もう一度みんなと...中編
「シルコゥ...」
「貴女は?」
眠っていた私に呼び掛ける1人の女性。
一体誰だろう?
私の名前はステラだ、シルコゥなんて名じゃない。
疑問は次々と浮かぶが、声にならなかった。
「ゼン・ザインよ」
「...女神様?」
その女性は女神を名乗る。
言われてみれば、教会に置かれている女神像にどことなく似ていた。
「...その、女神様、私に何かご用でしょうか?」
「時が来たのよ」
「時?」
何の話?神託でも降るの?
辺境に暮らす18歳の町娘には理解が追い付かない。
「元々この世界では貴女が女神だったの」
「私が女神?」
何を言っているの?
そりゃ信心してる方だけど、女神の言う話が荒唐無稽過ぎて理解出来ない。
「誰かと間違ってませんか?」
「...まあ仕方ないけど」
私の様子に女神は溜め息を吐いた。
「その胸にあるペンダント、それが貴女は女神である証」
「これが?」
女神が私の首に掛かるペンダントを指差した。
小さな4色の石が散りばめられたペンダントは私が産まれた時、その手に握られていたと母から聞いていた。
信じられない話だが、何度も言うので、そう言う事にしていたが...
「ピンクはアイカ、赤はツゥ・ブアーン、緑はミザリー...後の1つ、藍色は分かるわね?」
「あ...ああ!!」
女神が指差す1つ1つの石に私の意識が覚醒していく。
決して忘れないと誓った筈なのに...
魂を加える時、私は過去を思いだし、彼等の元に行ったのだ。
約束を果たせるかを聞きに...
「ミザリー...ツゥ・ブアーン...」
指で石をなぞる私の目から涙が流れた。
「...アルト」
最後の1つ、藍色はアルトの色。
4つの石にはみんなの魂が入っていた。
「ありがとう、ゼン・ザイン」
身体の中から沸き上がる力。
気づけば私は以前の姿に戻っていた。
女神シルコゥに...
「ちゃんと魂の維持は出来てるわよ」
「そうみたいね」
ゼン・ザインに頭を下げる。
彼女には本当に世話を掛けてしまった。
「随分素直ね、人間でかなり苦労したのかな?」
「そんな事ないわ」
苦労はしなかった。
転生は4回したが、それぞれ楽しく人生を過ごせたと思う。
結婚をした事もある、子を為した事も。
夫に裏切られ、涙した事もあったっけ...
「それじゃ行くわね」
「ありがとう」
「いいのよ、貴女のお陰で退屈しなかったし」
「退屈?」
「特にあの男って本当愉快ね。
まだしばらくは楽しめそう」
ゼン・ザインはいたずらっぽく笑う。
女神本来の性格なのだ。
世界の変化なんか興味もない、人間か魔族、どちらかが滅ばなければ良い、彼女にとって生き物の生きざまは格好の餌なのだ。
...以前の私の様に。
「そうなんだ」
「本当つまんないわね、まあ良いわ、後は上手くやりなさい」
そう言い残してゼン・ザインは消えて行った。
私はベッドから立ち上がり、静かにペンダントを見つめた。
200年前のあの日、アイカが消えてしまったあの時を...
『アイカ!』
転生の魔法を行使したアイカは黒焦げになり床に倒れる。
彼女の傍に魔族から人間へ転生を終えたツゥ・ブアーンが倒れていた。
『ゼン・ザイン!!』
もしかしたらアイカは禁忌を犯すかもしれない。
予測していた私は女神ゼン・ザインを呼んだ。
『ハイハイ』
現れたゼン・ザイン。
慌てる事なく、黒焦げのアイカから魂を抜き取ってくれた。
『どう?』
『うん、なんとか間に合ったけど』
ゼン・ザインの顔色はさえない。
『消滅仕掛かってるわね、人間が神の禁忌に触れたら当然だけど』
『分かってる、早く私の魂をアイカに!』
予め頼んでいたのだ。
アイカの魂に私の魂を結合させる。
そうすれば、アイカの魂は消滅しない。
私の魂は消滅するだろうが、構わなかった。
『...無理ね』
『どうして?』
『だって、貴女は女神じゃない。
魂の質が違うわ、結合は出来ない』
『そんな...』
人間になれば出来ると思ったのに...
絶望が心を苛んだ。
『私を使って下さい』
『ミザリー...』
それまで静かに私とゼン・ザインのやりとりを見ていたミザリーが呟いた。
『貴女ならしばらく行けるわね』
『ダメよ!』
軽く頷くゼン・ザインを止めた。
やっとミザリーはアルトと結ばれて幸せになれるというのに!!
『止めろミザリー!俺が行く!!』
『私が...』
いつの間にか目覚めていたツゥ・ブアーンも加わり二人が慌ててミザリーを止めた。
しかしそれは...
