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悪い奴は誰?  作者: じいちゃんっ子
最終章 異世界帰還篇
38/39

もう一度みんなと...中編

「シルコゥ...」


「貴女は?」


 眠っていた私に呼び掛ける1人の女性。

 一体誰だろう?

 私の名前はステラだ、シルコゥなんて名じゃない。

 疑問は次々と浮かぶが、声にならなかった。


「ゼン・ザインよ」


「...女神様?」


 その女性は女神を名乗る。

 言われてみれば、教会に置かれている女神像にどことなく似ていた。


「...その、女神様、私に何かご用でしょうか?」


「時が来たのよ」


「時?」


 何の話?神託でも降るの?

 辺境に暮らす18歳の町娘には理解が追い付かない。


「元々この世界では貴女が女神だったの」


「私が女神?」


 何を言っているの?

 そりゃ信心してる方だけど、女神の言う話が荒唐無稽過ぎて理解出来ない。


「誰かと間違ってませんか?」


「...まあ仕方ないけど」


 私の様子に女神は溜め息を吐いた。


「その胸にあるペンダント、それが貴女は女神である証」


「これが?」


 女神が私の首に掛かるペンダントを指差した。

 小さな4色の石が散りばめられたペンダントは私が産まれた時、その手に握られていたと母から聞いていた。

 信じられない話だが、何度も言うので、そう言う事にしていたが...


「ピンクはアイカ、赤はツゥ・ブアーン、緑はミザリー...後の1つ、藍色は分かるわね?」


「あ...ああ!!」


 女神が指差す1つ1つの石に私の意識が覚醒していく。

 決して忘れないと誓った筈なのに...

 魂を加える時、私は過去を思いだし、彼等の元に行ったのだ。

 約束を果たせるかを聞きに...


「ミザリー...ツゥ・ブアーン...」


 指で石をなぞる私の目から涙が流れた。


「...アルト」


 最後の1つ、藍色はアルトの色。

 4つの石にはみんなの魂が入っていた。


「ありがとう、ゼン・ザイン」


 身体の中から沸き上がる力。

 気づけば私は以前の姿に戻っていた。

 女神シルコゥに...


「ちゃんと魂の維持は出来てるわよ」


「そうみたいね」


 ゼン・ザインに頭を下げる。

 彼女には本当に世話を掛けてしまった。


「随分素直ね、人間でかなり苦労したのかな?」


「そんな事ないわ」


 苦労はしなかった。

 転生は4回したが、それぞれ楽しく人生を過ごせたと思う。

 結婚をした事もある、子を為した事も。

 夫に裏切られ、涙した事もあったっけ...


「それじゃ行くわね」


「ありがとう」


「いいのよ、貴女のお陰で退屈しなかったし」


「退屈?」


「特にあの男って本当愉快ね。

 まだしばらくは楽しめそう」


 ゼン・ザインはいたずらっぽく笑う。

 女神本来の性格なのだ。

 世界の変化なんか興味もない、人間か魔族、どちらかが滅ばなければ良い、彼女にとって生き物の生きざまは格好の餌なのだ。

 ...以前の私の様に。


「そうなんだ」


「本当つまんないわね、まあ良いわ、後は上手くやりなさい」


 そう言い残してゼン・ザインは消えて行った。

 私はベッドから立ち上がり、静かにペンダントを見つめた。

 200年前のあの日、アイカが消えてしまったあの時を...


『アイカ!』


 転生の魔法を行使したアイカは黒焦げになり床に倒れる。

 彼女の傍に魔族から人間へ転生を終えたツゥ・ブアーンが倒れていた。


『ゼン・ザイン!!』


 もしかしたらアイカは禁忌を犯すかもしれない。

 予測していた私は女神ゼン・ザインを呼んだ。


『ハイハイ』


 現れたゼン・ザイン。

 慌てる事なく、黒焦げのアイカから魂を抜き取ってくれた。


『どう?』


『うん、なんとか間に合ったけど』


 ゼン・ザインの顔色はさえない。


『消滅仕掛かってるわね、人間が神の禁忌に触れたら当然だけど』


『分かってる、早く私の魂をアイカに!』


 (あらかじ)め頼んでいたのだ。

 アイカの魂に私の魂を結合させる。

 そうすれば、アイカの魂は消滅しない。

 私の魂は消滅するだろうが、構わなかった。


『...無理ね』


『どうして?』


 『だって、貴女は女神じゃない。

 魂の質が違うわ、結合は出来ない』


『そんな...』


 人間になれば出来ると思ったのに...

 絶望が心を苛んだ。


『私を使って下さい』


『ミザリー...』


 それまで静かに私とゼン・ザインのやりとりを見ていたミザリーが呟いた。


『貴女ならしばらく行けるわね』


『ダメよ!』


 軽く頷くゼン・ザインを止めた。

 やっとミザリーはアルトと結ばれて幸せになれるというのに!!


『止めろミザリー!俺が行く!!』


『私が...』


 いつの間にか目覚めていたツゥ・ブアーンも加わり二人が慌ててミザリーを止めた。

 しかしそれは...


