05話 「家庭教師アルヴァス&ルシオ」
仲間が二人増え、とても嬉しそうなアインだったが、問題があった。
それは――――
「俺、能力の詳細を知らないんだよね。
だから、ルシオ。
色々教えてくれないか?」
ぞぞぞっと、ルシオと実体の無いアルヴァスにも悪寒が走った。
しかし、断る事は出来ないので、
《はい》
と返事をする。
「まず、開拓者ってやつからだな。
さっき、ルシオが抵抗したときに使ってただろ?
あれってどうやったんだ?」
《はい、アイン様の魂に干渉させて頂きました。
その時、『世界之開拓者』の詳細を直接覗かせて頂いたのです。
『開拓』とただ書かれておりましたが、説明には、『万物開拓可能』と書いていました。
そのため、一か八かにかけたのです。
その結果、見事かけに勝ち、名前まで授かる事ができましたよ》
わっはっはと高笑いするルシオは、ただただイケメン。
それも爽やか系の。
言ってることが頭に入ってこないのだ。
顔に見とれてしまって。
いや、俺にはそんな趣味は無いが……。
それでも、見とれてしまうほどなのだ。
まぁ、そんなことどうでも良いのだが。
「かけだったのかよ!?
失敗してたらどうなってたか……。
まぁ、今生きてるし、良いだろう。
それより、開拓者については良く分かんないままだな。
使い道も良く分からないし。
じゃあ、『万物創成之法』の方は?」
(それは、我が説明しよう!)
いきなり頭の中に、つんざくような声が響いた。
毎回いきなり過ぎて、びっくりしてしまう。
「びっくりするじゃないか!
今度は、段取りを踏んでからにしてくれよ……」
気疲れが半端ないアインだった。
(分かったのである。
ゆっくりと説明をしよう。
こんな感じだ。
・万物創成(仮)
……五感で認識したことがあるものならば、再現可能。
理解している度合いによって、再現度は変化。
対象は、物体とは限らない。
(液体や、実体が無いものも含まれる)
付与効果については、ランダムで付与される。
また、持ち主の特性に合わせ、最適化される。
・万物の法
……世界の法を、過去が大きく歪まない程度で改変出来る。
新しく作ったり、抹消することは出来ない。
また、強く因果率の関わるものは、改変出来ない。
・博識の天才
……感覚神経、運動神経が研ぎ澄まされ、運動能力向上。
プラス、第六感(空間把握)覚醒。
思考速度加速&脳細胞活性化により、情報処理能力向上。
また、情報処理能力向上による記憶能力補強。
"空間把握"
……自身を中心とする半径二キロメートルほど球を描き、その空間の全ての情報を理解。
また、その空間内のものに対し、自由に干渉できる。
ファミリーネーム持ちがその範囲に存在すれば、感覚共有可能。
魔力容量を増やすことで、範囲拡大可能。
――統合能力――
・破壊者
……破壊活動を行う際、破壊エネルギー増加。
また、能力使用や、武具使用&徒手空拳などによる戦闘において、消費魔力減少&消費体力減少。
以上であるが、我の能力の劣化版で助かった。
我の出番がきえてしまうからな!)
グワァーハッハ!
と豪快に笑うアルヴァス。
これで劣化版だというのだから、古代龍の天恵能力とは計り知れない。
そして、ルシオが加護として能力を受けると、統合能力と表記されるらしい。
なんとも不思議な機構だ。
万物創成は使い道があるのだが、世界の法なんて変えることがあるのだろうか。
博識の天才は、常時発動させるとして……と。
おお、何だか脳がクリアになっていくぞ!?
それに体が軽い!
ううぅ…………。
一つの情報が、何倍にも膨らんでいく。
情報量がえげつないが、しばらくすれば慣れるだろう。
アルヴァスと話せてたのは、感覚共有なのかな?
ルシオは謎過ぎるけど。
後は、破壊者ですか。
明らかに戦闘用だなこれ。
まぁ、おいおい使っていこうかな。
それより、新たな疑問を投げ掛ける。
「ルシオ、お前の能力ってどうなってるんだ?
色々疑問なんだが」
《私は能力の実体ですよ?
能力の能力だなんて、意味が分かりません》
いや、お前の存在は何なんだ!
と思いっきり突っ込みたいのはここだけの話。
普通は、能力に能力なんて付かないだろう。
――――普通はだ。
「だって、統合能力ってなってるんだろ?
普通じゃないだろ!」
そう、統合能力など、本来は無いはずの能力。
そんなものがあれば、すぐに世界の均衡がおかしくなってしまう。
だが、すぐにアインの興味はそれる。
長所というか、短所というか……。
微妙な所である。
「っとそう言えば、無能力の意味って何なんだ?」
(ああ、そうだったな。
ゴホン、では我が責任をもって説明しよう)
「うん、さっきも同じ事言ってたね」
アインの突っ込みには反応せず、アルヴァスは説明をする。
(無能力者とは、その能力に似合わん器を持つ者のことだ。
器というのは、能力の受け皿。
容量みたいなものだな。
アイン、お前の場合は器が大き過ぎて、今まで能力の使用が出来なかったんだろう。
サキュバスの魅了による封印効果もあったとは思うが。
そして、無能力(無限の可能性を秘め足る能力)。
成長を可能とする能力のことだ。
おどろいたか?
ルシオがそれにあたるな。
上記は稀にいるが、成長出来る能力なんてほとんどいないのたぞ。
何せ、使命を受けた者の特権であるのだから。
それだけルシオの存在は稀有なのだ!)
「そうなのか?
