08-01 予選に参加しました
八月二十日のAWOは、第一回イベントを上回るアクセス数を記録していた。
第二回イベント……その予選はボスモンスターを討伐して、その総合成績で決勝への進出が決まる。その枠に収まろうと、十人一組を作ったプレイヤー達がこぞって戦意を燃やしていた。
彼等が集まるのは、始まりの町から転移する事が出来るイベント専用マップ……大きなすり鉢状の建造物、コロシアムの外周部である。
予選参加者がコロシアムの中に入る事が出来るのは、予選ステージをクリアしてかららしい。ちなみに観客としてコロシアムを訪れたプレイヤー達は、既にコロシアムの中へと転移していた。
「行くぜ!!」
『おう!!』
パーティリーダーの号令に合わせ、気合いの入った掛け声を叫ぶ男達。それを確認したリーダーは、システム・ウィンドウを開く。
表示されたのは『予選に参加しますか?』というメッセージ。その下に表示されているYESボタンをタップすると、彼等はボスが待ち受けるインスタンスマップへと転送されていった。
……
運営が詰めている観測スペース……これはAWOの中に用意されている。今回のイベントは長時間に渡るので、ゲーム内の時間を加速させる事になる。その為、こうしてゲーム内で観測や調整を行う必要があるのだ。
宙に浮くモニター、半透明のホログラムで形成されたキーボード。現実では、まだこの様な設備は実現出来ていない。AWO……仮想現実世界だからこそ実現可能な設備である。
「いよいよ、この日が来たか」
スーツを身に纏った男性が、その視線をメインモニターに向ける。その隣に立つのはスーツ姿の女性である。
男性の頭上に表示されているのは、【シリウス】という名前。そして、女性の頭上には【エリア】という名前が表示されていた。
「ボス、既に三十五組のプレイヤーが予選を終えています」
運営メンバーのアバターに声を掛けられて、シリウスは眉を顰めた。
何度言っても、彼等は自分をボスと呼びたがるのだ。最もそれが悪意からではなく、自分を慕ってくれている事の表れだと知っている。だから、あまり強くは言わない。
「ボスはやめろっつーのに。それで? 現状はどんな塩梅だ?」
「そうですね……ある意味、予想通りの展開になっています」
彼はそう言うと、慣れた手つきで宙に浮かぶキーボードを叩く。そしてポップアップした小型のモニターに、予選ボス討伐を成功させたチームの名前が表示された。その内、八位までが暫定で決勝トーナメントに進出できるチームとなる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
【決勝進出圏内】
1位 【聖光の騎士団・Ⅰ】
2位 【森羅万象・A】
3位 【暗黒の使徒】
4位 【遥かなる旅路・第一部隊】
5位 【聖光の騎士団・Ⅱ】
6位 【森羅万象・B】
7位 【聖光の騎士団・Ⅲ】
8位 【遥かなる旅路・第二部隊】
【決勝進出圏外】
9位 【蒼い住処】
10位 【聖光の騎士団・Ⅳ】
11位 【遥かなる旅路・第三部隊】
12位 【ラピュセル】
13位 【森羅万象・C】
14位 【天下無敵】
15位 【クルセイダー・オブ・レジェンド】
16位 【ファンタスティック・アドベンチャーズ】
17位 【掲示板民の俺達】
18位 【三國無双】
19位 【忍者ふぁんくらぶ】
20位 【フレイヤさんの舎弟共(非公認)】
21位 【獲物ヲ屠ル狩人】
22位 【大魔導同盟】
23位 【レン様に仕え隊】
24位 【真紅の誓い】
25位 【暇を持て余した我々の遊び】
26位 【ヒメノちゃんを見守る会】
27位 【リリィちゃんファンクラブ】
