高校2年 岬 霞
鶴野雫に続いて入って来た1人の少年に私の視線は釘付けになる。
転移した私はオーラを感じる事は殆ど出来ないが少年の放っているオーラは間違いなくアルトの物だった。
「初めまして鶴野有人です!これから宜しくお願いします!」
少年は元気な声で挨拶する。
その声は全くアルトの声とは違う。
しかし私は確かにアルトを感じた。
(アルト!アルトが生きている!)
感激で私の心が感動に打ち震えてると周りの女どもが騒ぎ立てる。
『殺してやろうか』
とてつもない怒りがこみ上げる。
むこうに居た時からアルトは女性達の羨望の的だった。
私はアルトに群がる虫共を打ち払い幼馴染みから恋人になり将来を誓いあったのだ。
(そんなアルトを私は裏切った...)
今の私にアルトの恋人を名乗る資格は無い。
例え傀儡のスキルで操られていたとはいえ、間違いなく私は裏切ったのだ。
操られる前にナツキに感じた恋慕の情、今となったら悪夢でしかないが確かに抱いてしまったのだ。
唇を、体を許した穢れた記憶は私から決して消し去る事は出来ない。
絶望に歪んだアルトの顔が脇腹を貫いた時のアルトの顔が脳裏に浮かんだ。
私は前を横切るアルトを横目で見つめる。
凛々しかった面影は無い。しかしアルトだ!
すぐ目の前にアルトが!
「鶴野有人です。宜しく」
「か、川上愛花です・・・」
叫び出したい衝動を押さえていると後ろの席に座ったアルトと愛花の声が聞こえる。
記憶が殆ど無いアルトとの再会、愛花にとって残酷な気がする。
「アイカ・・・」
「あ、え?アイカって・・・」
え?今の声はアルト?
間違いない今の発音は愛花じゃないアイカだった。
記憶の残滓が言わせたのだろう。
感動に声を震わせるアイカの声も聞こえる。
「残酷だな・・・」
私は涙を必死に堪えながら唇を噛み締める。
口に血の味が広がる。
血が垂れないように口をハンカチで押さえながら必死に堪え続けるのだった。