雫は悩み続ける。
「まだまだね」
深夜、1人リビングで手に集めた魔力を確認してタメ息。
こんな魔力では思った通りに行かないのは明確。
やはりこの身体では魔力の回復は儘ならない。
所詮は人間の身体、女神である私の器には弱すぎる。
「このままって訳にはいかない」
焦りが募る。
この調子ではギリギリになってしまうかもしれない、アルト達が亡くなるまでの時間と、私の魔力回復のタイミングが。
今アルト達は幸せな生活を送っている。
愛花達は大学生に、私も教師を辞め、皆が通う大学講師の職を得た。
アルトを中心とする私達、なんて充足された日々なんだろう。
しかし始まりがあれば、終わりもある。
気づけばこの世界に転移して3年ちょっと、人の一生は長くて100年。
アルト達が亡くなるまで後70年位か、女神の私からすれば一瞬の光、まばたきの様な物。
これ程悩むなんて、私らしくない。
元の世界では全てを司っていた私からしてみれば愛花や霞、杏の事など取るに足らない事なのに。
『何とかしたい』
私達が死んだ後、愛花の魂はこの世界に残る。
これは決定事項。
そしてまた生まれ変わるのだ、この世界で新しい人間として。
問題はアルト、霞そして...
「杏よね」
アルト達が死んだら3人の魂を持って異世界に戻り、時間を巻き戻す。
魔王は強い。
特にツゥ・ブアーンは私の知る魔王の中でも規格外、現地の人々だけでは倒せない。
だから前回、異世界から愛花と...
「誰だったかな?」
とにかく勇者と聖女を召喚しなくては勝てないと踏んだのだ。
結果、私は失敗した。
魔王討伐では無い、勇者の選択にだ。
何も考えて無かった訳では無い。
しかし私は勇者に傀儡のスキルを与えてしまい、ミザリーはアルトを裏切る結果を招いてしまった。
考えているのはツゥ・ブアーンが倒された直後に時間を戻す事。
「一か八かだけどね」
魔王が倒されたら、その時点より前に時間を戻す事は出来ない。
魔王とは世界を変える存在。
女神の私が出来るのは神託を与え、人が滅ぼされるのを防ぐ手助けをする事。
私がやろうとしているのは魔王ツゥ・ブアーンが倒された直後に3つ魂をこの世界の物と入れ換える事。
一つの世界に二つの魂は存在出来ない。
倒されたツゥブアーンとアルト。
そしてミザリーの魂は消滅し、杏と有人、霞の魂と入れ替わるだろう。
「暗黒世界から杏と有人、同時に救いだす」
前回は見つけるのに手間取ったが、次回は直ぐに見つける事が出来る筈。
2人の魂は私にとって掛け替えの無い大切な物なのだから。
うまく出来るかは分からない。
だけどやるしかないのだ。
「そして杏の転生だ....」
だだの転生では無い、人間に転生させる。
魔物から人間への転生。
それは禁忌、神への冒涜。
私は女神の力を奪われて上級神に天界で幽閉されるだろう。
何年か?100年位?
いや1000年は覚悟した方がいいわね。
でもやる。
それが私の出来る償いなんだから。
「...霞」
上手く生まれ変わったら、アルトの傍にツゥ・ブアーンも居るよ。
ミザリー頑張ってね。
3人の行く末をこの目で見れないのは残念だけど。
「...せめて有人の子供を」
馬鹿な事を口走る。
しかし最近は抑えられなくなってきた。
この世界に私が居た、そして恋をして、子供を残した。そんな証しが欲しい。
「...シルコゥ様」
不意に扉が開き、思い詰めた1人の女性が部屋に入って来た。
「霞、どうしたの?」
スウェットの上下に身を包んだ霞。
こんな夜更け(午前2時)に危ないじゃない。
まあ彼女なら大丈夫か、元剣姫だし。
「お願いがあります」
「お願い?」
真剣な眼差し、これは真摯に聞かなくては。
何しろ杏と愛花に続いてだ。
「...はい」
霞は俯いて、呼吸を整えている。
一体何を言うつもりなの?
「...胸」
「胸?」
胸とは何だ?胸が苦しいのか?悩みが深そうだ。
「胸を大きくして下さい....」
「は?」
真っ赤な顔の霞。
その訳を聞いて心が解れて行くのを感じる私だった。
霞の願い?
もちろん断りました。
そんな事に貴重な魔力は使えませんから。
愛花に頼みなさい。




