俺と女と時々嘔吐
そこに、一陣の風が吹いたーー。
ザワザワと草達がざわめき、モーゼのように道を開いていく。
「おい、今日は休日か?」
「いや。明日の筈だ」
「早いとこどかないと圧死しちまう」
そんな草達の声が届いているのかいないのか……否、きっと届いてなどいないだろう。『風』は逃げ遅れた草達を圧死させてーー
「なんッだよコレェエエ!! 悪意の塊じゃねーかッ!」
バカ女の怒鳴り声で、まず地面が揺れた。
「マァ、折角の休日に叩き起こされた挙句、意味のわからん以来されたらこんな分にもなるだろ」
「ただ俺の輝かしい冒険の日々を執筆して欲しいっていう依頼ダルォ?? あ、俺の性別は男で、めっっっちゃ強くて名前も良い感じにしてくれな!」
「……それもう創作冒険記じゃん。売れないよ」
本当、なんなんだろうこの女は。最近一週間ぐらい通い詰めてきて、コレだ。ロクに読まれる事も無く返された哀れな原稿をそのままゴミ箱に投げ入れる。
「イヤイヤイヤ!なんで捨てるんだよ! もったいねーだろ!!」
原稿を即座に拾い、そのまま凄い勢いで仕舞っている。うーむ、なんとガサツで失礼な女なんだ。俺(作者)が棄てたという事は全て駄作だ。黒歴史だ。それを良く知りもしないこのアホ女に貰われる、というのは屈辱が過ぎるのだが。
「……もう飽きたな。何か面白い事でもあれば俺も書く気になるかもしれないが」
「スランプって奴か?!? スランプだろッ?! よぉーしそこまで言うならしっかたねーなぁー……」
何をしているんだ君は、と言いかける自身の口を閉じ、『面白い事』をしてくれそうなアホ女を、観る。奴は手のひらに丁度収まる程度の黄色い卵型の……そうだな、手榴弾を黄色くしたような物をカバンから出し、いっそ何も感じないレベルのドヤ顔をしながらそれを片手で掲げた。
「バンバカバンバーンッ! 冒険装置~!! いや~作者のスランプ解消! 俺は楽しい! さいっこうの旅になるぜッ!」
「イヤイヤイヤ。待てアホ女」
幾ら俺(作家)と言えども口を出させて貰いたい。何故俺が動かねばならんのだ。思わず、アホ女の腕を思いっきり掴んでしまったのは暴力に入らないだろうか。
「ゥ、プ……ゲホッオェ……う、ゲポォ……ッ!」
「……ハ?」
この女、俺が触れた瞬間、吐いたぞ? 全くもって意味がわからない。俺がソッと手を離した後も吐いてるぞ。
「ハァア……なんて事だ。こんな女が居るのか。俺はただ触っただけだぞ? 否。掴んだと言うべきか。なんて女だ。もしかして何か条件があるのか? ほぅ。 どんな条件だ? ハハハッ! 冒険なんかよりお前の方がよっぽど面白いじゃないかッ! よろしい、俺も同行しよう」
未だ悶え苦しむゲロマミレアホ女に手を差し伸べて、俺は『紳士的』に微笑んだのであった。