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07話 「鳥獣族(ウィンデン)の村へ」

「ちょっと待て。

 今、古代龍って言ったか?」


「はい、言いましたよ。

 死龍王カースドラゴンと、その配下である腐敗竜アンデッドドラゴンが、私達の村に向けて進行しているんです!

 私達は足止め程度でも出来ればと思い、直ぐ様、村の腕利きをより集めて向かいました。

 しかし、結果はこのざまです。

 私達の部族は、長い間特殊な場所で暮らしていたので、外界では生活出来ません。

 ですので、壊滅してしまうところでしたよ」


 自慢気に頭に手を当ててそう話すが、絶望的な状況である。

 なぜこんな余裕を持てるのか気になる。

 見習いたいほどだ。


「まずは、村に向かおう。

 連れていってくれ」


 取り合えず、村に向かうことにする。

 あーだこーだ話している間に、村が壊滅状態に……とかは嫌だからな。

 村に着いてからでも話は出来るし。


「では、よろしくお願いいたします。

 皆の者、アイン殿を村へお連れするぞ!」


 またしても頭を下げると、後方にいる仲間達に呼び掛けた。

 

「「は!」」

 

 全員が息を揃えて返事をした。

 訓練の賜物とでもいうかのように。


 アインがそれに見とれていると、セルケイが話しかける。


「村はすぐ近くに御座いますので、全力で翔びますぞ!」


 うーん。

 こちらのことは考えてくれないようだ。

 もしかしたら、こちらのスピードに負けないようにと配慮してくれているのかも知れないが、そんな大層なものでもない。

 ようは、要らぬ心配なのだ。

 その時間を使って話すことも出来るし。


 そして、セルケイら鳥獣族ウィンデンは移動を開始した。

 

「よし、俺も移動するかなぁ」


 大きく伸びをして、セルケイのもとに寄ろうとすると、あることに気づいた。

 遅い。

 物凄く遅い。

 

「それが本気か?」


 試しに聞いてみると、


「はい。

 速すぎたでしょうか?」


 バカにしているのだろうか。

 腹が立ったので、


「いや、遅いくらいだよ」


 と容赦なく真実を告げる。

 

「申し訳ありません!

 ですがこれ以上は、速くすることが出来ません」


 なんと。

 なななんと。


 では、アイン達のスピードはどうなんだろうか。

 彼らのスピードは、ルシオが最初アインのためにゆっくり翔んだのと変わらないスピードなのだ。

 これは異常?

 普通という基準がわからないアインにとっては、かなりの難問となった。


 むーっ、むーっと唸って考え事をしていても、彼らとの差は全然開かない。

 仕方がないので、荒業を使うことにした。


「おーい、セルケイ」


「な、何でしょうか?」


 びくっと驚いてから、後ろを振り向いた。

 別に怒るわけでもないのに。


「お前にファミリーネームを授けよう。

 名はあるようだからな」


 …………。

 沈黙。


「もう一度仰って頂けますか?」


「お前にファミリーネームを授けよう。

 ただそれだけだが?」


 まずい。

 上から目線で言ったのが、悪かっただろうか。

 ナメられてはいけないと、自分なりに考えて話したのだが。


「えーと……」


 セルケイは、下を向いて沈黙していた。

 怒らせたのかもしれない。


 やがて、ゆっくりと面をあげた。

 その顔に映るのは、鬼のような形相。

 かと思ったが、違った。


「本当に――――――よろしいのですか?」


「あ、ああ。

 勿論だが?」


 びっくりした。

 怒っていると思ったが、考え事をしていたようだ。


「セルケイ・シュターク・バント。 

 ファミリーネームだ」


 そう、名前を与える。

 いや、ファミリーネームなのだが。

 

「大ーーーーーーーーーー」


 何?

 キレてるの?

 溜めが長い。


「ーーーー変、ありがとうございます!」


 セルケイは、ネクタイがあれば、後ろになびきそうな勢いで頭を下げる。

 頭下げてばっかだな、こいつ。

 本当に族長クランなのかと疑問を持つほどに。


「礼なんていらない。

 それより、速く村へ連れてってくれよ」


 そうだ。

 好意で、ファミリーネームを付けたわけではない。

 村へ速く行くためなのだ。

 こんなところで時間を使っていたら、もともこもない。


「了解しました」


 気のせいか、セルケイの体が大きくなった気がする。

 それだけでなく、若干、声が低くなった。

 より、人間らしくなったと言える。


 そして、セルケイが羽ばたく。


「今度こそっと」


 アインも、セルケイについていくように翼を羽ばたかせる。

 セルケイは、先程とは違い、一回の羽ばたきによる移動距離が大きく増えた。

 アインやルシオには遠く及ばないが、これならさほどは時間がかかるまい。


「おおっ!

 体が軽くなった気がしますぞ!

