01-11 エクストラボスを攻略しました
エクストラクエストが始まってから三十分。アッキドウジとの戦闘は、中盤に差し掛かっていた。
「遅いでゴザル!!」
アッキドウジの攻撃を、尽く回避するジン。スキルレベルを上げるのにも丁度良いので、武技もどんどん発動させていた。
「【デュアルスライサー】!!」
武技を織り交ぜた攻撃で、ヘイトを更に稼いでいく。
「【フレアショット】!!」
「【ウォータージャベリン】!!」
ジンを追い掛け、無防備に背中を晒すアッキドウジ。そこへ叩き込まれるヒメノの矢と、レンの魔法。それによって、アッキドウジのHPバーが削れた。
その攻撃によって、アッキドウジのヘイトが主砲の二人に向けられる。
「ヒイロ様、来ます!!」
「了解!!」
シオンとヒイロが盾を構える。アッキドウジの攻撃に合わせて、二人が【ストロングガード】で物理攻撃を防御。ジンの準備が整えば、そこで再び超回避忍者の出番である。
しかし、そうそう上手くはいかない。いよいよアッキドウジの残りHPが、五割を切ったのだ。
「……まずいっ!!」
ジンはアンコクキュウビとの戦闘を経験している為、アッキドウジの身体を赤黒いオーラが覆う様子に危機感を抱いた。
「【ハイジャンプ】!!」
地面を強く蹴り、後方に大きく跳び退いたジン。しかし、アッキドウジの身体から発せられた衝撃波を躱し切れず、地面を転がっていく。
レンやシオンはとにかく、ヒイロとヒメノはその姿を見て衝撃を受けてしまう。
いつもならば尽くモンスターの攻撃を避けて、二人の為に攻撃のチャンスを生み出す存在……それが、ジンだった。そのジンの身体の至る所に、赤い光を放つダメージエフェクトが浮かび上がっていた。まるで、全身が傷付き血を流しているかのような錯覚を受けてしまう。
「ジンさん!!」
悲鳴染みた声を上げるヒメノだが、それが良くなかった。アッキドウジの視線がヒメノに向き、ゆっくりと近付いていくのだ。
「ヒメ、下がれ!!」
盾を構えたヒイロが、アッキドウジの前に立ち塞がる。そんなヒイロを意に介さず、アッキドウジは腕を振り被った。
「【ストロングガード】!!」
そして振り下ろされた、豪腕。その威力は先程とは段違いで、ヒイロは耐え切れずに地面に叩き付けられる。
「ぐあぁっ!?」
一気に削られるHP。その残量は満タン状態から、残り一割まで激減していた。
このままでは、ヒメノが倒されてしまう。そうなれば与えるダメージ量は半減し、攻略が長引くだろう。長引けば長引くだけ、消費する回復ポーションの量も増える。既にギリギリの状態なのだ、これ以上は明らかにまずい。
「まずいですね……!! 【ウォータージャベリン】!!」
「お嬢様っ!!」
シオンが制止しようとするが、レンの魔法は放たれている。アッキドウジの顔面に命中した【ウォータージャベリン】は、レンに対するヘイト値を上げる事には成功した。しかし、そうなればあの豪腕が襲い掛かる。
……
「どうすれば……!!」
ヒメノは頭をフル回転させるが、この状況を打開する糸口すら見えない。そんなヒメノに声を掛けたのは、アッキドウジの衝撃波に吹き飛ばされたジンだった。
「ヒメノ殿、無事でゴザルか!!」
満身創痍、そう呼ぶのが最も的確な表現だった。ジンの全身に走る赤いダメージ痕は、彼と出会ってから初めて見るものだった。
「ジンさん……大丈夫ですか!?」
泣き出しそうなヒメノの表情に、ジンは驚く。いつもの彼女は、その高いSTR値で敵を屠る強力な弓使い。しかし今は、ボロボロになったジンを見て泣き出しそうな表情をしていた。
ジンの胸に去来する、何とも言えない複雑な感情。ヒメノのそんな表情を、見ていられなかった。
「……ひとまず、拙者が注意を引き付ける! その間に、四人で打開策を考えて欲しいでゴザル!」
そう言うと、ジンはボロボロの身体でアッキドウジに向けて駆け出す。丁度、レンを狙ったアッキドウジの拳を、シオンが【ストロングガード】で受け止めた所だった。
「ジンさんっ!!」
「ヒメ、落ち着け……!! ジンを信じるんだ……」
滅多に大声を上げないヒイロに、強い口調で諭されたヒメノ。いつもはヒメノに、穏やかに話し掛けるヒイロだ。彼女が受けた衝撃は、大きい。
「ジンは、俺達の為に時間を作ってくれると言った。なら、俺達はジンの為に……あいつを倒す方法を見付けるんだ」
「【一閃】!!」
