元剣姫・岬霞(ミザリー)
「ここは?」
私は目を開けた。
空はみえず白い天井。
そして体中に色とりどりの細い紐がくっついていた。
「か、霞?」
ふと横を見ると見知らぬ女性と目が合う。
「分かる?私が分かる?」
分かる訳が無い。
「誰?」
(何これ?)
私の声はもっと低くて落ち着いた声色だったはずだ。
鼻に掛かったような舌足っらずの声に唖然とした。
「先生!先生!!」
私を抱き締めながら女性が誰かを呼ぶ。
先程から私は言葉が理解出来ている事が不思議でならないが女神のサービスとありがたく受け取って置こう。
「どうされま・・・」
入ってきた中年の男性は私の顔を見て固まる。何故だ?
「まさか・・・完全な脳死状態で・・・き、奇跡だ・・・」
(脳死ってなんだ?)
「先生、奇跡でも何でも良いです!」
女性が泣き出し、先生と言う人は興奮しながら何やら私の周りに置かれていた器具を確認している。
「そうか、私は無事に転移出来たんだ」
漸く私の思考が追い付く。
女神が言っていた。事故やらで余ってる体を適当に見繕うと。
この体は何かの事情で死んだか、死ぬ直前だった訳か。
「良かった霞ちゃん良かった・・・」
何にしても苦しい、抱き締め過ぎだ。
「苦しいよ」
「ご、ごめんなさいお母さん嬉しくって・・・」
ふむ、お母さんって事はこの体の持ち主の母親なのか。
ここは混乱を避け情報を集めるとしよう。
「済まない、どうも記憶が完全では無い。
私はどんな人間であったか名前を含めて教えてくれないか?」
「か、霞ちゃん・・・」
何やら固まってしまった。何か不味かったかな?
「どうした?」
「い、いえ随分話し方が変わったのね」
「そうか」
「そうよ・・・まず名前はみ岬 霞ちゃんで高校2年の17歳よ」
「17歳?」
「ええ」
確か死ぬ前は20歳だったかな?3歳若返ったのか。
「あと自分の事はカスミンって言ってたわ」
「は?」
「それに『教えてくれないか?』って、以前なら『教えてピャ!』とか言ってたわよ」
何だそりゃ?この娘が馬鹿なのか?
それともこの世界では霞の方が正常なのか?
「その、何だが、『カスミン』やら『ピャ』ってみんな使ってるのか?」
「いいえ」
良かった、カスミンとやらが異常だったみたいだ。
次に気になる事を確認しよう。
「鏡を見せてくれ」
「はい」
手渡された手鏡で自分を見る。
「誰だこれ?」
そこに写っていたのは小柄な女、
髪は黒く目は垂れ目。
造形は悪くないが以前の私と違いすぎる!
「良かった顔に怪我をしなくて・・・」
気になる事を言うな。
「私は何故意識が無かったんだ?」
「・・・・」
私の言葉に母親を名乗っていた女が黙った。
「何故だ?」
私は再度聞いた。
「分かったわ、教えてあげる。貴方は高校の非常階段から突き落とされたのよ」
「ひじょう階段?」
初めて聞く言葉だ。高校とやらはアイカから聞いた事がある。
学校だな。ひじょう階段は非情な階段か?
だから落とされたのか?
「やっぱりショックよね」
私がひじょう階段とやらを想像していたら女が心配そうに私を見た。
「まあな」
ここは追随するか
「でも大丈夫よ母さん転校でも何でもさせたげるからね」
転校か転校は分かるぞ学校を代わる事だ
「なら母さんお願いがある」
「何?」
「琴ヶ浦高校に転校させてくれ」
「琴ヶ浦高校?」
「そうだ」
「大丈夫霞ちゃん?」
「何がだ?」
「琴ヶ浦高校で苛められたから転校して今の高校に転校したんでしょ?」
成る程、岬霞とやらは苛められていたみたいだな。
「分かってる。でも構わない。母さんお願い」
(琴ヶ浦高校にはアイカが居るから早く会わねば)
私の決意は固まった。