07-15 旅行に行きました その3
旅行二日目の朝の事。いつも通り、五時頃に目を覚ました仁は着替えを済ませて別荘の外に出る。
見渡す限りに広がる海と、頬を撫でる生温い潮風。海沿い特有の環境が、いつもと違った朝を演出していた。
――別荘とはまた、本当に恋さんの家は凄いんだなぁ……。
そんな事を思いながら、仁は砂浜を歩く。長時間歩くのは傷付いた右足に負担がかかるが、全く動かさないと筋肉が衰えてしまう。それを防止する為に、仁は休みの日もこうして早朝に歩く様にしていた。
そんな仁は、二つの人影が海岸通りを歩いているのに気が付く。長身の男性と、髪の長い細身の女性だ。気付いたのは相手も同様で、にこやかな笑顔を浮かべて軽く手を上げた。仁が軽く会釈をして返すと、二人が仁の元へと歩み寄って来る。
「おはよう、少年。良い朝だな」
そんな軽い口調ながら、声色からは友好的な感情が滲み出ている。仁も不思議と、不快感を覚える事はなかった。
「おはようございます。お散歩ですか?」
仁が丁寧に返すと、今度は女性が笑顔を浮かべて頷いた。
「はい、おはようございます。えぇ、朝のお散歩をしている所なの。あなたは?」
彼女の声は、鈴を転がすような声だった。それと、どことなく恋に雰囲気が似ている。
「僕も散歩です。あの、お二人はもしかして……」
気になったので問い掛けてみると、仁の予想通り二人は初音家の人だった。それも使用人ではない。女性は恋の姉であり、男性はその旦那さんだ。
昨夜、日付が変わる頃に別荘に到着したのだという。
仁は自己紹介をすると、別荘に招いて貰った事への感謝の言葉を告げる。
「それにしても、成程……貴方が仁君なのね。恋と一緒にこの前、イベントの動画を見させて貰ったのよ」
「あ、俺も見た。ランキング一位だったんだってな? おめでとう!」
一切の含みなく、賞賛の言葉を贈る二人。そんな若夫婦に、仁は照れ笑いしつつ感謝した。
「さて、俺達はそろそろ戻ろうか」
「そうですね。それでは仁君、また朝食の時に」
「はい、また後程」
こうして挨拶を交わした後、手を繋いで別荘に向かう二人の背中を仁は見送る。歩幅を合わせて歩く二人の姿は、とても理想的な夫婦の姿に見えた。
――僕も、将来的にはヒメとあんな夫婦になりたいな……。
そんな将来に思いを馳せていると、別荘の二階にあるバルコニーから、一人の少女が姿を見せた。
長い黒髪が潮風によって靡き、ゆったりとしたワンピースの裾が翻る。その下にはきちんとキュロットを履いていたが……それを良かったと思うべきか、それとも残念と思うべきか。
カチューシャの様に、恋から託されたVRギアを装着している彼女。視線を巡らせ、砂浜に居る仁に気付いて笑みを浮かべる。大きく手を振った彼女は、慌てた様子で部屋の中へと戻っていった。
――多分、こっちに来るんだろうな。
仁にはそんな確信があった。そんな確信を裏付けるかの様に、数分で別荘から愛しい恋人が飛び出して来る。
「仁さん!」
可愛らしい笑顔に、嬉しそうな声。そういえば、彼女と同じ屋根の下で一晩を過ごすのは初めての事だった。移動と海遊びの疲れで、ベッドに横になったらグッスリだったのが残念だ。
駆け寄ってきた少女は、仁の数歩手前で減速。ゆっくりと、仁の胸元に身体を寄せる。
「おはようございます、仁さん」
「おはよう、ヒメ。よく眠れた?」
「はい! 恥ずかしながら、横になったらすぐに」
「あはは、僕も」
右手で杖を突いているので、左手だけを姫乃の背中に回す。そんな仁の行動に、姫乃は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「朝のウォーキングですよね? ご一緒して良いですか?」
「勿論、お願いするよ」
仁からの了承を得た姫乃は通学やデートの時と同じ様に、仁の左側へと移動。彼の差し出した左手に、自分の右手を重ねる。
微笑み合った二人は、並んで砂浜を歩く。居心地の良い空気に包まれ、旅行二日目の幕が上がった。
