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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第七章 夏休みが始まりました
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07-07 西の草原の小屋でした

 ミモリとカノンを新メンバーとして加えた【七色の橋】は、イベントに向けて本格始動していた。

 準備とはいっても、単純にレベリングをする……というだけではない。今回のイベント対策は、レベル上げ以外も進めていかなければならないのだ。


その理由は、今回のイベントの仕様にある。決勝トーナメントの間、アイテムの補充が出来ないと公式に発表されているのだ。更には時間経過によるHP、MP回復も無い。

 つまり、このイベントでは事前にそれらの対策も行っていかなければならないのである。


 そんな訳で今現在、【七色の橋】のギルドホーム……その工房からは、賑やかな声が溢れていた。メンバー全員が一丸となり、イベントで使用するアイテムの準備を進めているのだ。

 特に必要な物は、消費アイテムだ。HPポーションやMPポーションのみならず、ハヤテの使用する弾丸、ヒメノやロータスの矢は消費が早い。


 店売りの物を……と言っても、イベントに備えて多くのプレイヤーによる買い込みが進んでいる。NPCショップは千客万来。取引掲示板でも、値が張る物ですら飛ぶように売れていくのである。生産職人達は、現状ウハウハだろう。


 特に、ハヤテの弾丸は流通していない。故にこれまでは、ユージンから購入していたのだ。しかし現在、ユージンもイベントに備えて生産依頼が増えているという。その為、全部が全部ユージンに頼るという事が出来ないのだ。


 そこでジン達は、独自にアイテムを生産する事に決めた。自力で消費アイテムを確保し、イベントに向けて準備を進める事にしたのだった。

 幸い、材料は山ほどギルド倉庫に保管されている。エクストラクエストで手に入れた物や、【漆黒の旅団】を討伐した際に入手した物もある。足りない分は、手の空いたメンバーが採集に向かうという方針だ。


「姉さん、ポーション用の薬草はこれでいい?」

「えぇ、ジン君! リンちゃんもありがとう!」

「お役に立てたならば幸いです」

 すり潰した薬草を鍋で煮詰め、攪拌しながら礼を言うミモリ。その横に並ぶのは、レンである。


 レンは現在、ミモリに教わりつつポーション作成を学んでいる。初級ポーションならば、経験が浅い者でもそれなりの物が作れるという。MPポーションを最も消費するであろうレンの選択は、当然といえば当然だった。


 ちなみにレンは一つの鍋でポーションを作っている。それに対し、ミモリの前にある鍋は三つだ。更に言うと、ジン達が持って来た薬草の山……それだけあれば、ポーションを五十本くらい作れるのではなかろうか。


 余談だが、一番基本的なポーションを作る手順は単純な作業だ。

 薬草をすり潰し、真水と一緒に煮詰め、それを濾す。効力を足したい場合は、その効力を持つ薬草を濾したものを足していく。

 要はそれだけの作業であり、鍛冶の様に複雑な工程を繰り返すという事は無い。


 しかしAWOの仕様が、それほど単純なものであるはずも無い。煮詰める際の温度、攪拌する時の混ぜ具合、濾す際の微細な動き……それらによって、ポーションの効力は左右されてしまうのだ。それらを適当にやると、平均よりも低い品質のポーションになってしまう。


 完成させるだけならば誰でもできるが、より高品質なポーションを作ろうとすればするほど、高度な技術と知識が必要となってくる。上級のポーションになればなるほど、その傾向が強くなって来る。


 その点に関して、ミモリはAWOでも上位の調合技術を備えていると言って良い。彼女の作るポーションは、どれも軒並み高品質。平均よりも高値で取引掲示板に出しても、売り出し人の欄に彼女の名前があるのを見たプレイヤー達は、こぞって購入していくそうだ。


