高校2年 鶴野杏
「杏ちゃんまた行くの?」
「うん、ごめんね!」
昼休み、お弁当を持って教室を出ていく。
高校に入って早1ヶ月、本当は休み時間ごとに行きたいけど、クラスに早く馴染める為に我慢している。
「兄ちゃん...」
廊下を走りながら兄ちゃんのいる教室に急ぐ。
『私は兄ちゃんが大好き、死ぬほど好き』
それには理由が有る。
話すと頭がおかしいと思われるので決して言わない。
私は前世の記憶が少しある。
姉さん(女神)達には内緒にしている。
...異世界で婬魔、サキュバスとして生きていた記憶。
弱いサキュバスは仲間の魔族から輪姦され、あるときは人間を襲う囮として、街中に放り込まれ人間からも輪姦された。
便利な道具、性の捌け口。
絶望していたある日、私は突然覚醒した。
凄まじい魔力が沸き上がり周囲の生き物全てを殺した。
その強さに魔族は忠誠を私に誓い、たちまち魔王となった。
『復讐だ!全ての魔族に、いや人間もだ。
この世の全ての生き物を殺してやる!!』
情けなど持たなかった。
目に入る生き物全て、女子供も容赦なく殺した。
殺す事が私の存在意義だった。
世界を絶望のどん底に叩き落とした私だった。
そんなある日人間共が異世界から勇者と聖女を召喚したと聞いた。
『異世界人か』
私の心は激しく動揺した。
『私を殺してくれるかもしれない』
殺戮の日々に飽きていたのだ。
『あいつか...』
現れた勇者は強かった。
だが同行していた聖女や剣士の方が強い。
私は聖女の魔法にやられ死を覚悟した。
『まあ良い、これで死ねる』
そう思った時予想外の事が起きた。
1人の女が仲間の男を刺したのだ。
『意味が分からない、私を殺すのが目的の筈なのに何故だ?』
混乱していると刺された男が私にすがり付いた。
『...ハナセ』
男に言った。
助けて欲しかった訳では無い、ただ理由が知りたかった。
次の瞬間私は男の魔法で倒された。
暗黒世界に落ちた私と男の魂は1つになったが幸せだった。
初めて感じた安らぎは永久に続く筈だった。
何しろ暗黒世界の魂は永遠に消えないのだから。
しかし女神によって生き返った。
私は記憶が残っているのを隠蔽し(これくらいは出来た)新しい世界で生きる事にした。
理由など無い、ただ楽しそうに感じたからだ。
予感は当たった。
男と、いや兄ちゃんと過ごす日常は楽しい、
日常だけでは無い、見るもの全てが楽しいのだ。
意外だったのは聖女や剣姫もこの世界に居た事だ。
この体は長い時間を生きられない、死んだらまた兄ちゃんを独占出来る。
だから焦らず、楽しくこの世界を過ごそう。
そう思ったのだが....
「兄ちゃん、お待たせ!」
お弁当を一緒に食べようと教室の扉を開ける。
「杏、そんなに急がなくても大丈夫だよ」
優しい兄ちゃん笑顔に癒される。
「さあ座って」
川上愛花が私の席を用意してくれる。
この女が聖女だ。
私の魔法は封印されているが魔力は感知出来る。
「ありがとう、霞さん失礼します」
「ああ」
隣にいる岬霞に軽く挨拶すると言葉少なく返事が返ってきた。
こいつは、異世界で兄ちゃんを刺した奴だ。
姿は全く違うが漂う魂の雰囲気が同じたから間違いない。
何故聖女が兄ちゃんの仇と一緒に居るのか分からない。
でもそんな事より...
「何でいつも姉さんが、居るの?」
「固いこと言わないの、担任だもん」
あっけらかんと言い放つ鶴野雫、いや女神シルコゥ。
あんたは女神だろ?
明らかに恋慕の色が見えるぞ!
人間に恋慕する女神なんか聞いた事無い。
聖女に女神、兄ちゃんを狙う奴はただ者じゃないな。
勇者?
あんな奴はゴミだ。
無視無視。




