元勇者・笠井夏樹
眩い光りが治まると俺は真っ暗な部屋に1人立ち尽くしていた。
「畜生女神の奴、勇者の俺になんて真似を!」
苛立ちながら辺りを見回した。
「おい、そこに居るのか?」
その時暗闇の中から声がする。
俺の独り言が聞こえたらしい。
「ああ、俺だよナツキだ」
「ナツキ?そんな奴いたか?
何だよ笠井じゃねえか」
小さなライトで前を照らしながらやって来たのは田中玲、俺のクラスメートだ。
「玲か?」
「何だよ改まって、それより見つけたのか?」
「見つける?」
「備品だよ、俺達は照明のライトを探しに来たんだろ?」
玲の言葉に召喚前の事を思い出す。
そうだ俺達は来月の文化祭で出し物に使う照明を倉庫の備品室に取りに来ていたんだ。
「いやまだだ、暗くて見えないよ」
無様に両手を振り回して分からない振りをする。
まあ身体強化の魔法を使えば夜目になって暗闇も楽勝だがな、でも俺が魔法使って騒ぎを起こしたら大変だし。
「仕方ねえな、川上が必要な分を運んでくれたからお前は早く出ろ」
「な、な...」
田中の言葉に絶句する。
川上?川上愛花も帰ってきているのか?
愛花の恋人のアルトはミザリーに命じて殺したんだ。
あいつが襲って来たら戦う事になるだろう。
そうなったら俺が異世界の勇者で魔法まで使えるとバレちまう。
「早く来いよ」
「あ、ああ...」
玲が呆れながら倉庫を出る。
顔は見えないが勇者様に対する態度じゃねえぞ。
しかし殺す訳にはいかない、怒りを抑えながら後に続いた。
「あら遅かったのね」
そこに居たのはは召喚前と変わらぬ顔で他のクラスメートと談笑する川上愛花の姿だった。
「ひ、久し振りだなアイカ...」
警戒しながら手を上げる。
もしアイカが攻撃してきたら得意じゃない防御魔法を使うしかないからな。
「何よ笠井君、呼び捨て?
で何が久し振りなの?5分前まで倉庫に居たでしょ?」
「は?」
愛花の言葉は俺を唖然とさせた。
こいつ何も覚えて無いのか?
「そうだなゴメン少し考え事していたよ」
警戒しながら愛花に笑顔を向けた。
「変な奴だな」
「本当」
他のクラスメートが笑うが仕方ない、今は道化を演じてやるさ。
だがなお前等男共は全員奴隷にしてやる。
女は可愛い奴だけ俺のハーレムに加えてやる。
残りは奴隷として俺の鬱憤晴らしくらいにはなるかな?
この世界にはミザリー程の美形はいない。
そうだ、手始めに川上愛花、お前を堕としてやる。
『アルトが生きてりゃ悔しがるな』
俺はアルトが嫌いだった。
無能の癖に努力でのしあがった奴。
みんなあいつが好きだった。
王国の奴等もミザリーも...秘かに想いを寄せていた愛花までも。
俺は憎んだ、だから奪った。
奴の恋人を奴の命を、一番絶望するやり方で。
傀儡のスキルがあればハーレムだ。
俺の万能を見れば靡かない女は居ないさ。
そう考えていると愛花が俺の傍を通り過ぎる、もう俺は安心していた。
「........」
「川上さん何か言った?」
「いいえ」
愛花が何か呟いた様だが何も聞こえなかった。