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ポラディアスの星  作者: 千代乃
二章
11/15

レオモンド叔父とその家族たち

 レオモンド叔父は妻子とともに城に住み、領主代理として領内の立て直しに尽力していた。わたしの父が残した借金の額は少なくはなかった。そして、父が領地の管理を任せていた人物は、仕事をろくにしていなかったばかりか、横領までしていたことがわかった。

 叔父は使用人を何人か整理して、人件費を抑えたり、食事も普段は質素なものにして、できることは全てやるという姿勢を見せていた。しかし、


「数年したら、使用人も増やせるし、食事ももう少しよくできるだろう」


という、叔父のことば通り質素な生活は長く続かなかった。ある程度領内の整備が整ってくると、税収も増え、借金の額は順調に減っていった。

 誰よりもよく動き、使用人の話にもよく耳を傾け、皆のために働いている叔父のことを悪く言う者などいなかった。


 そのうち新しい使用人が入り、食事の品数も増えた。質素な生活習慣と、倹約精神は深く根付いてしまったけれども。


 レティシア夫人は城内のことをよく管理してくれた。彼女の生まれは貴族ではなく、定住したゼウス人の娘だった。黒い髪と目をしており、あまり笑わない、生真面目な人だったが、色んな事に気づいて気づかいできる優しい女性でもあった。

 最初は使用人達から軽く見られていたが、その手腕と人柄にやがて畏怖と尊敬を受けるようになった。


 二人はわたしのことを領主として、きちんと扱うことも忘れなかった。わたしは一年程、寝たり起きたりの生活だったが、充分体力が回復すると叔父に連れられて、ルースと一緒に領地のあちこちを回るようになった。

 

 この家族がやってきて、城はとても明るく活気に溢れるようになった。使用人たちもいきいきと仕事をするようになった。皆、顔が変わったようだった。リジーにこっそりそのことを言うと、

「一番変わったのはナリアさまですよ」

と笑われてしまった。


 

★★★★★★


 朝食のため、食堂に向かっていると、ルースとルーシーに会った。二人はレオモンド叔父の子供で、ルースはわたしより一つ年下の十四歳。ルーシーは十二歳だった。

 ルースが私に目を止めた。


「珍しい格好をしているな。そのドレス、今日は何かあるのか?」


 ルースは母親似だった。少し長めの黒い髪をしており、女の子のように可愛らしい顔をしている。その顔を、少し傾けて普段より手の込んだわたしの装いを珍しそうに見ている。彼の隣には、同じく黒い髪を編みあげて、かわいく垂らしたルーシーがくっついている。


「ええ、今日はお母様の妹のミシェルさまに会いに行くのよ」


 わたしは微笑んで答える。コルセットはきついが、久しぶりにきちんとしたドレスを着ると、何となく心が浮き立ってくる。このドレスは亡き母のものだが、薄いベージュのシンプルなデザインで、上質な布を使用している。わたしのお気に入りの一つだ。


「どんなドレスも厚化粧も、あなたの顔の傷を隠してくれないなんて残念よね」


ルーシーが嫌みっぽく茶々をいれると、わたしの後ろについてきていたリジーが、素早く言い返した。


「お言葉ですが、ルーシーさま。ナリアさまはお綺麗ですわ。お顔の小さな傷など、なんらナリアさまの美しさを損なうものではありません」


ルーシーはむっとしたように、口を開きかけるが、兄に制されて、不服そうに閉じた。


 ルーシーは何かとわたしに突っかかる物言いをするが、憎めない子だった。根は素直でいい子なのだ。もしかすると、使用人たちの噂でもきいて、大好きな兄がわたしに取られるのではないかと不安になっているのかもしれなかった。もしそうなら、それは杞憂だと教えてあげるのだけれど。  


★★★★★★


以前リジーは、わたしがやむなく見合いをしなければならなく、気落ちしていたとき、

「差し出がましいことですが、ルースさまと結婚をなさったら、万事解決ではありませんか?」

と言ったことがあった。リジーはわたしが体の傷を気にして男性と会うことに消極的なのだと解釈しているフシがあった。体の傷は確かに気になるけれど、見合いが嫌だったのはそれが結婚につながる恐れがあるから、ただそれだけだった。


 リジーの言うことは理解できないわけではなかった。領主であるわたしが、どこかの財産目当ての男と結婚するより、今コンツェン領の立て直しに尽力しているレオモンド叔父の息子と結婚するという方が、彼ら城の使用人や領民にとって、安心できることだろうと思う。


 わたしは曖昧に笑って受け流していたが、ことはとても差し迫った重要案件なのはよく分かっていた。


 私は今年で十五歳になる。適齢期真っ盛りで、今後縁談話がますます増えていくことは火を見るより明らかだった。

 リジーには昨夜話したが、叔父にはもっと前に、自分の身の振り方の意志を示していた。叔父には急いで結論を出さないでよいと言われていたが、そろそろハッキリさせなければならないと感じていた。



 

 


 

 

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