手当て
とにかく長い夜だった。
使用人たちは怒鳴りあいながら、私を何とか助けようとしてくれていた。
私はかなり朦朧としていたが、それでも、
「お嬢様は助からない。下手なことをして後で責任をとらされるのは嫌だ」
と、少なくない者が遠巻きに見ていることには気がついていた。だから、ああでもない、こうでもない、侍医はいつ着くのか。と、イライラしている者のほうが、保身よりも、私のことを考えてくれているのだと分かった。
猟犬に噛まれた場所は、肉が裂け、腫れあがっていた。私は素っ裸に剥かれて、ジャブジャブ洗われた。裂けた肉の間まで指で洗われるのは、絶叫ものだったが、ダニエルに、
「これは必要なことなんですっ、お嬢様!頑張って下さいっ」
と泣きながら叫ばれると、思うままに叫ぶことは出来なかった。奥歯を頑張ってかみしめた。とてつもなく痛いから涙がボロボロ出てくる。
その後は傷口に、値段とアルコール度数がとてつもなく高い酒がかけられた。
「やめてー!痛いよー!」
もはや自制心も何もない。私はひたすら泣き叫んだ。このときには、ダニエルに従う使用人たちはすでに腹をくくった顔をしていた。もう私の叫び声などには動じなかった。
ダニエルの命令で、一番手先が器用で、一番肝のすわったメイドが、裂けた皮膚を縫合していった。驚くべき集中力で、彼女は見事全ての傷口をふさいでいった。
そして全てのやるべきことがなされ、やっと私に布団がかけられたとき、空はすでに白みだしていた。




