勇者ナツキ~次こそは
「これで今日の訓練を終わる。
みんな、よく頑張ったな」
いよいよ出発が迫って来た。
俺は最後の仕上げをするため、討伐隊の連中に訓練をつけてやった。
こっちに来た頃は下っ端の兵達にも苦戦した俺だったが、2ヶ月が過ぎた今はどんな奴が相手でも敵ではなくなっていた。
「なんだよ、礼の一つも言えねえのか」
仰向けのまま激しく息をする1人の男。
コイツは来たばかりの頃厳しい訓練を課した奴だ。
「起きろ!」
「アガ!」
髭面の顔を蹴りあげると、情けない声を出しながら転がる。
足先から伝わる骨の砕ける感触、顎を押さえながら涙を流す奴の姿に溜飲が下がった。
「情けねえな、こんな奴が騎士団長かよ」
40近いオッサンを痛めるのは実に楽しい。
いつも偉そうにしてるが、所詮はゴミクズ。
勇者の俺と一緒に来ても、足手まといになるだけだ。
「おい連れて行け!」
周りを取り囲む兵に命じる。
両肩を支えられながら練兵場を出ていく。
その無様な姿に悪夢の記憶が甦る。
悪夢の中でも俺は勇者だった。
命懸けで異世界を救い、魔王を倒したにも関わらず、俺は異世界を追われた。
元の世界に戻ったが、勇者の力も奪われ、馴染めないまま高校を卒業した。
フリーターになった俺の最後は、襲った女の恋人だという半グレに殴り殺される悲惨な物だった。
「今度はしくじらないぜ」
俺だってバカじゃない。
あれは単なる夢じゃない。
前回の失敗もふまえ、勇者の持つスキルを最大限鍛えて来たのだ。
今回新たに分かったのは、勇者のスキルは鍛えれば鍛える程に成長するという事。
戦闘力だけじゃない、相手に威圧を掛けると相手は何も出来なくなる。
加えて、剣と魔法も前回と比べ物にならない。
これで失敗は無い。
忌まわしいアルトやアイカに邪魔をされる心配は無いのだ。
今度こそ最後までミザリーを、そして世界中の女を意のままに操れる。
今回も魔王を殺す気はない。
俺1人で魔王に瀕死の重傷を負わせ、生かしておくのだ。
これで悲願のハーレムが完成する。
そう考えると身体の滾りが治まらない俺だった。
「ミザリーです。勇者様どうか宜しく」
待ちに待ったミザリーがやって来た。
夢にまでみた剣姫ミザリー。
やっぱりコイツは綺麗だ、魅惑的な肉体を散々弄んだ記憶が甦る。
「...アルトは?」
アイカが呟いた。
そう言えば姿が見えないな。
「魔王に拐われました...」
「拐われた?」
「そりゃどういう事だ?」
「ここに向かう道中...不覚を取りました」
憔悴した様子のミザリー。
せっかくもう一度絶望を味会わせてやりたかったが、まあいい。
アイカの苦しそうな顔を見れたから良しとしよう。
アイカとミザリーは何やら頷き会っている。
そんな光景に胸騒ぎを覚えるが、どうせ何も出来やしない。
今回もアイカに傀儡は掛からなかったが、ミザリーは別だ。
俺の強さを見せつければ絶対に...
「勇者ナツキ、これより魔王討伐に向かいます!」
「...うむ」
ようやく迎えた討伐隊の出発。
思ったより時間が掛かった。
何しろ魔王が一向に進攻しないのだ。
国王が魔王に親書を送り、戦争を避けようとしたのには参った。
まあ、魔王から勇者達と雌雄を決すると返事が来てホッとしたが。
だが、討伐隊の人数は大幅に縮小され、たった三人となってしまった。
ふざけやがって、王妃や娘達を傀儡で抱いたのを根に持ってやがるのか。
何回か俺を暗殺しようと企んだのは分かってる。
証拠は掴め無かったが、絶対許さねえからな。
後で滅ぼしてやる。
魔王城には難なく着いた。
記憶にある魔王軍幹部との戦いも無かった。
なにしろ魔族は俺達の姿を見ると、すんなり道を開けやがるのだ。
腹が立ったから一匹の幹部を切り捨ててやった。
「なんて事をするの!」
「なんだよ」
倒した魔族にアイカが駆け寄る。
どうして怒鳴るんだ?
「魔族は何もしてないじゃない!」
「は?」
意味が分からねえ。
コイツらは敵だと理解してねえのか?
「いつ人間を襲う分からん。
だから殺すに越した事はねえだろ」
「罪の無い者を殺したらこっちが恨まれるわ」
駄目だコイツ。
これ以上話す気にもならねえ。
魔族にヒールを掛け続けるアイカに唾を吐き、俺はその場を後にした。
ミザリーは俺について来る。
どうやら傀儡が効き始めたようだ。
前回と同じでミザリーの持つ剣姫のスキルは強い人間に惹かれるんだ。
「やっぱり傀儡のスキルは最高だぜ」
笑いが止まらない。
だが、ミザリーは俺に抱かれ無いのだ。
それだけは必死で拒みやがる。まだ足りないのか。
一度、無理矢理抱こうとしたが、舌を噛まれてしまったのだ。
あれは参った、近くにアイカが居なかったらミザリーは死んでいただろう。
...畜生め。
「行きましょうミザリー」
「うん...」
勇者である俺をさしおいて、先に進むアイカ。
まあ良い、ここで魔王を倒したら今度こそミザリーは肌を許すだろう。
ようやくミザリーを抱けるんだ。
そう確信していた。
「...ここね」
城内にある大きな扉の前でアイカが立ち止まる。
何でここなんだ?
