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03話 「少年の相棒は、古代龍(エンシェントドラゴン)」

「お前、誰だよ?

 しかも、何処から話しかけてんの?

 頭のなかに、キンキン響くんだけど」


 少年は、謎の声の主に話しかけた。

 若干の苛立ちが見えるのは、頭痛からであろう。

 頭に手を当てて、割れそうになるほどの痛みを必死に耐える。


(我は…………我にも分からんよ)


「はぁ!?

 なに言ってんの?

 じゃあ、名前は?」


 自分の正体が分からないとか、記憶障害だろうか。

 そもそも、頭に直接語りかけてくる辺りがなんかヤバイ。

 危ない事に関与していると考えて良いだろう。

 なんとなく探りを入れようと、少年は思った。


(我には、名は無い。

 そして、我らには、名というものを付けることがない。

 そもそも、名を付けるということは、自分の加護を与えることだぞ?

 我に加護なんぞを与えてどうするのだ?

 この古代龍である我に)


 姿は見えないが、声だけで自慢気だと言うことが見てとれた。

 なんと分かりやすい性格だろうか。

 思わず笑ってしまう。


「古代龍?

 まさか、お前!?」


 少年は、驚いた。

 あの古代龍が、自分の頭に直接語りかけているのだ。

 興奮するのも無理はない。


 古代龍とは何かって?

 古代龍とは、永き時代の間存在し、その魂を神レベルまで昇華させた龍のことをさす。

 あるものは、知恵を。

 またあるものは、力を。

 いずれも、圧倒的な能力を所持しているのだ。


 能力とは、一度の生涯につき、一つまで授かることの出来る特別なものである。

 産まれ付きそれはあるのだが、少年は、無能力である。

 中でも、古代龍達の持つ能力は性能が段違いなので、区別する意味で、天恵能力と言われる。

 また、気紛れで、気に入ったものには天恵能力を与えるらしい。

 厳密には、与えるというよりも、力の一端を貸すと言ったほうが正しいが。


 そして龍とは、高位の魂を持つ者の事を指す。

 それは、人間でも、魔物でも、亜人族でも、その中間である魔族でもある。

 つまり、特定の種族とは限らない。

 だが、竜イコール龍といったイメージが定着したのは、竜がなることが多いからである。

 また、強そうだから。

 単純な理由である。


(個体名は、アルヴァス。

 他に付けて貰った……というより、その名が定着したのだ。

 そんなわけで、実質呼び名ではあるが、名前ではない。

 そして、訳あって今こうしているのだが……。

 まずは、貴様のポケットに入った我が依り代を出してくれ。

 窮屈でたまらん)


「わ、わかったよ。

 んーと、このイヤリングのことか?」


 何処から話しかけられているのか分からないため、イヤリングに向けて話した。

 そして確認する。


(イヤリング?

 よりにもよって、我が依り代を加工しおったのか?

 あのバカ勇者め……)


 何に対してなのかは分からないが、かなり怒っているようだ。

 バカ、というのが気になるが、敢えてスルーしておこう。

 なにしろ、相手はかなり面倒くさそうであるから。

 

「まぁまぁ。

 それより、なんで俺を助けたんだ?」


 一番聞きたいことを聞くことが出来た。

 相手の顔は見えないが、なんとなく顔をうかがってみる。


(強制であるというか…………そなたの父との盟約である。

 昔、我の体は我が少しやらかしてしまったせいで、消滅してしまったのだ。

 その時、私の魂をこの宝玉<個人的聖域サンクチュアリ>へと残してくれた恩である。

 まぁ、これからは、これまでとはかなり変わるだろうが……。

 我が色々サポートするから、安心せい!)


 かなり先輩風をふかせているのが気になるが、敵意は無いようだ。

 

「俺の父のことを知っているのか?」


 少年は、その話題にのみ食い付いた。 

 なぜなら、小さな時から少年の親については、何も分からなかった。

 それだけに、手掛かりが見つかったことが嬉しかった。

 

(うむ。

 貴様の父の名は、テグス。

 知っているというか、親友だな。 

 ただ、互いに面倒事を押し付けあっていたがな……。

 お前の事もそうであるし)


 なるほど、親友か。

 龍と親友になるなんて、大した父親である。


 それにしても、旅をしていたとは?