アッキドウジの背中に、≪大狐丸≫と≪小狐丸≫で同時に斬り付けたジン。確率クリティカルが発動し、アッキドウジの身体をわずかに揺らす。
「【狐火】!!」
地面に降り立つと同時、≪小狐丸≫を地面に突き刺したジン。地面に広がる青いエフェクトから、火柱が噴き上がった。
「貴様の相手は、拙者でゴザル!!」
青い炎に身を焼かれながら、ジンに歩み寄るアッキドウジ。再び、忍者とアッキドウジの攻防が始まった。
……
ジンがアッキドウジを引き付けている間に、四人は合流して回復していく。
「先程に比べて、盾で受けられない威力を叩き出して来た……もう、避ける以外に手段は無いだろうな」
HPを回復したヒイロは、ジンとアッキドウジの攻防を見ながらそう結論付けた。
だが、それに異を唱える声があった。
「そう……でしょうか?」
ヒメノである。
ジンが一人でアッキドウジを引き受けている為、本心では今すぐにでも何かしらの行動を起こしたい。しかし、無策で突っ込めば壊滅する事は目に見えていた。
故に、ヒメノは頭をフル回転させていた。その結果、導き出した仮説を口にする。
「このエクストラクエストは、VITを主力としたプレイヤー向けのクエストです。そうなると、やはり盾を持ったプレイヤーが攻略出来るような仕様じゃないでしょうか?」
「ヒメノ様の意見には一理あります。ですが、それはやはり私やヒイロ様のステータスがまだ低いせいでは?」
シオンも、アッキドウジの攻撃を受け切れる自信は無い。ステータスが不足している……それが敗因だと考えても無理は無い。
「そうかもしれないですが、もしかしたら他に手があるかもしれません。一つだけ、考えがあります。盾で受けられないなら……」
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流石のジンも、常に回避し続けていると集中力が低下してしまう。体力も危険域で、このままでは被弾してしまう可能性が高まっていく。
しかし、ジンは弱音を吐きそうな自分の心に喝を入れる。
――ヒイロ達が、何かしら対抗策を考えてくれるはずだ!! それまで、時間を稼がないと!!
自分には、速さを活かした時間稼ぎしか出来ない。それなら打開策が見つかるまでの間、走って走って走り抜くしかない。
走り続けて、不安になる事など腐るほど体験済みだ。この程度の逆境は、何度だって乗り越えてきた。
ジンはそう自分に言い聞かせ、足に力を込める。
「【クイックステップ】!!」
アッキドウジの豪腕を避け、《大狐丸》を構えるジン。
「【スライサー】!!」
アッキドウジの顔面に、【スライサー】の一撃が入る。しかしそれでもアッキドウジに、堪えた様子は見受けられない。
「ジン、待たせた!!」
駆け寄って来たのは、ヒイロだ。その瞳には、力強さが戻って来ていた。
「ヒイロ、何か手は!?」
「一つ、試したい事がある!!」
ヒイロの胸中には、不安と期待が綯い交ぜになっていた。
しかしそれでも、四人で導き出した仮説……それが通用するならば、アッキドウジは勝てない相手では無い。
「……ヒイロ、頼んだ!!」
ジンのその言葉に、ヒイロの口元が緩む。親友の信頼……それが、胸の奥に心地よく染み渡る。
「あぁ!!」
そしてアッキドウジの、その振り被った腕の動きに合わせるべくタイミングを見計らう。
「【シールドバッシュ】!!」
ヒイロは数少ない、盾武器による攻撃の武技を繰り出した。
……
時間を遡ること、数分前。
「盾で受けるのではなく、攻める……それで攻撃を止めるのですか?」
シオンの疑問に、ヒメノは頷いた。
「これは勘でしかありませんが、あのエクストラモンスター……あれも大型モンスターですから、ダウンはすると思うんです」
ヒメノの言葉に、三人は成程と納得する。
大型モンスターには、必ず”ダウン状態”という状況異常がある。これは、AWOの運営が明言している公式見解だ。エクストラモンスターにのみ、ダウン状態が無いというのは考え難い。
そしてダウン状態にするには、大型モンスターによってそれぞれ異なる条件が設定されている。例えば弱点部位への攻撃によるダメージが、一定量を越える。またはモンスターが、特定動作を規定数繰り返す等だ。
散々攻撃を受けても、防いでもダウンしなかったアッキドウジ。このボスは、VITが高いプレイヤー向けのボスである事は間違いないだろう。ならば盾を使った何かが攻略に必要だと、ヒメノは考えた。
普通に受けても、武技による防御でも駄目。それならば、盾による攻撃は?
