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悪い奴は誰?  作者: じいちゃんっ子
最終章 異世界帰還篇
36/39

勇者ナツキ~次こそは

「これで今日の訓練を終わる。

 みんな、よく頑張ったな」


 いよいよ出発が迫って来た。

 俺は最後の仕上げをするため、討伐隊の連中に訓練をつけてやった。

 こっちに来た頃は下っ端の兵達にも苦戦した俺だったが、2ヶ月が過ぎた今はどんな奴が相手でも敵ではなくなっていた。


「なんだよ、礼の一つも言えねえのか」


 仰向けのまま激しく息をする1人の男。

 コイツは来たばかりの頃厳しい訓練を課した奴だ。


「起きろ!」


「アガ!」


 髭面の顔を蹴りあげると、情けない声を出しながら転がる。

 足先から伝わる骨の砕ける感触、顎を押さえながら涙を流す奴の姿に溜飲が下がった。


「情けねえな、こんな奴が騎士団長かよ」


 40近いオッサンを痛めるのは実に楽しい。

 いつも偉そうにしてるが、所詮はゴミクズ。

 勇者の俺と一緒に来ても、足手まといになるだけだ。


「おい連れて行け!」


 周りを取り囲む兵に命じる。

 両肩を支えられながら練兵場を出ていく。

 その無様な姿に悪夢の記憶が甦る。


 悪夢の中でも俺は勇者だった。

 命懸けで異世界を救い、魔王を倒したにも関わらず、俺は異世界を追われた。

 元の世界に戻ったが、勇者の力も奪われ、馴染めないまま高校を卒業した。

 フリーターになった俺の最後は、襲った女の恋人だという半グレに殴り殺される悲惨な物だった。


「今度はしくじらないぜ」


 俺だってバカじゃない。

 あれは単なる夢じゃない。

 前回の失敗もふまえ、勇者の持つスキルを最大限鍛えて来たのだ。


 今回新たに分かったのは、勇者のスキルは鍛えれば鍛える程に成長するという事。

 戦闘力だけじゃない、相手に威圧を掛けると相手は何も出来なくなる。

 加えて、剣と魔法も前回と比べ物にならない。


 これで失敗は無い。

 忌まわしいアルトやアイカに邪魔をされる心配は無いのだ。

 今度こそ最後までミザリーを、そして世界中の女を意のままに操れる。


 今回も魔王を殺す気はない。

 俺1人で魔王に瀕死の重傷を負わせ、生かしておくのだ。

 これで悲願のハーレムが完成する。

 そう考えると身体の滾りが治まらない俺だった。


「ミザリーです。勇者様どうか宜しく」


 待ちに待ったミザリーがやって来た。

 夢にまでみた剣姫ミザリー。

 やっぱりコイツは綺麗だ、魅惑的な肉体を散々弄んだ記憶が甦る。


「...アルトは?」


 アイカが呟いた。

 そう言えば姿が見えないな。


「魔王に拐われました...」


「拐われた?」


「そりゃどういう事だ?」


「ここに向かう道中...不覚を取りました」


 憔悴した様子のミザリー。

 せっかくもう一度絶望を味会わせてやりたかったが、まあいい。

 アイカの苦しそうな顔を見れたから良しとしよう。


 アイカとミザリーは何やら頷き会っている。

 そんな光景に胸騒ぎを覚えるが、どうせ何も出来やしない。

 今回もアイカに傀儡は掛からなかったが、ミザリーは別だ。

 俺の強さを見せつければ絶対に...