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朝食の席には、恋の姉とその旦那も同席。皆で別荘への招待についてお礼を言うと、二人は朗らかに微笑んでいた。恋の過去の事情を考えると、こうして大勢の友人・仲間を招けた事を喜んでいるのだろう。
「こんなにたくさんのお客さんを迎えられて嬉しいわ。皆さん、恋の事をどうかお願いしますね」
実の姉としては、恋がこうして多くの仲間に囲まれている事がとても喜ばしい事だった。そして、こうして顔を合わせて挨拶出来た事も、だ。
そんな若奥様の様子に、旦那さんも非常に嬉しそうに目を細めている。彼女がどれだけ恋を心配し、見守っていたのかを知っているからだ。
「婿入りした俺が言うのもアレだけど、よろしく頼むよ。俺にとっても、恋ちゃんは可愛い義妹だからさ」
そんな姉と義兄の言葉に、恥ずかしそうにしながら朝食を黙々と食べる恋。貴重な恋ちゃんの照れ顔シーンに、英雄は頬を緩めていた。
残念ながらこの後、仕事の関係で二人は帰ってしまうそうだ。本当は一日休みを取っていたのだが、急な依頼が舞い込んできたらしい。
その為、仁達は再度感謝の言葉を告げて二人を見送った。
「忙しいんだな、恋のお姉さんとお義兄さん」
「はい。でも、皆さんにどうしても会いたかったらしく……」
走り去っていく車が見えなくなり、ようやく仁達は別荘の中に戻った。
さて、昨日は海遊びを満喫したわけだが……恋と鳴子によると、今日は別の事をする予定らしい。
「この近くに、漁港があるんです。後は海底水族館という、先日オープンした施設もありますね。招待券を頂いていたので、折角だから行ってみませんか?」
「そこには、新鮮な魚介類を堪能できるというレストランもあるそうです。本日は、そちらに行ってみるのは如何でしょうか」
海底水族館という名前から、どの様な施設なのかは予測が容易だ。ちなみに海中水族館というものは既に存在するが、海底水族館は日本で初めて建設されたらしい。
「そこも、恋ちゃんのお父さんの会社が?」
「ふふっ、残念ながらそうじゃないの。ファースト・インテリジェンスと、懇意にしている会社が経営しているのよ」
恋の父親が経営する会社ファースト・インテリジェンス。そんなF・Iと提携している会社が、海底水族館の経営をしているらしい。そんな縁から、招待券を貰ったのだそうだ。
そんな恋と鳴子の提案に、異を唱える者などいるはずもない。こうして本日の予定は、海底水族館に行く事に決定した。
……
車で移動する事、数十分。その建物は、入江の中心に建っていた。一般的な水族館と比べると、奥行きが無いので小さな建物に見えてしまう。
「あれが、海底水族館の入口なのかしら?」
和美の問い掛けに、恋が頷く。
「はい、あそこから海底に潜るのだそうです」
海底水族館[マリン・ピア]というその施設の外観は、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
車を降りて入場口に向かうが……その入口付近は、大勢の客で賑わっていた。夏休みの行楽シーズン、話題の建物に人が集まるのは当然と言えば当然か。
「……うっ」
小さく呻く紀子に、仁達が気遣わし気な視線を向ける。
「紀子さん、大丈夫ですか?」
心配そうに愛が声を掛けると、紀子は首を縦に振ってみせた。
「うん……大丈夫じゃないけど、変わらなきゃ……だもんね」
人見知り克服に向けて、随分と気合いが入っている。そんな紀子の姿に、和美は嬉しそうな表情だ。
入場列に並び、無事に入館した仁達。館内の至る所に、自動遊歩道が設置されている。これは仁には大助かりだ。
「空港とかだとよく見るよね、こういった自動遊歩道」
「あとはショッピングモールとかッスねー」
この自動遊歩道、他にはムーンウォークやトラベレーターとも呼ばれるそうだ。
最初は通常の壁しか無かったが、徐々にガラス張りのエリアに差し掛かる。小さな子供達が、ガラスにへばりついて海中の様子に目を輝かせていた。
「うぉー! 魚だー!」
「あれはなにー?」
「あれは鮫だよ、食べられちゃうかも」