「どうせジリ貧だ、試してみる価値はある」
「解りました、では私が……」
大盾を構えるシオンを、ヒイロが手で制する。
「万が一が有り得るし、シオンさんには二人を頼みたい。スキルオーブを持っているシオンさんのHPが尽きたら、クエスト失敗とかありそうだしね」
そう言ってみせたヒイロの顔は、男らしさに溢れた凛々しい表情。その表情を見たレンは、何故だか解らないが頬が熱を帯びたような感覚を覚えた。
……
ヒメノが立てた、アッキドウジ攻略の仮説。その有用性は、彼女の兄であるヒイロが証明してみせた。
「攻撃が……!!」
「弾けた!!」
そう、【シールドバッシュ】を繰り出したヒイロの盾が、アッキドウジの豪腕を弾き飛ばしたのだ。
「ジン!!」
これが、千載一遇の好機。ヒイロは武技を発動した事で発生する硬直を受けるが、その隣にはジンがいる。
「任された!!」
狙うは、アッキドウジの胸元。
「【空狐】!!」
ジンの持つ《大狐丸》と《小狐丸》が、光を帯びる。それは、攻撃の手数を倍にする【九尾の狐】の武技。そして、ジンにとって最大の威力を発揮出来る剣技。
「【一閃】!!」
両手の小太刀を振るうジン。その二刀流攻撃は、共にクリティカルヒットとなった。
更に、真空の刃がアッキドウジを襲う。こちらは残念ながら、クリティカルヒットにはならなかったものの、アッキドウジのHPバーが削れる。アッキドウジの表情には、苦悶の色が浮かんでいた。
更に、ジンの後にヒイロが続く。刀剣属性の武器を持っているのは、ジンだけではない。
「【一閃】!!」
ユージンの製作した、《打刀》。ヒイロの直剣に勝る性能を有する、切り札。放たれた一撃はクリティカルとなり、アッキドウジを更に仰け反らせる。
「ジンさん! お兄ちゃん!」
後方から聞こえる、仲間の声。STR極振りの弓使いが、既に射撃体制に入っていた。
「【フレアショット】!!」
放たれた矢が、アッキドウジの胸を貫く。ヒメノのSTR値によって放たれた一射は、アッキドウジのHPバーを大きく削った。ヒメノの攻撃も、クリティカルとなったようだ。
「行きます! 【ファイヤージャベリン】!!」
ヒメノが放った火矢の軌跡をなぞる様に、レンの火魔法が宙を奔る。その一撃がダメ押しとなり、アッキドウジが膝を折った。
「ダウン!! 総攻撃!!」
ヒイロの短い指示に、全員が動き出す。それぞれが武技や魔法を発動し、アッキドウジのHPをこれでもかと削っていく。
一度のダウンで、アッキドウジはその体力を二割まで減らされてしまった。これは攻撃を弾かれたアッキドウジが受ける攻撃が、クリティカル発生率を大きく引き上げるのが要因だ。更に言えば、攻略最前線プレイヤーのレンとシオン……そして、STR値だけならば攻略組に迫るヒメノの力が大きい。
ダウン状態からアッキドウジが復帰するも、すぐさまシオンが【シールドバッシュ】で攻撃を弾く。一度目と比べてダウンするまでには時間が掛かったものの、攻略法が解った以上恐れる者は一人も居なかった。
再びヒイロが【シールドバッシュ】でアッキドウジの攻撃を弾き、全員でダメージを蓄積させていく。それを繰り返す事、十分前後。ジン達はついに、二度目のダウン状態に持っていく事に成功した。
そして、それがアッキドウジの最後のダウンだった。
「【一閃】!!」
ジンの小太刀がその胸を切り裂き……
「【デュアルスラッシュ】!!」
ヒイロの打刀が肩口を斬り付け……
「【フレアショット】!!」
ヒメノの矢が腹を穿ち……
「【パワーインパクト】!!」
シオンのメイスが頭を砕き……
「【バーニングカノン】!!」
レンの魔法がその身を焼く。
五人の繰り出す、全力攻撃。最後のレンの魔法を受けて、アッキドウジのHPは残り一ドットとなった。
「トドメだ、シオンさん!!」
「はい……参ります!!」
ヒイロの声に、シオンが頷き駆け出す。
それはアッキドウジとの長い戦闘に終止符を打つ為の、渾身の一撃。
「【インパクト】!!」