「勇者ナツキ、これより魔王討伐に向かいます!」


「...うむ」


 ようやく迎えた討伐隊の出発。

 思ったより時間が掛かった。

 何しろ魔王が一向に進攻しないのだ。


 国王が魔王に親書を送り、戦争を避けようとしたのには参った。

 まあ、魔王から勇者達と雌雄を決すると返事が来てホッとしたが。


 だが、討伐隊の人数は大幅に縮小され、たった三人となってしまった。

 ふざけやがって、王妃や娘達を傀儡で抱いたのを根に持ってやがるのか。


 何回か俺を暗殺しようと企んだのは分かってる。

 証拠は掴め無かったが、絶対許さねえからな。

 後で滅ぼしてやる。


 魔王城には難なく着いた。

 記憶にある魔王軍幹部との戦いも無かった。

 なにしろ魔族は俺達の姿を見ると、すんなり道を開けやがるのだ。


 腹が立ったから一匹の幹部を切り捨ててやった。


「なんて事をするの!」


「なんだよ」


 倒した魔族にアイカが駆け寄る。

 どうして怒鳴るんだ?


「魔族は何もしてないじゃない!」


「は?」


 意味が分からねえ。

 コイツらは敵だと理解してねえのか?


「いつ人間を襲う分からん。

 だから殺すに越した事はねえだろ」


「罪の無い者を殺したらこっちが恨まれるわ」


 駄目だコイツ。

 これ以上話す気にもならねえ。

 魔族にヒールを掛け続けるアイカに唾を吐き、俺はその場を後にした。


 ミザリーは俺について来る。

 どうやら傀儡が効き始めたようだ。

 前回と同じでミザリーの持つ剣姫のスキルは強い人間に惹かれるんだ。


「やっぱり傀儡のスキルは最高だぜ」


 笑いが止まらない。

 だが、ミザリーは俺に抱かれ無いのだ。

 それだけは必死で拒みやがる。まだ足りないのか。

 一度、無理矢理抱こうとしたが、舌を噛まれてしまったのだ。


 あれは参った、近くにアイカが居なかったらミザリーは死んでいただろう。

 ...畜生め。


「行きましょうミザリー」


「うん...」


 勇者である俺をさしおいて、先に進むアイカ。

 まあ良い、ここで魔王を倒したら今度こそミザリーは肌を許すだろう。

 ようやくミザリーを抱けるんだ。

 そう確信していた。


「...ここね」


 城内にある大きな扉の前でアイカが立ち止まる。

 何でここなんだ?


「...懐かしい気配...」


「懐かしい?」


 ミザリーが呟いた。

 傀儡を絶え間なく掛けたせいか、最近のミザリーは感情が無くなってしまった。

 久しぶりに聞いたミザリーの声に僅かな人間らしさを感じ、俺の心は高鳴った。


「行くか!」


 ドアを蹴破ると、部屋の中に居たのは二人。

 1人は女で椅子に座っていた。

 もう1人は男、女の隣に立っていた。


「...やっと来たか...」


 そう呟きながら女は立ち上がる。

 一体コイツはなんだ?

 見た目はサキュバスの様だが、どうした事か人間に思えて仕方無い。


「待たせたわね、杏、有人」


「は?」


 アイカは何を言ってるんだ?


「アルト...」


 小さな声でミザリーが呟く。

 あの男がアルトなのか?


「なんだよ、囚われていたかと思ったら魔王と宜しくやっていたのか」


 ふざけた野郎だ。

 さっさと魔王を片付けて、傀儡の仕上げと行くか。


「行くぞ魔王!!」


「待ちなさいナツキ」


「うるさいアイカ!威圧!」


 威圧のスキルを発動させる。

 これでミザリー以外は動けないだろう。

 一気に間合いを詰め、聖剣を魔王の身体に叩き着け...


「させない!!」


「なんだ!?」


 突然の衝撃に身体がブレる。

 聖剣は魔王を掠めて床に大きな傷をつけた。


「何をするミザリー!」


 ミザリーが俺に身体をぶつけたのだ。

 その目は完全に正気な物に戻っていた。


「威圧!!」


「グァ!!」


 もうミザリーに未練は無い。

 世界にはこんな女より俺に相応しいのが溢れている筈だ。

 その前にミザリーに絶望を味合わせてやる。


「貴様がアルトか」


「...そうだ」


 拘束されているにも関わらず、アルトは俺を睨みつける。

 その目は更なる悪夢を呼び覚ました。


「あの時はよくもやってくれたな!!」


 元の世界に居たコイツに俺は散々痛めつけられたんだ。

 手足を砕かれ、目をくり貫かれ!!


