高校2年 笠井夏樹
元勇者ナツキこと笠井夏樹は憔悴していた。
「何故だ・・・」
俺の呟きは誰の耳にも届かず教室の喧騒に虚しく消える。
召還され再び元の世界に戻ってから1ヶ月、俺は数々の違和感に苛まれていた。
戻って来た翌日、早速クラスの女達を傀儡のスキルで操る為に先ずは恋慕を俺に抱かせよう、勇者のスキルで力を誇示する事を考えた。
そして手始めに学校の不良グループを校舎裏に呼び出し殴り込んだ。
・・・俺の勇者のスキルは発動しなかった。
半殺しの目にあい俺は校舎裏に投げ捨てられた。
『調子がまだ戻ってないだけだ』
そう考えた。
何故なら骨折や怪我は全て1夜にして治っていたからだ。
身体強化のタイミングを早めにして、(異世界で魔法の練習をした事も無かったので感覚だけだが)再度不良共に挑んだ。
またしても俺は半殺しの目にあった。
連日俺は打ち捨てられているが他の教師や生徒は誰一人気付かない。
それどころか道行く人、警官等誰もボロボロになっている俺に気付かないのだ。
(もちろん家族も)
全身の痛みと混乱する頭を抱えて一晩すると翌日には体はまた元通りに戻っていた。
体だけでは無い破れた制服もだ。
違和感はそれだけではない。
俺を一番悩ますのは性欲だ。
頭は中は激しい煩悩だか...治まらないのだ。
なにしろ異世界ではミザリーと言う最高の女で性処理を行っていた。
そのため自己処理では煩悩は治まらない。
業を煮やした俺は強引に女性を口説いた。
恋慕の情さえ抱いてくれたら後は傀儡スキルで操れる。
それが更なる悲劇を俺に招いた。
悲劇、それは思った事が口に出てしまうのだ。
例えば、
『重そうな荷物だね、少し持とうか?』
そう言おうとしたら、
「持ってやるから、ヤらせろよ」
当然女子生徒は悲鳴を上げ逃げ去る。
『待ってくれ!今のは間違いだ!』
そう叫ぼうとしたが、
「黙ってヤらせろよ!勇者様がお呼びだぜ!」
何故か口から出るのは俺の心の声だった。
忽ち周囲にいた男子生徒や教師から袋叩きに遭った。
またしてもボロボロになった俺だがまたしても翌日には怪我が治っていた。
さらに校内でも昨日の騒ぎは全て無かった事になっていたのだ。
俺は学校を休み家に籠ろうとするが自分の意に反して時間が来れば高校に向かう。
それは暗示の様で俺に抗う術は無かった。
そんな生活を1ヶ月送る俺は最早廃人となろうとしていた。
「はい皆さんおはよう」
教室の扉が開き見知らぬ女と1人の女子生徒が教室に入ってきた。
「誰だあいつ?」
俺は担任気取りの女を見た。
昨日まで担任だった岸川ではない女を。
「起立!」
しかし教室の誰も違和感を持たず委員長が号令を掛ける。
「え?」
疑問を口にしようとするが体は椅子から立ち上がり、礼、着席、と勝手に動く。
「はい今日は転校生を紹介しますね」
女は連れて来た女子生徒を紹介した。
小柄な女子生徒を見た俺は絶句する。
それは1年の時のクラスメートで1年前不良生徒に苛められた挙げ句乱暴され高校を去った岬霞だった。
「な、何故・・・」
俺は激しい恐怖感に襲われる。
何故なら俺は1年前、乱暴される岬を見捨てて逃げたのだ。
悲鳴を上げ泣き叫ぶ岬を見捨てて・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――
『成る程ね』
私、鶴野雫(女神シルコゥ)は教壇の上から笠井夏樹の心を読んで溜め息を吐いた。
『こいつは最初から勇者になれる素養が無かったのか』
私は自分の失敗を今更ながら知るのだった。