 一方、鍛冶スペース。真剣な表情で炉内の火を見つめていたヒメノが、立ち上がる。

「カノンさん、炉の温度はこれくらいで良いですか?」

「確認お願いしますです!」

 振り返った瞬間、背後に立っていた女性……カノンがビクっとするのだが……。

「あ、あの……うん、それくらい……だ、大丈夫みたい、だよ」

 それでもちゃんと、受け答えは出来ていた。最初は中々、言葉が出て来るまでに時間が掛かったのだ。それを考えると、だいぶ進歩している。


 ちなみに、今回行うのは製作ではなく強化。アイネの薙刀と、ハヤテの短刀が作業台に置かれている。

 強化ならば複雑な手順は要らないので、経験の浅いヒメノでも可能な作業だ。


「ふむ……ヒメちゃんやヒナちゃんにも、だいぶ慣れたみたいですね」

 大量の布地を手に、倉庫から戻ったアイネが表情を綻ばせる。

 人見知りのカノンだが、ジンとの鍛冶をきっかけに誰かと一緒に作業をするという事に対する、楽しみの様なものを見出す事が出来た。これを足掛かりに、人見知り改善と鍛冶生産の効率化を図れるとヒイロは判断したのだった。


 そこで白羽の矢が立ったのが、ヒメノだ。鍛冶に必要なSTR値に加え、その天真爛漫な性格。万人に愛されるタイプの少女は、カノンにも通用するという判断であった。

 そんなヒメノはとても良い生徒らしく、カノンともしっかり会話が続く様になって来た。


 そんな三人の様子を横目に、ハヤテは鋳型の中に熔けた鉄を流し込む。

「色々と順調、順調。それにしても、カノンさんには頭が上がらないッス。作って貰った鋳型のお陰で、弾が作れる様になって助かるなぁ」

 ハヤテは鋳型を使って、弾丸の量産を進めている。自分しか消費する対象が居ないのだから、自分が担当するのが筋だと考えたのだ。


「ハヤテ、出来た火薬はココにまとめておくね」

 それに使用する火薬を調合するのは、今日はヒイロが担当だ。他の作業に比べ、火薬の調合は手が回らない。そうなると、手が空きやすいヒイロやジンがそれを担当する様になったのだ。


 ヒイロとしても、ジンやハヤテといった同性の相手をする方が気が楽である。

 何せ妹と恋人以外は、年上女性三人と、彼氏持ちの少女(妹と恋人の同級生)一人である。ジンやハヤテが担当する作業の補助は、変に気を使わないので気楽である。


 ちなみに鋳造や火薬の調合……これらも当然、それぞれミモリやカノンから指導を受けている。更に言うと、そのノウハウを伝えたのはAWO屈指の生産職人・ユージンである。

 ミモリとカノンが【七色の橋】に加入する事を聞かされたユージンは、【七色の橋】向けの鍛冶レシピや調合レシピを二人に伝授。更にはこんな事までのたまった。


「何か新作を考えた時は、手伝って貰って良いかな? 逆もまたアリだから、気軽に声をかけてね」


 興味を引く相手や、気に入った相手に対してはダダ甘になるユージンである。ミモリとカノンの実力を認めている事もあり、渡されたレシピも高度なモノだったそうだ。


 更に、ユージンはあるレシピも置いて行った……それは、和装のレシピである。つまり、縫製技術だ。これに強く興味を示したのは、シオンであった。今も、チクチクと針仕事に勤しんでいる。

「シオンさん、ロータスさん。生地はこれで大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます、アイネ様」

「これで縫製用の材料は十分ですな、シオン殿」


 シオンは早速、【縫製の心得】を取得して試作品の作成を開始。彼女の縫製技術が元々高い事もあり、それなりに質の良い衣服がいくつも生産されていた。

 最も、今製作しているのは和装では無い。初心者を卒業したプレイヤー達が、真っ先に求める革装備である。これは縫製技術の向上と、資金繰りの為である。シオンが製作したこれらは、すぐに取引掲示板に出品されて【七色の橋】の懐を潤す事になるだろう。


 ……


 そんな工房の生産風景を見渡して、ヒイロが笑みを零した。

「こうして皆でワイワイ物作りするのって、何かワクワクしないか?」

「あ、解るッス! 文化祭の準備とかみたいな?」

 そんなヒイロとハヤテの会話に、他のメンバーも笑顔で頷く。祭りの準備と言うと、あながち的外れでは無いだろう。VRMMOのイベントとなれば、それは一種のお祭りだ。


 それと同時に、ミモリやカノンもこの準備を楽しんでいた。これまでは二人きりで、公共スペースで黙々と作業に没頭していた。こうして仲間と賑やかにする作業は、初めての体験だ。

