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悪い奴は誰?  作者: じいちゃんっ子
第5章 帰る前に・愛花の苦悩編
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ミザリー、アルトへの想い

「ミザリー、話があるの」


「どうしたの一体?」


 霞は私がミザリーと呼んだ事に驚いている。

 これからする話は岬霞としてでは無い。

 剣姫ミザリーと聖女アイカとして話さなければならないのだ。


「アルトの事なんだけど」


「.......」


 ミザリーの目から光が失われる。

 激しい動揺と苦悩、そして悔恨が見て取れた。


「いいかな?」


「...ええ」


 小さな肩を震わせるミザリー。

 こんな話はしたくない。

 でもミザリーは限界なんだ、岬霞として有人の傍で生きる時間は彼女を蝕んでいるのだから。


「シルコゥはアルトと話をしたの」


「シルコゥ...女神様が?」


「そうよ、鶴野雫としてでは無く女神シルコゥとして」


「そんな、一体どうやって?」


「秘薬で有人の中からアルトの記憶を呼び覚まして」


「...アルト」


 ミザリーの目に涙が浮かぶ。

 話たいだろう。

 一言でも良い、心から詫びて死にたいのが彼女の希望...そんな事はさせられない。


「シルコゥはアルトに真実を告げたの。

『ミザリーを赦せますか?』って。

 アルトは『赦せるかもしれません』と」


「真実...まさか?」


「傀儡のスキルで貴女が操られていた事。

 そして激しい後悔から死のうとした事をね」


「どうして!

 そんな事を私は望んでなかった!

 アルトを苦しめて何がしたいの!?」


 ミザリーは立ち上がり私の胸ぐらを掴む。

 凄まじい力、普通の人間なら首の骨を砕きかねない。

 でも先に身体強化をしていた私には全く効かない。


「ミザリー、貴女を失いたくないからに決まっているからでしょ!

 私だけじゃない、シルコゥも同じなのよ!」


「なぜ?どうして私なんかに...」


 掴んでいた腕を離す。

 ミザリーは力無く、椅子に崩れ落ちた。


「シルコゥは自分の過ち。

 クズに与えたスキルが恋人だった二人を裂いてしまった後悔に。

 そして私は婚約者のミザリーがいるにもかかわらずアルトを愛してしまったからよ」


「アイカ?」


「私はそんな聖人じゃない、ただの1人の人間よ。

 異世界に飛ばされ不安で仕方なかった。

 魔王を倒す?

 失敗したら元の生活に戻れないのよ?

 でも向こうの人々を救わないといけない、そんな日々を送る私は縋りつける人が欲しかった...」


「...それがアルトだったの?」


「最低よね。

 ミザリーの事を姉の様に慕っていながら、裏ではアルトと恋人になれたらって、そんな妄想ばかり」


「そんなアイカは私と違って...」


 裏切ったりしなかった、そう言いたいのだろう。

 でも違うんだ。


「あの時、嬉しかった...」


「嬉しい...まさか?」


 ミザリーの目が光る。

 何がか分かったのだろう。


「ミザリーが勇者と引っ付いて、これでアルトは私の物に...最低だ。

 ミザリーが操られていたとも知らずに」


 胸が痛い、心が引き裂かれそう。

 ミザリーは私を静かな目で何も言わず見つめていた。


「...アルトは何って言ってた?」


「何を?」


「言ったんでしょ?

 傀儡は勇者に恋慕の気持ちを持たない限りは掛からないって」


「ミザリー...」


「教えて、お願い」


「分かった」


 大きく息を吸いこんでミザリーを見る。

 伝えるよ、アルトの気持ちを。


「自分が弱いから仕方なかった。

 ミザリーを守れるのは勇者だからと」


「...馬鹿」


 ミザリーの目から涙が溢れる。

 絶える事無く、滝の様に。


「アルトの口癖だったの。

 ミザリー、俺が守ってやるって」


「そうなの?」


「嬉しかった。

 アルトは私を守って、必死に強くなってくれた。

 そんな幸せをどうして私は...」


 ミザリーはテーブルに突っ伏し泣きじゃくる。

 慟哭、ミザリーの悲鳴に似た鳴き声はしばらく止まなかった。


「...アイカ...アルトと幸せにね」


 しばらくしてミザリーが呟く。

 その顔は異世界でアルトが死に、全ての希望を失って死のうとしたミザリーを思い出させた。


「ふざけないで!」


「アイカ...」


「私だけ幸せになるならこんな話はしないわ!

 一緒じゃなきゃ嫌なの!

 貴女だけじゃない、魔王も、女神もみんな幸せになれなきゃ意味が無いのよ!!」


 視界が歪み、頬が熱い。

 私の目から涙が溢れていた。


「もうミザリーは限界なのよ!

 アルトへの気持ちを抑えられなくなってるのは自分で分かっているでしょ!」


「...うん」


「杏もそう。

 アルトと結ばれたい、サキュバスの本能を抑えこみながら苦しんでいるの」


「魔...杏も?」


「ええ」


 女神もそうだろうが割愛しよう、ごめん。


「どうしたら?」


「ミザ...霞...」


「どうしたらいいの?

 私はどうしてこれから生きて行くの?

 アルトはアイカ、貴女が好きなのよ?

 私は絶対に結ばれ無い。

 こんな地獄みたいな生活嫌なのに。

 でも死にたくない、ずっと一緒に居たいの!」



 ミザリーは血の出るような叫び声を上げる。

 私は決意を込めミザリーの手を握った。


「ミザリー...アルトの子供欲しく無い?」


「は?」


「アルト...有人の子供をこの世界で欲しく無いかって聞いたの」


「アイカ、貴女何を?」


「シルコゥと私は話合ったの。

 アルトの子供を私と霞、そして杏が産むのよ」


 雫も一緒だろうが、今は...ゴメン。


「でもどうやって?

 私アルトにそんな...」


 霞は真っ赤な顔。

 抱かれた想像をしたのだろう。

 でもダメ。


「私が...有人と...それ以上は言えない」


「へ?」


「大丈夫、ちゃんと霞の子供だから」


 分からないだろうが、これ以上は言いたくない。


「どうする?」


「ありがとう」


「...霞」


「ありがとう愛花、充分よ!

 私有人の子供が欲しい!!」


 霞は私にしがみつく。

 これが最善か分からない。

 でも霞の笑顔に、今はそれで良いと思う事にした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 泣くなミザリー。姉妹のように心配してくれる恋敵がいるじゃないか。
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