 一体何のためだろうか。

 さっき、勇者という単語が出てきたが、まさかね。

 いや、まさかだけどなんか気になってしまう。


「もしかしてだけど、俺の父親って勇者?」


(ああ、そうだ。

 なまぐさ勇者だったがな。

 容姿はそこそこなのだが、何故か周りに女どもが集まりおってな。 

 いつも三人ほどはべらせておったよ)


 それを聞くと、少年は情けなくなってしまった。

 今まで、名も顔も知らぬのに、ずっと慕っていた人物がそんなんだったなんて。

 今までの時間が無駄であったような、虚無感が少年を襲う。


(しかし、戦いの時は立派であったぞ)


「え?」

 

 突然、テグスをかばうような姿勢を見せた。

 そんなそぶりは、今まで全く無かったというのに。

 

(さすがは、ひたすら剣をふるい、龍となった者ということか。

 鬼神の如く戦場を走破し、誰も傷付ける事なく戦いを収めていた。

 その姿は、戦場を舞う踊り子のようであった。

 皆の笑顔を守り、私腹のために命を奪わない。

 まさに勇者と呼ぶに相応しい男だった)

 

 アルヴァスは、染々と懐かしき過去を思い出しているようだ。

 声に余韻が残る。

 余韻というのは変だが、ゆっくりと、一言一言を噛み締めるように話していたのである。


「俺の父が勇者だったなんて……。

 それに、龍になってるとか人外のバケモンだろ?

 そんなやつの子供が俺だなんてあり得ない……」


 少年は、テグスが父であることさえ疑い始めた。

 人間というのは、論理的に考える生物である。

 そう思ってしまっても、仕方がないのかもしれない。


(あり得なくはないぞ?

 なにせ、貴様は現時点で龍である。

 そう考えれば、貴様のほうが人外のバケモンではないか?

 しかも、貴様の蓄積魔力量が半端じゃないぞ?

 下手すれば、我より多い。

 てか、今も凄い増え続けてるんだが。

 む? 

 我必要なくない?)


 衝撃の事実を告げると共に、自身の存在意義を疑うアルヴァス。 


 魔力蓄積量とは、体内に蓄積されている魔力の量。

 そのままである。

 ある程度の限界値を越えると、丹田で練られた魔力は空気中に逃げてしまう。

 しかし、初めから龍である少年には、限界値がないらしい。

 ちなみに、大気中にも魔力は浮遊してるが。

 

「俺が龍だって!?

 しかも、魔力蓄積量がお前より多いのか?

 そんなわけないだろ

 俺は、無・能・力。

 可能性なんて最初から無いんだよ」


 少年は、ふてくされたようにあぐらをかき、ため息をついた。


(無能力は無能力だが、意味を分かっておるのか?

 能力が無いとか勘違いしてる訳はあるまいな?)


「え?

 無能力は、能力無しだろ?」


(そこからか。

 この世界では生まれた瞬間、能力を授かれる事はさすがに知っておるな?

 これは世界の機構システムである。

 しかも、これは絶対的である。

 したがって、貴様が能力無しなんて事はあり得ん)


「だって、鑑定能力を持った人に見てもらったんだぞ?

 それに、今まで能力があることを実感することなんて出来なかった。

 無いに決まってる」


(騙されておるぞ、貴様。

 カミラとか言うあの女は、サキュバスの女王だ。

 サキュバスは、誘惑することを得意とする夢魔ナイトメア族が女に化けた姿。

 男の場合は、インキュバスと言われる。

 そして、おそらく鑑定結果は嘘だ。

 我が視ているものは嘘ではないのでな。

 しかし何のためであろうか?)