「きゃー!」
「こわーい!」
父親の言葉に、笑いながら悲鳴を上げる子供の姿。仲睦まじい家族の、心温まる光景だ。
「……可愛いなぁ」
ポツリと、姫乃が呟く。その言葉は、しっかりと仁の耳にも届いていた。
昨日の海遊びでも、少し将来の話題になった。それ故か、仁も姫乃の内心が解ってしまう。
「……いつか、ね」
小さな声で、姫乃にだけ聴こえるように。仁はそんな言葉を告げる。
そんな小さな囁きに、姫乃はバッ!! と仁に顔を向け……そして頬を赤く染めながらも、口元がみるみる緩んでいく。
そんな二人のやり取りは、他のメンバーには気付かれないように……と声を潜めていたのだが。比較的静かな水族館内、耳を澄ませずとも聞こえてくる。
二人の会話を聞いた他のメンバーは、むやみやたらと甘いスイーツをこれでもかと口にねじ込まれた様な表情であった。
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海底水族館で海の世界を楽しんだら、フードコートで一休みだ。広く作られたフードコートは、今の時間帯は然程混み合ってはいなかった。紀子的にはありがたい。
ちなみにこのフードコートも、やはり窓外は海中になっている。魚が泳いでいる光景を見ながら、軽食を楽しめる様になっているらしい。最も仁達はレストランの方に行く為、軽いお茶を楽しんでいる。
そんな休憩中、話題はやはりAWOの話になっていった。
「出て来そうじゃないか? 海底のフィールドとか」
「解ります、英雄さん! 海底なのに、何故か光が射し込んでるやつですよね!」
「海底でしたら、やはり甲殻類のモンスターになるでしょうか?」
「それ、硬そうだよね……」
ファンタジー世界を思い出すくらいに、海底水族館は浮世から離れた空間だった。
特に、この建物の目玉である海底ドーム。そこでは見渡す限り海底の世界が広がっていて、様々な生物の姿を見る事ができたのだ。
「あんなドームが作れる時代になったのねぇ」
「技術力はやっぱり、進化してるからね……」
和美と紀子も、海底水族館を楽しめた様だ。紀子の口数も、徐々に増えて来ている。
「一度退館したら、ここは戻って来られないッスよね?」
隼は売店の方を見ながら、鳴子に問い掛ける。それを鳴子が肯定したので、隼は申し訳なさそうに手を合わせた。
「家族にお土産を買って行っても良いっスか?」
「あ、私も……」
隼の言葉に、愛も追従する。すると千夜や優、音也もそれに続いた。
「それもそうですね。それじゃあ二十分くらい、自由行動にしましょうか」
鳴子の言葉に、それぞれが思い思いに行動を開始した。
仁と姫乃は、寺野家と星波家にそれぞれのお土産を購入。売店付近で腰を下ろしている。
「ヒメ、旅行は楽しめている?」
向かいに座る姫乃に問い掛ける仁は、笑顔だ。姫乃の表情や挙動を見ているのだから、返答は解り切っている。それでも聞いたのは、彼女の口から聞きたい言葉があるからである。
「はい、皆で一緒に旅行なんて初めてですし……とっても楽しいです!」
そう言って笑顔を見せる姫乃に、仁も笑みを深める。彼女の満面の笑みが見たかったし、弾んだ声が聞きたかったのだ。
「仁さんはどうですか?」
お返しとばかりに聞いて来る姫乃に、仁は笑顔で頷いてみせた。
「勿論、楽しい。それにヒメと一緒に居られる時間が、普段よりもかなり長いしさ」
普段であれば登下校の時と、星波家でお茶をする時くらいだ。これだけずっと一緒に居られて、夜も側にいられるのは初めてである。
そんな仁の言葉に、姫乃は嬉しそうに微笑む。VRゴーグルでは隠されていた目元が、VRギアでは見る事が出来る。細められた姫乃の目尻は下がり、ふにゃりとした仁の大好きな笑顔であった。
……
英雄と恋は、二人でフードコートの上にある展望デッキへと来ていた。海風が強いので、恋は珍しく髪の毛を結っている……所謂ローテールだ。ちなみに当然、海風対策としてスカートではなくキュロット姿である。
「髪を結んでいるのも、似合うね」
