道中①
「それで・・・本当のところ、どうしてミシェル様のお誘いにのられたのですか」
馬車にのりこみ、しばらくしてリジーは口を開いた。
わたしは窓の外を眺めながらとぼけた。
「本当もなにも。せっかくのお誘いをお断りする理由はないもの」
「・・・」
リジーは黙りこんだ。
わたしは彼女に視線を移した。城に来たばかりの彼女は、十三歳になったばかりだっのに、いまや二十歳の女性に成長している。リジーは赤茶けた髪に、同じく赤みがかった茶色い瞳の持ち主で、健康的な、均整のとれた体つきをしている。ずいぶん長いつきあいになるので、彼女に対してはとても親しみがあるのだが、このように二人きりになると、ときどき不安になる。わたしの考えていることや、隠していることは彼女にはお見通しなのかもしれないと。
「・・・少し気になることもあるから、お会いしておこうと思ったの。でも大したことではないのよ。わたしの勘違いかもしれないし」
わたしは沈黙に耐え切れずに口にした。
「そうですか」
リジーは短く返した。わたしに信用されていないと感じたかしら?と不安になるが、これ以上口をひらいたら、すべて正直に話してしまいそうだった。
「そうだわ。叔母様のつぎにね、イザベラのところにもいくでしょう。会うのはとても久しぶりだわ。実のところ、それが一番の目的かもしれないわね」
リジーは私が必死に話題をそらそうとしているのに気付いたのか、しかたがないという風に表情をくずして微笑んだ。
「そうですね。きっと、イザベラ様もお嬢様のことを心待ちにしておりますわ。お二人は、本当の姉妹のように仲良しですものね」
そう言ってふと黙った。
「リジー?」
わたしは声をかけるが、リジーは窓の外に視線を向けて返事をしなかった。
わたしも気が付いた。馬車の速度が落ちている。