元女神 鶴野 雫(シルコゥ)
「おはよう」
「おはよう雫姉さん」
「おはよう姉ちゃん」
私は弟と妹に朝の挨拶をする。
だが私達3人に血の繋がりは無い。
更に言えば弟と妹には昔の記憶も無い。
私の名前は鶴野 雫。
しかし本当の名前はシルコゥ、女神シルコゥ。
そして弟の名前は鶴野 有人 元剣士 アルト。
最後に妹の名前は鶴野 杏・・・
元魔王ツゥ・ブアーン。
私は本来アルトだけを転移させるだけの予定だった。
しかし魔王まで転移させる事になったのは理由がある。
それは2人の魂が暗黒世界に落ちてしまった事に起因する。
暗黒世界は本来女神が干渉できる場所では無い。
しかしアイカ達と約束をした私は暗黒世界と交渉してアルトの魂を探した。
・・・すぐには見つからなかった。
当たり前だ魂には名前等書かれてない。
何万、いや何億の魂から見つけるのだから。
鑑定のスキルを使い漸く私がアルトの魂を見つけた時には150年の時間が過ぎていた。
更に悪い事にアルトの魂は魔王の魂と融合していた。
同時に死んで暗黒世界に落ちた魂だ。
魂が引っ付く事は珍しくない。
だが150年も引っ付くと2つの魂は完全に1つになっていて離す事は不可能だった。
私は融合した魂を貰い受けこの世界に持ってきた。
1つの体に融合した魂に転移させる事は出来なかった。
そんな事をしたら体が持たず死んでしまうのだ。
最後の手段で私は亡くなったばかりの2つの体を重ね同時に融合した魂を埋め込んだ。
それは賭けだった。
引き付け合う魂は融合と分離を繰り返し・・・
2人の人間が出来上がった。
鶴野有人と鶴野杏として。
元々2人は血の繋がらない兄妹だった。
不幸にも交通事故に巻き込まれ2人共即死だった。
転移させた魂だったがここで計算外の事が起きた。
2人共記憶が無かったのだ。
150年の間に2つの魂は異世界の事を全て忘れていた。
アルトは剣士で魔王と戦った事を。
ツゥ・ブァーンは魔王としてアルト達と戦った事を。
いや全て忘れてしまった訳では無い
「姉さん本当に琴ヶ浦高校に愛花さんが居るの?」
「ええ本当よ、ちゃんと調べたんだから」
「楽しみだな、僕以前の事は全て忘れてるけど愛花さんの事だけ僅かに覚えてるんだ」
アルトの魂の記憶の残滓、僅かに残った記憶が有人の魂にあったのだ。
だが・・・
「ミザリーの事は?」
「ごめん、その名前は言わないで。何か分からないけど凄く不快な気持ちになるんだ」
やはりミザリーの事は言わないでおこう、アルトは真実を知らない。
愛していた人に刺された不快な記憶は残ってしまったようだ。
「でも兄ちゃん少しでもあるだけ良いよ。
私は全く記憶が無いんだから・・・」
杏が寂しそうに呟いた。
確かに杏の魂には魔王の頃の記憶は無い。
元々魔物から突然変異で誕生した魔王だ。
倒されたと同時に全ての記憶を失ったとしても不思議では無い。
「でも良いんだ!
兄ちゃんと一緒の高校に行けるだけで幸せだもん!」
杏はそう言って有人に抱きついた。
元々融合していた魂、杏は有人を凄く慕っている。
そう、恋慕の情を感じる程・・・
だが魔王の記憶がいつ甦っても不思議では無い。
杏に魔力は無い。
私が取り除いたから。
しかしアルトは元々魔力が無かった。
だが人並み外れた剣の腕は残っているだろう。
危険だ、だから私は見張る為に鶴野雫の体を頂いた。
彼女には悪いが生きてる体を乗っ取らせて貰った。
彼女の記憶を上手く使って有人と杏の人格を操らせて貰い。
明日2人を琴ヶ浦高校に転校させる。