 それに、先程より全然速く翔ぶことが出来ます!」


 セルケイは、嬉しそうにはしゃぐ。

 ファミリーネームがつくと、誰でもこうなるのだろうか。

 名前あるあるかもしれない。


「おい、速く村へ行きたいんだが?」

  

「そうでしたな!」


 今度こそ、村へ向かう。

 アインは、視線を感じるので横を見た。

 そこには、尊敬の念がこもっているセルケイの眼差しが。

 

 ……。

 何で、女じゃなく男に好かれるのか。

 神は意地悪である。


 しばらくして、空間把握に何かがひっかかった。

 慌てて視界を辺りに回すと、煙が見えた。

 狼煙のようにも見える。


「あれは何だ?」


「あれは、村の自警団でございます。

 といっても、村の青年ばかりが所属しているのですがね」


「なるほど」


 彼らは、結構団結意識が高いのだった。 

 自ら自警団を作り上げるとは。

 互いが互いを認めあっている、ということか。


「あそこから、村へ入ることが出来るという目印です。

 では、向かいましょうか」


 高度を少しずつ落としながら、狼煙の所へと急ぐ。

 しかし、アインの心には気にかかっている事があった。

 

「部下達を置いてきても良かったのか?

 見たところ怪我してるやつばかりだったし、危ないだろ?」


 自分から急ぐように言ったとはいえ、心配なものは心配なのだ。 

 もし、途中で魔物にでも襲われてしまったら…………。

 嫌な想像が頭をよぎる。


「それなら、心配ありません。

 我らには、聖域の加護がありますから」


「聖域の加護?

 なんだそれは」


「聖域というのは、私達、鳥獣族ウィンデンの住む異界のことです。

 そこに住むものは、生まれ持った能力とは別に、何故か隠密能力の加護を授かる事が出来るのです。

 それを、私達は聖域の加護と呼んでいます」


「聖域の加護ねぇ……。

 仕組みが気になるが、俺らは見つけることが出来たぞ?」


 そう、彼らは隠密能力を使っているセルケイらを見ることが出来た。

 特に能力抵抗レジストを行っているわけでもないのにだ。


「それは、私達も驚きました。

 最初に、ルシオさんが普通に話しかけてきたのですから。

 魂の格が違うのでしょうね。

 格が違えば、能力の効果が無効化されると聞いたことがあります」


 また、初耳情報だ。

 カミラは、余程アインに情報を与えたくなかったらしい。

 ここまで徹底されていると、いっそ清々しい。


「そうなのか。

 それより、どこに降りればいい?」


 話している間にも、村の近くへと来ていた。

 着地の仕方があやふやなので、少しでも詳細を知りたかったのだ。

 

「では、ここで降りましょう。

 これ以上飛行しながら近付くと、仲間に撃ち落とされかねませんので」


 撃ち落とされるだと?

 いや、警備が徹底していて素晴らしいが、仲間と敵ぐらい判別出来ないのかよ。

 低脳過ぎて。


「分かった」


 アインは、ゆっくりと下降していく。

 途中、舞う砂埃に目をやられながらも、拓けた場所で着地できた。

 翔ぶのは、案外難しくないのだ。


 翼が邪魔だと思ったが、直ぐに魔力に還って霧散した。

 自動で、ここまでやってくれるとは。

 かなり有能な能力を手に入れたらしい。

 

 様々な事を思案し終わり、周りに目を向ける。

 そこには、一人の鳥獣族ウィンデンと、謎の人物がいた。

 一人は、剣を握って。

 一人は、等身大の杖を握って。


 剣を持っている方は男で、全体的に獣の割合が高かった。

 杖を持っている方は女であり、幼い印象で、かなり人間に近かった。

 服装はワンピースのようにひらひらしたもので、髪は黄緑色。

 幼い顔立ちで、服装が彼女の幼女体型を更に目立たせる。

 スッキリとした眉が微動だにしないのが、仕事に真面目であるという証拠であろうか。


 鳥や獣の外見は捉えられないので、他の種族だろう。

 気になったので、聞いてみる。 

 

「杖を持っている方は、鳥獣族ではないのか?」


「ええ、精霊様です。

 聖域のエネルギー源である、魔力球を管理してくださっています」


「その精霊様とやらは、ここに来てしまっても大丈夫なのか?」


 セルケイに訪ねているのに、何故か少女が割り込んできた。

 全力で走って。


「失礼なのです!

 私は、大精霊エリアーヌ様ですのよ!

 偉大なる古代龍、アルヴァス様にこの聖域の管理を任されたのです!」


「アルヴァス?

 本当にアルヴァスか?」


「アルヴァス様を呼び捨てするんじゃないのです!

 敬愛なるアルヴァス様を!」


 濃い。

 キャラが、とても濃い。

 しかも、アルヴァスに関係しているらしい。

 面倒くさい存在なのは、明白であった。


 取り合えず、アルヴァスから事情を聞き出す。


(すまない。

 急なんだが、エリアーヌって知ってるか?)


(勿論だ。

 魔力枯渇で消滅しかけていた所を、我が助けたのだからな!)