28位 【絶対無敵騎士団】
29位 【サンシャイン】
30位 【白狼の集い】
31位 【悠久亭】
32位 【プリンス・プリンス】
33位 【ナイト・オブ・ナイト】
34位 【レーナさんにハートを撃ち抜かれた者達の集い】
35位 【シオンさんを守る同盟】
―――――――――――――――――――――――――――――――
「お? まだ挑戦していない連中も多そうだな」
「まぁ、まだ一時間ありますからね」
運営メンバーがそう言うと、大型モニターの前に座っていた女性が声を上げた。
「あっ、来ましたよ!!」
モニターに映し出されるのは、中華風の装いで身を固めた面々。その内の一人には、白いローブを纏った可憐な少女が同行している。
「【桃園の誓い】か」
運営メンバーの関心は、ゲストとして戦列に加わっている少女に向けられた。
「ゲストメンバーに、彼女を持って来るとはね。少数精鋭ながら、熟練プレイヤー……それも最前線クラスの精鋭揃い。その上、熟練の回復役を引き込むとは……やるねぇ」
ゲストメンバーとして【桃園の誓い】パーティに参加するのは、最前線で活躍するヒーラーだった。
「それに、ギルマスのケインは【鞍馬天狗】持ち。デバフによる状態異常は、プレイヤー相手に効果覿面だ」
「これは期待できそうだな……」
彼等の言う通り、デバフの効果がより発揮されるのは対人戦だ。
プレイヤーはスキルスロットにスキルオーブを装備し、そのスキルオーブの効果を得る。しかしながらスロットの数が限られるので、多数の耐性系スキルオーブを備えるのは至難の業なのだ。
多彩な状態異常攻撃を放つ事ができる【鞍馬天狗】は、今回のイベントで猛威を奮う可能性が高い。
「おっと、こっちも旬のプレイヤーだ。ほれ」
別の運営メンバーが、新たなモニターを展開する。そこに映るのは、レーナ・ルナ・シャイン・ミリア。更に二人の女性と、四人の男性が共に歩いている。
「こいつは驚いた……もしかして、新メンバーか?」
「プレイ日数はバラバラ……だな。この【ジェミー】ってのは、レーナ達と同時期に始めてるが……」
「それに、この男は……成程、ゲストメンバーとして参加しているみたいだな」
そんな感想を口々に告げる運営メンバーを他所に、シリウスとエリアは口元を緩める。
「【魔弾の射手】……だな」
「えぇ。しかし、あの人を連れて来るとは意外だったわ……」
すると、一人の女性が椅子から立ち上がる。
「キターッ!! キタキタッ!!」
何やら両手で妙な踊りを披露しながら、年嵩の女性メンバーが他の運営メンバーに視線を向ける。ちょっと、コワい。
「来ましたよ! あの子達が!」
そのまま踊り出す女性なのだが、モニター出せよ……と誰もが心の中でツッコんだ。どこからか笛の音が聞こえて来るのは、気のせいだと思いたい。
今の若い人は知っているだろうか、キ○キタ踊りを踊るキタキ○おやじという存在を。
女性を無視して、一人の青年がモニターを表示させる。そこには和装に身を包む、十五人の男女の姿。
「待ってました……【七色の橋】!!」
十五人の内、三人のプレイヤーと二人のPACが外縁部に留まり、十人のメンバーが予選エリアへと踏み入る。
「やっとか。何か問題でもあったのかと思ったぞ」
「そうね……ふふっ、彼等の活躍が楽しみだわ」
レーナ達を見た時とはまた別の期待感を滲ませ、シリウスとエリアが【七色の橋】の参戦に心を踊らせる。
************************************************************
運営のみならず、予選会場の予選に挑むプレイヤー……外縁部に留まり、戦闘職達を応援するプレイヤー達の視線を集める十人。見られる事にも、大分慣れた……というより諦めの境地に達しているジン達は、円陣を組む。カノンは顔が強張っているが、まだ何とか……といった具合である。