成長する能力か……。
自我もってるのも、そのせいだったのか。」
ちらりと横を見ると、隣でルシオが満面の笑みを浮かべていた。
だが、話が聞こえているはずもないので無視した。
《ちょっと!?》
視線を戻した先にも居たのでどけた。
ルシオはいじけて土いじりを始めたが、そんなのは知らなかった。
少し可愛そうではあるが。
「それと、手紙については分かるか?
話を聞いた限りだと、白紙だったのはあり得無いと思うんだが」
そう言うと、ポケットにいつのまにかしまわれていた手紙を広げた。
ルシオは、それを除きこむ。
《それって、時限制じゃないでしょうか?》
「時限制?
なんだ、それは?」
《ええと、つまりのことですね……。
何年かした後で無ければ見えない!
的な感じですね》
「は?
めっちゃ意地悪だな。
ちょっと嫌いになったぞ」
何か、大泣きしたのが嘘みたいな事実だった。
かなり、悔しい。
思わず、額に血管が浮かんでしまうほどに。
怒ってるんじゃないかって?
俺は紳士だよ。
怒るはずがないね。
本当だよ?
信じてね?
さてと、話を戻しますか。
「で、これからどうしようか?」
イヤリングを耳につけ、アルヴァスに話しかける。
(まず、何故サキュバスの女王であるカミラが、アインの命を狙ったのかを調べなくてはな。
どこかの国の王などならともかく、アイン個人となると理由が気になる。
それに、どうもきな臭いのだ。
我が眠っていた少しの間に、何かがあったようだな。
アレの事を知っている者が我の他にいるはず無いのだが……)
アインは、何かを感じ取った。
正体はまだ分からないが、きっと大事なものに違いない。
「分かった。
でも地図とか無いんだけど……」
(安心しろ。
我の能力で、地図なんぞ無くてもこの世界は見渡せるわ。
グワァーハッハッハ!)
おーっと、さすが古代龍のアルヴァス。
ここで先輩風を吹かせていく。
まあ、役に立つから良いのだが。
(では、地形の確認をするぞ。
我らが今いるのは、レザロンの大砂漠。
固い岩盤がむき出しになっているところもあるが、あまり気にするな。
ここはオアシスのようだが、一歩外れると砂漠に出る。
気を付けろよ!
そして我らが向かうのは、ここより北にあるフロストバーゲンだな。
凍り付いた大地が広がるが、文明都市がある。
そこで、情報探しをするとしよう)
「でも、ルシオは?」
(あそこらでは、一部を除いてかなり異文化交流が進んでおるから、問題は無いだろう。
帝国に行く際は、注意せねばならんがな。
あやつらは、人間以外を全員敵と見なしておる。
まったく厄介な奴等よ)
「じゃあ、直ぐ出発しようか。
ルシオ、今からフロストバーゲンへ行く。
だけどさ…………お前羽あるし、俺を運んでくれよ!」
《いや、流石にそれは危険ですよ?
上空とはいえ、魔物が現れることがありますから、攻撃手段が無いのは心細いです》
「それなら、心配するな!
俺に良い考えがあるんだ」
にやりと歯を除かせ、不敵な笑みをこぼすアイン。
やはり、恐怖が彼にはつきまとう。
行動と先が全く読めない。
《で、ではお姫様抱っこでいいですか?》
照れながら、嬉しそうに提案するルシオ。
主人が好きなのか、それともあっち系なのか。
判別がつかない。
「仕方がないな。
じゃ、ほい」
アインは、体をルシオに預ける。
《おわっ、危ないですよ?
怪我でもしたら…………ってしませんよね》
常識を使えないと、色々不便なようだ。
ルシオは言葉遣いも気にしているに違いない。
《上昇!》
翼は、地面へ打ち付けるように強く、強く羽ばたく。
上昇気流が彼らの下に巻き上がると、一気に空へと翔んでいく。
顔になびく風がなんとも心地良い。
まるで、暖かな布団にくるまれているようだった。
勿論、アインは暖かな布団になどくるまったことはないのだが。
「気持ちいいなーー!
今度から、移動手段はこれで決まりだな!」
アインは、すっかり空の旅の虜にされてしまった模様。
空からの大地を見下ろし、圧巻の一言だった。
《スピード上げますよ!》
ルシオは、今まで速さを抑えていたのだろう。
羽を大きく振りかぶると、一気に下へと振り下ろした。
すると、顔が崩れる程の突風が吹き、ついには…………。
「うわああああああ!?!?
速すぎんぞぉぉぉぉ!」
一つの稲妻と化していました。
なぜなら、目まぐるしく視界に入る景色が変わる。
そして、ルシオの翔んでいるスピードは、軽く二百キロは出ているだろう。
それだけの風を、直に体に受けるのだ。
痛くないはずがない。
「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!」
四肢がもげそうになる痛みが彼を襲い、悲鳴をあげる。
それに、ルシオは気付かない。
主人が喜びの声をあげているとでも思っているのだろう。
どんどんスピードはあがっていく。
「魔物がぁぁぁぁぁぁ!」
途中見かけた魔物も、ルシオの翔んでいる時に巻きおこる突風によってバラバラに切断された。
アインは一気に血が引いて、体の力が抜けた。
《どうしたんです?
おーーい?》
ルシオは、翔ぶスピードを緩めながらアインに話しかける。
だが、その声は届かない。
《アイン様ーー!》
アインはふっと体を揺らし、目を覚ました。
気絶していたらしい。
「危なかった……。
お前速過ぎるんだよ!
死にかけたんだぞ!」
命の危険をルシオに訴えた。
能力であるルシオに命なんて関係無いだろうが、一応訴える。
《では、安全飛行を心がけます。
すみませんでした》
ルシオは素直に謝ると、そのままゆっくりとしたスピードで飛行を再開し始めた。