 最初は戸惑い……特に人見知りのカノンは、緊張感でいっぱいだった。しかし【七色の橋】のメンバーの人間性もあり、今ではジンとミモリ以外のメンバーとも良好な関係を築けている。


「ジン君、手裏剣の鋳造はどう?」

「あ、はい! これからです! 作って貰った鋳型のお陰で、量産は順調ですよ!」

「そう、良かったよ。それじゃあ……はい、これ」

 カノンが、ジンの前に新たな鋳型をいくつか置いていく。その数、ゆうに十個を越える。

「これは……?」

「こっちは、同じ手裏剣の鋳型。同時進行が出来れば、効率的だから。それと、他にも消費型のアイテムとして……」

 鍛冶となると、饒舌になるカノン。更に、その手際の良さには目を見張るものがある。


 こうして【七色の橋】は、アイテムや装備の生産体制が確立。それによって、フィールド探索やレベリングの効率も上がる事となる。


************************************************************


 夏休みという事もあり、じっくり時間を割くことが出来た生産活動。消費アイテムの量産に目処が立てば、次はフィールド探索とレベリングだ。


 第二回イベントではトリオとコンビ、そしてソロの決闘となる。三種類の対戦形式を考慮し、ベストな組分けを模索している。

 そんな訳で、普段とは違った編成も積極的に取り入れているところだ。


 しかしながら当然、向き不向きも存在する。

 例えばヒメノやレンは、盾役が居なければその力を十全に発揮できない。それは戦闘経験の浅いミモリ、カノンも同様。

 そうなるとソロで活動出来るのは、ジン・ヒイロ・シオン・ハヤテ・アイネの五人となる。大将戦を担当するのは、この内の誰かになるだろう。


 そして、今日は西側エリアでの特訓の日となった。三人組で活動するのは、ジン・ヒメノ・カノン。そしてレン・シオン・ミモリだ。

 ソロでの戦闘訓練を行うのは、ヒイロ・ハヤテ・そしてアイネである。ソロ組はいざという時に、PAC(パック)を召喚できるように手筈を整えている。

 第一エリアで各々の連携を高め、最後にエリアボス戦でその成果を発揮しようという算段だ。


……


 【七色の橋】に加入してから、初めてのソロプレイとなるアイネ。一人でプレイしていた頃が、今では遠い昔の事の様に感じてしまう。

 いつもならば仲間達と一緒に行動するので、賑やかな道中になる。それ故、今日は何だか寂しくも感じてしまう。


 しかしながら、今回の単独行動はアイネが自ら志願した。その理由は、大きな声で言うべきものではないのだが……。


――VRをやっている時は痛みがないけど……精神的にはどんよりして来るんだよねぇ……。


 男性陣の前で、そういった話をするのは憚られる。それに仲間と行動するとして、自分の不調が原因で足並みを乱すのもよろしくない。

 それ故のソロレベリング志願でもあった。


 ともあれ、久方振りの単独行動。第二エリアではないので、今のアイネならばソロでも十分戦えるレベル帯だ。


 現実の鬱憤を晴らすかの如く、アイネは薙刀を駆使しモンスターを斬り伏せていく。

 しかしながら、今一つピンと来ない気もしている。


――PvEとPvPは違うから……どこまで参考になるか解らないなぁ。


 AIによって行動パターンが定められたモンスターと、プレイヤーの動きは全く違う。今回のイベントで対峙するのは、プレイヤーなのだ。故にPvEの立ち回りでは、苦戦する場面も出て来るだろう。


 二人組と三人組ならば、連携の訓練が出来るだろうが……単独行動では、自分自身で目的を定める必要がある。アイネはそう考えた。

 そこで、この探索では【チェインアーツ】の精度を上げる事を目標にした。【チェインアーツ】はデメリットがあるものの、ハマれば一気に勝負を決められるプレイヤースキルだ。磨いておいて、損は無い。


――あ、こっちはPKが盛んなエリアだったかな。訓練にはなるけど、やられたら元も子もないよね。


 対人戦の訓練はしたくとも、PKerを相手にするのはリスクが高い。それに【七色の橋】に所属しているものの、アイネは平均的なプレイヤーの枠を超えてはいない。自らPKerの狩場に無防備に踏み込むのは、自殺行為なのだ。

