霞は考える。
日課としている朝の素振りを終え、シャワーを浴びる。
ろくに筋肉が無かったこの体も1年が過ぎた今、ようやく様になってきた。
鏡に映る自分の姿。
瑞々しい肌、少し垂れた瞳...小振りな乳房。
「もう少しどうにかならないのか?」
自然と溜め息が出る。
向こうではこの倍は有ったのに、あらゆる努力を重ねたが成長の兆しすらみせない。
「私は何を考えてる...」
馬鹿な事を、誰に見せる訳でも無いのに。
洗面所に水を貯め、頭から突っ込む。
冷たい水で煩悩を振り払おうとしたが無駄だった。
「おはよう愛花」
「おはよう霞」
駅でいつもの時間に待ち合わせ、ここで私達は人を待つ。
最愛の人、決して叶わない、自らの過ちで殺してしまったあの人を。
「どうしたの?」
「いや別に」
私の視線に愛花が首を傾げる。
いかん、どこをを見ているんだ?
「おはよう愛花、岬さん」
「おはよう愛花ちゃん、霞ちゃん!」
改札の向こうから聞こえる声、愛しいあの人の声。
「おはよう有人、杏ちゃん」
愛花は弾ける様に有人へ駆け出し、素早く有人に腕を絡ませた。
杏は仕方ないといった顔で愛花を見ている。
嫉妬をしてはいけない、だが胸に冷たい物を感じてしまう。
「霞、どうしたの?」
「なんでもない、おはよう杏、有人」
笑おうとするが笑顔が歪む、上手く笑えない。
100年以上も魂が引っ付いていたのに。杏は嫉妬しないのか?
「ほら、私達も行こ!」
先を歩く有人と愛花に続き、杏は私の腕に自分の腕を絡ませる。
そんな事をして欲しい訳では...
「......」
杏の豊かな胸が私の肘に埋まる。
一体何だ、この気持ちは?
「いよいよ来年卒業か~」
愛花が呟く。
私達は高校3年、後半年で高校を出なくてはいけない。
この世界に来て約1年半、なんて短いんだ。
「でも一緒の大学に行くもんね」
杏は嬉しそうに笑う。
私と杏は有人と愛花の大学に行く事が決まっている。
まだ試験をしてないが鶴野雫が何とかしてくれるそうだ。
些かズルをしている気がする。
「高校教師の雫ともお別れだね」
そう言う愛花だが、雫がそうそう有人を諦めるだうか?
「愛花、実はね...」
有人が言いにくそうに口ごもる。
「何?まさか...」
立ち止まる愛花、私の足も止まった。
「お姉ちゃん私達の大学の講師になるって」
「は?」
「へ?」
私と愛花は呆気に取られる。
そりゃ、なろうと思えばなれるだろうけど。
「まあ、仕方ないよね」
あっさり愛花は受け入れたな、複雑な気持ちだろうに。
「霞もね」
「うん?」
何故だ?私は受け入れてるぞ?
「こうして電車通学を許してくれたんだし」
「そうだな」
そう、今こうして幸せな時間を過ごせてるのは雫のお陰だ。
それ以上望むのは贅沢な筈...贅沢な....
「霞ちゃん」
「何だ?」
「我慢しないで!」
「わ!?」
杏は私を抱き締める。
暖かい杏の身体に優しさが伝わる、杏は元魔王なのに。
それにしても杏の胸が、
「何なら妾の秘術を...」
「秘術?」
何だそれは?
それに杏のこの気、どこかで感じた事が、
「杏!」
「すまん愛花、冗談じゃ」
愛花の一喝に杏は私を離して笑った。
一体何なのだ?
「もう、霞は私の物なんだから」
「うわ!」
今度は愛花か、一体何なのだ!
私は誰の物でもないぞ!
誰の物でも....
有人の物だったのに...
本当はアルトの腕を私も取りたいのに...
「ごめんねミザリー」
「...愛花」
愛花は小さく魔力を込め呟く、有人に聞こえない為に。
杏は気づいて有人の腕を取り、少し離れてくれた。
「いいよアイカ」
「...ミザリー」
「その気持ちだけで十分だから」
「ありがとう、でも無理しないでね」
アイカは更に強く私を抱き締め...
胸が愛花、胸!!
「ごめんなさい」
窒息寸前だった。
今度雫に胸の事を相談してみよう、これ位は許されるかな?
そう考えられる自分が少し嬉しかった。




