生死を分かつこと
気絶できたのはほんの短い間だった。意識が戻ると、それからは痛みとの戦いだった。
私を抱っこして、館までダッシュしたのはダニエルと呼ばれる若い使用人だった。ダニエルは何を思ったのか、
「まず、傷口を洗う!俺は厨房に行ってくるぞ!綺麗な水がたくさん要るからな!誰か、たくさんの布を持ってきてくれ!それから、酒も持ってきてくれ!」
と怒鳴り、本当に厨房の方に向かって走りだした。
私の父親のおかげで、使用人たちはしょっちゅう入れ替わっていた。
ダニエルは一年前から、ここで働いている。わりと面倒見がよく、私が退屈していると、いろいろな話をしてくれていた。ある日には、
「俺の爺さんは傭兵で、何度も戦に出てたそうです。それで、爺さん、ある時気づいたんですよ。同じような怪我をしても、死ぬ人間と死なない人間がいるって。何が生死を分けていたか分かりますか?」
私はしばらく考えた。何だろう?
「信仰心?」
ダニエルは笑って否定した。
「皆命がけですよ、神様には必死にすがっていますって。違います、水です。あるいは酒、ビール」
ダニエルは得意そうに言った。
「傷口を綺麗にすると、もうダメそうなケガでも助かった奴がいた。でも、それほど大きな傷でなくても、そのまま止血してただけの奴は死んでしまったそうです」
だから、とダニエルは続けた。
「爺さんは言ってました。怪我をしたら、まず洗えって。ビールならなお良しって。お嬢様、これは我が家の秘伝ですよ」
そう言って、お茶目にウィンクしてみせた。