 アイネは一度、PK集団の標的にされた経験もある……故に、警戒心は他のメンバーよりも強い。


――そうだ、ユージンさんに教えて貰った場所に行こうかな。確かこの辺りのはず。


 そのままアイネは、ユージンに教えて貰った鍛錬に最適という場所を目指す。


……


 しばらく移動すると、開けた草原に辿り着いた。

 大きな岩場や生い茂る草木はあるものの、集団が隠れるには心許ないロケーション。この場所ならば、PKerを警戒する必要も無いだろう。落ち着いてモンスターに、技の精度を上げる訓練に集中出来そうである。


 それからモンスターを相手に、【チェインアーツ】の訓練を続けること一時間程。

 動きの早いモンスター・ダッシュチーターを仕留めるべく、その後を追い掛けて行く。

「そこっ……【スティングスラスト】!!」

 障害物となる大きな岩を飛び越えようと、脚に力を込めて屈んだダッシュチーター。その動きを予測して繰り出された薙刀の切っ先が、その身を背中から貫く。


「んー……モンスターなら、AIだから動きを読めるけどね……」

 実はアイネの反応速度や判断力は、十分にランカー達に迫るものがある。しかしながら、彼女の自己評価は低い……それには、いくつかの理由がある。


 一つは彼女の仲間達で、第一回イベントの上位プレイヤーばかりなのである。更に、トップクラスの生産職人まで加入して来た。恋人すら、FPSで上位入賞経験がある。

 他の仲間達に比べて、自分が平凡に感じられてしまう……仲間達に、そんなつもりは無いと解っていてもだ。


 二つ目は、彼女にとって初めての対人戦……PK集団【漆黒の旅団】による襲撃の記憶だ。

 あの時アイネは、ジン達の救援を待ってひたすら耐え忍ぶしかなかった。そもそも、ハヤテがPKerに気付かなければあっという間に狩られていただろう。

 そんな苦い記憶が、彼女の心の奥底には燻っていたのだ。


************************************************************


 そんな中、アイネは進路の先に古ぼけた小屋を発見した。たった一軒だけ、ポツンと草原に建てられている小屋だ。

 明らかにプレイヤーホームや、ギルドホームでは無いだろう。だとすれば、NPCの住処という可能性が濃厚だ。

 何かしら、クエストの手掛かりになるかもしれない……そう思ったアイネは小屋に向けて歩を進める。


 小屋の煙突からは、モクモクと煙が立ちのぼっていた。人が住んでいるのは間違いないだろう。

 意を決したアイネは、木製の扉をノックしてみせる。

「ごめんください、どなたかいらっしゃいますか?」

 しかしながら、扉の向こう側からの返事はない。


 扉を強引に開けたり、壊したりする事は可能だろう。しかしながら、アイネはくるりと踵を返した。育ちの良い彼女の感性からすると、強引な手段を選択する余地は無かった。


 アイネが小屋から少し離れた所で、背後から扉が開く音がした。ギギギ……という音に振り返ると、そこには白髪の老人男性が立っている。

「何か用か、そこの娘っ子」

 その老人の姿を見て、アイネは少なからず動揺した。その姿が、彼女に縁深い人物に似ていたのだ。


……


 アイネ……巡音愛の家は、広大な土地を所有する地主だ。その為か、祖父は厳格で古い考え方の人物だった。女性は家を守るべきであり、男性は働きに出る。家事や育児は女性が担えばいい、といった感じである。

 愛の父親は婿養子で、祖父に対しては強く出る事が出来なかった。厳しい躾を受けて来た母親も、ただひたすらに耐える日々である。


 そんな祖父の厳しい教育方針は、孫である愛に対しても変わらなかった。小学校に上がった頃から、厳しく躾けられて来たのだ。

 薙刀も元々は、祖父に強制されて習っていたのだ。当然、ゲームなど許されるはずもない。友達と帰りがけに遊ぶ事も出来ず、だ。真っ直ぐ家に帰ったら勉強を済ませ、母親の家事を手伝え……といった具合である。


 そんな愛が何故、こうしてVRMMOをプレイしているのか? それは、単純な話である。

 祖父が他界したのは、今から二年ほど前。父親と母親は祖父が他界した直後から、愛をこれまで以上に可愛がるようになった。年相応に趣味を持つ事を勧められ、そして最新ゲームであるAWOとVRドライバーを買い与えたのだった。