恋の横に立つ英雄は、恋に向けてそんな言葉を口にする。そんな英雄の言葉に、恋はにんまりといった擬音がぴったりな笑みを浮かべる。別名、小悪魔スマイル。
「可愛いですか?」
褒めるならば、そのくらいは言って欲しい……嬉しいけれど、もっと欲してしまう。そんな年頃の乙女心である。
しかしながら、そんな恋の攻勢にも慣れて来た英雄はどこ吹く風だった。
「勿論、可愛いよ。二人きりになったら、絶対言おうと思っていたんだ」
攻められる事には耐性の低い恋への、英雄からの反撃である。
そんな反撃は、効果覿面。恋の顔が徐々に赤く染まっていく。
「……もう、最近は英雄さんが照れてくれないからつまらないです」
「それだけ、恋の側に居る事が当たり前になったって事だよ」
そんな言葉と共に、英雄は恋の左手を握る。猛追撃ですね、わかります。
「……あの二人みたいに見えるでしょうか?」
照れて俯きながらも、恋は英雄の手をギュッと握り返してそんな事を言う。しかしながら、英雄はその言葉に苦笑してしまった。というのも……。
「あそこまでバカップルするのは、流石に恥ずかしくない?」
「確かに」
言わずもがな、仁と姫乃の事である。周囲からバカップル認定される二人だが、無理もないだろう。
……
ところ変わって、水族館の売店内。難しい顔をしている音也の両脇で、千夜と優がお土産を物色している。
「お父さんなら、こっち……お母さんはこれかな……」
千夜が選んだのは、イルカの可愛らしいキーホルダーだ。サブレやお饅頭と悩んだが、折角だし形に残る物をという考えらしい。
「千夜ちゃん、決まった? 私はこれにしようと思うんだ」
そう言った優が手にしているのは、波の形をしたネクタイピンだ。優の母親は病で亡くなっており、父子家庭なのである。なので、お土産も実用的かつ適した物をチョイスしていた。
そんなJC二人に挟まれた見た目は美少女、中身は少年な音也。彼が選ぶお土産は、ちょっとした小物である。青い星型の石が入った砂の瓶に、ピンク色の星石が入った砂の瓶。お土産では定番のアイテムだ。
「ありきたり過ぎる……かなぁ」
そんな独り言を漏らす音也に、千夜がカラカラと笑ってみせる。
「良いじゃん、普通でもさ。そこに音也の気持ちが籠もっているなら、おじさんもおばさんも喜んでくれるって!」
元々は幼馴染である二人、互いの両親とも面識がある。その為、千夜は古我家の両親が喜ぶという確信があった。
自信満々に言う千夜に、音也もその気になった様だ。そんな二人を見て、優は目を細めた。
「良いよね、二人共……なんだか、通じ合っているって感じ」
そんな優の言葉に、同時に振り向いて……そして、同時に首を傾げる二人。息も動きもピッタリだった。
「そぉ?」
「まぁ、一緒に居た時間が長いしね」
そのくせ、それが自然な事なのだと受け入れている。そんな二人の関係は、長年積み重ねてきた時間の重みと深みを感じさせるものだった。
「ふふっ。私もその内、二人みたいな恋人が出来たらいいなぁ」
そんな事を言う優だが、その脳裏には身近な男性の顔が思い浮かんでいた。
「優は可愛いから、絶対大丈夫!」
「根拠なしに……でも、僕も優さんなら素敵な人と出会えると思うよ」
二人は笑顔で、そんなお墨付きをくれる。そんな二人の様な関係も、良いかもしれないなと思う優。
「ありがとう、二人共」
例えば音也ように、深く長く連れ添って。例えば隼のように、一途な人で。例えば英雄の様に、外見も内面も素敵で。例えば仁の様に、自分を何よりも大切にしてくれる……そんな人物が、現れないものかと思ってしまう。
欲張りでも、高望みでも良い。逆に、それを差し置いても好きになれる人が現れるならば、それで構わない。
……
一方、売店の反対側。隼が愛と一緒に、お土産を選んでいると……隼が、おもむろにある事を口にした。
「愛のご両親に挨拶をするとして、水族館のお土産とか……あんまり締まらないよね?」
唐突な話題に、愛は絶句してしまう。それはつまり……。
――え!? それっていわゆる「お嬢さんを僕に下さい」ってやつ!? 待って、早くない!? まだ私、中学生だし……!!
