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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第七章 夏休みが始まりました
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07-17 旅行先でログインしました その2

 花火を終えた【七色の橋】は、揃ってAWOにログイン。昨夜の内にギルドに加入した為、センヤ・ネオン・ヒビキも今回からリスタート地点はギルドホームとなっている。

「さて、今日もまずは生産から始めようか!」

 ヒイロの号令に、ジン達はそれぞれ準備を開始。鍛冶・調合・縫製班に分かれる。

 現在は、まだ三つの生産系にしか手を出していない。しかしゆくゆくは、栽培や畜産にも手を出す方向で相談が進んでいる。

 新人はヒビキが鍛冶に興味を持ち、ネオンは魔法職の為調合へ。そしてセンヤ、意外と編み物等が得意という事もあり、縫製班へ入る事に。


「これでウチのギルドも、十五人か」

「立ち上げは七人と、PAC(パック)三人でしたね」

 調合の準備をしながら、ヒイロとレンが工房を見渡す。PAC(パック)を含め、十五人のメンバーとなった【七色の橋】。しかしギルドとしては小規模ギルドで、【七色の橋】のギルドホームの工房にはまだまだスペースがある状態だ。


「【聖光】や【森羅万象】は、もう二百人を超えたらしいですね」

 大規模なギルドである【聖光の騎士団】は、既に二百人以上のプレイヤーが所属しているという。

「まぁ無理に人を増やそうとは思わないけどね」

「ええ。私達には、私達のプレイスタイルがありますからね」

 ヒイロとレンは、そう言って微笑み合う。自分達は強力なギルドを作りたいのではなく、居心地のいいギルドを作る。【七色の橋】とは、そういうギルド方針なのだ。


「居心地のいい場所であるのが、一番だと思うわ。それぞれ、色々な事情を抱えて居るものね」

 ヒイロとレンの会話に、ミモリも参入する。

「それにジン君やヒメノちゃんは、現実リアルで背負うものが大きいし……カノンも、人見知りがあるもの。そういった事情を抱えているからこそ、何の気兼ねも無く……ありのままの自分で居られる場所って必要だと思うわ」

「えぇ、ミモリさんの言う通りです」

 ミモリの言葉に、レンは笑顔で頷く。レンもまた、大企業の令嬢という事情がある。そういったしがらみを忘れられる……彼女にとっても、【七色の橋】は安寧の場所になっているのだ。


 一方、裁縫班。こちらではシオンの指導の下、アイネとセンヤが皮装備の生産を行っている。二人のスキルレベルを上げる為に、最初は皮装備から……という訳だ。

「アイネ様もセンヤ様も、筋がよろしくていらっしゃいます。これならば、取引掲示板でも相応の値で売る事が出来そうですね」

 褒められた二人は嬉しそうな表情になるが、それで図に乗る事は無かった。

「シオンさんの教え方が、丁寧だからですよ」

「アイぽんの言う通りー! シオンさん、リアルでも結構裁縫とか上手だったりします?」

 アイネとセンヤの言葉に、シオンは表情を緩めながら頷く。

「上手かどうかは自分で言うのも憚られますが、それなりには出来る方かと。ただ、デザイン等に自信は無いですね」


 シオンが製作した新メンバーの和装は、ユージンから託された型紙を使用して製作された物だ。女性用のスカートはいくつかのバリエーションがあり、ヒビキ以外は悩みに悩んだ。

 その結果、ミモリはリンと同タイプのタイトスカート。カノンとネオンは、シオン同様のロングスカート。そしてセンヤは、ヒナと同タイプのプリーツスカートを選択した。


 そして、ユージンから贈られた≪飾り布≫。この装備の仕方には、いくつかのバリエーションがある。

 センヤはシオン同様、腰の後ろでリボン結びにした飾り布。活動的な彼女にピッタリの出で立ちだ。ネオンは熟考の末、まだ誰もやっていない羽衣風にした。

 そしてミモリ・カノン・ヒビキは、マフラースタイルである。ミモリは弟分達と同じだからで、ヒビキは男子皆がマフラースタイルならばといった意図がある。カノンは真っ先にマフラースタイルを選択したが、その理由は彼女にしか解らない。