……


 アイネがそんな過去の記憶に思いを馳せていると、老人NPCがアイネに歩み寄る。

「ふん……お前さん、異邦人だな?」

 彼と祖父は、声や話し方は似ていない。だが外見に限って言えば、見れば見る程に似ている。そのせいか、アイネの肩に不必要な程力が入る。

「ええ……私は、アイネと申します」

「ここに来た異邦人は、お前さんで七人目だが……自分から名乗ったのは、お前さんが初めてだな」

 その言葉から察するに目の前の老人は、プレイヤーが名乗らずに話を進めようとすると臍を曲げたのだろう。


 ちなみに、彼が先程から口にしている異邦人という言葉……これは、NPCから見たプレイヤー達の事だ。プレイヤーは、AWOの世界に訪れた異世界人……という設定なのである。

 異世界人プレイヤーは特殊な力を持ち、二つの世界を行き来する事が出来る。その力を与えたのは、この世界の神々。その理由は、増加するモンスター達を退治する為の援軍……という世界観である。


「ワシの名は【ジョシュア】という。お前さんも、()()()()が目的か?」

 話が思わぬ方向へと進み、アイネは首を傾げる。

「違うのか? ここ数日は、毎日の様に異邦人が訪ねて来よる。どいつもこいつも技を教えろだの、クエストだのと喧しくてな……」

 うんざりしたと言わんばかりに、ジョシュアが頭を振る。しかし、今ジョシュアはクエストと口にした。やはり、何かしらのクエストがあるらしい。


 気になったので、アイネは詳しく話を聞く事にする。

「ジョシュアさんの技、ですか?」

「けっ……大方、[バース]の騎士団にでも唆されたんだろうよ。どうせ【アーセル】……あの小僧の差し金に決まっとる」

 聞き慣れない名前に、アイネは記憶を巡らせる。[バース]とは何処だったか? 【アーセル】なんて名前のNPCが居たか? 残念ながら、心当たりは無かった。


 しかし、予測は可能だ。騎士団が居る様な大きな町は、この近辺には始まりの町しか無い。今居る場所が第一エリアである事から考えても、恐らく間違いないだろう。

 つまり自分達が始まりの町と呼んでいる町の名前は、正式名称[バース]らしい。


 それはそれとして、アイネは彼の発言……その一点に興味を抱いた。

「あの、その技というのは……私にも、覚えられるでしょうか?」

 この老人に対して、ストレートに教えろと口にするのは逆効果な気がした。なので、控えめに尋ねてみるのだが……。

「悪い事は言わん、止めておいた方が身の為だ」

「そんなに厳しいのですか? これでも、腕に自信はあるのですが」


 食い下がるアイネを見て、ジョシュアは眉間に皺を寄せる。そして目を閉じて黙り込むが……数秒して、彼は目を開ける。

「ふん、娘っ子にしては気骨がありそうだが……そこまで言うのなら、試してみるが良い。ただし、命の保証は出来んぞ」

 そこで、目の前にポップアップしたシステム・ウィンドウ。アイネはそこに記されている文字を見て、決意を固めた。


『エクストラクエスト【剣聖の試練】を受領しますか?』


 そう、この老人ジョシュアから受けられるのは、エクストラクエストだったのだ。

「えぇ……よろしくお願いします」

 どの様な内容のクエストかは解らないが、アイネはこのチャンスを逃すつもりはなかった。

めっちゃどうでも良い情報を垂れ流しますね?

ジョシュアさんがボヤいた【アーセル】ですが、プレイヤーからは別の名前で呼ばれています。

その名はウォズ。


次回投稿予定日:2020/11/8




それはさておき、今回で100部分まで投稿出来ました。

これも全て、ご閲覧・ブックマーク・評価・コメントを下さる皆様方のお陰です。

今後もジン達のVR・MMOライフをお届けして参りますので、

お付き合いの程、何卒宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今のゲーム機でFPSが120……。 1/120秒に反応出きるか!?
[良い点] ヒメノちゃんの鍛冶してる音、すごいことになってそうw
[気になる点] >ここに来た異邦人は、お前さんで七人目だが……自分から名乗ったのは、お前さんが初めてだな >ここ数日は、毎日の様に異邦人が訪ねて来よる。どいつもこいつも技を教えろだの、クエストだのと…
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