「挑戦は一度きり、予選ボスはどんな相手か未公開。でも、俺達にとっては大した障害じゃない」
リーダーを務めるヒイロの宣言に、他の面々も頷く。
そんな仲間達の様子に、満足そうに頷いたヒイロはシステム・ウィンドウを展開。
「それじゃあ、決勝トーナメントへの切符を頂きに行こう!」
『応ッ!』
声を揃えて返事をする仲間達に頷き、ヒイロは予選に挑む最後の一工程……YESボタンをタップする。
直後、十人を眩い光が包み込んだ。
……
ポータルを使用した時の様な、一瞬の浮遊感。それが収まったところで、電子音声によるアナウンスが響き渡る。
『予選ステージを、一分後に開始します』
そんなアナウンスに、ジンは目を開けた。そこに広がるのは、普段とは少々毛色が違う空間だ。
「これは、また……」
真っ先に感じたのは、手抜きじゃない? という感想。四角い部屋は、それなりの広さを有する。しかしながら、ダンジョンのボス部屋の様に作り込まれてはいない。真っ暗闇に、縦横に走る青い光が形成した四角い箱。扉も窓もなく、出口の無い箱に閉じ込められた様な感覚を覚える。
「ザ・電脳空間! って感じッスね。ガンスリを思い出すッス」
「あー! 私は行けなかったけど、廃都市に隠されているっていうアレ?」
ハヤテの言葉に反応出来たのは、ミモリのみだ。他の面々は、GSOに触れた事もないのだから仕方無い。
「そそ、高難易度ボスが居るエリアッス。まぁ、幸い……こっちは高難易度って訳じゃなさそうッスけど!」
ニヤリと笑うハヤテの視線が、部屋の中央に座すモンスターに向けられる。
「オーガ・ジェネラル……それに、オーガ・エリート、オーガ・マジシャン……オーガ軍団、だね。対人戦のイベントに、最適なモンスターを用意した……って感じだね?」
赤の他人の視線が無いからか、カノンが普段よりもつっかえる事無く話す。そんなカノンに頷いて、レンがオーガ軍団を一瞥する。
「討伐対象となるボスは、オーガ・ジェネラルですね。他のオーガは倒しても倒さなくても……と」
「でも、与ダメージも評価基準ッスからね。全滅がベストッス」
「今回のイベントで全員が一緒に戦うのは、これが最初で最後よね?」
そんなミモリの言葉に、アイネも頷いてみせる。
「幸いな事に、インスタンスマップみたいですし……気兼ねせずやれますね」
予選において、どの程度まで全力を出すか……それが唯一の懸念事項だった。
しかしながら現状は、インスタンスマップに隔離されている状況。つまり、他のプレイヤーには見られないという事だ。これは【七色の橋】にとっては、渡りに船である。
「消費控えめ、本気多めでゴザルな!」
「ラーメンの注文みたいで御座いますね……まぁ、意味合いは伝わって来ますが」
アイテム消費を抑え、その上で全力を尽くす。ジンの考えは、他のメンバーにも伝わった様だ。
「それじゃあお兄ちゃん、行きましょう!」
「はい! 行きましょう、お兄ちゃん!」
双子の様なヒメノとヒナに背中を押され、ヒイロは苦笑を見せる。まったく、随分と意気投合したものだ。
「じゃあ、やるか!」
ジン達が揃って一歩、二歩と踏み出した所で、電子音声が響き渡った。
『予選ステージを十秒後に開始します。十……』
電子音声によるカウントダウンが始まり、ヒイロが手にした盾と打刀を構える。
『九……』
シオンは大盾≪鬼殺し≫を構え、背に負った大太刀≪鬼斬り≫を抜く。その立ち位置は、いつもの如く後衛メンバーを庇える位置だ。
『八……』
