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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第七章 夏休みが始まりました
109/573

07-16 旅行に行きました その4

 水族館のフードコート……そこに、ギルド【七色の橋】のメンバーが並んでいた。その視線の先で一人の女性……梶代紀子は、恥ずかしそうにモジモジしている。

 ボサボサだった髪は丁寧に梳かれ、ちょっと癖っ毛程度まで整えられている。化粧っ気の無かった顔も、派手過ぎず地味過ぎずのナチュラルメイクを施されており、誰から見ても美人女子大生だった。


「紀子さん、綺麗ですね!」

「はい、素敵ですよ」

「美人さんだと思っていましたが、これ程とは……」

「紀子さん、超大人っぽくない!?」

「うん、凄い綺麗!」

 JC組からは、純度百パーセントの賛辞が贈られる。そんな賞賛の言葉に、紀子は顔を真っ赤にして俯く。


「ふっ……良い仕事したわね」

「はい。素材の良さもありますが。というか和美様? 中々のメイク技術をお持ちですね」

「そうかしら? ありがとうございます」

 紀子の化粧とヘアメイクを施した鳴子と和美……実に満足そうに頷いている。


 そして、男性陣。

「はー、紀子さんも凄い美人だったんッスね……」

「うん、俺も驚いた」

「美人だとは思ってたけど、予想以上だったね」

「解ります、それに眼鏡が無いと印象も変わりますよね」

 男性陣の評価に、紀子は顔を真っ赤にする。ついでに、彼等の恋人の視線が少し冷たくなるのだった。


 ……


 紀子大変身を経た【七色の橋】は、水族館のレストランで昼食を摂った後は港へ向かう。

「正に海の幸! って感じだったね」

「はい! 新鮮なお魚だと、こんなに味が違うんだってビックリしました」

 和やかな雰囲気で会話しながら、港へと向かう仁達。その表情には、笑顔が浮かぶ。


「恋ちゃん、本当にありがとう。今回の旅行、とても楽しいわ」

「うんうん! それに皆一緒だし!」

 愛と千夜の感謝の言葉に、他のメンバーも続く。仲間達の純粋な言葉に、恋も穏やかな微笑みを浮かべながら首肯した。

「喜んで貰えているなら、私も嬉しいわ」

「はい。最も、旅行はまだ終わっておりません。皆様をおもてなしする為のご用意は、他にも御座います」

 恋と、傍らに立つ鳴子は満足そうだ。しかし鳴子の言葉通り、まだ旅行は終わっていない。


 海遊びに水族館と来て、午後の予定は……。

「こちらの船で、クルージングで御座います」

 海に浮かぶ、大きなクルーズ船。こちらは一般客も然程多くはなく、落ち着いて堪能できそうだ。


「わぁ……大きいわね」

 和美の言葉に、紀子が何度も頷いて同意する。その目が輝いて見えるのは、メイクによる変身を遂げたから……ではない。

「う、うん……船かぁ、いつか作ってみたいな……」

 クルーズ船を目の前にして、紀子が思ったのは「作ってみたい」というものだった。いつかの姫乃の様に、キラキラとした目をしている。実に、鍛冶職人プレイヤーらしい感想だった。


