もう一度みんなと...前編
「...終わったの?」
聖剣を握りしめたままミザリーが呟いた。
ナツキは胸から背中まで貫かれ、既に息絶えている。
...ようやく終わったんだ。
「...ナツキの魂はループに入りました。
ミザリー、貴女は傀儡のスキルに、運命に打ち勝ったのよ」
「...うん」
呆然としていたミザリーはシルコゥ様の言葉に頷き、手にしていた聖剣を離す。
その表情はまだ信じられない様だ。
本当に頑張ったねミザリー、クズの誘惑に舌を噛み、決して身体を許さなかった。
「ミザリ...霞、おめでとう」
運命に抗ったミザリーにツゥ・ブアーンも嬉しそうに笑う。
しかし、ミザリーだけでは無い、彼女も抗った。
魔王の殺戮衝動に、彼女は今回誰1人殺さず、魔王軍を統率した。
無差別殺戮の悪夢を払拭したのだ。
「シルコゥ...ありがとう」
ゆっくりと立ち上がる魔王...いや杏。
見た目こそサキュバスだが、穏やかな表情は懐かしい鶴野杏の物だった。
「いいえ、アルトが居たからでしょ?」
「そうね、兄ちゃ...アルトが私の衝動を抑えてくれた。
そうじゃなきゃ...私はまた殺していたと思う」
「杏...俺は何もしてない。お前が自分の運命と戦い、そして勝ったんだ」
アルトは静かに杏を見る。
みんなのやり切った表情に私の旅が今回は成功したと確信する。
全てはシルコゥ...いや鶴野雫のお陰なんだ。
「ありがとう雫、貴女のお陰だよ」
「そんな事無いわ、私は自分の過ちを償っただけ、この世界と愛花の世界、二つの過ちを...」
雫は神の禁忌を犯した。
今、彼女が私達の前に存在出来ているのは、私を見届ける為だ。
実体の無い彼女はただ浮かんでいるだけ。
この後、彼女は罰っせられる、再び転移する前にそう聞かされていた。
「シルコゥ様はこの後どうなるのですか?」
「私はしばらく人間になります。
何の力も持たず、人間として生き、そして死ぬ。
これを何度か繰り返すの...その度記憶を全部無くして」
「そうですか...」
女神では無くなる、人間として生きるのは神からすれば、幽閉より辛い事だろう。
「何年くらい?」
「そうね...この世界で200年よ。
転生も3、4回は繰り返すでしょう。
その間はゼン・ザインに任せるわ、彼女は暗黒世界と兼任になるけどね」
「そう...」
みんな残る。
ミザリー、アルト、シルコゥ様、みんなこの世界の住人なんだ。
だけど、杏は?
サキュバスの彼女は何度生まれ変わっても人間にはなれないのよ。
「愛花大丈夫だよ、だって死んだらみんな忘れちゃうんだから」
杏は明るく微笑む。
無理しないで、辛いのが余計に伝わるよ。
「愛花、そろそろお願い」
「そうね」
杏の前に立つ。
最後にやるべき事をしなければいけない。
...ツゥ・ブアーンを倒し、世界から魔王を消さなくては。
旅が終わらないんだ、私の旅が。
「愛花...ありがとう」
魔王、いや杏は胸をはだけ、目を瞑る。
その目から涙が溢れていた。
「愛花...すまない」
アルト...有人、本当は止めたいよね。
本当なら有人と霞、杏の三人で生きていたい筈なのに...
「良いのよ、アルトが暗黒世界に行かないだけね...」
杏の言葉に霞は小刻みに震えていた。
きっと彼女はこの後死ぬ気だ、間違いない。
向こうで何度も助けて来た私には分かった。
覚悟を決めた...これしか無い。
「いくね...杏」
「うん...」
一気に魔力を高める。
二回目なんだ、私の魔力量は聖女二人分なのだ。
人間には出来ない転生魔法。
魔物から人間に、神の禁忌だ。
いかような神罰も覚悟の上...
「聖なる矢!!...転生」
「愛花!!何をするの!」
シルコゥ様が叫ぶ。
私の意図が分かったのね。
「アアアァ!」
凄まじい勢いで力が奪われて行く。
いやそれだけでは無い、私の身体が焦げて...
「止めなさい消えてしまうわ!
元の世界に戻れなくなるのよ!!」
シルコゥ様が止めようとするが、実体の無い彼女にはどうする事も出来ない。
有人も、霞も...誰も。
「止めろ愛花!!」
「ダメよ愛花!!」
莫大な魔力の放出に二人は動けない。
これで良いんだ。
「...良いのよ...私は異...世界からみんなを救う為に来た...これで...幸せに...」
杏は意識を失い、私の腕に抱かれている。
上手く行ったら杏は人間になれる。
もうサキュバスなんか...過酷な運命に翻弄されないで...
「「「「...愛花...」」」」
みんなの声が遠くに聞こえる。
もう目が見えない、腕の感覚も...
「ありがとう...さよう...な...ら」
...全てが終わった。




