上機嫌な父親
玄関ホールに出ると父親が私に手をふってきた。
「おお、ナリア!早くこっちに来い!」
確かに珍しく上機嫌だった。相変わらず、赤ら顔でだらしない格好をしているけれども。しかし、ここで機嫌を損ねたくはない。私もにこにこ笑いながら、
「お父様!お帰りなさいませ!」
と駆け寄る。父親はそのまま私を抱き上げた。そして、馬車の方までそのまま歩いて行く。そこで従者が大きな犬を従えていた。
「立派な犬だろう?」
父親は自慢げに言う。もちろん、同調するしかない。
「大きくて、立派ですね!父上みたい!」
わたしの言葉に頷きながら満面の笑みをうかべる父親は、
「そうだろう。これは猟犬だぞ!禁猟区にいた不届き者から、取り上げてやったのだ」
そう言って何がおかしいのかひとしきり笑うと、私を地面に下ろした。
「これは素晴らしい猟犬だ。ナリア、あの薔薇まで走ってみろ。親父は俺を狩りもできない、出来損ないといったが、果たしてそうかな?さあ、走れ!」
一転、鬼の形相となり、庭園のブッシュを指す。父親の突然の豹変に、ポカンとしてしまう。しかし、まなじりがつり上がり、激昂した父親に逆らえばもっとひどい目にあう。反射的に私はブッシュを目指して走っていた。後ろから父親の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「さあ、獲物はアレだ!行け!」