表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪い奴は誰?  作者: じいちゃんっ子
プロローグ・異世界編
2/39

聖女・アイカ

「ハナセ...」


「駄目だ、お前だけは始末する。人類の為、聖女の為にな」


 意識を取り戻した私が目にしたのは、死を間近にしたアルトさんが魔王に組み付いている姿だった。


(あの魔法は?)


 私はアルトさんが使おうとしている魔法を鑑定する。


「死滅魔法?」


 自らの命を生け贄に、相手の魂を奪い去る究極の暗黒魔法。

 その魂は2度とこの世界に甦る事は無い。

 永遠に魂は救済されず、暗黒の世界を彷徨い続けるのだ。


「アルト止めて!!」


 私は叫んだ。

 アルトが普通に死んだだけなら女神に頼んで、この世界に新しく転生させて貰えば良い。

 私との記憶は失われるが新しく人生をやり直せるのだから。

 しかし暗黒世界は女神すら簡単に手の出せない場所と聞いていた。


「アイカありがとう、君がいたから俺は最後まで戦えたよ...」


 絶望する私にアルトさんは優しく微笑んだ。

 次の瞬間魔王の断末魔の叫び声が辺りに響く。

 耳を塞ぎ、頭を下に向ける。

 叫び声が収まり顔を上げる私が見たものは、

 消滅した魔王と愛する人(・・・・)の崩れ落ちる瞬間だった。


「アルト!!」


 アルトを抱き起こすが、もう息は無かった。


「え?」


 次の瞬間私の体を光りが包み込む。

 すぐに光を鑑定をした。


「これは召還魔法?」


 どうやら私は元の世界に召還されようとしている。


「まだダメ!!」


 レジストの魔法を唱えた。

 これで数時間はこの世界に居られる。


「...どうしてよ!?」


 それから蘇生魔法から治癒魔法まで知りうる全ての魔法を施すがアルトは息をする事も、心臓も再び動く事は無かった。

 アルトの魂は暗黒世界に落ちたのだろう。


「アルト...」


 息絶えたアルトを抱き締め泣き続けた。

 脳裏に、この世界へ召喚されてからの出来事が浮かんで来た。


「世界を救って下さい」


 高校の文化祭の準備をしていた私、川上愛花と笠井夏樹は気がつくと1人の美しい女性にいきなり言われた。


「いや、私は...」


「やります!俺やります!」


 断ろうとする私の隣で夏樹は大喜びで叫んだ。


「チート、チートスキルを下さい!」


 相変わらずの大声で叫ぶ夏樹を無視して女性に尋ねた。


「あなたは?」


「私は女神シルコゥ」


「女神?」


「転移や召喚には神様や女神は当たり前だろ?」


 夏樹は無視だ。


「その女神が何故私を?」


「世界が滅びそうだからです。

 今からあなた達は私の神託によって王国から召還された異世界に行きますが、その前に事情を聞いて欲しいのです」


「魔王でしょ?魔王が復活したんでしょ?」


 本当に夏樹は煩い。


「その世界の人達だけで何とかならないんですか?」


「残念ですが、スキルが足りません」


「だから異世界の俺達にチートスキルをくれるんですよね?」


 こいつ(夏樹)本当、大概にしろよ。


「分かりました、それで帰る方法は?」


「やっていただけますか?」


「帰る方法を聞いてからです」


「あなたは現実的ですね」


「死にたくありませんから」


 少し呆れた態度の女神だが当たり前でしょ?

 いきなり異世界だ魔王だと言われて、

『ハイ行きます』と言える訳がない。


 隣で騒ぐバカ以外は。


「帰る方法、それは2つ。

 1つは魔王を倒す事。

 もう1つはあなた達の魂だけを元の世界に戻す事です」


「は?」


 1つ目の魔王を倒す事は分かる。

 ミッションコンプリートだしね。

 2つ目は何故魂だけなんだ?


「言いたい事は分かります。

 1つ目なら魔王倒して体も時間も元通りです」


「2つ目の魂だけとは?」


「魔王に倒されたり不慮に死んだら魂だけを救い出し元の世界に転生か転移させる事です」


「その場合私の体は?」


「この世界の土に還ります」


 冗談じゃない実質上の死ではないか!

 つまり魔王を倒すの1択しかない。

 断ろうとする私の足元が光り輝いた。


「な、何故?」


 振り向くとバカ(夏樹)が女神と契約のサインをしていた。

 私の分まで...