 ちなみに、ユージンがプレゼントに用意した≪飾り布≫。こちらは七色から、好きな物を選ぶ事が出来た。

 センヤは青の飾り布、ネオンは赤で、ヒビキは藍色だ。

 ミモリは紫と橙色……可愛がっている二人の従兄弟のカラーにしたがったのだが、彼女の緑髪とは合わなかった。その為、泣く泣く緑にしたのであった。

 そんな相方に苦笑しつつ、カノンは紫色を選択。そこに、どんな意図が込められているのかは……あえて語るまい。


 そんな訳で、和装を纏った新メンバーもしっかりとギルドに馴染んでいた。

 元よりJC組は言うに及ばず、ミモリもジンとハヤテのイトコ。そしてヒビキにはセンヤが、カノンにはミモリが居る。

 設立メンバーが社交的な面々という事もあり、新旧問わずに和やかな会話を楽しめるギルドとなっていた。


 ……


 そんな和やかな空気に包まれた、ギルドホームの工房。本日のノルマを達成しつつある辺りで、話題はこの後の事になる。

「今日の探索はどうするー?」

「イベント直前だし、レベリングするか?」

「でも、無理なレベリングをして用意した消費アイテムを減らすのも……」

「特にポーションは、素材まで品薄なのよねー」

「どこも考える事は同じッスよ」

 第二回イベント開催中は、ショップ等でアイテム補充が出来ない。時間経過でのHP・MP回復が無い上で、だ。

 それを知ったプレイヤー達は、回復アイテムを中心に買い込む様になっていた。


「それならヒビキの為にも、新メンバーのレベリングにするか?」

「いえ、僕の事は気にしないで下さい! イベントに備える方が、今は重要だと思います」

 目前に迫った第二回イベントの概要は、ヒビキも他メンバーから聞かされている。そして、ジン達の第一回イベントの戦績も。

 となれば、今回もトップ争いを繰り広げる事になるのは明白だ。それなのに、始めて二日目の自分に時間を割かせるのは申し訳無い……ヒビキがその様に思うのも、無理はなかった。


「ヒビキさんの強化は、イベント後に改めて……で良いのですね?」

「はい、皆さんの足は引っ張りませんよ!」

 レンの問い掛けに、ヒビキはハッキリと答える。レンはその言葉から、彼が自分達に馴染んだ事……そして、これからもAWOを共にプレイする意思がある事を汲み取った。勿論、ヒビキは無意識にそう言ったのだろうが。

「解りました。ヒビキさんのお気持ちを、ありがたく受け取るのが良いでしょう。ね、ヒイロさん?」

 レンにそう振られて、ヒイロは苦笑しつつ頷くしかない。レンの思惑は、彼氏であるヒイロにはよく理解出来たのだ。


「そういえば、出場メンバーは決まっているんですよね?」

 完成を迎えた皮装備を満足そうに手にしながら、センヤが設立メンバーに問い掛ける。

 第二回イベントは、十人一組。設立メンバーは確定として、残る三人は? PAC(パック)から選ぶのだろうと、最近加入した五人は予想していた。

 設立メンバーにPAC(パック)三人を加えれば、これで十人だ。


 しかし、ジン達の考えは別だった。

「初期メンバー七人に、PAC(パック)からはヒナだけに参加して貰う。残る二人は、ミモリさんとカノンさんにお願いしたい」

 その言葉に、ミモリとカノンは面食らった。

「えっ!? 私達!?」

「む、無理……!! 大勢の人達が見ている中で、戦うなんて……!!」

 純粋に自分が選ばれると思っていなかったミモリに対し、カノンは人見知り故の拒絶反応だった。そんな様子に、ジンが苦笑する。


「カノンさんの戦場は、工房ですから。予選は兎も角、流石に決勝の舞台で戦えとは言いませんよ」

「そういう事。装備のメンテナンス要員は、多分必要になると思うんです」

 今回のイベントは決勝トーナメントに進出する事が出来れば、常に会場に缶詰めだ。その間、補充だけではなく装備のメンテナンスもNPCショップ等に依頼する事は出来ない。


「ユニーク装備じゃないメンバーの消耗は、抑えるのが必定。でも、そうも言ってはいられないかもしれないでしょう? なので、カノンさんには待機場所で装備のメンテナンス役を担って欲しいんです。ヒナが居れば、HP回復は間に合うはずですし」