 おお、感覚共有によって念話が出来るようになったらしい。

 心で念じたことが、そのまま相手に伝わるのだ。

 大変便利である。


(で、その精霊さんが、今目の前に居るんだが)


(む、聖域に寄っているのか?

 なら、我を召喚せよ!)


(いや、やり方が分からない)


(そうだな……。

 我の姿を思念で送る。

 それを、頭の中に思い描いて、身体のみでも再現するのだ。

 短時間しか暴れ……ゴホンッ。

 アドバイス出来ないが、我を受け入れる器としては十分だろう)


 危ないところがあったが、本当に召喚しても大丈夫なのだろうか。

 不安しかない。


(早く思念を送ってくれよ)


 思念の催促をする。


(これだ)


 ううっ……。

 頭の中に、異物が入り込んだような痛みが突き刺さる。

 情報処理能力が向上されているとはいえ、景色を送るのは無理があったのだろうか。

 再起まで時間を労する。


「大丈夫でしょうか?」


「ああ、大丈夫…………だ」


 セルケイが声をかけてくるが、大丈夫としか言えるわけがあるまい。

 こんなところで弱音を見せては、恥ずかし過ぎるというものである。


(で、これを再現するのか。

 万物創成(仮)発動と。

 対象は、このイメージで)


 しばらく、『万物創成之法ルシフェル』からの応答がない。

 五感で認識したか微妙なので、再現出来ないのだろうか。

 そもそも、五感ってなんだっけ?


 確か…………味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚。

 全部覚えてたな。

 豆知識って、結構大事。


 なんて事を一人で考えていると、応答があった。


《召喚準備完了。

 今すぐ実行しますか?》


 はい!

 と言いたい所なのだが、今話しているのはルシオなのか、それとも核のほうなのか。

 気になってしかたがない。

 本人に聞いてみるのが一番であろう。

 

(いや、実行するけど、お前ってルシオ?

 それとも核?)


 ルシオは肉体(自我を持つ)。

 核は精神体。

 という認識だよな?

 多分そうだ。


 別々っていう訳でも無いだろうから、核が魂的なものなのか。

 思考は共有しているっぽいな。


《核の方でございます。

 基本的には私が応答しますが、ルシオ様からの要請があった場合には切り替わります。

 では、実行します》


 なるほど。

 要請で切り替わるのか。

 ルシオは、中々サボり魔だということが分かった。

 後で問い詰めておこう。

 

 実行が始まった。

 どれ、迫力はそのままかな?

 と思ったら、核の趣味で最適化を行われ……


《完了》


 下の方から再現が始まっていく。

 ルシオの時は布というか生地を被っている感じなので分からなかったが、服は着いているようだ。

 サービスかな?


「おお、中々人間らしい人間に……って人間!?」 


 おかしい。

 イメージは、体が龍の鱗で覆われ、巨体なあれだったのだが。

 なんの手違いか。


(おおっ!

 我は、人間の肉体も、一度経験して見たかったのだ!)


 しかし、本人が喜んでいるので、問題ないだろう。

 指摘するのも面倒になってきた。


(分離!)


 アルヴァスがそう叫ぶと、イヤリングの中から強大な気配が飛び出た。

 思わず、その覇気にのけ反ってしまうほどに。

 それは、再現?

 したとは言えない再現した身体に向かって飛んでいく。

 やがて、身体にぶつかると、


――――シュウウウウゥゥゥゥ。


 煙が大量に出て、閃光がほとばしる。


「な、何事だぁ!」


 セルケイが叫ぶが、彼の腰は抜け、地面に尻餅を着いていた。

 あぁ、族長。 

 情けないとぞ、あぁ族長。


「我、召喚されたぞ!」


 煙の中から、堂々と小さな角を額から二本生やした、水色の髪の男の子が出現した。

 それは可愛い男の子が。


「凄い、凄いぞ!

 この身体なら、多少無茶しても余裕だな!

 グワァーハッハ!」


「だけど、ちっちゃくないか?

 大分縮んだな」


 けらけらと笑い、アインはアルヴァスを馬鹿にした。

 

「何だと!?

 この威厳の満ち溢れたボディが見えぬの…………か?

 えっ、ちょいと待ってくれ?

 何でこんな小さい身体になっておる!?

 戻せー!!

 戻してくれ!!」


 アルヴァスはアインに泣きつくが、その姿は小さな男の子をいじめる、がらの悪い青年にしか見えない。

 試しに核に聞いてみる。


(何でこうなったんだ?)


《最適化されたのではないでしょうか?

 しかし、ここまで幼くなられるとは……》


 最適化でこうなるのか?

 しかも、核が少し引いていた。

 まあ、古代龍である者が、いきなり人間の六歳程の幼児になったらびっくりしても仕方がないだろうが。


「お疲れ様」


 アインは、アルヴァスに向けて手を合わせた。

 どうにもならないことを知って、頑張ってください。

 という意味を込めて。


「我はぁぁ、我はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 こうしてアインは、古代龍(幼児)の召喚に成功したのでした。 

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