『貴方達は無理ね』
『どうしてですか!?』
『貴方達の魂は結合していたでしょ?
まだ純粋な人間の魂に戻ってるとは言えないもの』
『『...そんな』』
アルトとミザリーはガックリと項垂れた。
しかし、そうなのだ。
アルトの魂は魔王と結合した時間が長すぎた。
今の状態では無理なのだ。
転生して、お互い新しい人間に生まれ変わらない限り絶対に。
『アルト、ツゥ・ブアーン、貴方達には愛花が必要でしょ?
私にも愛花が必要なの...愛花が居ない世界なんか必要無い位に...』
強い意思を感じさせるミザリー。
もう悩んでる時間は無い。
『それで、ミザリーが結合して愛花の魂はどれくらい持ちそう?』
『そうね、5、60年といった所かしら』
『分かったわ...アルト次は貴方...行ける?』
『もちろんです』
しっかり頷くアルトだけど...
『転生したら記憶は全て失われる。
今回は何とか少しだけ記憶が残っていた、でも次は無いのよ』
『それは...』
『新しい人生を歩んで愛する人が出来る。
その人とは、未来永劫交われない。
そして別れは突然来るのよ、良いのね?』
『アルト...』
『ミザリー...』
『...ツゥ・ブアーン』
三人はしっかり頷いた。
『お願いします』
『...そう、契約したわよ。
先ずはミザリーからね』
『はい』
ゼン・ザインによってミザリーは魂を抜かれ、愛花と結合した。
そして60年後、次はアルトの魂が新たに加わる、...筈だった。
それは叶わなかったのだ。
アルトはアランとして生まれ変わり、妻と子供達に囲まれ幸せに暮らしていた。
『...そうだったのですか』
生まれ変わっていたアランは苦し気に呻いた。
彼の苦悩は当然だ。
当時の彼は37歳。
以前のアルトは若くして独り身で亡くなっていたが、アランとして生まれ変わった彼には家族が居る。
記憶が無いのだから彼を責められなかった。
...私にも当時、主人と子供が居たので、彼の苦悩が痛い程分かった。
窮地を救ったのは意外な人物だった。
『私が行きます』
『...アンナ』
それはアランの娘、15歳になるアンナだった。
『どうしてここに居るんだ!
早く自分の部屋に戻ってなさい!!』
『愛花を救う為です』
静かにそう語るアンナの瞳に見覚えがあった。
『何をお前は?』
アランには分からないだろう。
まさかこんな運命があるなんて。
『...ツゥ・ブアーン?』
『そうよ、まさかアルトの娘に生まれ変わっていたなんて...』
ツゥ・ブアーンは人間に転生した後行方不明になったとゼン・ザインから聞いていた。
『前回と今回、人間として生きたから充分よ。
私は記憶が失われなかったみたい』
『そうだったの?』
転生しても前世が魔王だったツゥ・ブアーンは記憶が引き継がれていたのか。
『だから、お願い』
『分かった』
『止めてくれ!!俺が行くから!!』
アルトであるアランが叫んだ。
しかし、契約は済ませている。
今さら反故には出来ない、ましてや彼女自身が望んでいたのだから。
こうしてツゥ・ブアーンの魂が新たに加わったと同時に私も死んだ。
アランがその後、どうなったのか分からなかった。
それが分かったのは更に60年経ってからだった。
『アルト』
『お待たせしましたシルコゥ様』
再び捜し当てたアルト。
彼は私を見ると小さな声で呟いた。
『アルト、貴方記憶が?』
『...はい、私は前回とんでもない失敗を...』
そう呻くアルト。
私達が逝った後、彼は全てを思いだしたそうだ。
『記憶に無かったから仕方ない』
そう考えられる程、彼は割り切れる人間では無かった。
残された家族と、失った愛する者への悔恨で地獄の様な人生だったそうだ。
それが今回、記憶を有している事に繋がっていた。
『もう思い残す事はありません』
静かに呟くアルト。
今回の名前さえ聞かないまま新たに加わった。
そして、私はまた死に今回ステラとして生まれ変わったのだ。
「さあ行くわよ」
ありったけの魔力を身体に蓄える。
元の世界に川上愛花の魂を返す事が出来るか分からない。
愛花の魂は殆ど消滅していた。
今はミザリーとツゥ・ブアーン、そしてアルトの魂でどうにか維持しているだけなのだ。
本当なら魔王を倒した愛花は神の祝福で元の世界に戻って幸せに暮らせていた筈なのに。
どのタイミングで愛花が復活するか分からない。
時間も、愛花だけでは無い、ミザリー達の魂もどうなるか、全く分からないのだ。
「絶対に...必ず戻してあげるからね、みんな...また一緒に...」
魔力が尽きるまで、ペンダントに向かい続けた。