「そ、そうなんだ……それなら、まぁ……」

 ヒイロの説明に、カノンはホッと胸を撫で下ろす。装備のメンテナンスならば、恐らく目立つ羽目にはならないだろう。


「なら、私は?」

 ミモリの言葉に、ジンとハヤテが微笑みかける。

「姉さんは、デバフ要員だよ」

「ミモ姉のデバフアイテム投擲は、十分通用するッス! だから、基本は先鋒トリオ戦の想定ッスね」

 可愛い従兄弟達の説明に、成程……と頷いてみせるミモリ。


 ミモリは運動神経がそこまで良くない。その為、戦闘時もデバフアイテムを投げるのが主な役割だ。そしてミモリは思いの外、投擲に関しては適正が高かった。まだモンスターしか相手にしていないが、動きを予測してその進路上に投擲し命中させるといった場面も多々あるのだ。

 その技術を腐らせるのは、勿体無いだろう。


「出場時以外は、ポーション作りも出来ますし」

「確かに。それなら任されましょう!」

 背筋を伸ばし、右手で握り拳を作ると自分の胸元を叩くミモリ。可愛い従兄弟達に頼られては、仕方がないなぁ……と言わんばかりの態度だ。しかしその表情が満更でもなさそうなのは、言うに及ばずである。


 他のメンバーからも異論が無い為、出場メンバーはこれで確定。後は予選のボス討伐で、決勝トーナメント出場枠をもぎ取るのみだ。


************************************************************


 相談の結果、今日の予定はボス戦攻略に決定した。しかしボス戦周回ではない……東西南北のエリアボスを討伐するのだ。無論、別エリアへの移動はポータルを使う。値が張るが、今現在の【七色の橋】は懐事情で困っていない。


「これなら、新メンバーのレベリングも出来るだろう。スピード・アタック・ボーナスを取って、ヒビキの分のエクステも作れるし」

「い、良いんでしょうか……?」

 自分の為にやって貰っていないかと、ヒビキは表情を曇らせる。しかし、ジン達は笑顔で返す。

「拙者達のレベリングにもなるし、遠慮は無用にゴザル!」

「あと、ミモリさんの製作するデバフアイテムの素材も手に入るんですよ」

「成程……エリアボス戦は、一石二鳥というわけですね。いや、一石三鳥になるのか」

 そんな雑談をしながら早速、ジン達はウォータードラゴンとの戦闘に臨む事に。


 そんな訳で、【七色の橋】は待機列に並んで順番を待つ。そんな彼等に周囲のプレイヤー達が視線を向けるのは、致し方あるまい。

「あれ、やっぱり【七色の橋】だよな……?」

「生忍者だ……」

「おい、おにゃのこ増えてないか!?」

「う、羨ましい……!!」

「俺、あの眼鏡のお姉さんが……」

「俺は緑髪のお姉さんの方が……」


 そんな声が、そこかしこから聞こえて来る。しかしジン達は新人三人の為にボス戦のレクチャーをしているので、外野の声は耳に入っては来なかった。

 ちなみにレイドパーティを組んだとしても、経験値はパーティ毎の配分だ。そこで、ヒビキ・センヤ・ネオン……そこにPAC(パック)三人を加えた一パーティとなる。


 こうしてパーティを二つに分け、レイドパーティを組んだ【七色の橋】。設立メンバーに生産コンビを加えた九名と、新メンバーにPAC(パック)トリオを加えた六名での攻略となる。