 クルーズ船に乗り込みながら、仁達の話題はまたもAWOの話へ。

「南エリアは、海沿いのエリアッスよね」

「そうですね。もしかしたら、船が必要なクエストもあるかもしれませんよ?」

 隼の言葉から、恋はそんな可能性を提示する。すると、それに紀子が乗っかった。

「DKCだと、船を作るっていうクエストもあったの……この舟ほど、大きな物では無かったけれど」

 生産の話題になると、饒舌になる紀子。最もそれは、相手が【七色の橋】のメンバーだからという但し書きが付くが。


「船作りかぁ……大変そうだけど、何か楽しそうですね!」

「うん、皆で作るっていう楽しみもある」

 声を弾ませる姫乃の言葉に、英雄が笑顔で同意を示した。そんな二人の言葉に、紀子はおずおずと思っている事を口にする。


「も、もし……その時は……て、手伝ってくれる、かな?」

 紀子の言葉に、仁達は顔を見合わせ……そして当然とばかりに頷いてみせる。

「勿論! 皆で作りましょうよ!」

「そうそう、紀子さん一人だと大変ですし!」

「レベルはまだ全然ですけど、僕も頑張ります!」

 新規加入トリオが紀子に集まり、笑顔で声を掛ける。


「一人で作るなんて言ったら、拗ねる所よ? 相方なんだから、どーんと頼りなさいな」

「縫製のスキルをもっと上げれば、旗なども作れそうですね。デザインについては、皆で話し合いましょう」

 和美と鳴子は、そんな紀子の脇に立って笑顔を向けた。


「力仕事なら任せて下さい!」

「DKCにあったならば、AWOで同じ様なイベントやクエストがあってもおかしくないですね」

「早い内から準備して、他と差を付けましょう!」

 姫乃と恋、愛はグッとガッツポーズを取り、紀子に向けて意欲を示す。


「皆で作ったら、すっごいのが出来そうッスね!」

「うん、確かに。紀子さん、今度皆で調べてみますか?」

「だったら、南エリアかな? 丁度今夜は、そっちでレベリングの予定だし……少し情報集めをしましょう!」

 音也以外の男性陣も、非常に乗り気だ。


 紀子としても、面倒臭いとか嫌だとか言われる事は無いとは思っていた。しかし、こうして受け入れられる事でつくづく思う。


――あぁ、出会ったのが【七色の橋】で……皆で良かった……。


************************************************************


 港を出港したクルーズ船だが、そのデッキに集まった仁達は水着姿だ。というのも、デッキにはプールが備え付けてあるのだった。

「セレブリティ……」

「それを言ったら、今回の旅行ってセレブ感半端ないよ……」

 高級車での移動に始まり、行き先はプライベートビーチがある別荘。スタート地点からして、セレブ感溢れるものなのだ。隼の感想は、英雄の言う通り今更である。


 そして、肝心の女性陣だが。

「わっ! 今何か跳ねたよ!」

「トビウオかな? 結構高く跳んでたね!」

「じ、仁さんの方が高く跳べるよ?」

「ヒメちゃん、張り合う所がおかしいわ……」

「姫乃ちゃんは本当に、仁さんが大好きなのね……」

 手摺に捕まって、海原の様子を眺めていた。さて、彼女達は水着姿である。つまり、背中を向けられる男子達には少々刺激が強い光景だ。

 つまるところ、中学二年生な女子達のお尻が並んで向けられているのである。それも五人分だ、青少年には目の毒だった。


「……横に並ぶか、目を逸らすかしか出来ないね」

「そう……ですね」

「そこで凝視しない所は、紳士的だと評価しますが……健全な青少年ならば、致し方の無い事では?」

 微笑ましいやら、感心するやらの鳴子。しかし彼女も水着姿であり、こちらもそのスタイルの良さで男子の目を引くのだが……鳴子さん、自覚ありますよね? わざと?


 逆に無自覚なのが、和美と紀子だ。

「うーん……こんな贅沢な体験をしたら、帰った時に虚しさを覚えそうね」

「それは言ったらいけない事……じゃあないかな? ちょっと、解るけど」

 両腕を組む事で、和美の胸元が寄せられてその豊かなバストが強調されている。隣に立つ紀子は男子達に背中を向けているが、そうすると程よい肉付きの臀部が向けられている事になる。


「隼、この旅行の目的って精神修行だっけ」

「仁兄、現実でも忍者を目指す気ッスか? 全然違うッスよ」


 ……


 煩悩と戦いつつ、仁達も船上から見える海を堪能したり、プールで泳いだりと楽しむ。波に流される心配がないので、仁と姫乃もプールに浸かっていた。

「恋さんと鳴子さん、気を使ってくれたのかな」

「ここなら、私達も水に入れますからね。私の場合、頭を濡らせないですけど」

「多少は防水していても、多少だもんね」


 水特有の浮遊感のおかげで、仁も右足への負担を軽減できている。その為、ゆったりとだがプールを堪能していた。無論、泳ぐのではなく水中ウォーキングだ。水中運動は身体への負担が軽減されるので、リハビリに適している。仁も事故の後、身体の為にプールで水中ウォーキングを何度かしていた。


 そんな中、仁達はプールで別のグループがふと目に付いた。大学生だろうか、仁達よりも年上の集団だ。

 女性比率が多く、男性は数人しかいない。その内、一人の男性は見るからに社会人っぽく見えた。どういう集団なのだろうか?

