道中③
『差別主義者の悪党ども・・・』
叔父のセリフを思い出した。
悪党というより、粋がった世間知らずな子供にしか見えないのだが、こういう連中は逆に何をするかわからなかった。なにしろ、貴族の馬車をとめて因縁をつけてくるような怖いもの知らずなのだから。
───それにしても、わざわざ村の手前で待っていたということは、今日わたしが通るってわかっていたということかしら?
だとしたら、どういうことだろう?
疑念を心の隅において、わたしは毅然とした態度で若い男たちに挑んだ。恐ろしくないといったら嘘になるが、いや実のところこんな風に農民と対峙することは初めてなので、とても怖いのだが、ここでリジーとダニエルに任せて馬車の中でやりすごすという選択肢はなかった。一応、名ばかりとはいえ、今の私は領主なのだ。死んでもその面目を自らつぶすようなことはあってはならない。
息を吸い込む一瞬で、ざっと頭の中で男たちに向けていう内容を確認した。
【我がコンツェン領の施策に不満があるようだが、そんなことを言われる覚えはない!
ゼウス人に対する処遇は国の方針に準拠しているし、ゼウス人たちに課している各種特別税は領民に還元しているのだから!ゼウス人たちは法の下において平等であるが、その法自体がそもそもゼウス人を同等ではなく、もともといる民の優位性は損なわれない!なたたちの言いがかりにあてはまることはしていない!】
ゼウス人の妻を娶った叔父はゼウス人たちの陳情を通したり、雇用するたびに、ありとあらゆる攻撃をうけてきた。そのため目的のための方便や、詭弁には磨きがかかっている。そのロジックにわたしも乗っかることにした。この手の人間には、耳障りの良い言葉を使いながら、こちらの正当性を主張しつつ、衝突を回避しなければいけない。
私は笑顔を張り付けて、口を開いた。
「皆さまが……」
しかし、すぐに口をつぐんでしまった。道の向こうから、たくさんの馬がかけてくるような音が聞こえてきたのだ。若い男たちも【何事だ?】というようにあたりを見回している。
その音の正体は間もなく分かった。立派な馬に乗った、騎士たちがわたしたちを取り囲んだ。若い男たちは当惑しているが、私も同じだった。今日は次から次へと予定外の人間と対峙しなければならない日のようだった。