 拳を固め、アルトを殴る。

 鼻骨が砕け、顔が忽ち腫れ上がって行く。

 端正なアルトの顔が血に染まり、変形していくが、こんな物じゃ済ませないぜ。


 次はアイカを犯してやる。

 そしてミザリーもだ。

 アルトの目の前で死ぬまで犯して滅茶苦茶にしてやるんだ。


「止めろ...ナツキ」


 必死で立ち上がろうとするアイカ、あれが聖女の力か...

 俺の役に立たねえ聖女なんか要らん!!


「やかましい!!」


「グワッ!!」


 振り返り様、アイカを蹴り上げると、無様な声を上げながら床を転がった。


「貴様...許さぬぞ」


「なんだ?」


 魔王が俺を睨む。

 蠢く魔力はさすがは魔王、これはヤバいな。

 威圧が外れそうだ。


「ナツキ...殺す」


「...ミザリー」


 ミザリーまでも立ち上る。

 なぜた?剣姫に過ぎないお前まで威圧のスキルを。


「よくも...アイカを」


「なぜなんだ?」


 アルトまでも。

 コイツはスキルを持たない無能な筈...


(ペナルティ)...』


「だ、誰だ!!」


 突然天井から鳴り響く声。

 上を見ると1人の女が俺達を見つめていた。


「「「「...シルコゥ様」」」」


「は?」


 アイカ達の言った言葉に1人の女が頭に浮かぶ。

 コイツは前回俺達を召喚した女神だ!


「聖女を傷つけましたね、あなたには(ペナルティ)を下します」


「なんだと!!」


 シルコゥの言葉と同時に、俺の中から何かが消えて行く。

 この感覚は以前に...まさか...


「勇者のスキルを全て奪いました。

 これでただの人間...あなた...お前が蔑む無能以下の」


「止めろ!!」


 余りの重さに聖剣が手から落ちる。

 身体に着けていた鎧の重さに動けない。


「覚悟しろナツキ」


「アイカを貴様は」


「く、来るな!!」


 魔王とミザリーが俺に迫る。

 拘束のスキルは既に消えていた。


「消え失せよ!!」


「ギャアアア!!」


 魔王の手から出た炎が俺を包む。

 熱い!!

 早く鎧を脱がないと!!


「アイカ助けてくれ!」


 アルトにヒールを掛けているアイカに叫ぶ。

 早くしないと死んじまう!


 しかし...アイカとアルトは、ただ俺を見つめていただけだった。


「死ねナツキ!」


「アアア!!」


 ミザリーの持つ聖剣が俺の胸を鎧の上から貫く。

 鋭い痛みに...


 ...俺は死んだ。




「あれ?」


 気付けば俺は1人、白い部屋に居た。

 どこだろう?

 さっきまで、確か高校に...いやどこに居たんだっけ?


「目覚めましたね夏樹」


「貴女は?」


 突然現れた1人の女性。

 その美しさに息を飲む。


「私はゼン・ザイン。

 この世界をも統べる女神の1人」


「女神?

 ひょっとして、俺は異世界に召喚されたんですか?」


 激しい胸の高鳴り。

 こんなの我慢出来ねえ!!


「そうです、魔王アンシルが復活しました。

 貴方は異世界を救うのです」


「魔王アンシル?」


 何だろう?

 さっきなら違和感が治まらない。

 俺1人?

 魔王アンシル?

 女神ゼン・ザイン?

 沢山の疑問が頭に渦巻いた。


「行ってくれますね?」


「もちろんです!それでお願いがあるんですが...」


 女神に頭を下げる。

 勇者のスキルは確定しているだろう。

 あとはやっぱりチートスキル。

 異世界に行くならハーレムを目指さないと!


「分かりました、そのスキル()()()授けましょう」


 願いは叶えられた。

 足許が光輝く。

 素晴らしい旅になるぜ!


「行きなさいナツキ...3268回目の旅路へと」


 消える直前に女神が呟いた。

次、ラストです。

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