

 アンナのアナウンスが終わると同時に、ジン達の身体が光に包まれていく。これは転送の予兆だ。


 光に包まれるプレイヤー達に向けられたのは、やっかみや嫉妬の声では無かった。

「頑張れよー!!」

「応援してんぞー!!」

「【七色の橋】、ファイトー!!」

「楽しませてくれよな!!」

 この予選がプレイヤー同士の競争やPvPだった場合、こんな風に歓声が上がる事は無かったかもしれない。そんな事を漠然と考えながらも、ジンはその歓声を受けて懐かしさを覚えた。


――大会、か。うん……ちょっと、燃えて来たかも。


 ”選手”として、”大会”に出場するというシチュエーション。陸上とゲームでは、内容も選手層も大きく違う。しかし独特な熱を帯びた雰囲気は、似通った部分がある様に思える。

 懐かしい感覚によって心が滾って来るままに、ジンは仲間達と共に選手控室へと転送されていった。


************************************************************


 転送された選手控室は、それなりの広さを有する空間だった。壁にはモニターが備えられており、アンナが立っていたステージが映し出されている。余談だが、このモニター……解像度がめちゃくちゃ良い。

 室内にはいくつかのブースがあり、ブース内に様々な設備が用意されていた。


 まずは鍛冶職人向けの設備があるブース、調合師向けの設備があるブース。これらの設備を使用して、装備のメンテナンスや消費アイテムの補充を行える様になっている。

 次に、簡素ながらベッドがあるブース。これは主に、心身を休める為に用意されている様だ。

 そして、食事スペース。これは無料らしく、注文した物が即座に届く仕様らしい。決勝トーナメントに出場できたプレイヤー限定の、特別待遇なのだろう。


「至れり尽くせりッスね」

「うん……でもリラックスできるかと言われたら、微妙かなぁ」

 ジンとしては、やはり居心地の良いギルドホームが一番に思えてしまう。他の面々も同意見なのか、苦笑気味だった。


「あ、見てみて。観客席」

 ミモリの言葉に、ジン達がモニターへ視線を向ける。画面の中では、コロシアムの観客席でプレイヤーが何やら盛り上がっている様だ。旗や団扇を手に持ったプレイヤー達……どこぞのアイドルコンサートと間違えていないか? という気分にさせられる。


 よくよく見ると、旗にはデフォルメされた少女のイラスト。そして団扇には大きく”リリィLOVE”と記されている。

「リリィさんのファンか……」

「みたい、だね。あ……」

 カノンがある物を見付け、何とも言えない表情を浮かべる。その様子から、何かろくでも無いモノを見付けたのは察しがついた。


 モニターに映るのは、リリィファンに似た様なグッズを手にしたプレイヤー。そのグッズに書かれている名前は、例えばヒメノの名前だったり……レンやシオン、イリスにレーナ、シルフィやシンラ、クロード、フレイヤ、アリステラ等々。

 要するに、決勝トーナメントに進出した綺麗処の名前が書かれているのだ。ちなみによく見るとアイネの名前が書かれた団扇もある。


 それで終わりではない。アークやギルバート、アーサーの名前が書かれたグッズもある。更に言うと、ジンやヒイロ、ケインの名前が記されたモノまで。ただし、ジンの場合は”ジン”ではなく”忍者”と書かれているのだが。


「作ったのかな、アレ……」

「さぁ……労力を注ぎ込む先が、そこで良いのかっていう疑問点は残るッスね」

 カノンの溜息交じりの言葉に、ハヤテが苦笑しつつ肩を竦めた。


 ……


『プレイヤーの皆様へお知らせします。これより、決勝におけるトーナメント表の抽選を行います。各チームの代表者一名は、ステージにお越し下さい。繰り返します、これより……』