「待って待って! あー……!」

 そんな事を考えていると、飛んで来たのは彼等が使用していたビーチボールだ。それは、仁達のすぐ側に着水した。

 少し距離が離れているし、取ってあげた方が良いだろう。仁はそう思い、ビーチボールに手を伸ばした。


「よっと……投げますねー!」

 一声かけて、仁がビーチボールを集団の方へと投げる。投げたボールは見事に、一番近くにいた黒髪の女性の元へ。

「ありがとう!」

 そう言って女性が手を振るが、仁はその姿に既視感を覚える。どこかで会った様な気がするのだ。


 肩まで伸びた黒い髪に、猫っぽさを感じさせる眼。彼女は黒いオーソドックスなビキニ姿で、その笑顔は太陽の様に輝いている。

 親しみを覚えさせる表情は、やはり何処かで見覚えがある気がした。


 再び、仲間達とビーチバレーを再開した女性。その後ろ姿を見る仁に、姫乃が頬を膨れさせる。

「むぅ……」

 その声に、仁は姫乃にも聞いてみようと思い付く。

「ヒメ、今の人……AWOのどこかで会った事ないかな? 誰かに似ている気がするんだ」


 そう言われても、むくれたヒメちゃんは取り合わない。そこでようやく、仁は姫乃が頬を膨らませている理由に思い当たった。

「むー……」

「……ぼ、僕が好きなのはヒメだけだよ?」

 膨れさせた頬に指を押し当てると、その蕾のような唇から口内の空気がプスーっと吹き出した。


――まぁ、良いか。思い出したら、あっちで会った時に聞けばいいし。


 これ以上、姫乃の機嫌を損ねてはならない。仁は姫乃の手を強く握って、グイッと引き寄せる。

「ヒメ、もしかして嫉妬してくれたの?」

 引き寄せられた姫乃は、その慣性のままに仁の胸元へと頭を寄せる。

「しーりーまーせーんー」

 これは本気では無いな、と仁は思う。本気ならば、姫乃は顔を合わせてはくれないだろうから。


 ならばやる事は、姫乃のご機嫌取りだろう。何が一番喜ぶか? と考えつつ、仁は無意識にその身体に腕を回す。

「……あっ」

 姫乃の口から、そんな言葉と吐息が漏れた。抱き締められるのは初めてではないが、今日は二人とも水着姿だ。素肌が触れ合う面積は、服を着ている時の比ではない。


 肌にダイレクトに伝わる感触。そこで仁は、自分が何をしているのか気付いた。慌てて回した腕を元に戻そうとして……姫乃の腕が、仁の背中に回された。

「……えへ」

 小さな、漏れ出た様な姫乃の声。どうやら、ご機嫌取りは成功らしい。

 しかし、視覚のみならず触覚にも訴えて来る姫乃の水着姿。仁が水中ウォーキングを再開しようと申し出るまで、ひたすらに煩悩との戦いを繰り広げるのだった。


「可愛いなぁ……カップルかな?」

「だね。でも……何処かで見覚えがある様な……」


************************************************************


 クルージングを終えた仁達は、初音家の別荘へと帰って来た。料理担当の使用人が腕によりをかけて用意したディナーを食べた後、仁達は砂浜に出る。その装いは、私服では無い。

「何故だろう……凄くしっくり来る」

「仁兄、茶髪のウィッグ付けてマフラーがあれば完成ッスよ」

「コスプレじゃないよ!?」

 仁達は、初音家の皆様が用意してくれた浴衣に袖を通していた。和装が落ち着くと思ってしまう辺り、完全に染まっている。


 そこまで染まり切っていない音也は、苦笑気味だ。

「僕もいつか、仁さん達みたいにそっちの方が自然に思えるんでしょうか」

 まだ一晩しかAWOをプレイしていないが、音也も異世界オンラインが楽しめた様子。その言葉からは、継続してプレイしたいという思いが窺えた。

「近接格闘職はDPSが見込めるからね。是非とも自然に思える様になって欲しいかな」


 英雄の言うDPSとは、ゲーム用語でDamage per secondの略だ。和訳すると「単位時間当たりの火力」を指す。

 近接格闘職は、リーチが短く防御力も後衛並みに低いというデメリットがある。その分、手数と威力に優れる設定だ。回避技術を磨いた近接格闘職は、他の近接職よりも高いDPSを見込めるのである。