 少年は、理解が出来なかった。 

 あのカミラが夢魔ナイトメア族だったなんて。

 そして、鑑定結果を詐称した。

 点と点が繋がった。


「じゃあ、取り合えず俺の能力を見てくれ」


 ただそれだけを。

 少年は、真実を追い求めることを決めた。

 

(『世界之開拓者アモン』……か。

 結局、未来は変わらぬと。

 あは、いやそうらしいが、よく分からんな。

 説明が書いておらんしなぁ…)


 アルヴァスは何かを読んでいるようだ。

 気のせいか、冷や汗を流している気もする。

 それは、彼の天恵能力なのだろう。


「『世界之開拓者アモン』ねぇ……。

 まぁ、それは分からないんだし、聞きたいことがある。

 さっきから、一体何を見てるんだ?」

 

(世界のデータバンクである、夢幻ファントム之繭・コクーンだ。

 まぁ、言っても分からんだろうが、そこを視れば何でも分かるのだ。

 我の能力である『世界之観測者アガリアレプト』があってこそ視ることが出来るのだがな。

 普通なら、まず視ることは出来ない。

 また、視れたとしても、脳が焼ききれてしまうだろうな。)


 良く分からない単語が出てきたのだが、今の自分には理解できないことをなんとなく少年は察した。

 そのため、


「ふぅ~ん」


 と受け流した。


(後、貴様には名がないのだろう?

 我が与えようか)


「いいのか!?

 是非頼みたい!」

 

 少年には、名がない。

 それは、カミラが与えてくれなかったからだ。

 能力が無いのに、そんなものは必要ないといつも言っていた。

 思い返せば、騙されていると感じる場面は多くあった。

 そう、思っていなかっただけだったのだ。


(勿論だが、悩むであるなぁ。

 う~む…………)


 しばらく応答が途絶えた。

 少年は姿勢を何度も変えて、今か今かと待ち望んでいる。


(では、アインなんてどうだろうか?

 格好良くないか?

 アイン!)


「アイン…………。

 良い響きだ!

 ありがとう、アルヴァス!」


 アインは、感動から、涙を流していた。

 それはどれだけのものだろうか。

 おそらく、想像も出来ないものなのだろう。

 

「では、折角だからファミリーネームも付けてみないか?」

 

 ファミリーネームとは、こっちの世界の苗字のようなものである。

 アインはかなり調子にのっているのだろう。

 

(良かろう。

 今度はそなたが付けよ!

 我は、そっちのほうがいいのだ)


 アルヴァスは、あっさりと承諾した。

 しかも、それをアインに任せるとは。

 もう、信頼関係が出来上がったのだろうか。

 謎である。


「では――――」


 そう言うと、大きく息を吸った。

 胸一杯に新鮮な空気を詰め込む。 

 そして、それはある言葉と共に吐き出された。


「シュターク・バント。

 アルヴァス・シュターク・バントだ!

 ついでに、アイン・シュターク・バント。

 かーーっ、俺にファミリーネームが付くなんて……」


 アインは、ファミリーネームに、<絆>という意味を込めた。

 普通は二つもつけないのだが、特別感を出すために敢えてつける。

 彼は、胸を掴んでやり場の無い嬉しさを紛らわせていた。


 自分の付けたファミリーネームのネーミングセンスに酔いしれているのか、名前がついた事への感動がこみ上げているのか理解できない。

 しかし、その表情は満足気だった。


(アルヴァス・シュターク・バント。

 良い名前だな。

 では、改めてここに誓おう。

 我ら、アルヴァス、アイン。

 ファミリーネームの下に、永遠の絆を)


「誓おう。

 疑うことなき、俺らの絆を」


 アインは、イヤリングを左手に持ち、両手を天高く掲げた。

 左手はアルヴァス。

 右手はアインを表して。

 

――――カチッ。


 この瞬間、何処かで歯車のはまった音がした。

 誰にも聞こえるはずのないその音は、ある運命の動き出した証だった。

 それは、一度封印され、もう二度と進まれる事は無かった未来。

 しかし、因果率という言葉がある。

 何事も、完全に消え失せることは無いのだ。

 時の修復力が、出逢うことの無いはずだった彼らを巡り合わせた。

 これを、運命以外の何者だと言うのだろうか。

 果てしなき螺旋を描き、空虚な妄想でさえも、一つの史実にしてしまう。

 これは、アインの。

 そして、アルヴァスらとのこの世界の史実である。


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