振り被ったメイスを、渾身の力で振り下ろすシオン。その一撃で、アッキドウジのHPバーから光が消失した。
『エクストラクエスト【邪悪な鬼】をクリアしました』
全員の脳裏に運営アナウンスが流れ、レベルやスキルレベル、武技レベルや魔法レベルが上がった事が報らされた。エクストラモンスターの経験値は、膨大らしい。
そして、最後にシオンの脳裏に流れたアナウンス。
『スキルオーブ【?????】が【酒呑童子】に変化しました』
どうやら、あのアッキドウジは酒呑童子をモデルに作られたモンスターだったようだ。
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ユニークスキル【酒呑童子Lv1】
説明:動かざること山の如し。
効果:VIT+50%。他のステータスを−50%。
習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
魔技【鬼火Lv1】
説明:≪刀剣≫を振るう事で、火球を放つ。
効果:消費MP5。詠唱破棄。攻撃時、INT+5%、DEX+5%。低確率で延焼効果発動。
Lv2【覇鬼(未習得)】
Lv3【鬼雷(未習得)】
Lv4【展鬼(未習得)】
Lv5【鬼風(未習得)】
Lv6【剛鬼(未習得)】
Lv7【鬼氷(未習得)】
Lv8【励鬼(未習得)】
Lv9【鬼土(未習得)】
Lv10【酒吞童子(未習得)】
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「攻略達成ですね」
「お疲れ様でした……それじゃあ、シオンさん。報酬を受け取りましょう」
ヒイロの言葉に、他の三人も頷く。普段はレンに宝箱を開けるのを譲るのだが、そこまで言われてはシオンとしても断りにくい。
「では、僭越ながら……」
シオンが宝箱を開くと、宝箱の中から光が溢れ出した。光はそれそれのシステム・ウィンドウに降り注ぎ、ドロップしたアイテムに変化していく。
「ゴールドとシルバーのチケットが、一つずつ……ですか。破格の報酬ですね」
シオンを除く面々のウィンドウに表示されたのは、金色と銀色のチケットだった。
「このチケット、何でゴザル?」
唸っているレンにジンが問い掛けると、レンは一つ頷いて解説する。
「それは所謂、ガチャチケットですね。金はスキル、銀は装備のガチャが一回ずつ出来ます」
「ガチャ……へー」
ジンはまだ知らないが、このガチャチケットは有料アイテムだ。それも、中々に高額の。ボスドロップとしてはレアなものであり、金銀両方がドロップするのはレンやシオンですら聞いた覚えが無い。
「さて、お嬢様。既に二十三時を過ぎております」
「あ、そうですね。今日は……」
「今日は特別です、二十三時半までは目を瞑りましょう」
お目付け役はそう言って、脇に控える。シオンがそんな事を言うのは珍しく、レンは目を瞬かせる。
「良いのですか?」
「今日は、特別です」
明日は日曜日ですしね、と付け加えて、シオンは口を閉ざした。彼女なりの、レンへの思い遣りだろう。それと同時に、ユニークスキル入手に手を貸してくれた三人への感謝の想いも込められていた。
レンはこれまで、同じ学校の友人と遊ぶという事はそうそう無かった。家の事情や稽古事のためだ。
そんな彼女が、偶然にも遭遇した学友とゲームで共闘。とんでもない強敵を、共に倒したのだ。気分が昂ぶっているのはシオンならばすぐ解る。
年相応の少女の姿に、ちょっと甘やかしても良いだろうと絆されたのだった。
「では、お言葉に甘えて。あの……ヒメノさん、ヒイロさん、ジンさん。よろしければ、私とフレンド登録をお願い出来ませんか?」
レンの申し出を、三人は当然快諾した。
……
シオンともフレンド登録を交わすと、ジン達はシオンのドロップ品を確認する事にした。シオンも、共に戦って手に入れた物の情報を明かさないという選択は取らない。
「これは……刀ですね」