カノンは自らが新たに製作した新装備≪カノンの戦槌≫を両手で握り締め、構えた。
『七……』
ミモリは腰に装着したポーチから、≪スリープポーション≫の入った投擲アイテムである≪睡眠玉≫を掴む。
『六……』
PACであるヒナは、ヒメノから与えられた≪聖女の杖≫を掲げた。
『五……』
アイネは新たに拵えられた薙刀を、クルリと一回転させて、そして構える。
『四……』
FAL型≪アサルトライフル≫を構え、ハヤテは照準を合わせる。
『三……』
右手に携えた≪鳳雛扇≫と左手に携えた≪伏龍扇≫を開き、不敵に笑うのはレンである。
『二……』
ヒメノは左手で弓を構え、その弦に矢をつがえる。
『一……』
そして姿勢を低くしながら左手に≪小狐丸≫、右手に≪大狐丸≫を構えるジン。
『予選ステージを開始します』
そのアナウンスが空間に響き渡り、いよいよ予選ステージの戦闘が始まる。挑戦者達を屠るべく、オーガ軍団が武器を振り翳して駆け出した。
オーガ軍団のリーダーであるオーガ・ジェネラルは、大剣を地面に突き刺したまま高みの見物を決め込む様だ。その傍らに控える二体のオーガ・マジシャンが詠唱を開始し、同じく二体のオーガ・アーチャーが弓を構える。先行するのはオーガ・エリート四体と、オーガ・スカウト一体。
敏捷性が最も高いオーガ・スカウトが、突出して後衛を狙おうと迫る。
「いざ……開幕にゴザル!!」
その首に、一振りの小太刀が突き付けられた。
「【一閃】!!」
オーガ・スカウトの速さは、それなりに脅威だ。この一撃で倒せずとも、まずは足を止めさせるのが安全策となる。
ジンの【一閃】は首を狙った事、そしてオーガ・スカウトのタゲが向いていない事により、【斬首】と【奇襲】の効果が適用される。比較的体力の低いオーガ・スカウトは、一撃でそのHPを半減させられた。
「疾風の如く!!」
オーガ・スカウトへの追撃は、他のメンバーに委ねれば良い。次にジンが担う役割は、敵後衛のタゲを取る事。
「【クイックステップ】!!」
最高峰のAGIを駆使した【クイックステップ】により、ジンはオーガ・エリート達の間をすり抜けて駆ける。狙いは、オーガ・ジェネラルの右側に控えるオーガ・アーチャーだ。
「そーれっ!!」
ジンがオーガ軍団の後方に迫ると同時、ミモリがその手に握り締めた≪睡眠球≫をオーガ・エリート目掛けて投擲した。走っているオーガ・エリートの進路上を狙った投擲は、絶妙な先読みによってオーガ・エリートの頭部に命中した。
内包された≪スリープポーション≫がオーガ・エリートの顔を濡らし、睡眠状態のデバフを引き起こす。
「行きます……【スティングスラスト】!!」
一方、新たな得物を手にしたアイネが武技を発動する。狙いはジンがHPを半減させた、オーガ・スカウトだ。突き出された薙刀……ユニーク装備≪聖刀・鏡花水月≫の切っ先がオーガ・スカウトの胸元を刺し、そのHPを削り切る。
それで終わりでは無い。アイネは既にオーガ・スカウトから意識を外し、間近まで迫って来ているオーガ・エリートに視線を向けている。
「【一閃】!!」
オーガ・スカウトを貫いたままの刃を、横薙ぎに振るう。狙いはアイネを斬り付けようと、剣を握り締めていた右手。アイネの【一閃】により、振り上げていた右手の動きが止まる。
「それでは、行きますよ……【雷陣】」
手にした魔扇を広げてクルリと一回転するのは、最前線でトッププレイヤーとして名を馳せた少女、レン。威力と速さに長けるが、詠唱が長くMP消費量が上がるのが雷属性魔法の特徴。その消費MPと詠唱時間を軽減するのが、【術式・陣Lv8(雷)】である。
レンが狙うのは、アイネが対峙する個体とは別のオーガ・エリート。