 そんな解説をしている内に、女性陣が支度を済ませてやって来た。

「皆さん、お待たせしました」

 恋の声に振り返ると、男性陣はまたも動きを止めてしまう。しかし彼らは、水着の時と反応が変わらない。

 女性陣は身に纏った浴衣に合わせて、髪もそれぞれ結っている。所謂お団子ヘアだったり、編み込みヘアだったりとバリエーションは様々だ。

 普段からゲーム内で和装を着込んでいるから、違和感は感じないだろう……そんな風に思っていた頃が、彼等にもありました。現実として、浴衣で身を固めた女性陣は想像をはるかに超える美しさを誇っている。


「仁さん、どうでしょうか?」

 赤い浴衣姿の姫乃は、仁の言葉通り非常に可愛らしかった。うなじあたりで三つ編みにした黒髪。黄色い帯の上に乗っかる形になった豊かな膨らみが目に付く。

「……むっちゃ可愛い」

 満面の笑顔を向ける、可愛らしい恋人。いつもと違う髪型にした彼女の新たな魅力に、仁は見惚れてばかりだ。

 そんな仁の感想に、姫乃は嬉しそうに微笑んだ。そして仁の横に移動すると、いつもの様にその手を取る。


「ふふ、私も褒めて貰えるんでしょうか? ね、英雄さん」

 恋は青い浴衣を身に纏い、側頭部の位置でお団子ヘアを作っていた。顔に浮かぶのは、英雄をからかう時の小悪魔スマイルだ。

「俺の語彙力で表現しきれないくらいに可愛いよ、恋」

 そんな英雄の言葉に、恋は満足そうな笑みを浮かべる。普段の大人びた雰囲気を崩す、可愛らしさ重視のヘアスタイルによく似合う笑顔だ。また細身の彼女は、浴衣姿がよく似合っていた。


 愛は黄色い浴衣で、赤色の帯を腰に巻いている。黒髪ポニーテールは相変わらずだが、浴衣姿という事もあって非常に親和性が高かった。

「愛はやっぱり和服が似合うね。いつもの格好も好きだけど、浴衣姿も凄く良いよ」

「……そ、そうですか? やだ、何か照れますね……」

 初々しい愛の反応に、隼は可笑しそうに笑う……が、内心ではドギマギしているのは仁と同様。それを表面に出さない点が、従兄弟との差だろうか。


 音也の前に立つ千夜は、とても明るい笑顔でクルリと回る。水色の浴衣が、実によく似合っていた。

「どう、どう!?」

 可愛らしい笑顔と共に、音也からのコメントを催促する千夜。それは普段、友人達の前では見せない恋する乙女の表情だ。

 そんな恋人の姿に、音也は笑みを浮かべて頷いた。

「やっぱり、千夜ちゃんは何でも似合うね。凄く可愛いよ!」

 そんな音也からの評価に、千夜はニッコリと微笑みながら頷いた。

「じゃあ、音也もこういう浴衣を着ようか!」

「絶対に嫌だよ!?」

 女顔を気にしている音也からすれば、溜まったものではない。しかしながら、そんなイジりも恋人からのものならば、不快感などは無かった。


 そんな恋人達の様子を見守る四人は、微笑ましそうにしている。しかしながら、胸中では恋人という存在に対する憧憬があった。

 深緑の浴衣を着込んだ鳴子は、誰か良い人が居ないかと内心で溜息を吐く。

 橙色の浴衣を身を纏う和美と、薄紫色の浴衣姿の紀子。二人はどうせなら一緒に生産が出来る人なら良いなぁ……と、恋人に求める条件を考え始めた。


 そして、優。彼女は桃色の浴衣を身に纏った自分の首から下を見下ろし、他の四人と比べて自分はどうなのかな? なんて考えてしまう。

 彼女も十分に美少女なのだが、他の四人にいて自分に居ない恋人……それは、魅力の差ではないか? なんて考えが頭に浮かんでしまったのだ。


 ……


 そんな一幕があったものの、全員が集まってやる夏の風物詩。手持ち花火である。

「プライベートビーチですから、少しくらい騒いでも問題ありませんよ」

 花火はそこそこの量があり、この人数で遊び切れるかな? なんて思うくらい、積まれている。


 仁達は火を点け、色とりどりの花火を楽しんでいる。恋人同士で楽しむ一幕もあれば、他のメンバーで集まる一幕もある。

「仁兄、和姉。こんな風に一緒に花火なんて何年振り?」

「もう八年振りとかじゃないかしら?」

「そんなになるのかー、随分と久し振りだね」

 こちらは、イトコ組。仲の良い親戚である三人は、揃って手持ち型の花火を見ながら会話を楽しんでいた。


 一方、星波兄妹も二人で花火を吟味する。

「ヒメはどういう花火が好きなんだ?」

「地面に置いて、噴き出すのが好きかもしれないです!」

 夏祭りの花火を一緒に見る事はあれど、こんな風に自分達で火を点けるタイプの花火は随分と久しい。

 また夏祭りの花火も、姫乃の事情がある為人混みは向かない。幸い自宅の庭から花火は見える為、英雄と父・大将が出店で買って来たものを家で摘みながら打ち上げ花火を見るのが通例だ。