システム・ウィンドウを操作して装備を付け替えると、シオンの背中に立派な大太刀が装備された。同時に、大きな盾がシオンの左手に現れる。大盾も和風で、表現するのならば戦国武将の甲冑……その肩鎧っぽい感じだ。
「ふむ、大太刀と大盾でゴザルな」
「はい。太刀は《鬼斬り》、盾は《鬼殺し》だそうです」
背負った大太刀《鬼斬り》を抜いてみるシオン。幅広の刀身は無骨な印象を受けるが、鬼に由来する一振りだからだろうか。それを満足そうに見ると、シオンは再び太刀を背に収めた。
「他には何がドロップしたんですか?」
「ジン様から伺っていた物と同じ【拡張スキルスロット】のオーブと、素材≪アッキドウジの毛髪≫が三つずつですね。そして、飾り布が一つでございます」
シオンはウィンドウを操作し、《戦鬼の飾り布》を装備する。飾り布は、ジンとは色違いの緑色だ。シオンは迷ったものの、それを腰の後ろに装備する帯として装着した。
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装飾品《戦鬼の飾り布》
効果:HP+20、MP+20。
スキル:【自動修復】
武装《鬼殺し》
効果:VIT+20
スキル:【自動修復】
武装《鬼斬り》
効果:STR+20
スキル:【自動修復】
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「わぁ、シオンさん素敵です!」
「はい。よくお似合いですよ、シオンさん」
ヒメノとレンの賛辞に、シオンははにかみ笑うのだった。
ひとしきり談笑すると、ヒイロがレンとシオンに切り出した。
「素材の方は、加工が必要ですね。生産職人に、ツテは?」
ヒイロの問い掛けに、二人は首を横に振った。
「基本的には、取引掲示板で装備を購入しています。強化に関しては、NPCの鍛冶職人に依頼ですね」
その返答を受けたヒイロは、ジンに視線を向ける。ジンはヒイロの意図を察し、笑顔で頷いてみせた。生産大好きおじさんなあの人なら、喜んで引き受けてくれるだろうと考えたのだ。
ジンの無言の肯定を受け、ヒイロは一つ提案を持ち掛けた。
「シオンさんが手にした素材なんですが、それを加工できる腕の良い生産職人の方が居るんです。よろしければ、明日にでも一緒に行ってみませんか?」
ヒイロの提案を受けたシオンは、レンに目配せする。レンは一瞬だけ考える素振りをし、そしてシオンに頷き返してみせる。それを受け、シオンはヒイロに向き直る。
「お心遣い、ありがとうございます。ヒイロ様達がよろしいのでしたら、是非」
「じゃあ、僕はユージンさんにアポ取っておくよ」
「レンさん、何時頃でしたらご都合が良いでしょうか?」
簡単な打ち合わせを重ねて、翌日の予定を立てて行くジン達。シオン以外が手に入れたチケットガチャも明日、全員が揃った時に行う事になった。
結論が出た所で、レンとシオンはその場でログアウトする事にした。
「それでは、本日はありがとうございました。また明日、お会いしましょう」
「ヒメノ様、ヒイロ様、ジン様。今夜はここで失礼致します、お休みなさいませ」
丁寧な挨拶を残してログアウトする二人を見送り、ジン達もそのままログアウトする事にした。
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ログアウトした仁は、VRドライバーのゴーグルを外す。
「まだまだ、知らない事が多いな……折角だし、少し調べてから寝ようか」
そのままコンソールを叩いて、AWO攻略サイトを開く。
そこで、ジンは初めて知った……レンとシオンが、最前線で攻略を進めるプレイヤーに名を連ねている事を。
「……マジでかー」
あの華奢な魔法美少女と、美人メイド大盾使い。他にそんなプレイヤーが居るとは思えない。
「明日、ヒイロとヒメノさんにも伝えよう……」
きっと驚くだろう……そんな事を考えながら、ジンは攻略サイトに目を通していく。
結局、ジンが寝付いたのは深夜の一時を回った頃であった。
これで中心キャラクターが揃いました。