「【サンダーボール】!」
放たれた雷球は、オーガ・エリート一体のHPを一瞬で根こそぎ奪い去る。全身が黒焦げになったオーガ・エリートの身体がグラリと傾き、そのまま床に倒れ伏した。
残る一体のオーガ・エリートが、レンに向かって駆けて来る。しかし残念な事に、彼女には屈強な盾役が常に傍らに居るのだ。
「通しません」
見た目は線の細い、美女。和風なメイド姿の彼女には、屈強という表現はそぐわない様に感じるかもしれない。
しかし彼女のステータスとスキルを知る者ならば、シオンの事をこう呼ぶだろう……【歩く鉄壁要塞】と。
オーガ・エリートの剣による攻撃を、大盾≪鬼殺し≫で難無く受け止めるシオン。その表情は、いつも通り涼し気なものだった。
彼女のVIT値はずば抜けて高く、オーガ・エリートの攻撃といえど直撃しない限りHPを削る事は出来ない。
レンがオーガ・エリートを倒した事で、オーガ・ジェネラルまでの道を阻むものが無くなった。それを確認したヒイロは、両手の刀を振るいながらスキルを発動する。
「よし……【幽鬼】!!」
攻撃と同時に鬼神を召喚すれば、鬼の霊体は敵に向けて突撃する。鬼神が両手の大太刀で斬り掛かると、オーガ・ジェネラルは忌々しそうに地面に刺していた大剣を持ち上げてその攻撃を受け止めた。
ヒイロはその場から駆け出して、オーガ・ジェネラルを狙う。彼の予測ならば、タイミングはぴったり合う。
そんなヒイロを狙い、ジェネラルの左側に布陣するオーガ・アーチャーが矢を放とうとする。しかし、そうは問屋が卸さない。
「【スナイプバレット】!!」
乾いた銃声と共に、≪アサルトライフル≫から放たれた銃弾。その弾頭がオーガ・アーチャーのこめかみに命中し、その頭部を揺らす。
「OK、ジン兄!!」
固定ダメージという仕様上、その一撃でオーガ・アーチャーを倒す事は出来なかった。しかし、動きを止められればそれで十分。
「お命、頂戴……」
なにせ、頼りになる忍者な従兄弟がその首を刈るのだから。
「【一閃】!!」
クリティカルを表す、ライトエフェクトが発生。オーガ・アーチャーのHPゲージが減少し、あっという間にゼロに達する。
その間近で詠唱を続けていたオーガ・マジシャンは、ジンに向けて魔法を発動しようと杖を掲げた。足下に輝く魔法陣の色から、それが風属性魔法である事が窺える。
もし魔法が放たれても、ジンならば苦もなく避ける事が出来るだろう。しかし、万が一が起こる可能性も否定出来ない。
そう考えた彼の恋人は、オーガ・マジシャンの行動を良しとはしなかった。
「【エイムショット】!!」
放たれた一本の矢が、オーガ・マジシャンの腹に命中する。オーガ系モンスターはゴブリンやオークの上位種であり、そのステータスも高く設定されている。故に普通のプレイヤーによる矢の一撃では、倒れる事は無い。
しかし彼等にとっては残念な事に、ヒメノの放つ矢は普通ではない。込められたSTRの、桁が違うのだ。オーガ・マジシャンはただの一撃で、あえなく撃沈する。
戦闘開始から、ここまでで二分と三十秒程。
既にスカウト、エリート、アーチャー、マジシャンが一体ずつ倒れており、残るは六体。
それに加え、睡眠状態になっているオーガ・エリートが一体いるのだが……。
「イ、【インパクト】ッ!!」
カノンの振り下ろした戦槌が、その頭部に命中。HPが一気に削られ、残りは二割となる。
そんなカノンの攻撃で、睡眠状態から復帰したオーガ・エリート。痛烈な一撃への返礼を……と、カノンを睨みながら立ち上がろうとして……。
「ミリ狩り!」
ジンの声が、戦場に響く。それを受け、後衛組が動き出す。
「よしきた!」
「はいはーい!」