話がいきなりプロポーズ後まで飛躍している。しかしながら、隼が本気ならばと愛は無用な覚悟を決めかけて……。
「これから、愛と一緒にデートとか……したいし? それならご両親にしっかりと挨拶して、愛の彼氏って認めて貰っておくべきかなって……愛? 大丈夫?」
「うん、そうだね。そうだよね……」
プロポーズではなかったので、気落ちしている愛さん。おとめちっく暴走が早とちりと知り、穴があったら入りたい気分だ。
「どうかな? 愛は嫌じゃない?」
「うん、大丈夫……ん? う、うん?」
ここでようやく、愛は隼の言葉の意味を咀嚼した。隼は彼女の両親に、愛との交際を認めて貰おうとしているのだ。
そんな彼氏の真意に思い至り、愛は顔を真っ赤にする。
「い、嫌じゃない……よ?」
何だか紀子の様な言い方になったが、愛としても望むところ。堂々と恋人の家にお邪魔する仁と姫乃の様に、家族公認になるのも良い。
そんな愛の返答に、隼は口元を緩めて彼女の手を握る。
「良かった……頑張るよ、俺」
「ひゃ、ひゃい……」
愛の心の琴線にビンビン触れてくる、男らしさを全面に出す時の表情をする隼。呂律が回らなくなるくらいに、愛は動揺してしまうのだった。
……
「若者は元気ねぇ……」
それぞれの様子を眺めながら、和美は苦笑してティーカップに口を付ける。フードコートとしては上質な紅茶なのだが、初音家の別荘でご馳走になったものと比べると物足りない気がしてしまう。
「和美様……和美様も若者のカテゴリーに入るのでは?」
言外に「そしたら私は? 二十五歳ぞ?」と言いたい鳴子さん、ただでさえ若者の輪に組み込まれている唯一の社会人なのだ。
「大学に入ると、中学や高校の時代が懐かしくなってしまいません?」
「……解らないでもないですが。社会人になると、更に大学時代も追加されるんですよ」
社会人と大学生、同じ二十代でもその間には越えられない壁があるのだった。
「中学……高校……もう、あの頃には……」
ハイライトが消えた目で、遠くを見出した紀子。そのただならぬ様子に、鳴子と和美はギョッとしてしまう。
「ど、どうしたの!? 紀子、大丈夫!?」
「ご気分が優れませんか? 何処か、横になれる場所は……」
紀子の体調が悪くなったのではと慌てる二人の耳に、紀子の震える声が届く。
「男の子に、告白されたと……思ったら……罰ゲーム、だとか……」
そんな紀子の言葉に、二人は全てを察した。同時に、もしも紀子をここまで追い詰めたヤツが目の前に現れたら、存分に甚振ってやると心に誓う。
「大丈夫よ、紀子。というか、そいつら見る目無いわね……」
「同感です。紀子様は容姿も整っていらっしゃますし、ダイヤの原石だと思うのですが」
励ます様に、紀子の両脇に座り直す二人。しかし、紀子のネガティブはまだ沈静化しない。
「解ってる……お世辞だって……こんな、野暮ったい私なんて……」
これは重症だ。そう感じた和美は、実力行使に出る事にした。
「焦れったいわね、この子は。なら論より証拠よ、ちょっと顔貸しなさいな。あ、今日はコンタクト持って来た?」
「成程、それは名案ですね。よろしければ、こちらのメイク道具をどうぞ」
「……え? あ、ちょっ……待っ……!!」
引き摺られる様にして、鳴子と和美に連行されていく紀子。それを傍から見ている人達は、何となくドナドナが脳内再生されるのだった。
恋の姉夫婦と対面です。
海底水族館は、本気で海の底の水族館ですね。未来の技術なら出来てるじゃないかなって思います。
建築業に関わる仕事してるので、相当に大変だろうなって思うけど(震え声)
さて、拉致られた紀子さんの運命や如何に。
次回投稿予定日:2020/12/5