 尚、新メンバートリオの装備も既に更新済みだ。センヤは打刀と盾。ネオンは杖、ヒビキは両手足の篭手と足甲が新しい物になっている。無論の事、和装に合うようにデザインされている。

 これらはカノンの作で、ジンやヒビキを中心に他のメンバーも手伝った。皆で製作した事もあり、三人共とても嬉しそうに装備を眺めている。


……


 そんな中、待機列に動きがあった。列の前の方から、ザワザワとどよめきが起きているのだ。

「何かあったのかな」

「さぁ……おや?」

 前列の方から、十名の男女が歩いて来る。それも【七色の橋】の居る方に、真っ直ぐ。

「……まさか、ここに【森羅万象】が居たとは……」

 レンがそう呟くと、ヒイロはそのギルド名に反応した。

「それって、【聖光の騎士団】に並ぶ大規模ギルド……だね?」

「はい」


 そうこうしていると、【森羅万象】の十人が【七色の橋】の前で立ち止まる。その中の一人……亜麻色の髪を長く伸ばした、中心に立つ女性が口を開いた。

「こんにちは~」

 穏やかな、それでいてゆったりとした雰囲気を漂わせる声だった。

「ど、どうも……こんにちは」

 何用か? と警戒していたヒイロだったが、間延びした挨拶に困惑しつつも挨拶を返す。それに合わせて、他の面々も会釈した……カノンの表情が強張っている。


「私達は【森羅万象】というギルドのメンバーで、私は一応ギルマスをしている【シンラ】と言います~」

 どうやらギルマス直々に挨拶に来たらしい。その目的は不明だが、害意の様なものは感じられない……少なくとも、彼女からは。

 というのも、一人の少年がジンを凝視……いや、睨んでいるのだ。


 すると、その少年が徐に口を開いた。

「ようやく会えたな、忍者さんよ」

「む、拙者でゴザルか?」

 ジンの返答に、ピクリと表情が揺れる……不機嫌そうな方向に。

「何だよ、その喋り方……もしかして、俺をナメてるのか?」

 そんな不躾な言葉に、ヒメノの機嫌が急降下した。レンやシオンも同様で、そちらがそう来るならば……と舌戦に向けて息を吸い込む。


 そこで一人の女性……銀髪ショートカットの女性が、行動を起こす。

「やめんか、馬鹿者!」

 ゴチン!! と、少年の頭に拳骨が落ちた。とてもいい音がしたのだが、少年の頭は大丈夫だろうか?