素早い動作で≪オートマチックピストル≫を抜き、引き金を引くハヤテ。同時に、鉄球を取り出したミモリがそれを投げる。
ハヤテの銃弾とミモリの鉄球を受け、動きが止まるオーガ・エリート。そんな隙を晒せば、いい的でしかない。
「参ります……【スイングインパクト】!!」
武技発動を宣言しながら、戦槌をバッティングの様に振るったカノン。その衝撃を受けたオーガ・エリートは、派手に吹き飛ばされながらHPを全て失ってしまうのだった。
三分で、既に残りは五体。敵の数が減れば、戦力を集中させやすくなる。
オーガ・ジェネラルと対峙するヒイロは、安定してその攻撃を捌き斬り付けている。とはいえ、相手はボスクラス。一人で倒し切るのは、困難を極める。盾で攻撃を受けても、ダメージは入るのだ。
しかしながら、この場には回復役を務めるPACが居る。
「【ヒール】ですっ!!」
ヒメノそっくりなPAC、ヒナが魔法を発動。ヒイロのHPが、一気に全快する。
「斬り捨て御免!!」
忍者ムーブ全開のジンが、オーガ・マジシャンに向かう。
「よし、次っ!!」
同時に、対峙していたオーガ・エリートを倒し切ったアイネがオーガ・アーチャーに向けて駆け出していた。
マジシャンとアーチャーが、迫る敵を倒そうと攻撃動作に入り……そこで、銃声が二度発生する。
「させないッスよ!!」
狙いを定めた≪アサルトライフル≫で、攻撃動作を中断させるハヤテ。アシスト役として、最高のタイミングを作り出した。
「「【一閃】!!」」
同時に放たれた【一閃】。マジシャンとアーチャーは、その役割をろくに果たす事なくHPを散らして倒れるのだった。
一方レンは、シオンと対峙しているオーガ・エリートを狙って魔法を発動する。
「落ちなさい……【サンダージャベリン】」
放たれた雷の投槍を受け、HPが枯渇。全てのオーガ・エリートが討伐された。
ここまでで三分半、残る敵はオーガ・ジェネラル一体となった。
「よし! 総攻撃!」
ジェネラルを相手にしていたヒイロの声に、【七色の橋】のメンバー全員が動き出す。
「行くぞ……っ!! 【一閃】!!」
接近して来たジンが構えたのを確認し、ヒイロはオーガ・ジェネラルの攻撃に合わせて武技を発動。狙いは【スキル相殺】で、オーガ・ジェネラルの大剣が大きく弾かれ、無防備な状態になった。
その隙を見逃すジンではない。鋭い踏み込みで、オーガ・ジェネラルの懐に潜り込む。
「【一閃】!!」
対となる小太刀を駆使した、ジンの二連撃。それに、アイネが続く。
「はぁぁっ!! 【一閃】!!」
惚れ惚れしてしまいそうな美しいフォームで繰り出された一撃が、オーガ・ジェネラルの左肩を斬り裂いた。
オーガ・ジェネラルの残りHPは、四割前後まで削れている。そんなオーガ・ジェネラルに、照準を合わせるのは【七色の橋】の主砲。
「【スパイラル……」
「【フレイム……」
力一杯、矢をつがえた弦を引き絞るヒメノ。詠唱を完了し、魔扇を翳すレン。
「……ショット】!!」
ヒメノの弓から放たれた矢が空気を切り裂きながらオーガ・ジェネラルへ向けて飛来する。その勢いのままに胸元を貫通した矢が、バトルフィールドの壁にぶつかった。
「……ストーム】!!」
それと同時に、レンが発動した炎と風の複合魔法。オーガ・ジェネラルの残り僅かなHPが、その業火によって身体ごと焼き尽くされる。
『予選ステージがクリアされました』
所要時間、わずか五分足らず。【七色の橋】は無事に、予選ステージをクリアする事に成功するのだった。
次回投稿予定日:2020/12/21
新章開幕です。
今章は、年末年始という事で更新ペースを上げて行きます。
皆様方が楽しんで下さったら幸いです。