「夏樹!!」


「いいじゃん俺、愛花となら頑張れそうなんだ!!」


「私の意思を無視して何が頑張れるだ!!」


 絶叫する私と夏樹は光りに包まれて、気がつくと宮殿の1室で倒れていた。


「どうかこの世界をお助け下さい」


 私達は一際大きな部屋に案内され、

 王様と名乗る威厳ある老齢の男性が頭を下げた。


「わ、分かりました!」


「畏まりました王よ!」


 私は慌てて了解した。

 もう既に私達は女神と契約をして2つのスキルを貰い後戻りは出来なかった。


 私のスキルは全ての魔法や相手のスキルの効果が見られる事。

 もう1つはあらゆる魔法を勉強すれば使える様になる事だった。


 王宮で魔法の勉強を始めた。

 何しろ私の居た世界には魔法が無いので勉強は本当に大変だった。


 それでも頑張る事が出来たのは魔王討伐の為に作られた勇者パーティーの仲間、特にアルトさんに一目惚れしたからだった。


 アルトさんは魔法が使えなかった。

 しかも剣士なのに剣技のスキルも無い、にもかかわらず王国の最高剣士を務めていた。

 更に優しくハンサム、背も高く正に世の女性にとっては理想の王子様だった。


 しかしアルトさんにはミザリーさんと言う本当に美しい婚約者が居た。

 ミザリーさんも勇者パーティーの一員で『剣姫』と言う大変珍しいスキルを持っていた。


『剣姫』は剣の実力が5倍になる上、相手の急所を必ず攻撃出来るというスキルだった。

 ミザリーさんとアルトさんはいつも稽古をしていて本当に幸そうだった。


 ミザリーさんは1歳下の私を妹の様に可愛がってくれた。

 私も優しく美しいミザリーさんが大好きになり本当にお世話になった。


「いいね、あの女」


 アルトさんとミザリーさんの稽古を見ていた笠井夏樹こと勇者ナツキがイヤらしい顔で呟いた。

 笠井夏樹は私と同じ高校の同級生、単なる普通のクラスメートだ。

 性格も成績も普通で特に特徴も無い高校生だった。(私も同じ様な物だが)


 ナツキのスキル。

 1つは『勇者』

 これは夏樹が女神に頼み込んで貰った物で、何の努力も無しで最高の剣の腕と簡単な攻撃魔法が使えるという異世界の人間しか手に出来ないスキルだった。


 もう1つのスキルは分からなかった。

 ナツキは一切言おうとしなかった。

 私だけじゃなく異世界の誰にも。

 それは私の力を持ってしても見破る事が出来なかった。


「何のスキルを貰ったの?」


 1度だけナツキに尋ねた。


「お前は俺に何も感じないのか?」


 ナツキは悔しそうに私に聞いた。


「別に?」


「畜生ハズレスキルだ!」


 ナツキはそう吐き捨て、説明しなかった。

 王宮で半年間の修業が終わり、勇者パーティーは魔王討伐の旅に出た。


 ナツキの勇者スキルとアルトさんやミザリーさんの活躍で魔王軍は敗走に次ぐ敗走。


 私達は忽ち救世主に祀られてしまい、私も傷ついた人々に治癒魔法や蘇生魔法を施している内に川上愛花から聖女アイカにされてしまった。


 ある日、旅に出て数ヵ月が経った頃それは起きてしまった。


「アルト、婚約を解消しましょう」


 ミザリーさんはナツキに肩を抱かれ食堂に現れた。


「ミザリーお前は何を?」


 唖然とするアルトさんの前でナツキとミザリーさんはキスをした。

 それは情熱的で見ている私が恥ずかしくなる程だった。


「勇者様これは一体...?」


 アルトさんは何とか声を絞り出す。

 とても辛そうで見ていられない。


「ナツキ、あなた何馬鹿な事を!」


 私はナツキに噛みついた。


「分かんねえのか?

 ミザリーはお前より強い俺に乗り換えたんだよ!」


「ええ」


 ナツキの言葉にミザリーさんは益々体を擦り寄せ再びキスをした。

 信じられない、あれだけアルトを愛していたミザリーさんが裏切るなんて。


「分かった...勇者様ミザリーを頼みます」


「当たり前だろ!お前より俺が強いんだからよ」


 アルトさんは寂しそうに立ち上がり、食堂を後にした。

 私は慌ててアルトさんの後を追う。


「アルトさん!」


「アイカ様、来ないでくれ!」


 近づく私をアルトさんは大声で制した。


「すまない、少し時間を下さい」


 そう呟くアルトさんの背中が震えていた。


「仕方無いですね...」


 数分後アルトさんは力無く私の横に座り呟く。


「仕方無い?」


「私より勇者様の方が強いですから。

 魔王を倒すには勇者様の力が必要です、ミザリーを守る為にも...」


「...アルトさん」


 無理やり自分を納得させる様に話すアルトさん。

 そんな無理しないで、


「すみませんお見苦しい所を、アイカ様はこの世界を救う為に来られたのに些細な事で」


「些細じゃない!」


「アイカさん?」


「愛する人を奪われるって些細な事じゃないよ、無理しないで!

 私はあなたが好き!でも私はこの世界の人間じゃないからあなたとは結ばれない!

 でもあなたが好きなの!」


 アルトさんに大声で叫んでいた。

 この世界に来て初めて自分の気持ちをアルトにぶつけたのだ。


「...その言葉だけでも充分です。

 アイカさん、ありがとうございます」


 アルトは優しく微笑み1人宿に戻った。


 翌日からアルトと私は心で結ばれた。

 だが私達は体の関係どころかキスすらしなかった。

 いつか来る別れが辛くなるから。


 逆にナツキとミザリーは毎晩の様に盛り始めた。

 これには私達も参った。

 特に処女の私には刺激が強く、何度鼻血を出した事か。


 その度にアルトは私の鼻血を止める為に色々してくれた。

 もうアルトはミザリーの事は諦めていた。


 そして1年数ヵ月、魔物達との戦いを経て今日魔王と私達は最終決戦に挑んだ。


「...幸せな旅だったよ。ありがとうアルト」


 冷たくなったアルトの髪を撫でながら呟く。

 もうアルトの体は硬くなり始めていた。


 周りの光りは益々強く輝く。

 そろそろレジストの効果も消えるのだろう。


「あと1時間位かな」


 ずっと笑い続けていた。

 助ける事が出来ないと分かってから私はアルトが好きだと言った笑顔を見せながら異世界を去りたかったからだ。


 涙が溢れ落ち、アルトの顔は濡れていた。

 頑張ってこの世界から消えるまで笑い続けるつもりだった。

 しかし私の望みは打ち砕かれた。


「アルト...」


 声に振り返ると、虚ろな目で私に近づく血だらけのミザリーがいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