 そのアナウンスに、ヒイロが立ち上がる。代表者となれば、それはギルドマスターたるヒイロが担う役割だ。

「ステージ上は緊張しそうだな」

 そう言って苦笑するヒイロに、ジンがその肩を叩いて笑う。

「良い予行演習じゃない。だって、この後あそこで戦うんだからさ」

「……成程、そういう考え方もあるか」

 ジンの言葉に納得したヒイロは、頬を軽く叩いて歩き出す。気を引き締めて扉を開けると、観客席に囲まれたステージエリアへと一歩を踏み出した。


 同時に姿を見せたのは、それぞれのチームリーダー……その全員が、ギルドマスターだ。

【七色の橋】のヒイロに、【桃園の誓い】のケイン。【聖光の騎士団】のアーク、【森羅万象】のシンラ。【遥かなる旅路】、【暗黒の使徒】もギルマスが代表として姿を見せた。そして【ベビーフェイス】のローウィンに、【魔弾の射手】からは一人の女性……黒髪をツーサイドアップにした女性である。


「貴方がヒイロ君ね?」

 女性はにこやかに微笑みかけ、ヒイロの名を呼んだ。

「え、えぇ……」

 艶のある黒髪に、キリリとした瞳。凛々しい系の美人、という表現がピッタリ来る容姿の女性だった。

 彼女はその口元を緩め、微笑みを絶やさず言葉を続ける。

「初めまして、私は【ジェミー】。うちのギルメン……レーナちゃん達が、いつもお世話になっているみたいね」

「いえ、こちらこそ。レーナさん達には、日頃から良くして頂いています」


 そんな会話に、ケインも歩み寄る。

「お話中、失礼……貴女がレーナさん達のギルドの、ギルドマスターですね? 俺は【桃園の誓い】のギルマスで、ケインと申します」

「あら、ご挨拶が遅れて済みません。ケインさん達にも、後輩達がお世話になっています」

 そんな挨拶から、ヒイロとケインはジェミーとレーナ達の関係に気付いた。恐らく彼女は、レーナ達の大学の先輩なのだろう……と。


「今回は対戦相手になるかもしれませんが、全力を尽くしましょう」

 ヒイロの言葉に、ケインもジェミーも笑顔を見せる。

「あぁ、勿論だとも」

「えぇ。負けても、恨みっこなし……という事で」

相手憎しで戦うのではなく、相手を尊重し競い合う為に戦う。そんなスポーツマンシップにも似た感覚が、三人の胸に去来する。


 逆に相手憎しとヒイロを睨むのは、【ベビーフェイス】のギルマスであるローウィンだ。

 ジンとの諍いを、今日この日まで引き摺っているらしい。離れた場所で、背を向けているヒイロを睨んでいる。


 そんな様子を見ているのは、アークとシンラ。共に大規模ギルドのマスターであり、これから戦い雌雄を決する相手なのだ。不必要な馴れ合いは無用……というスタンスから、口を閉ざしている。

 それは【遥かなる旅路】のギルマスと、【暗黒の使徒】のギルマスも同様らしい。

 それでも余計な口を挟んで来ない辺り、自分達の価値観を押し付ける様な輩ではないのだろう。


『それではこれより、決勝に進出した八チームによるトーナメント抽選を開始します』

 アンナの宣言を受けて、ヒイロ達は横に並びアンナに視線を向ける。抽選方法はくじ引きで、くじを引く順番はジャンケンで決まった。AWOにしては、捻りのない決め方だ。

 恐らくは当人達が決める事で、不平不満が出ない様にとの配慮だろう。


 そしていよいよ、決勝トーナメント表が決定。その組み合わせを見たプレイヤー達は、盛大な歓声を上げる。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 第一試合【聖光の騎士団】 対 【桃園の誓い】

 第二試合【遥かなる旅路】 対 【魔弾の射手】

 第三試合【ベビーフェイス】対 【七色の橋】

 第四試合【暗黒の使徒】  対 【森羅万象】

―――――――――――――――――――――――――――――――

次回投稿予定日:2020/12/22


こういうイベントモノを描くと、登場人物がグッと増えてしまう。

頑張れ私! キャラを立たせるのは描き手の永遠の命題!

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― 新着の感想 ―
[一言] さりげなく【おしゃぶりーズ】居るし!w(噛ませ犬定期)
[一言] おしゃぶりが予選突破してくるとは思いませんでした。 まあでもあのタイミングでわざわざ出て来たんだし突破してもおかしくなかったのか。 組み合わせの方も決勝まで聖光と当たらないこととそれまでに…
[良い点] 決勝に上がれる実力があっても掲示板ではおしゃぶり呼び一択な予感w
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