「ちょつ!! 何すんだよ、ねーちゃん!!」

 痛覚が軽減されるVRで、痛みを感じたのだろうか? ともあれ女性の拳骨には、相当な力が込められていたのだろう。


 そんな少年に対し、女性は鼻を鳴らしてジト目を向けている。

「ろくに挨拶もせず、突っ掛かったお前が悪い。ほら、ちゃんと謝れ」

 にべもないが、彼女の言葉は正しい。少年もそれが解ったのか、ジンに向き直って軽く頭を下げる。

「ご、ごめん……」

「あ、あぁ、いや……凄い音してたけど、大丈夫でゴザルか?」


 そんな二人の様子に、銀髪ショートの女性が口を開く。

「ジン君……で良いかな? 私は【クロード】という者で、【森羅万象】のサブマスターだ。愚弟が失礼した」

 銀髪の女性は、サブマスターだったらしい。むしろシンラよりも、このクロードの方がギルマスっぽく見えてしまう。

「はぁ……まぁ、お気になさらず」


 ジンの返答を受けてクロードが会釈した所で、三人の少女がハッとする。あまりに痛烈なゲンコだったので、呆然としていたようだ。

「お兄ちゃん、大丈夫……?」

「思い切り殴られたよねぇ、ナデナデしてあげよっか?」

「クロードさん! 【アーサー】さんが可哀想ではありませんか!」

 銀髪の小柄な少女が少年を気遣わしげに見れば、茶髪のボブカットをしている少女がニヤニヤしながら少年に擦り寄る。そして黒髪ロングの少女は、クロードに食って掛かった。

 何だか、賑やかな面々である。


 すると、後方に立っていた少年二人が口を開いた。

「あーあー、痛そー。クロードの姐さんは、相変わらずアーサーに厳しいなぁ」

「無理もないだろう。これはゲームとはいえ、VRMMO。相手にするのがモンスターならまだしも、同じプレイヤー相手だからな」

 ニヤニヤしている茶髪の少年に対し、当然だろうと黒髪眼鏡の少年は表情を変えずに頷いている。

 そんな彼等のすぐ側で、沈黙を保つ金髪の女性。彼女は値踏みするような視線を、【七色の橋】に向けている。


――何だか、変なギルドだなぁ……。


 自分達の事を棚に上げて、ジンはそんな感想を抱いた。

 それと、ジンに突っ掛かった少年……彼の名は【アーサー】らしい。それはひとまず、心に留め置く事に。


 ともあれ、一旦は落ち着いただろう。そのタイミングを見計らい、レンが口を開く。

「【森羅万象】の皆さん……私はこの【七色の橋】のサブマスターで、レンと申します。それで、本日はどの様なご用件でしょうか?」

 一方的に寄って来て、好き放題されている現状に苛立ちを覚えたのだろうか。レンはいつになく、お嬢様らしさを発揮していた。


 そんなレンの言葉に、クロードが口を開く。

「騒がしくして、申し訳無い。うちのメンバーが、君達【七色の橋】を見掛けたと報告して来たので、一度挨拶をしたいと思ってお邪魔した次第だ」

 クロードの言葉に、レンは成程……と納得した。


 第一回イベントランカー揃いの【七色の橋】は、第二回イベントにも参加すると予測したのだろう。もしかしたら、決勝トーナメントでぶつかるかもしれない。

 それならば事前に直接会って、相手の様子を窺おうと思うのも不思議ではないだろう。情報が無ければ、対抗策も練る事は出来ないのだから。


「そういう事でしたか。では、ヒイロさん?」

「あぁ……俺がこの【七色の橋】のギルドマスターのヒイロです。どうぞよろしく」

 他のメンバーは、トップ同士が挨拶を交わすならば自分達は必要は無いだろうと判断。そのまま黙って、事の成り行きを見守る構えだ。


 しかしそれを快く思わない者も居たようである。

「……他の方々は、名乗らないのですか?」

 不満そうに口を開いたのは、先程クロードに噛み付いていた黒髪の少女である。

「やめないか【アイテル】。それを言ったら、こっちだってシンラと私しか名乗っていないだろう」

 クロードの正論に、アイテルと呼ばれた少女は不機嫌そうだ。


「こちらが名乗る必要がありますか? ぽっと出のギルドと違って、こちらは広く名前が知れ渡っているのですよ」

 その傲慢とも取れる発言に、クロードは顔を顰めた。

 クロード自身は礼儀正しいので、奔放過ぎる自分の仲間達に手を焼いているのが見ただけで解る。


 流石にその発言は看過できなかったのか、アーサーはアイテルに苦笑いしつつ窘める。

「やめな、アイテル。それは流石に言い過ぎだよ」

「はい! アーサーさんが言うなら止めます!」

 そんな一瞬の変わり身に、【七色の橋】の面々は気付いた。アイテルはアーサーに相当な想いを向けているのだろう。


 するとシンラの隣に立っていた少女が、シンラに問い掛ける。茶髪の髪をツインテールにした、可愛らしい印象を抱かせる少女だ。