「...懐かしい気配...」
「懐かしい?」
ミザリーが呟いた。
傀儡を絶え間なく掛けたせいか、最近のミザリーは感情が無くなってしまった。
久しぶりに聞いたミザリーの声に僅かな人間らしさを感じ、俺の心は高鳴った。
「行くか!」
ドアを蹴破ると、部屋の中に居たのは二人。
1人は女で椅子に座っていた。
もう1人は男、女の隣に立っていた。
「...やっと来たか...」
そう呟きながら女は立ち上がる。
一体コイツはなんだ?
見た目はサキュバスの様だが、どうした事か人間に思えて仕方無い。
「待たせたわね、杏、有人」
「は?」
アイカは何を言ってるんだ?
「アルト...」
小さな声でミザリーが呟く。
あの男がアルトなのか?
「なんだよ、囚われていたかと思ったら魔王と宜しくやっていたのか」
ふざけた野郎だ。
さっさと魔王を片付けて、傀儡の仕上げと行くか。
「行くぞ魔王!!」
「待ちなさいナツキ」
「うるさいアイカ!威圧!」
威圧のスキルを発動させる。
これでミザリー以外は動けないだろう。
一気に間合いを詰め、聖剣を魔王の身体に叩き着け...
「させない!!」
「なんだ!?」
突然の衝撃に身体がブレる。
聖剣は魔王を掠めて床に大きな傷をつけた。
「何をするミザリー!」
ミザリーが俺に身体をぶつけたのだ。
その目は完全に正気な物に戻っていた。
「威圧!!」
「グァ!!」
もうミザリーに未練は無い。
世界にはこんな女より俺に相応しいのが溢れている筈だ。
その前にミザリーに絶望を味合わせてやる。
「貴様がアルトか」
「...そうだ」
拘束されているにも関わらず、アルトは俺を睨みつける。
その目は更なる悪夢を呼び覚ました。
「あの時はよくもやってくれたな!!」
元の世界に居たコイツに俺は散々痛めつけられたんだ。
手足を砕かれ、目をくり貫かれ!!
拳を固め、アルトを殴る。
鼻骨が砕け、顔が忽ち腫れ上がって行く。
端正なアルトの顔が血に染まり、変形していくが、こんな物じゃ済ませないぜ。
次はアイカを犯してやる。
そしてミザリーもだ。
アルトの目の前で死ぬまで犯して滅茶苦茶にしてやるんだ。
「止めろ...ナツキ」
必死で立ち上がろうとするアイカ、あれが聖女の力か...
俺の役に立たねえ聖女なんか要らん!!
「やかましい!!」
「グワッ!!」
振り返り様、アイカを蹴り上げると、無様な声を上げながら床を転がった。
「貴様...許さぬぞ」
「なんだ?」
魔王が俺を睨む。
蠢く魔力はさすがは魔王、これはヤバいな。
威圧が外れそうだ。
「ナツキ...殺す」
「...ミザリー」
ミザリーまでも立ち上る。
なぜた?剣姫に過ぎないお前まで威圧のスキルを。
「よくも...アイカを」
「なぜなんだ?」
アルトまでも。
コイツはスキルを持たない無能な筈...
『罰...』
「だ、誰だ!!」
突然天井から鳴り響く声。
上を見ると1人の女が俺達を見つめていた。
「「「「...シルコゥ様」」」」
「は?」
アイカ達の言った言葉に1人の女が頭に浮かぶ。
コイツは前回俺達を召喚した女神だ!
「聖女を傷つけましたね、あなたには罰を下します」
「なんだと!!」
シルコゥの言葉と同時に、俺の中から何かが消えて行く。
この感覚は以前に...まさか...
「勇者のスキルを全て奪いました。
これでただの人間...あなた...お前が蔑む無能以下の」
「止めろ!!」
余りの重さに聖剣が手から落ちる。
身体に着けていた鎧の重さに動けない。
「覚悟しろナツキ」
「アイカを貴様は」
「く、来るな!!」
魔王とミザリーが俺に迫る。
拘束のスキルは既に消えていた。
「消え失せよ!!」
「ギャアアア!!」
魔王の手から出た炎が俺を包む。
熱い!!
早く鎧を脱がないと!!
「アイカ助けてくれ!」
アルトにヒールを掛けているアイカに叫ぶ。
早くしないと死んじまう!
しかし...アイカとアルトは、ただ俺を見つめていただけだった。
「死ねナツキ!」
「アアア!!」
ミザリーの持つ聖剣が俺の胸を鎧の上から貫く。
鋭い痛みに...
...俺は死んだ。
「あれ?」
気付けば俺は1人、白い部屋に居た。
どこだろう?
さっきまで、確か高校に...いやどこに居たんだっけ?
「目覚めましたね夏樹」
「貴女は?」
突然現れた1人の女性。
その美しさに息を飲む。
「私はゼン・ザイン。
この世界をも統べる女神の1人」
「女神?
ひょっとして、俺は異世界に召喚されたんですか?」
激しい胸の高鳴り。
こんなの我慢出来ねえ!!
「そうです、魔王アンシルが復活しました。
貴方は異世界を救うのです」
「魔王アンシル?」
何だろう?
さっきなら違和感が治まらない。
俺1人?
魔王アンシル?
女神ゼン・ザイン?
沢山の疑問が頭に渦巻いた。
「行ってくれますね?」
「もちろんです!それでお願いがあるんですが...」
女神に頭を下げる。
勇者のスキルは確定しているだろう。
あとはやっぱりチートスキル。
異世界に行くならハーレムを目指さないと!
「分かりました、そのスキルのみを授けましょう」
願いは叶えられた。
足許が光輝く。
素晴らしい旅になるぜ!
「行きなさいナツキ...3268回目の旅路へと」
消える直前に女神が呟いた。
次、ラストです。




