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猟犬にとびつかれて
私はこの世に生まれて八年だが、犬に追いかけられた事なんて、生まれてこのかた一度もなかった。でも、あの犬に噛まれたら酷い目に合うのは想像できた。というより、本能的に察した。
こんなに必死に走ったのは生まれて初めてだったが、猟犬にとってはいつもの仕事だったようだ。あっけなく私は追いつかれ、飛びつかれ、転倒してしまった。
それからは、経験したこともない恐怖と痛みだった。顔に犬が噛みつこうとするのを、私は必死にガードした。その姿勢は、父親に殴られるときと同じだった。体を丸めてうずくまるのだ。違うのは、声を押し殺さず、絶叫していたことだった。
叫びながら転げ回っていると、使用人たちが慌てて駆け寄ってきた。
「お嬢様!」
「離れろ!」
口々に怒鳴りながら、犬を私から引き離そうとしてくれていた。
「この犬畜生めが!」
罵倒しながら、一人の使用人が犬を押さえ込むことに成功していた。別の使用人が私を抱きかかえて、館までダッシュする。
「手当てだ、手当て!だれか、侍医を呼んでこい!」
使用人たちの慌てふためく声をききながら、わたしの意識は薄れていった。