もう一度みんなと...後編
「よし!」
気合いを入れて自宅を出る。
やっと会えるんだ、私の親友達に。
「おはよう、久し振りね霞」
「そうね杏」
高校の正門で岬霞と再び出会う。
抱き合って喜びたい気持ちをグッと堪える。
それは愛花と会ってからだ。
霞も同じ考えの様だった。
今日は琴ヶ浦高校の入学式。
真新しい制服に身を包んでいる私達だけど、本当は初めてじゃない、この制服を着るのは二回目なんだから。
「やっと今日ね」
「ええ」
霞は凄い気合いだ。
小柄な彼女から迸る気は、
やっと愛花に会える、そんな気持ちが伝わって来た。
「有人は?」
「朝の3時に家を飛び出して行ったよ。
少しでも早く愛花を見つけるんだって」
「相変わらず愛花が好きなのね」
「有人は混乱してるのよ」
小さな溜め息を吐く霞。
「ちょっと霞、話さない?」
「そうね、情報を整理したいわ」
入学式まで時間はある。
正門をくぐり抜け、懐かしい校内を散策する。
周りの人から見れば不思議な光景だろう。
新入生が2人、慣れた様子で歩いているのだから。
「そう杏も1年前に...」
「うん、霞もなのね」
そこで分かったのは私達は1年前に記憶が戻ったという事、それは突然だった。
記憶によれば、琴ヶ浦高校の同級生だった私と霞、そして有人と愛花。
私達は親友で、同じ大学に進学した。
そんなある日、私達は異世界に召喚された。
でも私はなぜか魔王になっちゃって、心配した有人が私についてきてくれた。
霞は異世界で悪い勇者に襲われそうになって。
愛花に助けられて無事、悪い勇者を倒した。
そしてこの世界に帰って来たんだ。
「私が一人だけ魔王って何だか釈然としないな」
「私が剣姫だってそうよ」
「確かに」
小柄な霞が剣の達人なんかピンと来ない。
でも異世界では有人と霞は違う姿だった気が...
ダメだ、これ以上は思い出せない。
「愛花が聖女ってピッタリよね」
「確かに、これ以上はない配役よ」
愛花のローブ姿はハッキリと思い出せる。
溢れる愛情は正に聖女、いや女神だった...
女神?あれ?
「どうしたの?」
「女神って誰だった?」
「え?誰って...あれ?」
霞も混乱している。
頭に浮かんで来ないのだ。
全く誰の姿も...まるで強制的に記憶が閉じる様だった。
「...まあ帰ってみれば、また高校生からやり直せるなんてラッキーよね」
私達は話を変えた。
答えが出そうに無かったからだ。
「そうね、また楽しい高校生活を送れるんだもん。
でも、私達って前回も最初からこの高校に通っていたっけ?」
「それは...」
霞の質問にまた答えが出ない。
だって、前回の高校生活は途中からしか記憶が無い。
入学式も初めての気がしていた。
「ひょっとしたら私達の記憶って高校時代の途中からなの?」
「そうよね...」
分からない、不思議な事だらけだ。
記憶が戻った日に、何だかたくさんの記憶が抜け落ちてしまったみたいに感じた。
そういえば、一番大変だったのは有人だった。
有人はなぜか異世界ではアルトって違う人間の記憶があった。
現在の有人には2つの記憶が混在しているのだ。
異世界でのアルトと、この世界の有人。
前回、有人は愛花と恋人だったのに、今回は一生を賭けて愛花を護ると言い出した。
「...まあ、琴ヶ浦高校を覚えてたから良かったわ」
「そうね」
本当にそうだ。
高校まで忘れたら、私は愛花どころか、霞にも会えなかった訳だし。
「雫は元気?」
雫?
「雫って誰?」
「ちょっと、貴方達の姉さんじゃない」
「姉さん?」
私達に姉は居ない。
私と有人は血の繋がらない義理の兄妹だが、両親の再婚で...兄妹は二人だけだし。
「ひょっとして...前回は居たのかな?」
「雫は居ないの?」
「うん...」
霞が覚えてる雫と言う姉の存在。
だけど雫と言う名前に聞き覚えがあった。
『新入生は講堂に集まって下さい』
「呼んでるね」
「そうね」
校内放送に私達は講堂に向かう。
違和感はおさまらないが、愛花に会えれば全てが解決する気がしていた。
「...居ない」
淡い期待は絶望へと変わった。
講堂に貼り出されたクラス分けの氏名に川上愛花の名前は無かった。
霞も同じ気持ちなんだろう、同じく呆然とした顔で名前の書かれた紙を見つめ固まっていた。
「...畜生...どうなってるんだよ」
いつの間にか講堂に来ていた有人が、呻き声を上げて床に座り込んでいる。
その目に涙が流れていた。
立ち直れないまま入学式は進行し、その後、同じクラスの私達3人は教室へと向かう。
「...もうどうでもいい」
うつむきながら呟く。
どうして?愛花の居ない世界に何の希望も見出だせないのだ。
「はい、皆さん担任の鶴野雫です。
これから1年宜しくお願いします」
「え?」
「嘘?」
「雫?」
教壇から聞こえた名前。
私達3人が目を向けると、1人の女性が微笑みを浮かべていた。
「そんな...」
初めて見た筈なのに、女性の顔から目が離せない。
「...シルコゥ様」
隣の席に座っていた霞が涙ながらに呟く。
その名前に私の目からも涙が溢れ、有人は完全に固まってしまっていた。
「みんなの自己紹介をする前に、もう1人の仲間を紹介します。
入学式には間に合わなかったけど...
やっと復活した、私達の大切な仲間...さあ入って来て...」
そんな私達を見ながら鶴野先生は言葉を続けた。
教室の中は私達3人と鶴野雫しか居ない...
「川上愛花です...また宜しくね...アルト、ミザリー...ツゥ・ブアーン...」
教室に入って来た1人の少女...
私達はゆっくり立ち上がる。
「...遅いわよ」
「...もう離さないから」
「...会いたかった」
頭に次々、記憶のパーツが埋まって行く。
私は鶴野杏...向こうでは魔王ツゥ・ブアーン...
愛花によって人間に転生して、この世界にやって来たんだ!!
「「「「アイカ!!」」」」
私達はシルコゥと一緒に愛花を抱き締めた。
ありがとうございました!




