幸せな婚約破棄をしよう
ーー「という訳で」
「婚約破棄しましょ?」
そう一方的に告げられたのは
目下、結婚を前提としてお付き合い中の彼女
付き合い初めて四年
極めて、順調に円滑に滞りなく進んでいた気がするが
来るべき時が来たのかと溜息を吐き出し
「俺が嫌いになった?」
そもそもにしてスタイルも顔も俺と全く釣り合ってない
美人な彼女が何故付き合っているのかと
会社ではまことしやかに、社内の七不思議だと囁かれており
…まぁ心霊現象の類と聞けば如何に
釣り合いの取れていないカップルだったのかは明白で
彼女はどうでも良さそうに髪を触りながら
「好きか嫌いかで言えば、好きよ」
「なら、今日のデートがつまらなかった?」
結婚資金だなんだとお金に余り余裕は無いながら
彼女に楽しんでもらえるように精一杯の努力はしたが…
「…全然、素敵な一日だったわ」
「だとすれば、飯がマズかった?」
テーブルの上には、彼女の好物が並んでおり
俺の作ったそれに箸をつけながら
「いえ、何時もの通りにどれも美味くて」
「私を肥えせるつもりかしら?」
「…それも可愛いかも?」
聞いた彼女は呆れたように溜息を付いて
分かりきってる解答を先延ばしにするのも
阿呆らしいと、苦笑いしながら
「…俺が、冴えないからだよね」
「もっと良い奴、幾らでも居るし」
冷たい目で俺を見ながら
「…そうね、貴方より格好良くて」
「お金持ちで、地位も人徳もある人は」
「腐るほどいるわね」
当たり前の事実は、それでも俺の胸を刺して
だからといって、みっともなく縋っても変わらないのなら
「おっけー」
努めて明るく声を作って
「大丈夫、慰謝料とか請求したり」
「そういうみっともない事はやらないからさ」
貯め続けていたお金の使い道すら思いつかないのに
そんな物はいらなくて
「今まで付き合ってくれてありがと?」
笑ってそう言おうと彼女を見れば
ーー告げたのは彼女の癖にその瞳には涙があって
「私なんてどうでも良い?」
震える声で告げられるのは
「優れていると、そんな誰より」
「私は貴方が好き」
「…ならどうして?」
そんな事を言い出したのか解らずに
「…何時までも、約束と」
「このままじゃ私行き遅れよ」
聞いてしまって、何時までも踏み切れずにいた
それを待っていたのだと理解し
合意した婚約破棄のその後で
どの面下げてと思い、溜息を一つ吐き出し
それでも、いつ伝えるとそれは今しか無くて
「…結婚してください」
彼女は涙目で笑いながら
「遅いのよ馬鹿」
ーーだから、これは幸せな婚約破棄の話