女神・シルコゥ
魔王が倒されると同時に用意していた召還魔法が自動的に発動した。
すぐにナツキが私の前に現れ何か叫んでいた様だが用済みの彼には興味無い、ナツキのスキルを全て取り上げ元の世界に召還させた。
しかしアイカは私の召還魔法をレジストさせ姿を現さなかった。
数時間が過ぎ、さすがに痺れを切らして出向くとアイカとミザリーは絶望した顔で佇んでいた。
「女神...」
私を見て何の感情を浮かべる事無くアイカは呟いた。
「あらあら、来ないと思ったら」
アイカの膝の上に横たわる1人の男。
見覚えがある、私が直々に神託をした男、アルトだ。
「魔法使っちゃったの?」
意外だった。
勇者パーティーの実力ならアルトの魔法を使わず魔王を充分倒せると思ったからだ。
アルトに渡した魔法は万が一の時にと思った保険だった。
「魔王は追い詰めたのよ、でも最後に裏切ったの。ナツキとミザリーが、そしてアルトは...」
アイカはそう呟いてミザリーと言った女をを睨んだ。
ミザリーを一目見て何があったのか理解する。
「ミザリー、あなたナツキに操られていたのね?」
「え?」
「操られていた?」
「ええナツキのスキルは『勇者』と『傀儡』。
『勇者』のスキルは知っているでしょう?
そして『傀儡』のスキルは相手を意のままに操るスキルよ」
「何で・・・」
私の言葉にミザリーは体を震わせる。
「何でそんな馬鹿なスキルをあいつに与えたんだ!そのせいで私は...私は...」
ミザリーが大声で叫ぶ。
なぜ怒り狂うのか意味が分からない。
「あのね、『傀儡』のスキルは相手に対して恋慕の気持ちが無いと掛からないスキルよ」
「...嘘?」
「本当よ、その証拠にアイカは掛からなかったでしょ?
まあアルトより強いあの馬鹿なら剣姫のあなたが強さだけを見て恋慕の気持ちを持ったって事かな?
まあ、ごめんね」
軽く謝った。
人間の弱さにいちいち付き合っていたら切りがないのだ。
ミザリーは完全に廃人の様になり固まってしまった。
身に覚えがあったんだろう。
「さあ時間よアイカ、元の世界に帰るわよ」
アイカはアルトの遺体を抱き締めたまま背中を震わせて首を振った。
「余り手を煩わせないで」
アイカの首筋に手を置き、冷たい声を出す。
「私を殺すんですか?」
アイカは静かに聞いた。
「殺すなんて物騒な事しないわ。
一旦魂を抜いて元の世界に連れて帰るだけよ、その後で魂を元の体に戻すの。
過ぎた時間も体も全て元通にしてね」
「私の記憶は?」
「消します」
「やっぱりですね」
「あなたはこの世界で色々あり過ぎました。
記憶を消さないとミザリーの様になりますよ」
私達の隣で膝立ちのまま、目を大きく見開き、口を開けて涙を流し続けるミザリーを指差した。
やっぱり廃人になったか、後で一部の記憶を消してやろう。
「ナツキは?」
「元の世界に帰しました。
スキルは全て消しましたが記憶は消しませんでした。
それが彼への罰です」
「ペナルティー?」
「万能だった頃の記憶だけを残し、無能に戻る。
ナツキの記憶を覗きました。あなたを叩いた事への罰です」
「アルトを殺そうとした罰は?」
「ありません。
殺そうとしたのはミザリーで、最後はアルト自身が魔法を行使したのですから」
「ミザリーに命じたのはナツキですよ?」
「スキルに掛かかったのはミザリーの責任です」
「そのスキルをナツキ渡したのは女神、あなたです」
アイカは私を静かに見つめた。
ミザリーの様に睨む訳で無く、ただ静かに私を見つめた。
「何を望むのですか?
召還されたらちゃんとギフトは授けますよ」
幸運のギフト。
彼女は一生恵まれた人生を送れるだろうに。
「ギフトなんか要りません、それよりアルトの魂に救済を」
「それは出来ません」
「何故?
暗黒世界に落ちたアルトの魂を探し出して連れて来れば良いのでしょう?」
「出来ないのです。
暗黒世界に落ちた魂をこの世界に連れ戻すのは神の間で禁じられているのです」
「私の居た世界にアルトの魂を連れて行くのなら?」
「アイカあなた何を」
「出来ませんか?」
真剣なアイカの目に私は頷く。
「出来ますがアルトの魂に対する対価が要ります」
「魂の対価?」
「ええ、暗黒世界に落ちたアルトの魂と交換出来る物です」
「私の魂を差し出します」
アイカは迷う事なく言うがそれは出来ない。
「無理よ、あなたは異世界人。
帰るべき所に帰すのが神の約束だから」
「アルトの居ない世界なら私は死んだ方がましです」
「あなたね」
面倒臭いから強引にアイカを元の世界に連れて帰り、後で記憶を消せば全て完了なんだけど。
「私を殺して」
「うん?」
横を見ると先程まで廃人と化していたはずのミザリーがいた。
その顔はもう廃人では無かった。
凄い精神力。
この世界では発狂した人間が短時間で立ち直る事は稀だった。
「仕方無いね、2人共来て」
ため息を吐きながらアイカとミザリーを呼び寄せた。
「今からアルトの魂の召還を行います。
先程言った通りアルトの魂はこの世界に連れ戻す事は出来ないのでアイカの希望通り
『愛花と夏樹のいた世界』に転移させます」
「転移?転生では無いのですか?」
「転移の方が失敗のリスクが低いからね、そして対価はミザリーの魂」
「はい」
「...女神様、どうかミザリーを殺さないで」
アイカが私にすがった。
「初めて私に『様』を付けてくれたね」
「は?」
私の言葉にアイカは呆ける。
「それに免じてミザリーの魂は要らない!
お詫びと言っちゃ何だけど、あなた達にも少しは迷惑かけたしね。
魂の代わりにミザリーの体を暗黒世界にあげちゃうよ。良いよね?」
「こんな穢れた体で良かったらいくらでも」
「それと『剣姫』のスキルは消えるわ」
「要りません『剣姫』のスキルなんか最初から欲しくはありませんでした」
「分かった、それと記憶は消さずに置いといてあげる。
アルトに逢えたら良いね」
「ありがとうございます!」
ミザリーは私に向かい頭を何度も地面に打ち付けアイカに止められていた。
「転移後の体は?」
「大丈夫よ、愛花の世界にも意外と空いてる体は有るから」
「それって」
「まあ不慮の事故って結構どこの世界中でもあるの。
アイカと同じ歳の体を2つ見繕っとくから」
「「ありがとう!」」
アイカとミザリーの叫び声が響いた。
「それじゃいくわよ」
私の合図にアイカの姿は消え、ミザリーの体は崩れ落ち呼吸を止めた。
アイカは元の世界に帰っているだろう。
ミザリーの魂は私の部屋に召喚されたはずだ。
後は、
「よっと」
脱け殻になったミザリーの体を抱えた。
「これ持って暗黒世界と交渉ね、おまけにアルトの体も付けよっと」
アルトの体も引き寄せ、2つの体を抱えて姿を消した。