3/15
はじまりはじまり
私の名前はナリア・コンツェンという。コンツェン領主の一人娘で当年八つになる。父方の祖父母と母は早くに亡くなり、唯一の家族は飲んだくれの父親だった。この父親はジョゼフというのだが、娘の私から見てもどうしようもない人間だった。使用人が意見を言おうものなら、怒鳴りつけ、殴り飛ばす。とうとう、父に意見をする者はいなくなってしまった。祖父母に使えていた心ある使用人たちも、耐えられず辞めていった。
友人のイザベル嬢から頂いた絵本を読んでいると、メイドのリジーが私を呼びにきた。
「お嬢様、旦那様がおよびです。玄関までおこし下さい」
とても若いメイドで、お仕着せの服がブカブカだ。
「分かったわ」
とは言わず、リジーをじっとみた。父親の機嫌如何では、のこのこ出ていくのはとても危険なのだ。
「なんだか、ご機嫌がよさそうですよ。猟犬を手に入れたから、お嬢様をお呼びしろといわれて」
リジーは慌てたように付け加えた。
私は読んでいた絵本を閉じて、
「わかったわ」
と答えた。リジーはほっとしたように表情を緩めた。