「お姉ちゃん……ちょっと、挨拶しても良い?」

「んー? まぁ、何か相談とかがある訳じゃないし、良いと思うよ~。でも、ご迷惑はかけないようにね?」


 シンラの許可に、少女は嬉しそうに頷くと……ジンに笑顔を向けた。

「はじめまして! 私、【ハル】っていいます!」

 元気の良い挨拶を向けられたジンは、ハルに向き直る。

「お初にお目に掛かるでゴザル。拙者はジンでゴザルよ」

 そんな忍者ムーブに、ハルはおぉー! と目を輝かせる。


「私、第一回の動画を見てて……忍者のジンさんに、一度会ってみたかったんです! あ、イベントランキング一位、おめでとうございます!」

 どうやら、彼女はジンのファンの様なものらしい。その事にくすぐったさを覚えるも、ジンは笑顔を浮かべてそれに応対する。

「そうでござったか。お言葉、ありがたく頂戴するでゴザル」


 そんなジンとハルのやり取りに、不機嫌そうな表情を浮かべる少年・アーサー。その様子が横目に見えて、ジンは何となく理由を察した。

 もしかするとアーサーは、ハルに想いを寄せているのではないだろうか? と。その割には、アーサーの周りには三人の少女が纏わり付いているが。


 アーサーに何の義理も義務も無いが、勘違いされるのは嫌なので先手を打つ事に。それに、隣の少女から不機嫌そうなオーラが発せられている気がしてならない。八本首の大蛇のオーラが。

「それとこちらは、拙者のパートナーでゴザル」

 そう言って、ヒメノの肩に手を置くジン。

 実はジンとハルのやり取りに、ヒメノも不安感を煽られていたのだ。しかしジンが自分の事をパートナーと明言してくれたので、その胸中の不安が一気に払拭された。ついでに、目に見えないオロチオーラも霧散した。


「ヒメノといいます。はじめまして」

 不安を取り除かれたヒメノは、満面の笑顔でハルに挨拶をする。すると、ハルはヒメノに向けて負けないくらいの笑顔で応える。

「ヒメノさん! ヒメノさんの活躍も、動画で拝見しましたよ! とっても凄かったです!」

 特に含む所が無かったのか、ハルはヒメノに対しても嬉しそうに声を掛ける。そんなハルに、ヒメノも無用な心配だったと思いつつ返事をした。

「ありがとうございます。ハルさん……で大丈夫ですか?」

「勿論ですよ~!」

 ハルは純粋に、良い子らしい。ヒメノも柔らかな笑みで、彼女を見ている。


 そんなやり取りをしていると、列の前方から一人の男性が駆け寄って来た。

「済みません、皆さん! そろそろ、順番が……!」

 どうやら、【森羅万象】の面々の順番が近い様だ。

「解った、すぐに向かう! 騒ぎ立ててしまい、申し訳なかった。私達はそろそろ失礼させて貰うよ」

「いきなり来て、ごめんなさいね~。今度、機会があったらゆっくりお話しましょう」

 クロードとシンラの言葉を受け、他のメンバー達も動き出す。

「え、えぇ……また、機会があれば」

 ヒイロとしては、そんな返事しか返せなかった。


 会釈をしたシンラとクロードが歩き出すと、ハルも慌ててそれに続く。

「ジンさん、ヒメノさん! 皆さん、またお会いしましょう!」

 そう言い残して、手を振るハル。すぐに踵を返し、シンラとクロードに駆け寄った。とても良い子だ。

 そして、アーサーがそれに続く。取り巻きなのか、三人の少女がアーサーを追い掛ける。アーサーはジンを一睨みするのを忘れない。

 そして少年二人と、終始後方に控えていた女性が、軽く会釈をして歩み去って行った。


「何だったんだ? 一体……」

「さぁ……」

 嵐の様に来て、嵐の様に去って行った【森羅万象】……彼等との初邂逅は、どうしても良い印象とはいえないものだった。

これまで何度か名前が上がっていた【森羅万象】、初登場です。

彼等とジン達がどう関わっていくのやら。


次回投稿予定日:2020/12/13














【作者がアプリでPACパックトリオを描いてみた】

挿絵(By みてみん)

アイビスペイントのフレームにカード枠があったので、カード風に……絶対レアリティ高め。

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― 新着の感想 ―
[一言] ……何だろう? アーサーの”殴られ慣れている”感は……。
[一言] パックの名前忘れた執事君の色合わせがあれなのかどうしてもブーメランパンツな色合いのとこに目がいってしまう
[良い点] マリウスという酷すぎる前例があるせいで、これでもすごくマシに思える不思議w
感想一覧
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