『貴方達は無理ね』


『どうしてですか!?』


『貴方達の魂は結合していたでしょ?

 まだ純粋な人間の魂に戻ってるとは言えないもの』


『『...そんな』』


 アルトとミザリーはガックリと項垂れた。

 しかし、そうなのだ。

 アルトの魂は魔王と結合した時間が長すぎた。

 今の状態では無理なのだ。

 転生して、お互い新しい人間に生まれ変わらない限り絶対に。


『アルト、ツゥ・ブアーン、貴方達には愛花が必要でしょ?

 私にも愛花が必要なの...愛花が居ない世界なんか必要無い位に...』


 強い意思を感じさせるミザリー。

 もう悩んでる時間は無い。


『それで、ミザリーが結合して愛花の魂はどれくらい持ちそう?』


『そうね、5、60年といった所かしら』


『分かったわ...アルト次は貴方...行ける?』


『もちろんです』


 しっかり頷くアルトだけど...


『転生したら記憶は全て失われる。

 今回は何とか少しだけ記憶が残っていた、でも次は無いのよ』


『それは...』


『新しい人生を歩んで愛する人が出来る。

 その人とは、未来永劫交われない。

 そして別れは突然来るのよ、良いのね?』


『アルト...』


『ミザリー...』


『...ツゥ・ブアーン』


 三人はしっかり頷いた。


『お願いします』


『...そう、契約したわよ。

 先ずはミザリーからね』


『はい』


 ゼン・ザインによってミザリーは魂を抜かれ、愛花と結合した。

 そして60年後、次はアルトの魂が新たに加わる、...筈だった。


 それは叶わなかったのだ。

 アルトはアランとして生まれ変わり、妻と子供達に囲まれ幸せに暮らしていた。


『...そうだったのですか』


 生まれ変わっていたアランは苦し気に呻いた。

 彼の苦悩は当然だ。

 当時の彼は37歳。

 以前のアルトは若くして独り身で亡くなっていたが、アランとして生まれ変わった彼には家族が居る。

 記憶が無いのだから彼を責められなかった。


 ...私にも当時、主人と子供が居たので、彼の苦悩が痛い程分かった。


 窮地を救ったのは意外な人物だった。


『私が行きます』


『...アンナ』


 それはアランの娘、15歳になるアンナだった。


『どうしてここに居るんだ!

 早く自分の部屋に戻ってなさい!!』


『愛花を救う為です』


 静かにそう語るアンナの瞳に見覚えがあった。


『何をお前は?』


 アランには分からないだろう。

 まさかこんな運命があるなんて。


『...ツゥ・ブアーン?』


『そうよ、まさかアルトの娘に生まれ変わっていたなんて...』


 ツゥ・ブアーンは人間に転生した後行方不明になったとゼン・ザインから聞いていた。


『前回と今回、人間として生きたから充分よ。

 私は記憶が失われなかったみたい』


『そうだったの?』


 転生しても前世が魔王だったツゥ・ブアーンは記憶が引き継がれていたのか。


『だから、お願い』


『分かった』


『止めてくれ!!俺が行くから!!』


 アルトであるアランが叫んだ。

 しかし、契約は済ませている。

 今さら反故には出来ない、ましてや彼女自身が望んでいたのだから。


 こうしてツゥ・ブアーンの魂が新たに加わったと同時に私も死んだ。

 アランがその後、どうなったのか分からなかった。


 それが分かったのは更に60年経ってからだった。


『アルト』


『お待たせしましたシルコゥ様』


 再び捜し当てたアルト。

 彼は私を見ると小さな声で呟いた。


『アルト、貴方記憶が?』


『...はい、私は前回とんでもない失敗を...』


 そう呻くアルト。

 私達が逝った後、彼は全てを思いだしたそうだ。


『記憶に無かったから仕方ない』

 そう考えられる程、彼は割り切れる人間では無かった。

 残された家族と、失った愛する者への悔恨で地獄の様な人生だったそうだ。

 それが今回、記憶を有している事に繋がっていた。


『もう思い残す事はありません』


 静かに呟くアルト。

 今回の名前さえ聞かないまま新たに加わった。


 そして、私はまた死に今回ステラとして生まれ変わったのだ。


「さあ行くわよ」


 ありったけの魔力を身体に蓄える。

 元の世界に川上愛花の魂を返す事が出来るか分からない。


 愛花の魂は殆ど消滅していた。

 今はミザリーとツゥ・ブアーン、そしてアルトの魂でどうにか維持しているだけなのだ。


 本当なら魔王を倒した愛花は神の祝福(ギフト)で元の世界に戻って幸せに暮らせていた筈なのに。


 どのタイミングで愛花が復活するか分からない。

 時間も、愛花だけでは無い、ミザリー達の魂もどうなるか、全く分からないのだ。


「絶対に...必ず戻してあげるからね、みんな...また一緒に...」


 魔力が尽きるまで、ペンダントに向かい続けた。

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