「紀子さん、これはどうですか?」

「え? あ、ロケット花火……? う、うん……じゃあ、やる?」

 紀子は、千夜・優・音也の三人と花火を堪能している。というのも新入りである三人は、まだ紀子と完全には打ち解けられていない。その為、この花火大会はいい機会だったのだ。

「中学生だけで花火をするのは、危ないからね」

「紀子さん、ありがとうございます!」

 火を点ける為の線香を手にする紀子に、千夜と優が笑顔を向ける。そういう理由で、紀子を誘ったのだ。全ては、紀子と打ち解ける為に。

 そんな三人に、紀子もだいぶ緊張が解れた様子である。口数が増えて来ているので、三人もそれを実感していた。


「お嬢様。別荘のバルコニーに花火を並べ、簡易的なナイアガラ花火を再現する準備が出来ておりますが、いつ頃に披露しますか?」

「は……? そんな事をしていたんですか? え、お父様はなんて?」

 大掛かりな準備になるし、そもそもモノは火だ。危険な為、別荘の持ち主である父に伺いを立てねばなるまい。

「いえ、発案は秀頼ひでより様ですよ?」

「お父様!?」

 初音家の父【初音はつね 秀頼ひでより】……三人の子をもうけたファースト・インテリジェンス代表取締役社長は、可愛い娘の為にそんな案を出すくらいお茶目な人らしい。


 そんな恋の隣で花火を選んでいた愛は、恋と鳴子のやり取りに苦笑する。

「恋ちゃんのお父さんは、子煩悩なのね」

「う、うん……会社では、厳格な鬼社長なんだと聞いているんだけど……」

「オフィシャルとプライベート、別の顔があるのは普通じゃないかな?」

 珍しく困惑している恋に、愛はまた一つ親しみを覚えた。


「本当に、この旅行に来られて良かったな……」

 ポツリと呟く愛に、恋は首を傾げる。

「愛ちゃん……?」

「あ、口に出してた? 何かね、更に良いギルドになって来たと思ったの」

 仲の良いJC組だが、この旅行で互いの心の距離は更に縮まったと思う。

 女子大生コンビや、新メンバー三人だけではない。元々のメンバーとの距離も、グッと近付いた気がしていた。


 そんな愛の言葉に、恋も笑顔で頷く。ここに居るメンバーが、これから先一人として欠けて欲しくはないと思う。

「……来年も、皆で旅行に行く?」

 だから、未来の話を切り出してみた。きっと、それは実現できる未来だ。恋はそう確信している。

「……それも良いかも。またお世話になっちゃう事になるけど……」

「良いじゃない、私がしたいんだもの」

 寄り掛かるだけの相手ならば、そんな風には思わない。やって貰って当たり前……だなんて考える者は、【七色の橋】には居ない。

 だからこそ、来年も……皆とこうして、旅行がしたい。それが、恋の本音だった。


 手持ち花火を堪能した後は、初音秀頼プロデュースの花火となった。初音家の使用人が丹精込めて整えた、ナイアガラ。更にはビーチにこっそり用意されていた花火に火を点け、花火のロード。どうやら、恋達が出掛けている間に用意していたらしい。

 締めの線香花火を終えて、花火大会は恙無つつがなく終了。

 そして仁達は、今夜も揃ってログインの準備に移るのだった。

クルージング船のプールに居た女性、一体誰ナンダロウナー(棒)。

ともあれジンとヒメノを中心に、カップル達のイチャイチャを描いていたらブラックコーヒー消費量が……。


次回投稿予定日:2020/12/10

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― 新着の感想 ―
海と言ったらハワイだよね〜
[一言] 秀頼(ひでより)だ! 禿頼(ハゲより)では無い! 断じてだ!
[良い点] >「じ、仁さんの方が高く跳べるよ?」 仁君にトビウオと比較された心境を聞きたいw
感想一覧
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