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悪い奴は誰?  作者: じいちゃんっ子
最終章 異世界帰還篇
32/39

魔王ツゥ・ブアーン~みんなの為に...

 話し合いから2ヶ月が過ぎた。

 姉ちゃんと愛花から何度も説得され、ようやく私は兄ちゃんの精を吸い取る事に同意したのだが...


「杏、準備は良い?」


「うん」


 深夜の自宅マンションで姉ちゃんが念を押す。

 隣の部屋では兄ちゃんが眠っている。

 今日は愛花と霞も呼んでの夕食会をした。

 愛花は兄ちゃんに睡眠魔法を掛けたので、夕食会の途中に寝てしまったのだ。


「杏、お願いね」


「大丈夫だよ愛花」


 愛花は複雑な顔で私を見た。

 心中穏やかで居られる筈が無い。

 これから私がする事は赦されざる行為なのだから。


「頼む...」


「分かってる霞」


 伏し目の霞。

  その表情は窺い知れない。

 自身の過ちと、これから始まる新たな希望に悩んでいるのだろう。


「愛花、ここから私1人で。

 それと部屋に静寂(サイレント)をお願い」


 兄ちゃんの部屋へ入る前、愛花にお願いをする。

 これから私がする事を見せたり、音も聞かれたくなかった。


「どうして?」


「...お願い」


「分かった」


 頭を下げる。

 困惑した表情の愛花は姉ちゃんと霞を見て、静かに頷いた。


「さてと...」


 魔法が包まれた部屋。

 1人、扉を閉めた。

 これで、室内の音が漏れる心配は無い。

 ...発情した兄ちゃんの声も、一切。


「兄ちゃん...」


 ベッドに眠る兄ちゃんの頬に、そっと触れてから立ち上がった。


「さて、始めるとするかの」


 魔力を全身に(たぎ)らせ、上着を脱ぎ、下着姿になる。

 露出が多い程、全身から発するフェロモンも大量に発散されるのだ。


 (たちま)ち薄い霧が部屋を包む。

 自分で分かる濃密な臭い、これを嗅いだ男は皆、例外無く発情する。

 そして獣と化すのだ、一匹の性獣に...


「すまぬ」


 ベッドに眠るアルト、器を手に、ある部位へ手を伸ばす。

 直接は触れない。

 ただ、精を吐き出させる位なら...


「...秘術が効いておらぬのか?」


 予想外の事態だ。

 アルトの身体に全くの異変が無い。

 これでは精を出させる事が出来ない。


「やむを得ぬ」


 意を決し、直接触れるべく手を伸ばす。

 ここで止めるのは簡単だが、それは出来ない。

 これは私が出来る最後の恩返しなのだ。

 大好きな愛花達に残す、たった一回、最後の...


「...止めろツゥ・ブアーン...」


「え!?」


 突然右手を握られる。

 驚く妾をアルトが見つめていた。


「起きておったのか?」


「ああ、お前の気配でな」


 どうしてじゃ?

 愛花の睡眠魔法は決して解く事は出来ぬ筈。

 異世界でも、妾以外には絶対の効果があったのに。


「一体なぜ?」


「何年一緒だったと思っているんだ?

 最近は魔力耐性もお前と同じになったみたいだ」


「そうなのか」


 妾の魔力は復活して来たのは分かっていたが、アルトと魂が一体化していた150年の間に、そんな事が起きていたとは...


「まさか、愛花達の世界に来ていたなんて」


「なんじゃと?」


 意外な言葉に息を飲む。

 まさかアルトは有人の記憶を?


「この前からな。

 愛花とシルコゥ様に会ってから、有人の記憶が流れて来た」


「そうだったのか」


 秘薬を飲まされ、有人の中に眠るアルトが呼び覚まされた。

 そんな事になってしまったのか。


「お前...死ぬ気だな」


「どうしてそれを?」


 静かなアルトの言葉。

 決して覚られない様に心を隠していた筈だ。


「言ったろ、お前と一体化していたんだ。

 魔王に戻っている今は尚更だよ」


「アルト...」


 考えている事が全てアルトの心に繋がっている。

 つまり、今までの経緯も全て...

 妾が魔王として復活しようとしている事も。

 そうなってしまったら、この世界は破滅していまう事も全部....


「俺達はこの世界に来ては行けなかったんだ」


「そんな事は無い!」


「ツゥ・ブアーン...」


「そんな事無い!

 この世界で過ごした3年は掛け替えの無い、素晴らしい時間だったじゃないか!

 だから...だから...」


 それだけは言って欲しく無かった。

 夢の様な楽しい日々、これを否定する事だけは聞きたくない。


「すまない...」


「いや」


 アルトは静かに頭を下げた。


「それしか方法が無いのか?」


「妾が...この世界から消えるしか無い」


 アルトの精を器に取り、そのままこの世界を去る。

 それで世界は救われるのだ。

 それが妾の願いだった。


「暗黒世界に帰るのか?」


「うん...」


「俺も連れて行ってくれ...」


「何を言うの兄ちゃん!?」


 サキュバスの魔力が解け、杏に戻っていた。


「このままじゃ、誰も幸せにならない。

 霞...ミザリーは例え子を持っても、罪の意識に苦しみ続けるよ。

 愛花も、女神様もだ」


「そんな事は」


「無いと言いきれるか?」


「分からないよ...未来なんて...」


 未来は分からない。

 今こうしている事が奇跡の積み重ねなんだ。

 悪いのは魔王だった、私1人。

 だから消えるんだ...


「誰も悪くない、ただお前は魔王としての運命に従っただけだ。

 愛花達はお前を倒し、俺はお前と共に倒れた。

 それだけなんだ」


「兄ちゃん...」


「違うよ、俺はアルトだ」


「うん、アルトだね」


 説得は出来ない。

 アルトの瞳はそう言っていた。


「私の手を」


「分かった」


 差し出されたアルトの両手を握りしめる。

 残された魔力を一気に循環させた。


「ごめんね」


「いいよ」


 最後にもう一度だけ、みんなに会いたかった。

 本当は全てを消し去り、何もない...

 幸せを掴みたかった。


 目の前が霞んで来る。

 どうやら消えるんだ...この世界から...私達が...


「杏!どうして!!」


 最後に愛花の声が聞こえた。



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― 新着の感想 ―
[一言] アルトの事だけを想うヒロインは一人もいないし、二択の天秤で誰もアルトを選ばない時点で四人の誰かと結ばれる必要性を感じない ミザリーのアルトへの想いを認めてるヒロイン達は、好きな人がいても他の…
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